群馬県 あすなろ市
当時の市長が行った市名の改名でひらがな四文字となった、全国的にも珍しい都市だ
その閑静な住宅地
そこに位置する白亜の邸宅
邸宅は劇団「プレアデス聖団」に所属する女優であり、「かつての世界」の世界で「かずみ」を再誕させた六人の魔法少女集団「プレイアデス聖団」の一人、宇佐木里見の家だ
その里見の部屋が見える位置に一人の少女が立っていた
良く言えば「活動的」、悪く言えば「露出度が高すぎる」姿
更に悪く言えば「変態」的な恰好
恐らく、まだ中学校を出てもいない歳の少女がこのような姿で街角に立っていること自体、異常であり、警察が呼ばれて事件になっていないこともおかしい
しかしコレには理由がある
何せ周囲の人々は彼女に全く気付いていないようだった
― 認識阻害魔法 ―
魔法少女達が戦うために掛ける、初歩中の初歩の魔法の一つだ
これが作動している限りは、人から、果ては街頭の監視カメラすらごまかすことができる
彼女は今自分自身にそれを掛けているのだ
故に誰も「知らない」
彼女がスマートフォンを操作する
~ ユウリ、そちらの様子はどう? ~
~ え~と、みらいちゃんだっけ?今もクマのぬいぐるみを作っているよ ~
~ ん?確かこの前の定期連絡も作っていたっけ ~
~ う~~~ん、どうやらうまくいっていないみたい。作り直してまた最初からやってる ~
「かずみ」こと、和紗ミチルから聞いた情報では警護対象である「若葉みらい」は劇団での女優業の傍ら、劇団で使う衣装を一手に引き受ける腕の良い衣装係のようだった
なのにたかが、クマのぬいぐるみをまた作り直す?
彼女はそこに微かな違和感を感じた
~ 何かあったら連絡するよ、あいり! ~
あいりと呼ばれた銀髪の少女は微かに微笑みをみせた
~ この監視が終わったら、アイツにたっぷりバケツパフェを奢ってもらうからな! ~
~ あはは、それには私も同意するよ! ~
「あいり」は今の幸せを噛みしめていた
魔法少女「杏里あいり」
彼女もまた、「かつての世界」の記憶を持つ転生者だった
「かつての世界」で「魔女」になったとはいえ、彼女に魂を分け与えて死の淵から救い出してくれた無比であり「オンリーワン」の親友「ユウリ」を殺した敵である「プレイアデス聖団」
それを生み出した「和紗ミチル」
この世界でもユウリは魔力枯渇によって死に瀕していた
彼女が死なず、今もあいりの傍らにいるのもミチルのおかげともいえる
彼女の介入により、ユウリは今も生きている
こればかりは彼女に感謝しなければいけないのかもしれない
魔法少女の過酷さに気が付かなかったユウリに、戦いのイロハを教え一人に戦士に鍛え上げたのは、戦いのベテランだったミチルのおかげだ
でも・・・・
自分の中の「かつての自分」がそれを拒否していた
今いる「ユウリ」もかつての世界の「ユウリ」も同じだ
心の中でもそれは理解できる
でも・・・・
でも、ここに本物の「ユウリ」が居てくれたなら・・・・
「ワガママだな私・・・・・」
光り輝くような銀髪を揺らし、彼女は静かに呟いた
監視対象である「宇佐木里見」が本屋から帰宅してから、自室に入って数時間が経った頃だ
ガラッ・・・・・
里見が静かに窓を開いた
「チッ!・・・・・?」
夜風に紫色の髪がたなびく
何らおかしいところはない
しかし彼女の表情をあいりが見た瞬間だった
「!」
その表情には感情が見られない
瞳には光はなく、その手足もまるで・・・・
まるで操り人形のように意思は感じられなかった
あいりの背中を冷たいものが走る
「やばい!!!!!!!」
彼女にとっての「オンリーワン」である飛鳥ユウリからの念話が入る
~ どうしたのあいり? ~
~ ユウリ!今すぐ逃げるんだ!早く! ~
~ どうしてなの?今逃げたら・・・ ~
~ そいつはニセモノだ!!!!!! ~
あいりがユウリに必死に呼びかける
しかしユウリは事情を理解できない
あいりが「警護対象」から逃げろというのだ
理解できる方がおかしい
彼女は少し幸せになれすぎたのかもしれない
あいりが知っている「プレイアデス聖団」には、通常の魔法少女と比べ、かなりトリッキーな能力をもった魔法少女たちが多く所属していた
その中に一人、「何でも作れる魔法少女」がいることを思い出したのだ
「再生成」の魔法少女「神那ニコ」
彼女なら・・・あるいは・・・
~ そんなはずないよ!だって人間を作れるなんて・・・・ ~
~ 頼むから信じてくれ!ユウリ!! ~
なおも必死に懇願するあいり
その時だった
ダァーーーーーーーン!!!!!!!
漆黒の闇を銃声が引き裂いた
~ ・・・・・・・・・ ~
あいりが必死に叫ぶ
しかし、スマートフォンは沈黙したままだ
~ ユウリ!ユウリどうしたんだ!ユウリ!!!!!! ~
彼女からの念話が一切通じなくなった
それが意味するものは・・・・・
「畜生ォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
あいりの嘆きがビルの谷間に響く
しかし、それは唐突に止んだ
シュォォォォォォォォ!!!!!
「?!」
銃声と共に現れた光の球体にあいりはなすすべもなく飲み込まれた
後に残されたのは直前まで彼女が握っていたスマートフォンだけだった
街は動き続ける
今ここで二人の少女が消えてしまっていても・・・・・・
休みはあと少しで終わる・・・・