鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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いつの間にか100話をクリアーしていたので投下します


100話記念番外編 鳴らないオルゴール

「鉄仮面」の魔法少女 宇佐美真

彼は生まれた時から病弱で、心臓に重い病気を抱えていた

彼の母親は彼を生んだ後亡くなったと、彼の父「宇佐美蓮助」から伝えられていた

多感な時期に母なる存在を欠いた彼は父を詰ることもあった

彼の父は静かにそれを受け入れていた

だが、真の十二歳の誕生日前日

真が「僕なんて生まれてこなければよかったんだ!!!」と叫んだ時だけは激しい怒りを見せた

 

バシィ!!!!!

 

生活感のない病室に渇いた音が響く

真は自らの頬の焼けつくような痛みから、自分が父親に殴られたことをやっと理解した

 

「・・・・父さん?」

 

彼の父蓮助は泣いていた

声を上げることなく、静かに泣いていた

真はただ茫然と、無言で病室を出ていく父の後姿を静かに見つめているだけだった

 

 

時は過ぎて、宇佐美邸別館

 

「と、言うわけで!!!」

 

「何がと、言うわけなんですか杏子さん!!!!」

 

真が所属している魔法少女集団「マギカ・カルテット」

ここ宇佐美邸別館はその本部になっていた

 

「それはこの前言ったじゃねぇーか!今度救世軍のバザーがあるから真ん家から強奪、げふんげふん提供してもらうって!」

 

目の前の紅い髪の少女「佐倉杏子」が得意げに話す

彼女はマギカ・カルテットでの「師匠」であり、一応弟子を卒業しても真にとって頭の上がらない人物であることは変わっていない

 

「今、ナチュラルに強奪って言いましたね?」

 

「いいじゃねーか!!!ガラクタばっかりアンだし!!!」

 

「でも・・・・・」

 

ここ別館には彼の父がフィールドワークの一環として集めた奇奇怪怪な品物が山の様にある

ある意味、ガラクタと言えなくはないのだが・・・・

 

「このひしゃげた指輪ならいいだろ」

 

杏子が紫の布の上に置かれたひしゃげた指輪を手に取る

 

「それはロシアのイワン雷帝が兄弟を殴り殺した時に嵌めていた指輪なんですけど」

 

杏子がよく見ると、真の説明を裏付けるように装飾の所々に赤茶けたシミが・・・・・

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 

少女特有の悲鳴をあげ、杏子が指輪を投げ捨てる

 

「テメェ!!!!乙女になんてものを!!!!!!!」

 

「僕は前にも言いましたけど、此処にあるモノは曰くがある代物ばかりなんですけど・・・」

 

そう

彼の父の趣味は「奇怪な」珍品コレクターなのだ

 

 

「あ~あ、半日探して何も無しかよ」

 

「先輩方には頼んだんですか?」

 

「巴マミは不要なものはない!って追い出されたし、ほむらん家にはそもそも何も無かった」

 

巴マミ

マギカ・カルテットのリーダーにして、恐らく近隣の中では最高の経験を持つ魔法少女だ

真は知っている

彼女の部屋には交通事故で死んだ両親の服から、日用道具に至るまで今でも保存していることに

 

「巴先輩は思い出を大切にしていますからね・・・・」

 

 

父親に殴られた日の夜

真は泣いた

自分が如何に愚かだったのか

それが身に染みて理解できた

 

「本当につらいのは父の方だ・・・・」

 

彼が生まれなければ今でも母は生きていたかもしれない

何度父は思ったのだろうか?

それを必死に押さえつけ、父は真と向かい合っていた

それを真が否定してしまったのだ

だからこそ、静かに、声を出さずに泣いていたのだ

 

「おい真!これイイじゃねーか!」

 

杏子の手の中には豪華な意匠の施された小箱

その横にはねじを回すためのハンドルがつけられていた

 

「そ、それは・・・!」

 

「動かねェぞコレ!!!」

 

杏子が強引に動かそうする

 

「返してください!!!!!」

 

普段は声を荒げない真の迫力に杏子の動きが止まる

 

「それは母の・・・・遺品なんです」

 

「・・・・・悪かったな真」

 

杏子が静かに真に小箱を渡す

 

 

「僕が病院で十二歳の誕生日を迎えた時に父がくれた物なんです」

 

何故、父が鳴らないオルゴールを真に送ったのか?

それを話してくれることはなかった

でも外出許可をもらい、家で母の写真を見た時、疑問は解決した

少し若い父と背の低い女性とその手に握られた小箱

父は僕に「母との思い出」を託したのだと・・・・

 

 

「蓮助・・・・・私の赤ちゃんは・・・・・」

 

「危険な状態だそうだ・・・・」

 

静かに男は少女に告げる

 

「そう・・・・」

 

白い海を思わせる、清潔なシーツのなかで灰色の髪をした小柄な女性が呟く

 

「・・・・あの子を助けるわ。私が赤ちゃんの魂を引き戻す」

 

女性の手の中には卵型の水晶が握られていた

宝石は光り輝き、複雑な意匠を施した小箱が現れる

少女は意を決して、ハンドルに手を掛ける

 

「だめだ!!!!私にはお前がいないと・・・・」

 

男が少女を抱きしめる

 

「私はもう逝くけど・・・あの子をお願いね蓮助」

 

静かな

 

子守唄のような旋律が解放される

 

女性の手の中の水晶が光り輝くと同時に少女はゆっくりと目を閉じた

 

男は円環に導かれた一人の少女を抱きしめ、激しく泣いた

 

「蓮助さん!!!赤ちゃんの容体が安定しました!!!!!」

 

 

 

ポーランド ナチスドイツの「絶滅収容所」

 

その跡地に一人の男性が佇んでいた

 

「此処に収容されていたユダヤ人は明朝にガス室に送られるはずだったが、奇跡的に連合国が侵攻しその混乱をついて多くの人間が命を繋いだ・・・・心臓発作で死んだたった一人の少女を除いて」

 

ひび割れた壁面

そこには稚拙ながらも蹲る少女と、手を広げ全てを受け入れるかのような「女神」が描かれていた

 

「これも魔法少女の奇跡なのかい?ミコト」

 

男性 ― 宇佐美蓮助 ― が最愛の妻の名を呼ぶが、その問いかけに答えるものはなく、ただ風が吹いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




去年から初めてもう100話か・・・・長かったような・・・・短かったような・・・

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