鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下しますぜ


汚染

あすなろ市

その閑静な住宅街にある、白亜の邸宅

現代日本の住宅事情に照らし合わせても、まさに白亜の城という風情だ

「城」の中では一人の少女が外の雨を見ながら座っていた

彼女の部屋には、父親が輸入商社を経営していることから、日本ではなかなか見かけられない海外ブランドの様々な雑貨が置かれていた

おそらく、年頃の少女なら夢中になって何時間も見ていられるくらいの規模と種類だ

そんな恵まれた環境にいながら、部屋の主である少女の表情は優れない

 

「サキちゃんは今日もいない・・・」

 

少女は幼い頃から一緒に居た、最愛の「姉」の名を呟いた

 

 

彼女の名前は「浅海美幸」

姉の「サキ」とは一歳しか離れていない

だからこそ、彼女と姉の関係は一般的な「姉妹」の関係とは異なっていた

彼女にとって、サキは「友人以上、姉未満」だった

ある日のことだ

父の貰い物のコニャックを盗み飲んだ時だ

普通、姉は妹の行為を諫めるものだが、サキは二人してコニャックを飲んだ

まぁ当然、両親にこってりと絞られたが・・・

 

「・・・・・・」

 

美幸は物憂げにマホガニー製のクラシカルなテーブルに置かれた、銀細工の施された写真立てを見る

写真立てに収められた写真

演劇用に仕立てられた男性物の衣装を着たサキと、町娘の衣装を着て少しはにかんだ表情の彼女

そして・・・

 

「ミチルさん・・・・・」

 

格子柄の衣装を纏い、仮面を手にした黒髪の少女「和紗ミチル」

彼女は美幸の心を救った

 

 

半年前

海外での買い付けを終えた父親を二人で迎えに行くため、サキと美幸はタクシーに乗り空港へ向かっていた

特に何の変哲もない一日

そのはずだった

 

キキィィィィィィィイ!!!!!!!

 

全ては一瞬

瞬きをするよりも早く、二人を乗せたタクシーは横転していた

美幸の脳が痛みを知覚するよりも早く、彼女は自分の状況を理解した

幸い、身体の何処も異常はない

手足の感覚もある

ただ車体に挟まれて身動きできなかった

頭も車体の隙間から動かすこともできない

目の前で炎に包まれているトラック

恐らく、あのトラックがタクシーに接触したのだろう

サキも美幸に声をかけてくれた

どうやらサキも怪我をしているが、特に命に別状はないようだ

美幸が安堵した時だ

彼女の目の前のトラック

その燃え盛る炎の中で影が揺らめく

車体に挟まれている美幸の目が否応なく、「ソレ」を捉えた

 

「ヒィッ!」

 

否、それは影ではなかった

影のように、黒く焼き焦げた「人間」だったのだ

あんな状態ではもうすでに死んでいるはずだ

だが、尚もその「影」は炎の中をくねくねと動きまわっていた

それはミミズのようにのたうつようにも、バレエのグランジュテのようにも見える

 

「・・・・ゆき・・・・・美幸・・・何が見える?」

 

直ぐ隣に座っていたサキが声を掛けた

でも言えるわけがない

 

「ワカラナイホウガイイ・・・・・」

 

彼女は絞り出すようにそう呟くことしかできなかった

もう・・・・サキの声さえ聞こえない

永遠にも思える時間が過ぎ、救助隊が二人を救助した

幸い、二人と運転手は命に別状はなかった

だが美幸はあの日以来、精神的ショックのあまり声が出せなくなっていた

 

 

それからは地獄だった

サキちゃんは私を何度も励ました

きっといつもと変わらない声がまた出せると・・・

でも、私が声を出そうとしても、まるで喉に栓がされたように声がでなかった

ほんの一週間前まで声が出せることが普通だった

何時もと変わらない「サキちゃん」

愛しい愛しい私の姉

でも今は何よりも憎い

そして何時も変わらない凛とした声

この感情が理不尽なものだってわかっている

でも・・・・

私はサキちゃんに感情をぶつけるしかなかった

サキちゃんはいくら私が物をぶつけても、無視してもやってきてくれた

その姿を見るにつれ、私は更にサキちゃんを苛めるようになった

もうほっといてよ!

こんな酷い妹なんて見捨ててよ!

私は心の中で叫ぶ!

でも、サキちゃんはどんなに私が酷く扱っても叱らなかった

そんな時、ミチルさんがボランティアで私の入院していた病院の慰問にやってきた

演劇なんて興味はなかった

声を出せない私にとって、声を聴くこと自体が苦痛だった

 

「美幸ちゃん、今回は無言劇だからきっと楽しめるから」

 

やたらと馴れ馴れしい看護婦の勧めもあって、私はサキちゃんと一緒に劇を見た

声を出さないパントマイムの笑劇

時に笑い

時に悲しむ

仮面で素顔を隠しての演技がこれほど面白いとは思わなかった

 

「あはっ・・・あはははははは」

 

私は泣いていた

泣きながらも笑っていた

あの日、凍ってしまった表情を溶かすように笑った

見るとサキちゃんは泣いていた

 

「さ・・・・きちゃん・・・」

 

「美幸ーーーーーーーー!!!」

 

サキちゃんは私を抱きしめてくれた

 

 

写真はサキちゃんがミチルさんと一緒に劇団を作った時、記念に撮ったものだ

その劇団には私もいた

でも、今そこに私は居ない・・・・・

英語の勉強をしたいから、退団した

いや、本当は楽しそうに話すサキちゃんを見たくなかったからだ

 

「居場所がないなら作ればいいじゃない?」

 

「誰!!!」

 

振り返ると、金色の髪の女の人が立っていた

 

「私は宇佐美真琴。あなたの願いを叶えることのできる人物よ」

 

女の人が黒い何かを私に差し出す

 

「これを使えば貴方の望みが叶うわ。浅海美幸さん・・・・」

 

緑色の瞳が私を貫いた

 

 

 

 




「くねくね」を考え出した奴は天才だと思う

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