鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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『魔法少女おりこ☆マギカ~symmetry diamond~』のネタばれがあります
ご注意を・・・


「鍵穴」の少女

その少女、優木紗々は「絶望」していた

自らの容姿のことや、学力でもない

それは、たとえ両親が人生における成功者だったとしても、娘である自らに張られたレッテルを剥がすことができないことに

彼女の父親は海外で製造されたブランド品を模した雑貨品、言うなれば「パチモノ」を輸入する事業で成功した

優木も同じ年齢の少女と比べると、それなりに裕福な生活環境で育ち通う学校もお嬢様学校で有名な白百合女子女学院だ

誰もが羨む環境

だが、誰も彼女に敬意を払わない

所詮はパチモノでの「成り上がり」

他人に誇るべき歴史もなければ、大勢から敬意されるような事業をしているわけでもない

具体的は言い放たれたわけではないが、彼女は自分のことを「部外者」と認識した

誰の瞳にも彼女は映っていなかった

カフェテラスで貴族のように振る舞う、あの偉そうなアイツらを従えたら・・・・

鬱屈とした彼女が、心の底からそう願うのは必然と言えた

そしてその願いが白魔を引き付けることも・・・

 

 

「はぁ・・・・」

 

誰も顧みない、うち捨てられた「アンジェリカ・ベアーズ」

その地下に作られた「彼女達」のアジト

地下だと言うのに、地下室独特のかび臭い臭いや不快な湿度は全くなく、どういった原理か天上に浮かぶ太陽と変わらない陽光が降り注ぎ、場合によっては地上よりも快適な環境だ

蒼い髪をツインテールに纏めた少女が計器類から目を離さずに、傍らの少女「優木紗々」に声を掛けた

 

「何、ため息を吐いていんのよ?」

 

「いやだって、退屈ジャン?此処って」

 

「そう?私は退屈じゃないわ。何せ、此処にはまだ解析や研究を終えていないアーティファクトが山のようにあるから」

 

「ったくオタクが・・・」

 

ツインテールの少女「奏 愛華」が優木にチッチと指を振る

 

「人生を楽しむコツは自分の役割を理解して、自分にできることをすること」

 

「って、楽園には興味はないってこと?」

 

彼女達が此処に集まったのには一つの理由がある

 

― 楽園 ―

 

希望を胸抱いて戦い続ける「魔法少女」達を「死神」の魔の手から救い出すために「宇佐美真琴」と「水華ジュニ」によって生み出されたシステム

その構築にこの二人は携わっている

 

「楽園には興味はあるよ。私だって死にたくないしね。でも今は夢中になれるものがある、それだけよ」

 

「ふ~~~~ん」

 

紗々は鼻を鳴らす

 

 

「・・・・これが私の・・私の最後というの?」

 

優木紗々が傍らの少女に尋ねる

嘘だと信じたかった

だが、目の前の少女は間違いなく「自分」であることを本能で理解していた

目の前には織莉子から明かされた「魔法少女の真実」

その重さに耐えきれず、自らの帽子に付けられたソウルジェムを砕いて自決した姿

その顔は怒りと憎しみで、人とは思えない程酷く歪んでいた

 

「貴方の根源は羨望。故に望んだ、誰もが自分を受け入れ自分に心の鍵穴を曝け出すことを・・・」

 

真琴は諭すように、紗々に告げる

 

「でもこんなことって!!!!!」

 

「この世界の貴方はそれほど強くなかった、ということよ」

 

「畜生!!!!」

 

少女の咆哮が木霊する

 

 

「あれ・・・・・」

 

「どうしたんだいキリカ?」

 

「いや・・・死んだはずの紗々の声がどこかで聞こえたような・・・」

 

白衣の魔法少女が周りを見渡す

 

「そんなわけはないさ。だって・・・」

 

キリカの黒い鉤爪が指差した先には・・・

 

「ここにいるんだし」

 

先程、金髪の少女の傍らに居た「優木紗々」が、先ほどから変わりなく力なく地面に横たわっていた

 

 

「でも、貴方は惜しい・・・」

 

「惜しいだと?」

 

「そう。貴方が手を貸してくれるのなら、全ての魔法少女は救われる」

 

「ハッ!私に救世主になれと?笑わせる!」

 

「これは貴方の為でもあるのよ?貴方もあんな結末は望まないでしょう」

 

「・・・・・・」

 

「私達の世界では力尽きた魔法少女は魔女にならない。だが、この世と別れを告げることには変わらない」

 

魔法少女は長くは生きれない

それは「運命」

抗うことは何人たりともできない

優木紗々は少女を見る

その瞳は希望に満ちていた

 

「私は全ての魔法少女を楽園へ誘う!悪魔と死神の手で狂ったシナリオを修正するために!!」

 

金髪の少女が紗々に手を差し出す

 

「私は貴方も救う!それが私の生まれた理由だから!」

 

紗々は生まれて初めて、彼女に本心を見せてくれる人間に出会った

魔法なんて必要ない

彼女の信念に嘘は無かった

 

「裏切るかもしれないぞ」

 

「その時はその時よ。今思い悩む必要はないわ」

 

紗々は少し躊躇いながらも少女の手をとった

 

「暖かい・・・・」

 

「私達は人間よ。たとえ魂がこの身体になくとも、この身体に流れる血は嘘ではない」

 

その手はとても暖かった

心を凍らせつづけた彼女の心を溶かすほどに・・・

 

 

「はぁ~~疲れたぁ~~~~」

 

ジュニが階段を下りる

 

「お帰り~」

 

「おや、真琴は一緒に帰ってこなかったの?」

 

「あ・・・ああ、何でも用事があるって」

 

二人が怪訝な表情でジュ二を見る

 

「何よ!」

 

「いやぁ~~~」

 

「二人はガチレズだと、思っていたんだけどな~」

 

「レズって・・・・私をなんだと!!!」

 

顔を真っ赤にして怒るジュ二を見ながら、紗々はこの日常を「楽しいな」と思った

上っ面だけの学校生活で得られなかったモノを彼女は得ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




織莉子の「未来予知」もチートだが、紗々の「洗脳」もチートだと思う・・

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