IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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ゆえに罰。私は永劫苦しまなければならない。
救いなど要らぬ。祝福は遠ざかってゆけばいい。
たった独り、何処までも、歩き続けるのだ、永遠に

          ヘタレ神父




一夏はいつものようにSHRが始まるまでの間クラスメイト達と話をしていた。

話題はその日によって違う。今日は2組に来た中国からの転校生の話だ。

 

「でも、専用機持ちは1組と4組だけだから、今度のクラス代表戦は大丈夫だよ。」

「その情報古いよ。」

 

1組の教室の入り口に一人の少女が立っていた。

茶髪のツインテール、身長は低めだ。

 

「…鈴かい?」

「そう、中国代表候補生の鳳鈴音よ!今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 

鳳はそう言って、一夏に向かって指差した。

一夏と鳳が知り合いということに気が付いたクラスメイトは一夏と鳳の二人を交互に見る。

特に、箒とセシリアは恋敵が出現かもしれないと察知し、鳳を警戒している。

 

「鈴、君は無理に格好つけなくても自然にしている方がかわいいよ。」

「ふぇ!な!なんてこと言うのよ!アンタは!」

 

熱した鉄のように顔を赤くした鳳はそう言うとダッシュに逃げた。

一夏は悪友を軽くからかったつもりだったが、予想外の鳳の反応に困惑してしまう。

 

「織斑。」

 

唖然としていた一夏に声がかけられた。

1年1組の担任、織斑千冬だ。

 

「授業だ。席につけ。」

「すみません。」

 

一夏は席につき、教科書を出し、授業を受ける。

鈴のことが気になるが、今それを考えた所で良い結論に達しない。余計なことを考えるのを止め、今は授業に集中しなければならない。そうしないと……。

 

突然、千冬が軽く手を振るった。そして、手から何かが高速で飛んでいく。

チョークだ。白と黄色の2本のチョークだ。

2本の弾丸化したチョークが箒とセシリアの額をとらえる。

固いはずのチョークは砕け散り、二人の額に痣を作った。

 

「篠ノ之、オルコット、グラウンドを50周ぐらい走って来るか?」

「すみません。」「申し訳ありません。」

 

あぁいう風になる。

 

 

午前の授業が終わったため、一夏は昼食を取るために、食堂に向かう。

食堂に行く前に、一応2組に顔を出すが、鈴は居なかった。2組の女生徒の話によると、鈴は食堂に向かったらしい。丁度よかったと一夏は安心する。

 

「ままま待っちぇちゃわよ!いちきゃ!」

 

今朝のことを思い出した鈴は思いっきり舌を噛んでしまう。

そして、恥ずかしくなった鈴は顔を真っ赤にして俯く。

そんな鈴の乙女な行動を見た箒とセシリアは『やっぱりか』と一夏を背後から睨む。

 

「鈴、並ばないとお昼食べ損ねてしまうから、並ぼうか。」

 

一夏は鈴の頭に手を置いて、撫でながら、そう言った。

すると、鈴は急に怒り出す。

 

「小さい子扱いするなぁ!」

「ごめんごめん。鈴の頭ってさ、ちょうど良い位置に在って、髪もサラサラだから、触り心地が良さそうだから、つい撫でたくなってしまった。許してくれないかな?」

「そう言って、アンタ誰にでもしてるんでしょ?」

「いや、気を許している鈴だからこそするのだけどね。」

「あたしだから?」

「そうだよ。」

「そっか、あたしだからか。」

 

鈴は機嫌を良くし、食堂の列に並ぶ。

今朝のことで、もしかして鈴は自分に惚れているのかと心配になったが、この反応から大丈夫だろうと判断し、やっぱり昔と変わらない何でも話せる親友だと一夏は安心する。

 

一夏と鈴は2人席に座り、昼食を取ながら、ここ1年ぐらいの話をした。

鈴が中国で何をしていたのか、一夏が男友達とどう過ごしていたのか。

そして、一夏が初めてISを動かした時の話が終わった時だった。

一夏と鈴の座っているテーブルに箒とセシリアがやってきて、机の上に手を置いた二人は一夏に問い詰めた。

 

