鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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あと10日で厨房がいなくなる・・・・


ホテル・カリフォルニア

 

「ここは・・・・・?」

 

ユウリが首を傾げる

遠目には城ともみえる白亜の館

飛鳥ユウリは今まで海外へ旅行に行ったことはないが、おそらく海外のリゾートにあるホテルというのはこういったものなのだろう

そう思えるくらい、目の前のホテルは完璧だった

天井には目もくらむような吹き抜け

壁に備え付けられているのは、くもり一つない大きな窓ガラス

そしてエントランスホールには高価なマホガニー製の椅子やテーブル

食器は全て銀食器で凝った装飾が施されていた

おまけに大きな真鍮製のフロア・ファンが静かに回り、二人に心地よい風を送っていた

 

「やったよ!ここなら他の人もいるよきっと!」

 

「あ・・ああ」

 

無邪気に喜ぶユウリを後目に、あいりは周りを予断なく監視していた

あまりにも出来過ぎている

それに、私達をなぜ殺さない?

相手はここまで、私達を追いつめていた

なら「最終解決」を行うはずだ

なのになぜ生かしている?

チャンスはあったのに・・・・・

 

ゾクッ!

 

突如、ホテルの奥から二人とは別の強大な魔力を感じた

これではっきりした

相手は「此処」にいる

 

「ユウリ!変身して!」

 

「うん!」

 

あいりの掛け声に二人は魔法少女形態へと変身を遂げる

一人は道化師のような姿に

もう一人は真紅のナース姿へと

あいりとユウリは同時に戦闘形態へと変わる

 

パチパチパチ!!!!!

 

明るい拍手

二人がホテルのカウンターを見ると、灰色の髪の少女が手を叩いていた

エメラルドのような瞳が二人を見つめる

 

「いやぁ、当ホテルを気に入ってくれて何より」

 

少女は口元に笑みを浮かべた

その仕草に敵対する意図は見いだせなかった

 

「そうかい。じゃあ、もとに戻せ!!!!!」

 

あいりが手にしたトーラス・ジャッジを少女に向ける

 

「此処に居るのはあくまで私のシュミクラよ。信じられないなら、引き金を引いてみたら?でもそうしたら、此処に招いた理由は分からずじまいよ?」

 

銃口は確実に少女の顔面を狙っていた

あいりがほんの少し力を加えるだけで、少女の整った面立ちを410番ゲージのバックショットがミンチにしてしまうだろう

少女の表情に恐怖はない

 

「・・・・・・・」

 

あいりは無言で銃を下した

 

「聡明で助かるわ」

 

チリン・・・・・!

 

少女が呼び鈴を鳴らした

 

「?!」

 

「何時の間に!」

 

「お二人はコーヒーはお嫌いでしたか?」

 

三人はテーブルに座っていた

目の前には湯気を立てるコーヒー

傍らにはアップルパイ

 

スッ・・・

 

少女は無作為に選んだカップに口をつける

 

「毒は入っていませんよ」

 

「そうだな。殺そうとするなら私達が意識を失っていた時にすればよかった・・・・・」

 

「殺すなんて!私が貴方達を此処に拉致したのは、しばらくの間このホテルで過ごして頂きたいからよ」

 

少女は啜る音を立てず、ゆっくりとコーヒーを味わった

 

「私達を拉致したのは一体どうしてだ!」

 

あいりが少女に詰め寄る

しかし、少女はそれを気にしたそぶりはない

ただただ、自らに強いられた行動をなぞるのみだった

 

「理由?私の願いは救世。私はその為に生まれ、様々な苦しみの中を生きてきた。もう少し・・・・そう!もう少しで救世が叶う。だからこそ、目的を為すために万全の策をとりたい」

 

少女の瞳は澄んでいた

そこに嘘は見えない

そしてそこには信念に殉ずる聖女のような、気高さが表れていた

 

「此処には一年分の食料品と浄化の為のグリーフ・シードが用意されている。それに思いつく全ての娯楽や衣服も準備してある。きっとキミ達も満足してくれるはずだ。」

 

少女が言葉を切る

 

「一年・・・そう一年だ。ここで一年大人しくしておいてほしい。そうすれば、あなたたちも私の言う救世の意味が分かるはずだ。私は何も、私利私欲で動いているわけではないことに・・・・」

 

ダン!

 

ユウリがテーブルを叩いた

 

「ユ、ユウリ・・・・?」

 

あいりが親友を見る

普段、感情を表に出すことが少なかった彼女の表情には明確な怒りが満ちていた

 

「救世?そんなことであやふやなモノの為に、有無を言わさずに五人の少女を拉致したというの?貴方は・・・アナタは一体何様のつもりよ!貴方の言う救世が一体どれほどもモノというの!」

 

ユウリからの明確な怒りを向けられても少女の表情は変わらない

それはまるで「言われなれている」かのようだ

 

「私は世界を救いたい、その願いに嘘はない。貴方は狭い世界の中で生きている。システムに疑問をもたず、変えようともしない。貴方たちは今でもインキュベーターの奴隷であることには変わらないのだから・・・・・」

 

少女の姿が徐々に薄れてくる

 

「全ては楽園の為・・・・」

 

後には二人の少女のみが残された

 

 

ザァァ・・・・・

 

海は相変わらず穏やかなままで、船の影も見えない

 

「あ・い・り!!!」

 

ユウリが背後からあいりを抱きしめる

 

「何とか脱出方法を考えないとな・・・・」

 

「うん・・・・」

 

まるで楽園のような生活

でも・・・・

 

「私達の知らないところで何かが起ころうとしている・・・・」

 

「正義の魔法少女なら何とかしないとね!」

 

二人は沈みつつある茜色の太陽を決意の籠った瞳で見つめていた

 

 

 

 

 

 




暑い・・・・・

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