鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下します


眩暈

カラン・・・

 

古めかしいドアを開き、一人の少年が店に入ってくる

 

「マコトサン!お久しぶりネ」

 

「ああ、リタ。久しぶりだね」

 

昼過ぎ、真の姿は見滝原市にあるブラジル料理店にあった

真は何も料理が全くできないわけではないが、しかし今日に限っては家に居たくはなかった

もうだいぶ時間が経っているというのに、今でもあの夢の残照に心騒がされていた

確かに、彼の許嫁である「美国織莉子」は一応は「男性」である真の目から見ても、そのグラマラスな肢体や、その極上の美術品のような美しさに釣り合うほどの精神の聡明さは非常に魅力的だ

年頃の少年なら、夢や妄想の中で彼女とのまぐわいを想像することもあるだろう

でも、真は彼女を「そういう対象」に見たことはない

そもそも真は織莉子を含め、女性にそういった感情を持ったことさえないのだ

 

― 美樹さやか ―

 

彼女は魔獣に襲われていた真を救った文字通りの「ヒーロー」

彼が彼女が「魔法少女」であることを知り、キュウベェとの「契約」を経て共に戦えるようになったが、既に彼女は「円環の理」に導かれていた

美国織莉子は魔法少女だ

その凛とした、気高い理想に下卑た感情が入り込むことはない

でも・・・・もし、魔法少女の概念がなければ、彼女に恋心を抱いたのだろうか?

もし、今でも美樹さやかが生きていたら、彼女と恋愛関係を結ぶことができたのだろうか?

 

ドクン・・・ドクン・・・

 

真の心臓が高鳴る

不意に昨夜の淫夢が浮かんだ

所詮は夢

だが・・・・

あれは恐ろしく現実的だった

鉛のように動かない身体

泣きながら、彼を「犯した」織莉子

なぜ?

なぜ?

疑問は後から後から沸き立つが答えは出なかった

もしもあの時、「美国織莉子」が「美樹さやか」だったら?

彼女なら、彼は喜んでこの身体を差し出すだろうか?

頭を振って下卑た考えを追い出す

 

コトン!

 

「これお店からのサービスネ」

 

リタが素朴な素焼き製のポットを真の目の前に置いた

 

「え?」

 

真の目の前には湯気を立てるカレーによく似た料理

「ドブラジーニャ」と呼ばれるこの料理は、ウィンナーと牛のハチノス、ヒヨコ豆やトマトをスパイスで煮込んだブラジル料理だ

 

「いやだって・・・・・」

 

かなりショートなホットパンツを着た浅黒い肌のリタが近づく

日本人とブラジル人のクォーターである、彼女が真の瞳を覗き込むように見つめる

 

「マコトサン、目の下にクマがデキテルよ。さては昨日彼女と徹夜でスケベにハッスルしたネ?これ食べてスタミナつけないと!」

 

ズコッ!

 

真が激しくズッコケる

 

「ちょっ!」

 

真が弁解をしようとするが、リタはそのまま調理場へと戻っていく

理由はともかく、今の真の表情が優れないのは間違いない

それに丁度、ドブラジーニャを頼む予定だった

 

「まぁ・・・いいか。今日の夜はパトロールもあるしスタミナつけないと・・・」

 

~ そうそう。何事も割り切りが必要よ ~

 

どこかで聞き覚えのあるような声が聞こえた

 

「え?」

 

真がポットから視線を戻すと真の向かい側に知らない少女が座っていた

 

― さっきまで僕しかいなかったのに・・・ ―

 

「いきなり目の前に座ってごめんなさい」

 

少女はエメラルドのような瞳で真を見つめる

 

~ 織莉子さんみたい・・・・ ~

 

真は彼女のことは全く知らない

しかし、その顔つきや物腰

見れば見るほど、真は不思議な感覚を感じ始める

それはまるで「ずっと前から知っている」かのように妙な親しみを感じていた

 

「キミは・・・・?」

 

真は混乱しながらも少女に声を掛ける

 

「やっと会えた・・・・・」

 

少女は涙ぐんでいた

 

「私が門を使って色んな世界を渡ってきたわ・・・・でも生きて貴方に会えたのはこれが初めて・・」

 

「何を言って・・・」

 

「大丈夫しないで。私が救って差し上げますわ。この世の全ての絶望、死神の手すらを駆逐して・・・・」

 

少女の「違和感」が高まる

話の糸口は全く掴むことができない

 

「だから!!!」

 

ダン!

 

真が席を立ちあがるが

 

「?!」

 

真の目の前に既に少女は居なかった

まるで最初からそこに居なかったかのように・・・・

白昼夢のように、夏の日の陽炎のように何も残さず消えてしまった

 

「・・・リタちょっと来てくれないか」

 

「どうしたネ。マコトサン?」

 

「すまないけど、僕の他に店の中に客は誰か居た?」

 

「マコトさん以外にそんなシト、店の中いないネ」

 

真が周りを見ると、狭い店内には確かに彼一人しかいない

ドアを見るが、ベルは鳴った形跡すらない

 

「・・・・どうしたネ」

 

「ごめん・・・迷惑かけたねリタ」

 

 

見滝原市、その大通り

少女達の喧騒に包まれていた

あるものは落ちた成績を悩み

またあるものは生まれて初めての体験に不安と期待を込める

灰色の髪を揺らしながら、その少女は街を歩く

そのエメラルドの瞳は幼子を見る母親のように優しさに満ちていた

少女が少女らしく、「自らの人生」を歩む

その事がいかに素晴らしく、尊いことか

だからこそ、「救世」は成し遂げなければならない

例え、自らの父親を捧げても・・・・

少女が出会った少年「宇佐美真」

恋するような瞳の少女の手の中には古びた日記帳

そこには「MAKOTO・U」と書かれていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ワタモテOPはかっこいい
内容はかなりぼっちにはつらいが・・・

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