IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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否、成就させると誓うのだ。傍観するだけでは何も掴めん





     たまに、なんか髪の毛が重力無視している獣様


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千冬がIS学園を去ったことで、IS学園は混乱していた。

二学期が始まる直前であるにもかかわらず、IS学園の敷地内に千冬が現れなかったことで、生徒の間で変な噂が幾つか流れた。

ドイツ・アメリカ・イスラエルの襲撃犯を追うためにIS学園を去ったという噂。

襲撃犯に拉致されてしまったという噂。

襲撃犯と共謀していたという噂。

襲撃犯と共謀していたという容疑からIS委員会に捕縛されてしまったという噂。

そんないくつもの噂が入り混じることで新たな噂を生みだし、生徒の不安を掻き立てた。

混乱に陥っていたのは生徒だけでなく、IS学園を運営する教師陣もだった。なぜなら、千冬がIS学園における重要なポジションについていたからだ。そして、万が一の時のための千冬の後任を準備していなかったこともIS学園の教師たちを混乱させた要因の一つといえる。おかげで、普段の職員会議は長引いてしまい、何時もなら数分で決まる議題に三十分もかかってしまった。

 

だが、真実を知る数人の生徒と教職員はいつも通りだった。

その真実を知る数人の学生と教員は食堂で朝食を取っていた。

 

「では、篠ノ之束博士がアメリカとイスラエルに襲撃を行ったのは、銀の福音を用いてパレスチナ自治区を制圧しようとする計画が存在したのが理由だと」

「えぇ。アラスカ条約にISを他国への侵略に用いてはならないという条文があったからね。アメリカはこの犯行声明を隠蔽するのに躍起になっているの。それで、日本はアメリカとの同盟国だから手伝うよなって圧力をかけられて、この犯行声明を隠蔽するのに更識家の力を使う事になった。今もインターネット上で私の代わりに虚ちゃんがアメリカのハッカーと組んで篠ノ之束博士と戦っている最中よ。政府も少しは外交力を持つべきだと楯無お姉さんは思うんだけどなぁ」

「先輩がパンダみたいな隈を作ってしまったのはそういう理由だったのですね」

「そうなのよ。という訳で現在休憩中っていうわけ。で、私が言うのもなんだけど、貴方達はちゃんと休めてる?」

「まだ学校が始まっていないので、休めていますが?」

「嘘。箒ちゃんも、セシリアちゃんも、鈴ちゃんも、シャルロットちゃんも、ラウラちゃんも最近お肌カサカサになっているわよ。十分な食事と睡眠を取っていない証拠。貴方なら分かっていますよね?ハルフォーフ先生」

「言っているんですけど、こういう悩みや不安が原因のものってそう簡単に拭えませんから、慣れてもらうしかないんですよ」

「それはそうですけど…箒ちゃん、確か、今日篠ノ之神社でお祭りをやるって言っていたわよね?」

「えぇ」

「じゃあ、今日の特訓は皆でお祭りに行って必勝祈願とリフレッシュをしてくること!」

「しかし、ISの特訓は?」

「箒ちゃん、却下よ!休むことも強くなるための手段!よし、そうと決まれば、全員の浴衣を用意するぞ!いやっほー」

 

睡眠時間が少なかったせいかランナーズハイになりテンションがおかしくなっている楯無は急いで空の食器を返却すると、ダッシュで食堂を出ていく。そんな楯無を見ていた5人は唖然としていた。だが、簪と本音はまったく動揺していなかった。

 

「ごめんね。最近、お姉ちゃん篠ノ之博士以外にもI5のことで追い詰められていて疲れているの。だから、嫌わないであげてね」

「I5って何ですの?」

「知らぬが仏だよ。セッシー」

「ですが、私も更識先輩の助力になりたいですわ」

「う~ん、どうしよう?かんちゃん」

「知っておいた方が万が一の時に良いかも…」

「簡単に説明するとね…」

 

本音は全員にI5について簡単な説明をする。

一夏の狂信的な信者の集団であること。

IS学園の生徒の約半分がI5に所属していること。

箒達が重要人物としてマークされていること。

その集団を生徒会がコントロールしようとしていること。

 

「最近、おりむーがあんなことになっちゃったから、自殺しようとする人まで現れちゃって大変だったんだよ。でも……最近は大人しい方かな?」

「うん、デュノア蜂起事件の時が一番大変だった」

「ボク!?」

 

名指しされたシャルロットは驚きを隠せなかった。

 

「うん。織斑君と同じ部屋で混浴したから…皆チェーンソーとか持ってデュノアさんに夜襲をかけようとしたことがあったの。でも、お姉ちゃんと私のISと織斑先生の鉄拳制裁で鎮圧したから再発はないと思う……たぶん」

「でも、今って織斑先生いないよね?」

 

顔面蒼白のシャルロットは簪に尋ねる。

簪は本音の方を見ると、残念そうな表情の本音は首を横に振る。すると、簪も同じような表情を浮かべると少し肩を落とした。二人の様子にシャルロットはさらに不安になる。

 

「……そういえば、セッシー浴衣着たことある?」

「露骨に話題を変えられた!」

「やっぱり、ブルーティアーズと同じで青色が良いよね?」

「ね!簪さん、本音さん、無視しないで!」

「かんちゃんと被らないかな?妖怪キャラ被りになっちゃうよ?」

「柄が変わればそんなことない」

「うぅ、こっちを見てよ」

「大丈夫だぞ、シャルロット。同室の私が何があっても絶対に守ってやる」

「ラウラ、ありがとう」

 

