~ なぁ真・・お前はいなくならないよな? ~
寒々とした光を放つ蒼い月
そして、その蒼い光が地上で結晶したかのように、街灯が青ざめた光を投げかけていた
夜の街
見慣れない場所だが、電柱にかかれた場所を表す固有記号から、ここが自分の住んでいる見滝原市であることはわかる
とはいえ、目の前の赤い服の少女は見たことはなかった
真の目の前には紅い髪を靡かせ、聖職者たちが着ているようなコートを着た少女
それだけなら、多少「個性的」な衣装センスの少女と思うこともできるのだが、その少女の華奢な手にはおおよそ似つかわしくない程の大きな槍を握っていた
明らかな「非日常」的な光景
しかし真は冷静だった
そう・・・・まるでそれが過去にあったことの様に既視感を感じていた
恐怖はない
なぜだか真はその少女を信頼していた
― 君は誰? ―
真が少女に問いかける
― なんだい、・・・・、ブルッてんのか? ―
勝気な声とともに、少女が真に近づいてきた
蒼月の光が少女の姿を照らし出していく
あともう少し
あともう少し
少しで・・・・・・
バチーン!!!!
「っ痛!!!!!!!」
真が頭をさすりながら見ると、普段はあまり感情を見せない担任が教科書を持って仁王立ちしていた
明らかに起こっている
「いつもは優等生のキミが居眠りとはね」
「い、いや・・・・・すみません」
― 最近・・・僕なんか変だ ―
真は戸惑っていた
白昼夢のように現れる一人の少女
どこかで出会って、とても大切な存在だった気がする
でも彼女と出会った記憶がない
思い出そうとすればするほど思考の迷宮に落ち込んでしまう
それが全てのトリガーであることは間違いない
彼女の正体を確かめなければならない
「で、此処に来たわけだ・・・・・」
見滝原中学校
その中庭の自動販売機
昼休みともなると、この学校に一つしかない中庭の自動販売機には学校中の生徒が多く集まる
彼は理性的だ
文化人類学者である父親の影響で、様々な迷信や宗教に触れる機会があった
とはいえ夢が啓示をもたらすとは思っていない
理知的に理解すれば、記憶は消えたわけではない
恐らくはどこかで見た筈だ
それで思い出すことができないのは、思い出すための「キー」が足りないからだ
この学校に通っている生徒全員とはいえないが、多くの生徒が集まるココなら見つけることができるはずだ
あの「赤い髪の少女」を・・・・
自販機の見える椅子で英字新聞を読みながら、静かにそこにやってくる学生を観察していた
青や白、黄色といった髪の生徒の姿を時折見るが、夢の中で出会った少女の姿はなかった
その時だった
「ま~こ~と~~~~~~」
ギュっ!
真は、急に背後から何者かに抱きしめられた
彼の背中の敏感な部分に形容しがたい柔らかな感触がつつむ
真の表情がみるみる赤く染まっていく
こんな「痴女」としか思えないようなことをする人物は真の知る限りでは、一人しかいない
「一体急になんですか!さやかさん!!」
真が振り向くと、鮮やかな蒼い髪の少女が笑みを浮かべていた
「いや~、教室にいないから探していたら、ここで男女限らず獣のような眼で視姦している真を見つけて~」
「獣のような眼ってなんですか!!!別にそんなんじゃ・・・・」
スルッ・・・・
さやかの手が真の細い首に回される
「アタシにできることがあったら言いなよ。別段知らない仲でもないんだし」
さやかが真の耳元にそっと呟いた
「そうですね・・・」
真の恋人である「美樹さやか」は交友関係が広い
「夢に出てくる女の子を探してほしい」と恋人に頼むのは心苦しいが、さやかは軽薄ではあるがいい加減ではない
よく考えない内から、頭ごなしに否定することはないのだ
「笑わないでくださいね・・・・」
真は不可思議な夢の話をさやかに話した
さやかはそれを否定することもせず、ただただ傾聴していた
「つまりは毎晩淫夢を見て夢精しちゃって困ってるってことだろ。よっしゃ!口と胸で抜いてあげるよ!!」
「なんでそういう結論になるのぉぉぉぉぉぉ!!!」
「いや~~~夢はリビドーの塊って言うしさ・・・・」
「もういいです!!!」
真は英字新聞を畳むとベンチから立ち上がろうとした
「待てよ真。手伝うよ」
「へ?」
「だから手伝うって言ってんの!!」
「でも・・・・・」
「いいって!それにアタシも本調子の真を見たくないし」
さやかが真の手を握る
その手は暖かった
「ありがとうさやかさん!僕にできることならなんでもするよ!!!」
ガシッ!
「ふぇ?」
さやかの目が座っていた
「お礼はぺ○バンで逆ア○ルでいいよ!!!真の処男はあたしのものだぁぁぁぁ!!!」
「いい話で終わる予定でなんで下ネタ!!」
「いや~やっぱりお約束というものがあって・・・・」
二人は昼休みや放課後、自販機で張り込んでいたが結局、少女は見つからなかった
「やっぱりこの学校にはいないのかな・・・・」
「ひょっとしたらニュースで見たのかもな・・・」
さやかが手元の時計を見る
「今なら図書室が開いてるし、行こう真!」
真の手を引くと、さやかは夕闇迫る校舎へと駆け出した
微かな不安が胸の内に広がっていくのを、真は感じた
「デジャブ」、「シュレーディンガーの猫」、「シュタインズゲート」(これは違うか)
なぜか中二病が刺激されるワードですね