鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下します


誘い

 

カツカツカツ!

 

青い街灯に照らし出され、金色の巻き毛が揺れる

その肢体を彩るのはややクラシカルな意匠が施された狩猟服

それは彼女生来の貴族的な雰囲気も相まって、嫌らしさよりも優雅さを漂わせていた

少女の手にはトパーズ色の光を放つ花形のアクセサリーに変わった「ソウルジェム」

それを見つめつつも少女の顔は浮かない

 

「私ももう、中三なのね・・・・・・」

 

彼女の名前は「巴マミ」

真や杏子、そしてほむらが現在所属している魔法少女集団「マギカ・カルテット」のリーダーだ

彼女は不幸な自動車事故で両親を失って以来、ここ見滝原で魔法少女として日々活動している

マミの目の前には市立高校の校舎が静かに聳えていた

彼女も中学3年生

そろそろ本格的に高校受験の勉強をせねばならない

あくまで「魔法少女」はボランティア活動

それだけで日々を生きるのは非常に難しい

彼女が魔法少女という、「危険」なボランティア活動ができるのは両親の遺産

彼女一人で生活していても、両親の遺産はまだまだ余裕がある

とはいっても、彼女の人生はまだまだ長い

少なくとも、明日明後日で終わる気配はなかった

彼女もそろそろ「少女」を卒業せねばならない

そして「将来」を考えることも・・・・

だが・・・・

 

「・・・・・・」

 

自らの帽子に付けられたトパーズ色の光を放つソウルジェムを見つめる

これがある限り、彼女は「魔法少女」としての運命から逃れられない

少しでもソウルジェムの浄化を怠れば・・・・先にあるのは消滅

彼女がマギカ・カルテットを組織したのは効率的に「魔獣」を狩り、最小限のリスクで最大の利益を得る為でもある

それでも、この手から零れ落ちてしまうこともある

巴マミの脳裏に浮かぶのは蒼い髪を揺らしながら、朗らかに笑い、人一番正義感が強かった「美樹さやか」

彼女は魔力を使い果たして・・・・消滅してしまった

今彼女は「失踪」したことになっている

彼女の消滅でショックを受けたのは佐倉杏子だった

でも・・・・それよりもショックを受けていたのは巴マミだった

彼女は真剣になって行方を捜してくれる両親や友人がいる

でも私は?

私の身元引受人は遠い親戚

顏なんて、一年に一回見に来るか来ないか

本気で私を心配なんてしていない

きっと、私が「円環の理」に引かれても、体のいい厄介払いができたと喜ぶに違いない

 

「普通の少女になりたいな・・・・・」

 

巴マミが静かにそう呟いた

その呟きは闇に吸い込まれていく

その時だ

 

「私ならそれを可能にできるわよ?」

 

「?!」

 

マミが振り返る

そこには紫のドレスを着こなした金色の髪の少女が立っていた

笑みを浮かべているが、その瞳はまるで獲物を狙う獣のそれだった

 

「!」

 

ソウルジェムが一層強く輝き、その瞬間マミはその手に彫刻の施された前装銃を握っていた

彼女の固有武装であるマスケット銃だ

 

「・・・・・貴方も魔法少女ね」

 

「ええ」

 

少女が肯定する

ガラスが鳴るような、凛とした声だ

隠す気がないのか、それとも威嚇なのか彼女からは強大な魔力が放出されていた

 

「此処へは戦いに来たわけではないわよ。巴マミ」

 

「変ね。私は戦うつもりはないと言いつつも、強力な魔力を出して辺りを威嚇するような不作法者に名乗った気なんてまるでないんだけど?」

 

マミが少女を牽制する

その瞳は既に狩り人のソレに変わっていた

 

「これは失礼したわね」

 

少女が謝るが、お互い警戒は緩めない

 

「それで此処へは?貴方は何も私達と一戦交えたいわけではないのでしょ?」

 

可能な限り、相手に敬意を払い言葉を紡ぐ

これで素直に相手が答えるとは思えないが

 

「私は貴方を楽園へ招待するために来たわ」

 

「楽園?」

 

「グリーフシードや魔力枯渇に怯えることのない、安楽の園へと・・・・・」

 

巴マミが首を横に振る

 

「安楽の園よりも、事情の分からない貴方を信じることはできないわ」

 

「聡明ね。でも貴方はわかっているんじゃない?自分に先が無いことを」

 

少女のエメラルドを思わせる瞳が静かにマミを見る

 

「最近、グリーフシードの使用量が増えてきていることを気にならないかしら?それは貴方の心と体が、少女から女に変わりつつある事・・・・」

 

「知ったような口をきかないで!」

 

激昂したマミが目の前の少女に、白いマスケットを向ける

目の前の少女の言っていることは紛れもない事実だ

初潮を迎えて以来、魔力の消費量が増えてきている

今は真さんや佐倉さん、それにほむらさんが協力してくれている

計画的にグリーフシードを獲得し、マミの変調を誰も気付いてはいない

でも、もしそれでも浄化が追い付かなければ・・・・・?

先は・・・・・無い

 

「貴方はもう十分戦った。なら、少しくらい休んでも誰も責めない・・・・・」

 

諭すような少女の口調

それは今は亡き母親を思い出させた

 

「うるさい!!!!!!!」

 

ダァァーーーーーーーーン!!!

 

マミがマスケットの引き金を引く

それは少女の横に反れた

 

「私は貴方が楽園に来てくれるのを望んでいるわ・・・・・」

 

少女の姿が徐々に薄れていく

 

「うるさいうるさいうるさい!!!!!!!」

 

マミが耳を押さえ叫び続けた

それを聞くものはいない

 

 

 

 

 




やっと過ごしやすい天候になった・・・

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