この時友情の尊さを人生で最も重く痛感したシャルロットはラウラの手を取り、涙した。

その後、浴衣を何着も持って食堂に戻ってきた楯無に一同は着せ替え人形される。最初は戸惑っていたが、何種類もの浴衣から好みのものを選んでいる内に楽しくなってきたのか、全員浴衣選びに乗り気になってきた。数十分間浴衣選びに時間を費やしたおかげで、なんとか全員好みの浴衣を選び終え、篠ノ之神社へと向かう。

IS学園から篠ノ之神社までは距離はあまりないため、下駄を履き慣れていないセシリアたちでも歩いて行ける距離だった。

 

篠ノ之神社の石階段を登り切った箒達が見たのは夏祭りの準備をする人たちだった。

日本の縁日の祭りを良く知る箒達はスタスタと進んでいくが、初めて日本の祭りを目にしたヨーロッパ出身者たちは出店が珍しいのか周りをキョロキョロと見回しながら箒を追う。

数分ほど神社の境内を歩いた箒達は社務所に入り、神社の管理をしている箒の叔母に挨拶する。箒の叔母は箒にたくさんの友人ができたことを泣いて喜んだ。

箒の叔母と箒達は話し込んでしまい、巫女舞の時間の直前となっていた。それを知ったのは、神社の神主が歓談していた部屋に入ってきたからだ。慌てて箒と叔母は巫女舞の準備をする。社務所から出た鈴は他のメンバーを連れて、巫女舞がよく見える場所へと移動した。

七人の立つ場所は神社の関係者しか知らない穴場スポットであったため、彼女たち以外いなかった。何故、鈴がこの場所を知っているのかというと、以前一夏に連れられてきたことがあったからだ。少し狭かったが、誰にも邪魔されず巫女舞を見れるポジションを確保できたおかげで、誰も文句を言う事はなかった。

数分後、舞台に現れた箒の登場と、笛や太鼓の音により巫女舞が始まる。

巫女舞とは巫女自身に神を降ろすための舞であったと言われている。だが、そのような意味を持つ巫女舞は少なく、近年における巫女舞のほとんどは祈祷や奉納の舞となっている。

そんな巫女舞の意味を知らない七人だったが、箒の巫女舞から神聖なモノを感じ取り、目を放すことができなかった。

巫女舞が終わった数分後、再び浴衣姿に着替えた箒は一同を花火を見るためのとっておきの場所があると言い、案内する。箒が連れてきた場所は人気のない森の奥にひっそりとたたずむ展望台だった。展望台の先は開けており、花火を見るに適した場所だった。

一同が展望台に到着した直後、一発目の花火が上がる。その花火は白い大きな光の華を空高く咲かした。一発目の花火の光が消えた直後、次々と夜空に花火が撃ち上がり、青や赤や緑で夜空を彩る。

 

「…本当に…今も昔も日本の花火は…綺麗ですね」

「クラリッサさんは日本の花火を見たことがあるのですか?」

「えぇ、昔…知り合いとその妹の三人で見たことがあります。煙が少なくて綺麗な丸の形に最初は驚いたのを覚えていますよ」

 

あの時より、彼女の友達は増えた。あの時より、彼女の生活は楽になった。

だが、あの時より、彼女の気分は沈んでいた。あの時一緒に居たはずの兄妹が彼女の傍にいなかったからだ。折角の日本の花火を彼女たちは純粋に楽しめなかった。

 

「決めたぞ!私は一夏を救い、来年一夏とともにこの花火を見に来る!私、篠ノ之箒は此処に宣言する!」

「いきなり…何よ?」

「クヨクヨ悩むのは武士らしくない。それに、ちょうどここは神社だ。神前で己の願いを宣言するにはうってつけの場所だ。だから、今私はここでその願いを叶えるために努力すると誓いを立てた」

「そうだね。だったら、ボクもここで宣言するよ。一夏と来年二人でここに来て花火を見るって」

「シャルロットさん、来年一夏さんとここに来るのは私ですわ!」

 

その後、箒、セシリア、鈴、シャルロットの四人は誰が一夏と来年ここに来るかで口喧嘩を始め、そんな四人を楯無が鎮圧し、ラウラは千冬と此処に来ると宣言し、簪はラウラが百合属性を手に入れたと興奮していた。

 

某所…

 

「準備は整ったわ。予定通り、IS学園に奇襲を掛け、ISの核を奪取する」

「スコール、篠ノ之束との契約ではISの核の破壊じゃなかったのか?」

「確かにそうだけれど、破壊するにはもったいないと思わない?」

「それは思っていた。だけど、良いのか?あの篠ノ之束との約束を反故するようなことをして」

「問題ないわ。束博士がこちらに助力を乞うということは束博士の保有する戦力が先の事件等で低下していると考えて間違いない。だから、それを利用しこちらが主導権を握る。うまく行けば束博士を引き込める。失敗して束博士と対立してしまえば、我々の脅威になるかもしれないけど、早い段階で始末すれば良い。他に、質問は?」

「勝てるのか?」

「IS学園に織斑千冬がいない。彼女はIS技術以外にもIS学園の教員の指揮も長けていたからね。彼女がいなくなれば、残るのは国家代表にもなれなかったIS学園の教員と学生のみ…唯一厄介なのが更識楯無だけど、問題なのは彼女一人だけ。こちらが有利になると考えて問題ないわ。他に?」

「ないな」

「Mは?」

「ない」

「それじゃ、解散ね」


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