「一夏、そろそろ説明してほしいのだが?」

「そうですわ。一夏さん。まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」

 

鈴は狼狽しながら、セシリアの言葉を否定する。

一夏も鈴と同じように否定するが、鈴のように動揺しているわけではない。

そこで、一夏は鈴と箒とセシリアの三人にお互いの紹介をする。

箒はファースト幼馴染で、鈴はセカンド幼馴染。箒が鈴を知らなくて、鈴が箒の名前だけ知っていたのは、箒と入れ違いで一夏の居る学校に転入してきたからである。

 

そして、箒と鈴は相手が自分の恋敵だと認識する。

一夏はそんな二人を見て、気が強い者同士仲良く行くのかと心配になる。

続いてセシリアを鈴に紹介しようとするが、鈴はイギリスの代表候補生と聞いた瞬間興味をなくし、一夏と話をしようとする。

 

「鈴、君は相変わらず、人の話を聞かないね。」

 

そう言って、一夏は鈴にデコピンをする。

箒と鈴とセシリアは呆気にとられてしまう。

 

「せっかく話しているのだから、聞く態度を取らないと相手に失礼だ。鈴だって、僕が鈴の話を聞かなかったら嫌だろう?」

「そうだけど…。」

「セシリアも、相手の反応を見て、話す内容の長短を決めたほうが良い。ずっと相手の話を聞いているのも疲れるだろう?」

「…確かにそうですわね。」

 

一夏は二人を諭すと、お茶を飲み始めた。

鈴とセシリアを放っておいたら、セシリアの話に興味のない鈴と、鈴が話を聞かなくて憤慨しそうなセシリアが食堂で喧嘩を始めてしまうかもしれないと心配したからだ。

そこで、夢の中の妹を躾ける■の真似事を一夏はしてみた。すると、一夏の思惑通り、セシリアと鈴が喧嘩をすることはなかった。そんな一夏を見て、子供の面倒を良く見てくれる良い父親になるかもと、箒とセシリアと鈴の一夏に対する好感度が上がった。

少しするとチャイムがなり、昼休みが終わる。

 

午後の授業を受け、一夏は放課後のISの練習を始めようとする。

 

「これで一夏と対等にISの訓練ができる。」

 

箒は訓練機打鉄を借りていた。貸し出しの許可が下りたのだ。

打鉄の感触を確かめるために、箒は素振りを軽くする。数度すると、箒は刀を構え、一夏を見据えた。それを確認した一夏は箒の方を向き、雪片弐型を構えた。

そこに専用機のブルー・ティアーズを纏ったセシリアが現れ、自分こそが一夏の練習相手だという。だが、箒はセシリアを無視して練習を始めようとする。

 

「さあ、一夏練習開始だ。」

「お相手しますわ。」

 

その結果、二対一という試合方式になってしまう。

しかも、近接格闘型の打鉄と中遠距離射撃型のブルー・ティアーズは組みやすい。そのため、うまいこと連携が取れてしまい、一夏は二人相手に惨敗に終わった。

一夏はアリーナのグラウンドで大の字になり、倒れる。

そんな疲労困憊の一夏をおいて、箒とセシリアはさっさと上がってしまった。

息が整った一夏は起き上がり、更衣室へと向かった。

着替えが終わり、更衣室から出ると、一夏は鈴とばったり会った。

どうやら、鈴は更衣室の前で一夏が出てくるのを待っていたようだ。

 

「一夏、お疲れ様。飲み物はスポーツドリンクで良いよね。」

「あぁ、ありがとう。少し喉が渇いていたから助かるよ。」

 

一夏は鈴からスポーツドリンクを受け取り、ゆっくり飲んでいく。

急に飲むと体が冷えるため、健康に良くないからだ。

 

「一夏さぁ、やっぱ、あたしが居ないと、寂しかった?」

「あぁ、鈴が居ると賑やかで楽しいからね。少し寂しかったかな。」

「そうじゃなくてさぁ。久しぶりに会った幼馴染なんだから、言うこと大なり小なりあるでしょ?」

「言うこと…か。そうだ。中学の時の知り合いには知らせてるかい?弾たちも、僕と同じように、鈴が居なくて寂しかったから、嬉しいと思うよ。」

「うぅ。」

 

鈴の反応がいまいち悪い。何か言葉を間違えただろうか?

