鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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時間があったので投下します


依存

黒崎国際学院

あすなろ市にある私立の中高一貫校だ

私立といえば、若葉みらいの通う「聖ロリアーナ女学院」の方が歴史があるが、有名大学への進学率や偏差値の高さなら、あすなろ市一として県内外でも有名だ

 

学院内植物園

ここには全国的に珍しいことの一つに本格的な植物園が備えられていた

多くの珍しい熱帯植物が収集された温室を抜け、一人の少女が進む

やや紫がかったシルバーブロンド、銀細工の施された流麗な眼鏡

その凛とした表情には、男も女も魅了されてしまうだろう

少女が足を止める

そこはスズランが多く植えられたエリア

先に挙げた熱帯植物と違い、可憐ではあるがどこでも咲いている花だ

でもそれは彼女にとっては大きな意味を持っている

 

サラッ・・・・・・

 

物憂げにスズランに見つめ、その白い手で愛でる少女

彼女の名前は「浅海サキ」

品行方正、成績優秀

彼女へと捧げられた言葉は無限ともいえる

まさに学院の理想ともいえる才女だ

彼女の評判とその美貌は、遠く隣市の見滝原にも届いている

 

「見滝原の織莉子、あすなろのサキ」

 

と呼ぶ者さえいるくらいだ

最も、この呼び名はあくまで外野での話で、織莉子もサキもお互い面識は全くないのだが

 

「・・・・・・」

 

白く、可憐な花を咲かすスズラン

それは彼女の最愛の妹が愛している花だ

あの不幸な事故

 

― 高速道路でのトラック横転事故 ―

 

トラックの爆発炎上での死者は一人だけ

それにはサキと妹の美幸も巻き込まれていた

幸い、妹もサキも致命傷を負っていない

だが・・・・

美幸は目の前でトラックの運転手が灰になっていく瞬間を目の当たりにしてしまったのだ

人が、黒く灰へと変わり、尚ももがくその姿

そのショックは誰にも理解できない

実際にそれを目撃した彼女以外には・・・

そしてそのショックは彼女から声を奪い取ってしまった

声が全く出せなくなってしまったのだ

声帯には全く障害がない

恐らくは精神的なものだろう、姉であるサキは彼女を救おうと、思いつく限りの様々な手段を講じた

簡単に手に入る書籍から、難解な実践英語で書かれた学術論文さえ読んだ

場合によっては、高名なカウンセラーを呼ぶことさえした

でも、それが逆に美幸の心を追いつめてしまっていた

ある日のことだ

美幸が幼いころから丹精込めて世話をしていた白いスズランが庭の片隅に咲いているのを見て、サキが花屋で購入したスズランの鉢植えを美幸の病室へ持って行った時のことだ

 

~ これを見て、昔の美幸に戻ってほしい ~

 

そうサキは願っていた

だが・・・

 

ガシャァァァァァァン!!!!!!!

 

美幸はサキの手を払いのけ、白いスズランの鉢植えはなすすべもなく床に落ちた

その時、サキは美幸の瞳を見た

声はなかった

ただ、サキに対する明確な「拒絶」の感情のみがあった

 

「ごめん・・・・・」

 

その日からサキが美幸の病室に訪れることはなくなった

 

~ こんなことをしてはいけない ~

 

~ 本当につらいのは美幸の方だ ~

 

サキの心の中でもう一人のサキが叫ぶ

だが、心を打ち砕かれたサキがその声に耳を傾けることはなかった

サキもまた追いつめられていたのだ

状況を変えたのは「一人の少女」

あの日、猫を思わせるような黒い癖っ毛と、真紅の瞳をしたサキよりも小柄な少女が病院へ、慰問にやってきた

看護師やカウンセラーの話によると、彼女は数人の仲間達と一緒にボランティアとして、いくつも病院や老人ホーム、障害者施設等を回って演劇を公演しているそうだ

今、思ってみると不思議な話だ

あれだけ追いつめられた私が、なぜ美幸を誘って彼女の演技を見ようと思ったのか?

そもそも、なぜあれだけ私を拒絶していた美幸も、誘われるままに私と一緒に劇を見ようと思ったのか?

疑問は尽きない

まるで答えが見えない

だが、彼女の演技が追いつめられていた美幸と私を変えてくれた

ショックで全く声の出なかった美幸が、無言劇で滑稽な役割を演じる少女の演技を見て、大きな声を出して笑ったのだ

 

「?!」

 

明るい張りのある声

ほぼ一年ぶりに聞いた妹の笑い声

その声はずっと・・・・事故の日以来、心から私が聞きたかったものだった

美幸に笑い声を取り戻させてくれた少女の名前は「和紗ミチル」

私と美幸を救ってくれた真の「英雄」だ

私は彼女に礼を述べた

彼女が要求するなら、なんでも用意しよう

そう思えるくらい、彼女の与えたくれたものは大きかった

でも彼女は何も要求しなかった

ただ心の底から楽しんでもらえたことが最も幸せだと、笑顔でミチルは話してくれた

思えば、この時から私はミチルに「恋していた」のだろう

スズランの花言葉は、「純潔」、「幸福の訪れ」、「幸福の再来」

そして・・・・

 

「純愛」

 

わたしはミチルと一緒に劇団を作った

それは私なりに彼女へ、恩返ししたいという思いもあるが、なによりも彼女の近くに居たいという邪な思いもあった

この気持ちはきっとミチルに伝えることはないだろう

それでもよかった

 

ガチャ・・・・・

 

不意にサキの背後で植物園の扉が開く音が聞こえた

 

「此処に居たんだね、」

 

やや掠れた・・・それでいて聞き覚えのある声がサキ一人しかいない、植物園に響いた

 

 

 

 

 

 

 

 




暑い・・・・

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