鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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ではでは投下します


嫉妬

ザッ!

 

「おーい!カオルいったよ!!!!!」

 

「オーケー!!!」

 

~ いいな・・・・ ~

 

一人の少女が夕暮れの琥珀色に包まれるグラウンドに静かに佇んでいた

目の前には皆揃いのユニフォームを着て、一心不乱にサッカーに打ち込む少女達

皆、真剣で誰一人、この練習であってもこれを甘く考えていなかった

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

少女達の飛び散る汗が黄昏色の光を受け黄金色に眩しく輝いた

 

 

グラウンドに一人たたずむ彼女「月華光江」は、別の中学校でサッカー部のエースをしていた

幸せだった

自分が努力すればするほど、サッカー部の皆が褒めてくれる

サッカー部が実績を残せば残すほど、学校の皆が褒めてくれた

学校でも家でも皆彼女を大切に思ってくれた

だから頑張れた

つらい練習でも耐えることができた

でもあの日・・・・全てが「終わった」

 

半年前

この学校との「ありふれた」練習試合

本当にいつも通りだった

だが

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

光江が叫ぶ

朝露に濡れた地面で彼女の足が滑り、そのままの勢いのまま相手選手の足を砕いてしまったのだ

これは純然たる「事故」

事故を起こした光江にとってもそれは間違いない

事故に居合わせた、彼女のチームメイトやサッカー部顧問の教師も間違いなく確認したはずだ

全ては不幸な事故で終わるはずだった

彼女はその日を境に「全て」を失った

あんなにサッカーで私を誉めてくれたチームメイトや顧問の教師は急によそよそしくなった

そしてクラスでは・・・・

 

~ アイツだよアイツ、次の県大会で勝ちたいからって強豪校のエースを潰したのは ~

 

~ お~怖! ~

 

~ こんな話をしていると闇討ちされるよ ~

 

~ あっ、こっち見た ~

 

クラスでも

学校でも

私を蔑む声が聞こえる

皆が皆、私をないがしろにしていた

心が痛い

淋しい

何で私が?

私が何をしたというの?

もう・・・限界だった

 

~ 死のう ~

 

あの日、私は学校帰りに種類の違う特殊な洗剤を二つ購入した

致死性の「ガス」を発生させて「死ぬ」ためだ

変に勘ぐられないように、発生させるのに必要な二つ洗剤は別々の場所にある、ス―パ―で購入してある

今日は両親もいない

両親に私の死体を見られるのは心が痛んだ

でも、それよりも生きることが何よりもつらかった

 

ザァァァァァ・・・・・・

 

スーパーを出ると雨が降っていた

傘はない

でも・・・

 

「雨・・・・いいや・・・」

 

これから死ぬ人間に傘なんて必要ない

もう少しで、この辛さから解放される

死ぬことへの恐怖はある

でも、あと少しで解放されるという安堵が恐怖を凌駕していた

私はゆっくりと家に向かって歩く

死へと・・・・

私の足が地下鉄の階段を降りようとした時だ

 

ドンッ!

 

「え?!」

 

背後から強い衝撃を感じた

その瞬間、私の身体は階段下に横たわっていた

全身を強い力で引き千切られ、引き裂かれるような激烈な痛みが私の全身を覆う

痛い

痛い

痛いぃぃぃぃぃ!!!!!

これから「ガス」で死ぬつもりだったのに、この強い痛みは私の感情を飲み込んでいく

もう死ぬことすら頭にはなかった

代わりに浮かんできたもの

それは怒りと憎悪

あの日の練習試合

そうだ

あんなことさえなければ・・・

彼女の脳裏に他校のエースの顔が浮かぶ

彼女は顏を歪ませて笑っていた

私をだ!

あんなヤツさえいなければ!!!

怒りが全てを塗りつぶしていった

 

「全てを変えてみない?」

 

サッカー部を辞めて、空虚な一日を送っていた私のもとに現れた女の人

彼女は笑みを浮かべていた

私は彼女も私を蔑んでいるようにしか思えなかった

でも、彼女は私を受け入れてくれた

私の醜い感情も

歪んだ自尊心すらも

そして・・・・・

私を「解放」してくれたのだ

彼女こそ、私が欲していたものだったのだ

 

「・・・・・・」

 

私の手の中には彼女からの「贈り物」

使い方は分かっている

この感情に全てを委ねるだけでいい

人間らしい感情も、道徳心も必要ない

私は捩れた針が両端から突き出した黒い歪んだ球体を翳した

途端に黒い何かが私を覆う

 

「もう・・・・ガマンシナクテイイヨネ?」

 

 

「おつかれさまーーーーーー!!!」

 

牧カオルは何時ものサッカー部の練習を終えた

あの練習試合で負った足の負傷は、彼女が思っていたよりも重かった

それこそ、復帰も危ぶまれるほどだった

しかし、彼女は復帰し今こうしてサッカーグラウンドにエースとして立っている

これもつらいリハビリと思い通りに動いてくれない足とで、心折れそうになっても何時も励ましてくれた親友「御崎海香」にお蔭だった

 

「そういえば・・・今日はプレアデス聖団の稽古日だったな」

 

カオルは手早く荷物を纏めると、夕闇の中を駆けだした

 

 

いつもと同じ

そう

いつもと同じだった

カオルは何時も間にか、別の場所にいた

別の場所?

いや

このような場所なんて地球上にすら存在していない

 

「何これ・・・・?」

 

空中をサッカーゴールが浮かび、ボールが無数に飛び交い、まるでボール同士がサッカーゲームをしているようにも見える

 

ダァァン!!!

 

彼女の背後に何かが当たる

その拍子に彼女はその場に蹲った

 

「楽しいサッカーのハジマリダヨ?」

 

茜色の髪の少女が蹲るカオルに微笑んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蒸し暑いぃぃぃぃぃ!!!!!!

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