「畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
ビストロ・タチバナ
かつての世界で「かずみ」と呼ばれていた少女である、「和紗ミチル」の叫びが響く
彼女の目の前のテーブルに置かれた膨大な資料
各社が発行している各種の新聞や、ゴシップ紙、果ては週刊誌の類まで用意されている
それらの見出しにはこうある
「新進気鋭の作家、う~かさんの謎の失踪?出版社は失踪を否定」
「あすなら市中央中学校の闇!いじめを苦に若手選手が失踪」
「黒崎国際学院の植物園で謎の爆発!一人の行方不明者と重傷者一名」
これらの記事に共通する点
それは事件の起こった舞台が「御崎海香」と関わりのある出版社や、「牧カオル」、そして「浅海サキ」の通っている学校であること
そして・・・・恐らく三人とも失踪している・・・・
「ミチル・・・・・」
ビストロ・タチバナの店主であり、祖母を亡くし天涯孤独の身であったミチルを引き取った養親である立花宗一郎が声を掛ける
「立花さん、ごめんなさい・・・・・」
ミチルが目を伏せる
「一体何が起こったんだい?」
「・・・・・海香とカオルとサキが恐らく失踪した」
「失踪?でも、三人は確か魔法少女になっていないはずじゃ・・・・」
立花はミチルから「魔法少女」であることを告げられている
彼は心配なのだ
ミチルが絶望に飲まれてきえてしまうことに
だからこそ、立花は彼女のそばに居る
「ああ、それは間違いない・・・・」
「破戒」の魔法少女、「和紗ミチル」
彼女は「危篤状態になった祖母が意識を取り戻すこと」を対価に魔法少女となった瞬間、「かつての世界」の記憶を覗き見た
「魔女のくちづけ」を受け、自殺に追い込まれた六人の少女
ミチルは彼女達を救い、ミチルのことを「かずみ」と呼んで慕ってくれる魔法少女達と一緒に「プレイアデス聖団」を結成したこと
そして・・・・・穢れを溜めて魔女となってしまい、皆を同じ「魔女」にしてしまった後悔と懺悔を叫びながら、その短い生を終えたことを
この世界では「魔女」は存在しない
だが、「魔法少女」が絶望の果てに生を終える運命は変わらない
だからこそ、彼女達が様々なカタチの絶望に誘い込まれて、あの悪魔と安易に契約しないように様々な手段をとった
時には、人を傷つけたことさえある
そして・・・・・
劇団「プレアデス聖団」公演、本番
魔獣の結界の中で出会った「宇佐美真」という、見滝原の「魔法少女」
彼女、いや彼というべきか
「魔法少女になれる少年」という「かつての世界」でも見たことのないイレギュラーな存在
彼の存在という、不確定情報も多かったが、彼の協力もありみんなに何とか魔法少女になることのリスクを伝えることができた
自らが「人間」ではなくなると知って、彼女達は安易に契約はしないだろう
これで彼女達を絶望の未来から遠ざけることができた
そのはずだった・・・・
「これは私のミスよ。五人に魔法少女の契約のリスクを話して、彼女達が魔法少女になる未来を打ち砕いた・・・」
ミチルが目を伏せる
「本当はそれで安心してはいけなかった。これは・・・私の罪だ・・・・」
「ミチル・・・」
立花がミチルに近づく
「立花さん・・・・慰めなんていいの」
彼女は全てを諦めつつあった
彼女のしてきた全てが否定されたのだ
ズズズズ・・・・
その絶望は彼女の魂を黒く染めつつあった
「ミチル!」
ギュッ!!
立花がミチルの小柄の肢体を抱きしめた
「ちょっ!何するの!!!!」
彼女を包み込む、暖かなぬくもり
それが目の前の立花が彼女を抱きしめていると知ると、ミチルの顔がみるみる赤く染まっていく
「ほら、やっぱりキミもただの女の子さ。」
「こんな時に何を言うの!!」
ミチルが顔を赤くして立花に詰め寄る
「これでわかったろ?君は確かに未来を知っている。でも、ほんの少し前は僕がキミに何をするまでわからなかった」
立花の表情は真剣だった
そこに冗談などは存在しなかった
「聞いてくれ」
「立花さん・・・・」
「ミチル、キミは確かに僕にも想像できないような力を持っている。でも勘違いしちゃいけない。君は神様じゃない、だから失敗もする。でもキミにはまだチャンスがある。キミが助けたかったのは三人だけじゃない全員だろ?もしも相手が全員を狙っているのなら・・・・」
ミチルがハッと気づいた
まだ三人が無事だ
「里見とみらいがあぶない!!」
シュォォォォォォォォ!!!!!!
ミチルが立ち上がり、魔法少女形態へと変わる
そして、そのまま街へ駆け出そうとする
「落ち着いて!キミは一人かい?」
「何を・・・・?」
「キミはずっと一人なのかい?信頼できる仲間はいないのかい?」
「?!」
立花の問いかけに、ミチルに脳裏に二人の魔法少女の姿が蘇る
「・・・・私には仲間が・・・・いる」
「それだけじゃない。この前出会った見滝原の魔法少女達もいる」
見滝原の「転生者」暁美ほむら
彼女の協力を得れれば・・・・・
未来を変えられるかもしれない
「ありがとう!立花さん!!!」
「行っておいでミチル!」
西日の中、駆けだすミチルの小さな背中
立花はその自信に満ちた背中をいつまでも見つめていた
暑いのでそうめん
それくらいしか喰う気になれない・・・