「これが・・・・魔獣の核?」
「ああ。これが魔法少女の命を救う、唯一のモノよ」
魔獣を撃滅させたニコとカンナ、そしてカオルと海香が通常空間へと帰還する
ニコとカンナの手にはサイコロ程の大きな物体が握られていた
― グリーフ・シード ―
魔獣の核であり、魔法少女の魂の結晶であるソウルジェムを唯一浄化できるアーティファクトだ
カンナがグリーフ・シードを自らのソウルジェムを当てる
シュオォォォォォ・・・・・・・!
ソウルジェムから黒い靄がソウルジェムを吸い込まれていく
「今回のヤツはそこそこ強い奴だった様だな・・・・」
カンナが静かに呟く
魔獣から採れるグリーフ・シードの量は一定ではない
生まれたての魔獣から採れるグリーフ・シードは微々たるもの
逆に生まれて時間が経ち、人を「喰った」魔獣のグリーフ・シードはそれなりに「使える」
「その・・・・穢れを吸わせたグリーフシードってどうなるの?」
「通常はそれをキュウベェに喰わせる。穢れが溜まり過ぎたグリーフ・シードは言うなら、いつ爆発するかわからない素人仕込みの爆弾と同じだからな」
ニコが目を伏せる
「だが、酷い魔法少女も居てね。限界まで穢れを吸い取らせたグリーフ・シードを、敢えて人の集まる所に置いて魔獣化させる奴もいる」
「そんな!!!!」
海香が目を見開く
彼女にとって「魔法少女」は正義だ
ニコとカンナの戦いはそれを裏打ちするものだった
「・・・誰だって死にたくないわ。そのために他人を犠牲にしても・・・・・」
「・・・・お前らもそうなのか?」
カオルが二人を見つめる
「いいえ。でも、私達は正義の味方ではない。場所を変えましょう」
「いい部屋ね・・・・・」
此処はニコとカンナが住む高級マンション
新築であり、階下には高級スーパーまで入居している
恐らく賃借でも1000万は下らない
「ここに二人だけで過ごしているのか?」
カオルの問いにニコが静かに頷く
「本当はパパとママと一緒に住みたいんだけどね・・・・」
「あの・・・ご両親は?」
海香が二人を見つめる
「いるよ・・・・・でもずっと眠っている」
「眠っている?」
「ハロウィン前日に押し込んできたギャングに撃たれて、植物人間さ」
「ごめんなさい・・・・」
「気にしないでくれ。もう私達は泣かない、この手で両親を助ける。その為の力があるのだから」
カンナが自らの手を握りしめる
「私の、いえ私達の願いは両親を目覚めさせること。その為に私達は旅をしている」
「それが魔法少女になるための願いだったのか?」
カオルがカンナ見つめる
「いいえ。私の願いは私のスペアを願った。貴方もこういう事を考えた事ない?テストや嫌な事を誰かが代わりにやってくれないかって」
「それが私、神那ニコ。カンナが二個ってね」
カンナの「スペア」である神那ニコが二人に微笑んだ
「忙しい中取材させてくれてありがとうね。えっと・・・・ニコちゃん!カンナちゃん!」
「いいさ!大先生の取材ならいつでも受けるさ!」
「・・・・化け物なんて言ってすまなかった。事情があったんだな」
「・・・安易な同情は止めてくれ。私は願ったことを後悔なんてしていない。もし、魔法少女にならなかったら両親はあの時死んでいたんだから・・・」
海香は駅へと向かう前、後ろを振り向いた
瀟洒なマンションのエントランス、そこにはカンナが一人立っていた
マンションの豪華な装飾も何もかも、まるでまやかしのようにも見えた
ほんの少しの衝撃で崩れ去る砂の城のように・・・
NGシーン
「と、言うわけで!」
「「何がと、言うわけなのよ!!!」」
ここはニコとカンナのマンション
目の前には「う~か」こと、御崎海香が立っていた
これから「クマを倒しに山まで」と言い出しかねないほどの重武装で・・・・
「いや~この前の魔獣討伐を見たら滾っちゃって・・・・」
ナニが何なのよ~~~~!と、ニコが叫びたいが、ぐっと堪える
「この前のお礼を届けにきたのよ。ハイ!」
海香がニコにタイプしたばかりの紙束を渡す
「製本前のできたてほやほやの最新刊よ!」
「どれどれ・・・」
彼女の差し出した小説に目を通すニコ
その巧みなストーリーテリングは新進気鋭のラノベ作家である、御崎海香の面目躍如といった出来だった
「どう?」
「面白いね。でも何でこんな重武装を?」
ニコの疑問も最もだ
ただ、最新刊を手渡すだけならこんな重装備をする必要はない
「・・・・お願いがあるの」
海香が二人を見る
「お願い!ここで小説を執筆させて!」
二人が驚きの目で海香を見る
「料理なら得意だし、洗濯や掃除も・・・・・」
「いい加減にして!」
「カンナ・・・・」
「私は貴方の取材を受けたけど、仲間にした覚えはないわ!!!!」
聖カンナが海香を睨む
「両親を目覚めさせる、ただそれ為だけに私達は此処にいるだけ。此処でも不可能なら・・・・また旅に出るわ」
「私は何も・・・・・」
「帰ってよ!!!!!!」
「ごめん・・・なさい・・・」
小さくなっていく、海香の背中を見ながらカンナは呟いた
「どうせゼロになるなら・・・・もとから無い方がマシよ」
カンナの胸に去来するもの
それはかつて救えなかった数多くの「魔法少女」の姿だった
疲れているときのビールって回りが早くて困る・・・・