鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下します


「救済」の魔法少女

「ハァ・・・ハァ・・・・・」

 

カツン・・・・カツン・・・・・

 

リハビリ施設の廊下を一人の少女が歩行器の助けを借りながら、ゆっくりと進む

毎日毎日の決められたリハビリ

少女のとっては苦痛以外のモノではない

医学的だの、臨床での結果だの、訳知り顔の大人たちが進めてくるリハビリ

 

― 早く健康な身体を取り戻して、友達と一緒に学校に通おう ―

 

知っている

4年間の眠りから目覚めた私のことを論文に書きたいだけだ

本当はこんな苦痛しかないリハビリなんて辞めたい

でも、両親の心中を思うと彼女はリハビリを拒否することなんてできなかった

 

「・・・・・・・・」

 

少女が自らの手を見る

その身体は脂肪分は全くなく、青白い肌の下には骨が透けて見えていた

少女は何も好き好んでこのような姿になったわけではない

だが、あの悪魔に「目覚め」を願った以上、こんな自分の姿を直視せねばならなくなったことは彼女自身の「願い」の所為ともいえた

黄昏時の琥珀色に包まれる街並み

そして・・・・・

窓ガラスに浮かぶのは少女らしい薄青の髪

しかし、長年手入れされていないそれは薄青色の枯れ枝としか表現できない程に傷んでいた

少女は目を逸らす

薄青色の枯れ枝、その下の「髑髏」としか表現できない、「自分の顔」から・・・

以前の「顏」の面影はなく、落ちくぼんだ瞳は目を逸らしても、こっちを見ていた

 

「うっ・・・・・・・・・!」

 

少女は込み上げてくる吐き気と戦っていた

全く言うことを聞いてくれない骨ばかりの身体

目が落ちくぼみ、女性らしさすらない髑髏のような顔

これなら願わなければよかった

ずっとずっと

永遠に寝ていればよかった

「魔法少女」になった事への後悔は止め処もなく、後から後から湧いて出てくる

少女はおもむろに懐からガラス玉のような卵型の宝石を取り出した

見ると中には脈動する黒い靄が現れていた

それを見ると少女は満足げに呟いた

これは「穢れ」

魔法少女にとってのリスク

悪感情を抱けば抱くだけ生み出されるモノ

 

― それが限界まで溜まれば、苦痛なく「人生」を終えることができる ―

 

あの白い悪魔が言っていたことだ

どこまで正しいかわからない

しかし、既に希望を忘れた彼女にとってはそれのみが救いだった

終わりが近づいているからこそ、「おままごと」のようなリハビリにも参加している

なぜなら、あともう少しで「終れる」から・・・・

 

「あと少しで・・・・・・」

 

彼女の名前は「夏樹真理」といった

 

 

少女「夏樹真理」は肉体は14歳ではある

しかし、その精神は10歳のまま時を止めてしまったと言ってよかった

彼女は不幸にも交通事故に遭い、長時間脳が無酸素状態に置かれていたために4年間昏睡状態になっていた

両親は彼女を目覚めさせるために様々な方法を試した

時にはアメリカの先端医療に縋る事や、拝み屋に大金を払うことさえした

それでも、両親の思いとは裏腹に彼女は眠りの壁の彼方から帰還することはなかった

皮肉にもそれが彼らの関心を引いた

地球に寄生する宇宙生命体「インキュベーター」達の

彼らは焦っていた

宇宙の延命に必要な精神エネルギーを上手く回収する手段がないのだ

魔法少女を故意に絶望させて、感情の相転移を行い効率よくエネルギーを回収する方法も考えた

しかし、魔法少女のソウルジェムが穢れを溜めて消滅してしまう以上、それは難しい

彼らは最も単純な方法をとることにした

「絶対数を増やす」

つまりは多少問題のある場合でも、契約可能なら魔法少女としてスカウトすることだ

彼女もその一人だった

真理がインキュベーターに願ったこと

それは「目覚めること」

彼女は契約し魔法少女となることで、眠りの世界から帰還した

 

 

真理は自分の手をじっと見る

骨が浮き出た青白い肌

とてもじゃないが、人のモノとは思えない

両親は私の目覚めを喜んでくれた

でも・・・・・

鏡を見ても

ガラスを見ても

そこに映るのは骸骨

一生このままなら・・・・

 

「死んでしまった方がいい、かしら?」

 

真理が顔を上げると、金髪の少女が立っていた

太陽を思わせる金色の髪

豊かな肢体

それは真理が望んでも得られないものばかりだった

 

「死ぬのはよしなさい」

 

真理がその少女の美しさに圧倒されていても、少女の表情は変わらない

 

「何よ・・・・・あなた看護師の回し者?」

 

「いいえ。でもあなたを気にかけている者ですわ」

 

少女が真理の手に触れる

 

「触らないで!」

 

真理が少女の手を払いのけた

 

「怖がらなくていいわ。人と獣を分けるのはお互い触れ合えるか、分かり合えるかよ。夏樹真理さん、あなたは獣かしら?」

 

少女の緑色の瞳が彼女を射抜いた

 

 

「力を貸して欲しい、か・・・・・」

 

夏樹真理は病室で一人そう呟く

殺風景な部屋

申し訳程度に花やぬいぐるみが置いてあるが、それは彼女が望んだものではない

看護師が置いて行ったものだ

それを見るにつれ、彼女は自分という存在がわからなくなる

彼女の人生は10歳で止まっている

この人生に意味はあるのか?

そう常に彼女は自問している

答えは見つからない

だが、少女は言った

一緒に来れば、生きる意味を知ることができると

 

 

 

 

 




そういえば「あの花」がウジテレビ、じゃなくてフジテレビで実写ドラマを作る予定って話が・・・・

頼むからウジテレビ、「あの花」を汚さないでくれ!

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