ある意味「萌える」な
真の父、宇佐美蓮助が帰国した翌日
二人の姿は美国邸にあった
先の選挙での快勝と、次の選挙での出馬が予測される美国織莉子の父はマスコミの注目だった
既に「選挙戦に出馬しない」と織莉子の父親「美国久臣」の声明が出されていたが、誰もそれを信じることはなかった
とはいえ、以前のスキャンダルの時のような執拗な取材は無かった
あれだけネガティブキャンペーンを張ったのだ
寧ろ、マスコミの悪行をすぐさまワイヤードへアップしようとする一般市民の目を気にするのは当然の帰結といえる
日常においても価値観の崩壊は起きる
マスコミが「君主」のように振る舞えた時代は終わった
今は当り障りのない「娯楽」を提供するのみ・・・・
「久しぶりだな、蓮助」
美国家の当主である美国久臣が直々に真とその父、宇佐美蓮助を出迎える
「ああ、旧友の頼みだ。それに久しぶりに日本のゴールデンバットを楽しみたかったからな」
「わかっているよ。我が邸宅は禁煙にしていないから、存分に楽しむといい」
大学教授と代議士
物々しい肩書を持っている二人は、しかし、今の瞬間全てを忘れ友人へと戻っていた
「ほら、真もご挨拶なさい」
蓮助の声に真は現実に引き戻された
「父、蓮助の紹介を受けました。宇佐美真と申します。本日はお招き頂き光栄に思います」
真は挨拶を終えると、深く頭を下げた
「キミが真君か!大きくなって!!」
~ 真さん、緊張している? ~
久臣の傍らの織莉子が真に念話を飛ばす
彼女の輝くような美貌を引き立てるように白いドレスを着ていた
下品にならない程度にレースや装飾を施されたそれは、彼女によく似合っていた
思わず真は見とれてしまっていた
~ すみません。つい・・・・ ~
「あー!真おにーちゃん、赤くなってる!!!!」
「こら!ゆま、ちゃんと挨拶なさい」
織莉子が「美国ゆま」に声を掛ける
「ごめんなさい・・・・。美国ゆまといいます。よろしくお願いします」
ゆまはレースの施されたスカートの端を摘むと、お辞儀する
「挨拶は終わったようだし、久臣、私達は少し席を外そうか?」
「ああ・・・・ゆま、織莉子。真君と一緒に遊戯室で一緒に遊んでいてくれないか」
「はいお父様」
「うん!」
織莉子とゆまが真を遊戯室へ案内する姿を見ながら、久臣は「代議士」としての顔から織莉子とゆまの「父親」としての顔へと変わる
それを蓮助は静かに見つめていた
「蓮助、何か飲むかい?」
「ゴードンジンの47度か、なければビフィータージンの47度を」
「マティーニを作る程の腕はないが、ソーダやシュウェップスのトニック、カナダドライのジンジャーエールはあるが?」
「他人行儀は止してくれ。俺がカクテルは好まないのを知っているだろ?」
「そうだったな。悪い」
久臣の書斎
様々な洋酒が飾られている
酒に興味がなくとも、それらが非常に高価なものであると知れるような完璧なコレクション
それを眺めながら、蓮助はバカラのショットグラスに注がれたジンを煽る
「結論から言う。魔法少女は決して元に戻すことはできない」
淡々と蓮助は告げる
「そうか・・・・・・」
「魔法少女は一つの願いを叶える代わりに、魔法少女へと変わる。そして戦いの果てに命を・・・・」
蓮助は静かに目を瞑る
「真も魔法少女だった・・・・」
「ああ、見たよ。真君の指には織莉子の指にはまっているモノと同じ指輪があった」
「過去の歴史においては、男性の魔法少女はいなかった。逆に、男になりたいと願った魔法少女は居たようだが・・・・」
蓮助は久臣に分厚いファイルを手渡した
それには過去の宗教的な出来事と、その裏に人間を魔法少女に変える存在、そして力尽きた魔法少女たちを迎えにくる「女神」について書かれていた
「終わりは苦痛ではない。それは実際に私はソレを目にした・・・・」
自らの魔力を使い、死に瀕した息子の命を「引き戻した」最愛の女性の姿
彼女は満ち足りた表情で全てを受け入れた
それは死に瀕した者たちが表わすような苦悶は見られなかった
「蓮助・・・・君は命さんのことを今も」
「ああ。だが、彼女の選択を俺は否定しない。それを否定することは彼女を否定することにつながるからな」
「なぁ・・・・・どうすればいい?どんな顔をして織莉子に会えばいい?」
久臣の目に涙が光っていた
「俺は真を信じている。何を願い、何を求めて魔法少女となったのか、それはわからない。だが、父としてできることはまだまだある。お前も俺もな」
「やっぱりお前は強いな・・・・・」
「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きている意味はない」
「フィリップ・マーロウか。相変わらずかっこつけているな」
「お前は背負い過ぎだ。馬鹿」
「本音を言ってくれるのはもうお前しかないさ、蓮助」
二人は静かに杯を重ねた
NGシーン
「毎朝新聞」
高速ネットワーク ― ワイヤード ― では「マスゴミ」、「ケツの痛くなる便所紙」と蔑まれる新聞社だ
織莉子の父親である、「美国久臣」のスキャンダルを鬼の首をとったかのように嬉嬉として報道した事でも有名である
無論、そのスキャンダルが特定外国人である「平川」が通名で行った「献金テロ」が原因であるとバレた時は、「報道しない自由」を行使した
今この新聞社は危機に瀕していた
当然だ
昔ならば新聞のネタ元を調べることができなかったが、ワイヤードですぐさま情報の照会が行うことができる
よくある「日本は世界から孤立する」も、既に様式美や「お約束」の域まで達している
「何々・・・・・・・・・・」
二人だけの酒宴の翌日
政治の世界から、身を引いたとはいえ久臣の邸には日本の新聞のみならず、フランスやドイツ、アメリカの主要紙も手に入れている
今、久臣の手にあるのは件の毎朝新聞
見出しには・・・・
『禁断のスクープ!!!!美国代議士にホモ疑惑! 邸に出入りする男性を目撃!今になっても再婚しない理由か?』
・・・・要は叩ければ「嘘」であろうが、どうでもいいのである
毎朝新聞
・・・ネタ元はないですよ?
「KY事件」、「変態新聞」なんて知らないですよ?