今の鈴が自分の知っている鈴と少し違うような気がした一夏は困ってしまう。

鈴相手にどう反応したらいいのか困った一夏は一度引いてゆっくり考えるために逃げようとした。

 

「ごめん。鈴。夕食もシャワーもまだだから、もう戻るよ。箒も、もうシャワー使い終わっているだろう。」

「シャワー?…箒って、さっきの娘よね?アンタ、あの娘とどういう関係なの?」

 

鈴は声色が変わり、早口になる。

鈴は何か焦っているようだと一夏は分かったが、鈴が何に焦っているのか、分らない。

下手に誤魔化したりしたら、不味そうなので、正直に話すことにした。

 

「箒とは今同じ部屋なんだ。」

「はぁ!?」

 

そして、何故箒と同じ部屋なのかを、鈴に簡単に説明した。

一夏は箒が『幼馴染』で良かったと一言添える。

別に意図して言ったことではない。鈴が何でも話せる友人と思っている一夏だからこそ、無意識に口から出た言葉だった。

 

「幼馴染だったら、良い訳ね。」

 

鈴はそう言い残すと、走ってどこかに行ってしまった。

一夏は何か嫌な予感がしたので、速足で寮の自室へと向かった。

自室からは何やら話し声が聞こえる。

箒と鈴の声だ。しかも、箒の声がいつもより大きく、怒鳴っている感じがする。

一夏は本日何回目の仲裁だよと苦笑いをしながら、部屋に入った。

 

「というわけだから、部屋変わって。」

「だから、駄目だと言っているだろう。一夏、セカンド幼馴染なのだろう!言って聞かせろ!」

 

箒と鈴の二人の話をまとめると以下の通りだ。

鈴が部屋を変われと言ってきたので、箒はそれを拒否している。話し合いは平行線で、解決しない。そのため、箒は堪忍袋の緒が切れる寸前だった。

そして、箒を無視して一夏に話かける鈴にキレた箒は竹刀を振るう。

一夏は箒を止めようとするが、少し遅かった。

だが、鈴が部分展開し、竹刀を防いだ。

自分が生身の人間に竹刀を振るうという愚行を犯しかけたと気づいた箒は反省する。

一夏は鈴に箒を煽るようなことをすると釘を刺し、先ほどの話の続きをする。

 

「約束…覚えているよね?」

「………!…あれかな?鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を奢ってくれるって奴か?」

「はい?」

「だから、飯を奢ってくれるって話だろ?独り身の僕には嬉しいはn」

「最低!」

 

鈴はそう言うと、一夏の頬にビンタをする。そして、散々一夏を罵倒し、最後に『犬にかまれて死ね!』と言うと、鈴は部屋から出て行ってしまった。

一夏は箒に何で鈴が怒っているのか聞く。

 

「馬に蹴られて死ね!」

 

箒はそう言うと部屋の明かりを消して、布団の中に潜り込んでしまった。

部屋が暗くなったため、一夏は仕方なく布団に入る。

布団の中で一夏はため息を吐く。

 

なんで鈴まで、僕なんかに惚れたんだろう?

 

一夏は鈴との約束を正確に思い出した。

そして、その意味することも分かってしまった。『毎日味噌汁を作ってくれ。』という男性が女性にするプロポーズを、女性である鈴がアレンジし『毎日私の酢豚を食べてくれ。』というものにしたのだと。

では、鈴の言葉の真意を知っている一夏は何故ボケたのか。

それは一夏が鈴を思ってのことだった。

 

鈴…、箒…、セシリア…。

君たちは織斑一夏のことを好きになっては駄目なんだ。

なぜなら…。

 

僕は…

 


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