カツカツカツ
舗装のされた道路を黒髪の少女が歩く
辺りを予断無く監視を続けるが、しかしその表情は暗い
「すべての絶望を打ち砕き、彼女達を魔法少女にさせない」
全ては完璧だった
時にはその手を汚したこともある
そのおかげで、彼女たちは安易に魔法少女となることはなかった
あのサキでさえ、契約を躊躇させた
だが甘かった
彼女のこれまでの行動の全ては「かつての世界」で力尽きて「魔女」となるまでの、極々限られた範囲の記憶が基になっている
故に「かつての世界」で起きなかった、この事件は予見することはできなかった
「全知」の魔法少女 美国織莉子
彼女の明かした真実
それは私が消え去った後のプレイアデス聖団の末路だった
彼女達は魔法少女の魔女化という事実に屈することなく、それを乗り越えるようとしていた
「魔法少女」にかかわる事柄に関する記憶を全て書き換えて、インキュベーターそのものを認識することができなく、端的に言えばインキュベーターを「殺す」為の「箱庭」
インキュベーターの死体を利用した、グリーフ・シードを使用しない「浄化システム」
残された彼女達は、絶望に屈せずなおも希望を捨てずに戦っていたのだ
例え、その先に倒れ伏す未来しかなくとも・・・・・
彼女達は間違いなく、ミチルが夢見て目指した「希望の魔法少女」そのものだ
「・・・・・でも織莉子さんは嘘つきよ」
「誰だ?!」
昇りかけの紅い月を背に、一人の少女が立っていた
先端がクルリと渦を巻くようにカールした黒い三角帽
その肢体を包む、黒革のボディースーツ
ボディースーツは所々、ジッパーが付けられていて、観ようによっては粗雑に縫った傷口のようにも見えた
「!」
少女の顔に月光が射す
「織莉子さんは確かに貴方に真実を告げた。でも現実は違う・・・・・。彼女は意図的に話を変えた。あのインキュベーターのようにね」
「お前は何者だ!答えろ!!」
ミチルが変身し、黒い杖を突きつけた
しかし、その杖の先端は微かに震えていた
信じたくない!
そんな・・・・
そんなことって!
「あら?言わないでもわかるんじゃない?私の正体が!」
少女が一歩近づく
「来るな!!!!」
ミチルが取り乱す
言い知れようのない恐怖がミチルを包み込む
「プレイアデス聖団はミチルの、いやかずみの復活もその大願としていた。魔女から摘出した心臓とニコが生み出した複製体を使ってね」
ミチルを少女の真紅の瞳が捕えた
「少女らしい考えよね?失敗した時、どうやって後始末するのか?全く考えずにね・・・・・・」
少女が顔を上げる
その顔はミチルのよく知っている人物の顔だった
ガーネットのような紅の瞳
猫のような癖っ毛
「あ・・・あなた!」
ミチルの瞳が驚愕に見開かれる
「そうよ・・・・・そうよ!私は貴方になりそこなった不良品よ!」
髪の色こそ違うが、目の前の少女はミチルそっくりだった
否、「そのもの」だった
「プロドット・セコンダーリオ!」
シュオン!
何時現れたのか、もう一人の少女がミチルを背後から拘束する
「クッ!」
ミチルが身を捩るが振りほどくことすらできない
「織莉子さんはあなたの為に、話をオブラートに包んで話した。あなたは事実を知る責任がある」
少女がその白い手を天上にかかげた
「見なさい!貴方の愛した悪魔達の所業を!!!!」
ミチル達を結界が覆い尽くした
「やめろ・・・やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
それはまさに「悪魔」の所業
彼女達の負の部分だった
「いいや止めない!見なさい!アイツらは常に完璧なかずみを望んだ。やれ髪の毛のツヤがおかしい、やれ料理が下手だ・・・・・そんな下らない理由で私達は不良品の烙印を押されたのよ!」
記録映像が変わる
「幸い、サキは処分するって言って彼女達から私達を保護してくれた。・・・・・・・でもそれは私達をその穢れた欲望の捌け口にするためにね!」
結界に映し出されたもの
それは彼女の心を打ち砕くのに十分だった
「うぇっ・・・・げっぇぇ・・・」
ミチルは吐き気を抑えることができなかった
それをミチルの複製体「水華ジュニ」が冷やかに見つめる
「あらあら、口では勇ましいことを言っていた癖に、意外と豆腐メンタルなのね?」
「嘘だ・・・・・サキが・・・・サキがそんなことをするわけがない!」
「あら?そうかしら。人権のない、何をしてもいい人間を手に居れたらどんな善人でも外道になるわ。特にアイツは、貴方のことが好きだったからね」
嘘だと信じたかった
この目の前の映像も虚構だと言いたかった
でもできなかった
感覚でわかる
これは私が消えた後、「かつての世界」で起こったことであると
~ 頃合かしら ~
「強すぎる願いはまた強すぎる呪いを撒き散らす。貴方もルールから逃げることができなかっただけよ」
ミチルの返答はない
ミチルは既に心折れていた
「トッコ・デルマーレ」
ミチルの身体から抵抗なく、ソウルジェムが抜き出される
「貴方も楽園の礎になりなさい」
ミチルのソウルジェムは濁っていた
かつての仲間が「悪魔」となってしまったことに、打ち砕かれていた
サキがやっていたこと
かずみ複製体(ロリロリボディ)に幼稚園児ルックさせて、「おねぇちゃん大好き!」と言わせる