鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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やっと夏休みが終わった・・・・・
これで少しのんびりできる


藁の犬

 

 

夜の帳の落ちた街

カラフルなネオンが扇情的なキャッチの書かれた看板を浮かび上がらせる

街を歩く人々は空を見上げない

もし、その中で誰かがビルによって狭まれた空を見上げたなら、それに気づくだろう

夜の暗闇よりも暗い、黒い影を

 

タッッッッ!!!!!

 

黒髪を振り乱しながら、黒と紫をモチーフとした衣装を纏った少女がビルの屋上を跳んでいた

いくらビルが密集した繁華街とはいえ、その距離は3メートル以上も開いている

並みの身体能力ではそれを飛び越えることができず、黒々とした闇に包まれた谷間に吸い込まれてしまうだろう

しかし、彼女はあたかも雨上がりにできた水たまりを跳んで避けるかのごとく、何の苦も無くソレをこなしていた

彼女の表情は硬い

 

― 何か胸騒ぎがする・・・ ―

 

少女の名は「暁美ほむら」

「かつての世界」の記憶を持つ転生者だ

彼女は今しがた同じ「転生者」である「美国織莉子」、「和紗ミチル」と別れたばかり

ほむらはかつての世界の記憶を持つ者として、親友の献身によって「救済された」この世界を守るために人知れず活動していた

それは「美国織莉子」、「和紗ミチル」も同じだった

織莉子は「自らの贖罪」として日々、魔法少女達の起こした事件を盟友の「呉キリカ」と解決していた

ミチルは自らを慕う少女達を、その先に絶望しかないことを知らずに「魔法少女」に勧誘してしまったことを後悔し、彼女達の絶望をその魔法少女としての力を使い人知れず打ち砕いていた

だが、彼女達の献身は見事に打ち砕かれた

彼女達、いや私でさえ知らない、もう一人の「転生者」の存在

彼女は巧みな作戦でミチルの守ろうとした「姉妹達」を拉致した

その目的は「世界の否定」

「かつての世界」で稼働していた「箱庭」システム

それは「あすなろ市」まるまる全てを覆う結界で、そこに足を踏み入れた瞬間、瞬時に「インキュベーター」に関わる事柄や、魔法少女のなれの果てである「グリーフシード」の記憶が書き換えられてしまう

話してくれた織莉子によると、記憶が切り替わるにはある程度のタイムラグと条件が必要らしいが、このシステムが恐ろしいものであることには変わらない

「街」に囚われたら最後、書き換えられた記憶に気付くことなく、それを操る存在の操り人形になるしかない

黒幕はわざわざ「かつての世界」でそれを生み出した魔法少女達を拉致し、この世界で再び「稼働」させようとしている

魔法少女を「兵隊」にするつもりか?

それとも「インキュベーター」への復讐か?

理由はいくつも考えられるが、一つだけはっきりしていることがある

このシステムは間違えなく、この世界を「壊す」

ただでさえ、「インキュベーター」と「まどか」による因果が重なり合い、何度も改変された世界だ

それは薄氷に覆われた水面以上に危うい

何がトリガーで破滅が起こるかわからない

今、ほむらができることは一刻も早く、この情報をマギカ・カルテットに警告することのみだった

彼女があすなろ市を抜け、歩き慣れた見滝原へ近づいた時だ

 

~ お・・・・い・・・! ~

 

彼女が微かな念話を捉えた

魔法少女の念話は距離が限られている

今の距離で、ほむらに念話を飛ばせるのは「マギカ・カルテット」しかいない

 

「おーーーーーーい!!!!!!!!!ほむらぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ややハスキーな声

「佐倉杏子」からの大音響の念話が届いた

 

~ 何してんだ!今日はマギカ・カルテット全員一緒に狩りの予定だろ!! ~

 

~ ごめんなさい・・・ ~

 

~ あやまるよりも早く来てくれ!!! ~

 

杏子の声は切迫していた

 

~ 杏子さん・・・何かあったの? ~

 

~ 何かあったの?じゃねーよ!!! マネキンみたいな奴や、バイクみたいな恰好した見たことのない魔獣が突然現れて大変なんだ!!! ~

 

~ ?! ~

 

「マネキンみたいな奴」

 

「バイクみたいな恰好」

 

それはこの世界には既に「存在しない」はずだ

それは・・・・

 

― 「魔女」 ―

 

かつての世界での、魔法少女の「なれの果て」

魔力を枯渇させたり、絶望に飲み込まれた少女達は「魔女」になる

それがとうとう、この世界に現れたのだ

彼女は自らの四肢に魔力を這わせて加速しようとした、が

 

― 出来過ぎている! ―

 

~ 杏子さん!今そこに真さんは居る? ~

 

~ なんだい藪から棒に! ~

 

~ いいから答えて!! ~

 

ほむらが強い口調で杏子に念話を飛ばす

 

~ 真なら・・・・アタシたちから離れて真ん家周辺の偵察に出ているけど ~

 

― やっぱり! ―

 

魔女は足止めに違いなかった

 

~ ・・・・杏子さん。後から必ず行くわ。だから、もう少し頑張ってくれないかしら ~

 

~ お、おい!どういうことだよ! ~

 

~ お願い理解して!理由は後で話すわ。事態は一刻を争うのよ!!!真さんが危ない! ~

 

~ おい!真が危ないってなんなんだよ!!!! ~

 

ほむらは念話を切った

杏子に悪いが、今は時間がない

見滝原に現れた「魔女」は気になるが、相手の目的が「宇佐美真」である以上はそちらに対応せねばならない

これはチャンスだ

未だ姿の見えない「黒幕」を追い詰めることができる可能性がある

ほむらは再び、四肢に魔力を這わせ加速する

 

空には不気味な紅い月がほむらを見つめていた

 

 

 

 

 




次回作は東方で行こうかな・・・

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