民家ほどの大きさのこじんまりとした洋食店
個人経営の店舗ではあるが、掃除は行き届き、天井にはクラシカルな扇風機が備え付けられている
それでいて、気取ったところはなく、店主の性格がそこからも読み取れる
「・・・・・無理だ」
ボックス席
座り心地のいいソファーに身を委ねた、猫を思わせる癖っ毛の少女が静かに宣告する
「そんな・・・・・」
「どうしてもの駄目なのか?」
少女の目の前には「鏡写し」のようにそっくりな二人の少女
その瞳に浮かぶのは驚愕
信じたくない
二人の瞳はそう告げる
だが、黒髪の少女は静かに目を伏せた
ザァァアァッァァァ!!!!!!
外の激しい雨音が少女達の嗚咽を覆い隠した
数時間前
ビストロ・タチバナ
そこに二人の少女が静かに、それでいて不安そうな瞳の色で待っていた
~ いい?カンナ。「かずみ」との交渉は私がする ~
~ うん・・・・ ~
数日前、この洋食店の店主である「立花宗一郎」からの連絡がニコに届いた
二人の両親を助けてくれるかもしれない魔法少女、「かずみ」が二人に会ってくれるというのだ
ただ、それには条件があった
― 固有の魔法や願いを全て公開すること。そして一人で来ること ―
この条件は理解できる
名前も知らない魔法少女が彼女に会いたいというのだ
警戒してもしすぎることはない
ニコは立花に条件を飲むことを伝えた
そして・・・
~ 聞こえるカンナ? ~
~ 感度良好だよニコ! ~
今「聖カンナ」は瓶の中にいる
それは立花は「ニコ」しか知らない
だからこそ、「かずみ」にカンナのことを明かすのだ
固有魔法を明かす方法にこれ程、明確な手段はない
会談の時間は来た
「キミか?私に会いたいと言っていたのは?」
~ ?! ~
ニコの記憶にある「かずみ」はいつも朗らかな笑顔をたたえた好人物だった
「かつての世界」ではまさに「希望の魔法少女」といえた
だが今、ニコの目の前にいる少女はどうだ
まるで「戦いに疲れた兵士」のように虚ろで、それでいてその眼光は鋭く常に警戒を怠っていない
「ええ・・・・」
~ ニコもう出ていい? ~
カンナの声にニコは静かに頷いた
パリン!!
ガラスの瓶が割れ、「聖カンナ」が現出する
これは賭け
目の前で人が現れれば誰でも驚く
それが「魔法少女」であってもだ
「それがキミの固有魔法か?」
静かにかずみは二人を見つめる
見滝原での「研修」を終えて戻ってから、養親の立花宗一郎から告げられた言葉
「神那ニコという名前の魔法少女がキミに会いたがっている」
― 神那ニコ ―
「かつての世界」で結成された「プレイアデス聖団」で技術部門を一手に引き受けていた少女だ
無論、彼女を「救う」ことも「転生」したミチルの計画に入っていた
しかし彼女はアメリカにいた
いくら魔法少女であるといっても海を渡ることはできない
ミチルは「ニコ」を見捨てるしかなかった・・・
そのニコがミチルに会いたいというのだ
「会わない」という選択肢は既になかった
「私は神那ニコ。聖カンナの願いで生み出された合成魔法少女だ。固有魔法は接続」
「私は聖カンナ。願いは私のコピーを生み出すこと。固有魔法は・・・再生成」
二人の少女は短いながらも自分の固有魔法を明かした
ならば・・・
「私は和紗ミチル。固有魔法は破戒。会いたい理由を教えてもらおうか」
「私・・・いや私達は貴方にお願いがあって来た。」
「お願い?」
ミチルが二人を怪訝な表情で見つめる
「あなたの魔法で眠りつづける両親を目覚めさせてほしいの!」
ニコの目には涙が浮かんでいた
「詳しく話してくれ。だがこれだけは言っておく。私は万能ではない」
「・・・・わかっています」
二人はミチルに全てを話した
両親がギャングに撃たれ、キュウベェと契約して二人の魔法で両親の命を繋ぎ止めたことを
無論、幼い頃からニコの声が聞こえていたことは隠していたが・・・
雨音は尚も強く、それはニコにあの日の銃声を思い出させた
「・・・・理由を教えてくれないか?」
「私の固有魔法は破戒、言うなればクラッキング能力だ。キミ達の話では両親はそれぞれの魔法で命を繋ぎ止めた。私なら、キミ達の魔法に潜り込み、その間違えを修正することも可能かもしれない・・・」
「なら!」
カンナが身を乗り出す
「最後まで聞いてくれ。これは危険な事だ。ヘタをすればキミ達の魔法全てを壊してしまうかもしれない。覚悟は必要だ」
これは最後通牒
希望に縋って、現状維持を続けるか、それとも全てをなくす覚悟でかずみの魔法に賭けるか
「・・・・わかった」
「ニコ・・・・?」
「カンナも私も時間が必要だ。少し考える時間をくれないか?」
「ああ・・・時間は無限にある。だが・・・悔いのない答えを」
カラン・・・・・
「キミ達傘を・・・・!」
立花が二人に傘を渡そうとするが、ミチルに止められる
「今二人に必要な物は傘じゃなくて、時間だよ」
「でも・・・・」
「私も立花さんも部外者。だから、二人は二人で答えを見つけ出さなければならない」
「・・・・・・」
立花は土砂降りの中に消えていく、二人を静かに見つめることしかできなかった
そういえば、原作の特典SSでもあいりの病気は治せないって言ってましたっけ