鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下します


針の道

美国邸

その当主である「美国久臣」の書斎

その部屋の主の美国久臣は、一人きりで高価なバーボンを楽しんでいた

焦がしたオーク樽独特の風味と、蜂蜜のような甘さ

西部開拓時代、一人で川で溺死した少女の名をとったそのバーボンは、「クレメンタイン」との名の通り、気品のある香りを辺りに放っている

久臣が50、5度の心地よい酔いに身を任せながら、静かに思索に耽っていた

 

全く身に覚えのない収賄疑惑

いくら弁明しても、マスコミは悪意ある報道を止めはしなかった

それどころか、この住宅地にもマスコミやデモの魔の手が伸びてきた

自分だけならいい

今思えば、私の所為で織莉子には苦労を掛けた

 

― 娘を守る ―

 

その為なら、私は自分の命を捨てる覚悟もした

 

ガラッ・・・

 

「・・・・・・・」

 

久臣が祖父の代から受け継いで愛用している、高価な黒檀のデスクの抽斗を空けた

そこには高価な万年筆と一緒に、銀細工のように光り輝く磨かれたクローム製の小箱が一つ入っていた

これは彼の親友である「宇佐美蓮助」から織莉子に婚約の贈られた物だ

「敵」の襲撃で結局、織莉子に渡すことができなかったのだが・・・・

宇佐美蓮助、彼の妻が「魔法少女」として戦い、生きた証

そして同時に、彼の息子である「宇佐美真」をその破滅の運命から延命させることのできる可能性のある唯一の「アーティファクト」

それを彼は久臣とその娘「織莉子」の為に譲り渡したのだ

 

コンコン

 

「!」

 

不意にがっしりとした書斎のドアがノックされた

そしてドア越しに聞こえる、よく通る柔らかな声

彼の娘である、「美国織莉子」の声に他ならなかった

 

「・・・・織莉子か。入りなさい」

 

いつもと同じように自らの感情を押し込むと、久臣は書斎に織莉子を呼んだ

 

 

白を基調にした寝間着にガウンを羽織った姿

それは久臣に往時の妻の姿を思わせた

 

「こんな夜更けにどうしたんだい?」

 

織莉子は物心ついて以来、彼の手を煩わしたことはない

そう

彼の最愛の妻が天に召された時すらも・・・・

久臣は知っている

それは織莉子の精神が成熟しているというわけではなく、美国家にふさわしい人間になるという、ある意味「妄執」ともいえる義務感でそう振る舞っていることを

それを知っていても、久臣は織莉子とどう触れていいかわからなかった

織莉子が幼い頃から政治の世界で生きていた彼が今更、何をする?

でもそうしなければいけない

契約してしまった以上、もう「織莉子」には時間がないのだから・・・

 

「あの・・・怖くて・・・」

 

そう言うと織莉子は目を伏せた

 

「怖い?」

 

「私は怖いんです。お父様は元気で・・・今はキリカという友人もいます。でも、ある日突然、この幸せ全てが消えてしまいそうで・・・」

 

目の前の織莉子は夜の闇に怯える、年相応の少女だった

 

~ 私も怖がってばかりではいられないな・・・・ ~

 

「織莉子渡すものがある」

 

久臣はそういうと椅子から立ち上がり、織莉子に件のクローム製の小箱を渡した

 

「これは?」

 

「蓮助から贈られた物だ。許嫁への贈り物だそうだ・・・・」

 

織莉子は静かに蓋を開いた

 

「?!」

 

箱には大理石のような見たことのない宝石の付けられた指輪が一つ鎮座していた

それよりも織莉子が驚くことがあった

これはあの日、蓮助が渡した「魂の欠片」を加工した指輪と同じだった

巴マミの手にある指輪同様、これには膨大な魔力を感じる

これは・・・・・!

 

「お父様・・・・いつから知っていました?」

 

彼女の父親「久臣」が織莉子にこれを渡したということは、「魔法少女」について蓮助から教えられたということだ

 

「あの夜、蓮助が真くんを連れてきた時だ。蓮助から聞いたのだよ。一つの願いを対価に戦い続ける存在のことを・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

織莉子は目を伏せた

もう・・・隠し事はできないだろう

 

「お父ッ・・・・」

 

織莉子が口を開くよりも早く、久臣が口を開いた

 

「織莉子・・・・何を願ったのか、それは私は判らない。だが、それは織莉子にとって魂を対価にするだけの価値があったのだろう・・・」

 

不意に織莉子の頭に暖かな感触が広がった

 

「お父様?」

 

久臣が織莉子の髪を撫でていた

 

「もう美国家にふさわしい生き方をしなければなんて考えなくていい。織莉子は織莉子の人生を生きればいいんだよ」

 

織莉子が顔を上げると、久臣は笑っていた

あの日、お母様が天に召されて以来、見ることのなかった父の笑顔

その笑顔を見た織莉子の目から涙が零れ落ちた

 

 

「ではこの指輪は・・・・」

 

「蓮助の妻であった命さんは魔力を貯蔵する方法を研究していたそうだ。彼女の死の間際にその研究は完成した。そしてそれを二人の結婚指輪を媒体にして結晶化させたものらしい。息子の真君が魔法少女と関わることになった時に必要となると考えていたそうだ」

 

白い大理石のような宝石は強い魔力を放っていた

魔力に温度なんてない

だが、この指輪からは暖かなものを感じた

それは子を思う母の愛そのものだ

 

「真さんのお母様の想い確かに受け止めましたわ」

 

もう復讐を誓う怨嗟の声は聞こえなかった

その胸を満たすのは愛しい人を救い出す、たった一つの決意

 

― この手にゆまと真さんを取り戻す! ―

 

織莉子は決意の光を宿した瞳で誓った

 

 

 

 

 

 

 

 




クレメンタインは好きなバーボンだったりします

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