ギィィ・・・ギィィ・・・
まるでエドガーアランポーの小説に出てくるような振り子型のギロチンがうごめく
此処は暁美ほむらが自らの魔力を使って生み出した異空間
「かつての世界」の記憶を唯一保存している場所
― 魔女の博物館 ―
魔女の姿や固有能力、果ては「人間」だった頃の記録さえある
此処はほむらが「救済された世界」を監視するための孤独な前哨基地であると同時に、「かつての世界」を救うために「たった一つの願い」を使い人柱になった一人の少女への墓標でもある
自信のなかった自分に微笑みかけてくれた「唯一の友人」のための・・・・
「これが・・・・・」
今、暁美ほむらの手にあるもの
織莉子が先日の「魔女モドキ」との戦いで密かに入手した「イーヴル・ナッツ」
彼女は「かつての世界」で「最悪の魔女」の誕生を防ぎ、父の久臣が果たせなかった救世を自らの手で成し遂げる為にほむらの「友人」を自らの命を対価に殺した
故に、彼女はほむらにとって敵に他ならない
ほむら同様、「かつての世界」の記憶を持っている「転生者」のなら尚更だ
「・・・・要件はこれを見せびらかしたいだけ?」
ほむらが織莉子を見る
「いいえ。これが何故グリーフ・シードを模しているか、分かるかしら?」
「何者かが魔女を復活させているというの?」
― 魔女システムの復活 ―
あのインキュベーターなら、費用対効果が高ければ躊躇わずに復活させようとするだろう
幸いなことに奴らはまだ成功していないが
「違うわ。元々は浄化の為のグリーフ・シードを他ならない魔法少女の手で作り出そうとした・・・その失敗作のなれの果てよ」
かつての世界では魔法少女のソウル・ジェムは消えず、絶望の果てに世界を呪う魔女の卵 ― グリーフ・シード ― へと相転移する
その際に得られるエネルギーこそが、インキュベーターの目的だ
故に、魔法少女は必ず「絶望させられる」
或る者は、願いが絶望へと繋がり
また或る者は、インキュベーターが故意にばらした「魔女システム」のカラクリを知り絶望した
インキュベーターには感情がない
目的に理由があるのなら、ありとあらゆる方法を選んだ
そこに罪悪感なぞ、ありはしなかった
「つまり、これは人工グリーフ・シードというの?」
織莉子は静かに頷いた
「基本、魔法少女は戦士よ。個々の魔法を転用して、特殊な武器を作るのが精いっぱい。これは個人が得られる魔力の量にも関係がある」
織莉子は言葉を止める
そして、手元の円盤を操作する
「アカシック・レコード」から出力された情報が、ほむらの結界内に反映される
「だからこそ、足りないなら大勢で補えればいい。無いのなら・・・・・」
織莉子がほむらを見る
「作ればいい。人も、グリーフ・シードも。あの娘達はそれを成し遂げた」
彼女「美国織莉子」は検索するワードを入力すれば、それに関した情報をその手にある金の円盤「アカシック・レコード」から入手できる
故に、「全知」の魔法少女と呼ぶ者さえいる
だがそれにしても、彼女の明かした真相をほむらは俄かには信頼できない
魔法少女が条理を覆す存在であるとしても、真相は彼女の理解を超えていた
― 魔女システムの否定 ―
ほむらは何度も魔女システムを壊そうとした
その為にはインキュベーターが契約を持ちかける前に消去することもした
しかし、いくらでもスペアがありアイツらを悪と認識しない魔法少女が邪魔したり、時には仲間同士で無理心中させようともした
それほどまでに奴らを出し抜くことは容易ではない
合成グリーフ・シードを生み出した少女たちは直接的にインキュベーターを殺したのではない
― 箱庭 ―
一つの街全てを「箱庭」と呼ぶ結界で覆い、グリーフ・シードに依存しない浄化方法の開発
そして、箱庭内のキュウベェを誰にも認識させず、実質的に「殺す」
「結果は?」
「失敗した。キュウベェやグリーフ・シードを認識できない以上、浄化システムが完全に稼働しているかどうかなんて判断はつかない。そして残されたのが、そのイーヴル・ナッツだけさ」
ほむらは手の中のイーヴル・ナッツを見る
「対魔法少女兵器」として扱われたが、少なくてもそれはそれを意図して生み出されたものではなかった
「なぜ、救済されたこの世界にこれが?」
「これはあくまで私の仮説よ。私や貴方のように転生者がいて・・・・尚もその浄化システムを諦めていなかったら?現に・・・・あすなろ市周辺では魔法少女達の失踪が相次いでいる。」
「失踪した魔法少女達は実験台になったというの?」
「あれだけのシステムを構築するなら、恐らくはかなりの魔力が必要だわ。実験台も・・・・」
「貴方の能力で観ることは不可能なのかしら?」
「アカシック・レコードは万能ではないわ。的確な情報を入力させなければ任意の情報は引き出せない。でも・・・」
「でも・・・?」
「かつての世界でイーヴル・ナッツを作り出した少女の名前はわかったわ。名前は聖カンナ、プレイアデス聖団に所属する魔法少女よ」
「?!」
ほむらが驚きに満ちた目で見つめる
― プレイアデス聖団 ―
それはあの「和紗ミチル」がかつて所属していた組織の名だった
ワタモテ・・・・
思ったよりも心が痛い