IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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厳然な実力差とはこういうものです。

         六条シュピ虫より




「■!早く行こう!魚が逃げちゃう!」

「◆、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。それより、石が多いからこけない様に■■■■■と手を繋いで。」

「うん。分かった。」

 

妹の◆は足元を見ながら、■■■■■の方へと歩いていく。

1993年8月7日、最近剣の練習ばかりをしていたので、たまには遊びたいと言った◆の願いを叶えるために、僕と◆と■■■■■の三人はバスを乗り継ぎ、山に来ていた。

普通小学生にもならない女の子なら遊園地や水族館に行きたいと言うのだろうが、人ごみが苦手な僕を気遣って◆は静かな山奥で釣りがしたいと言ったのだ。

こんな小さな妹に心配されるなんて、兄としてどうかと自分でも思ってしまう。

■■■■■は◆の手を引き、釣り場へと向かう。

僕は三人分の釣具や昼食などの入った鞄を持って、二人の後を追う。

 

「しかし、■■■■■。よくこんな穴場を知っているね。」

「シュピーネが教えてくれたんですよ。」

「シュピーネが?」

「はい。何でも、どうせ影が薄いのなら、あまり人の居ないところに行って、影の薄さを極めようと病んでいた時があったらしくてですね。その時に見つけた所らしいです。」

 

--あぁ、またこの夢か。

--本当は、たまに見るのだが……既知感を覚えた日は絶対に見る夢だ。

--しかも目が覚めても、記憶に残ってしまう。

--だから、途中で目が覚めてしまった時は続きが気になって仕方がない。

--この夢の中では僕は織斑一夏ではなく、■という名前らしい。

--■をどう読むのか、僕には分らない。

--だが、僕はただ漠然と会話に出てくる■が僕の名前であることは分かっている。

--そして、この夢の中に僕のほかに必ず出てくる人物がいる。

--◆という妹と、■■■■■という女性だ。

--◆と僕はかなり年が離れているため、妹というより娘に近い感覚だ。

--■■■■■は金髪の綺麗な外国人の女性で、剣を教えてくれる先生である。

--だが、同時に大切な人でもある気がする。

--僕は織斑一夏であって、■ではないから、

--どういう意味で大切なのかはよく分らないが、とにかく大切な人である。

--そんな確証にも似た感覚があった。

--ちなみに、シュピーネというのは■■■■■の同僚だ。

 

釣り場に着くと僕は釣り道具を用意し、◆と■■■■■に渡す。

二人とも餌のミミズを触るのが苦手らしいので、僕が釣り針にミミズを付けると、二人は釣りを始めた。僕はブルーシートを広げ、釣った魚を焼くためのかまどを作る。

アウトドアは初めてだったが、少し雑誌を読んで勉強していたので、今のところ手際よく準備は進んでいる。そんな時だった。

 

「■■■■■!竿が引いてるよ!」

「◆、竿を立てて。」

「こう?」

 

◆は竿を力強く立てると、その勢いで魚が水面から飛び出してきた。

そして、水面から出てきた魚は◆の顔面に当たってしまう。

 

「「あ。」」

 

顔に魚が当たった◆は次の瞬間泣き出してしまった。

その後、■■■■■と僕は◆を泣き止まそうとするが、少し笑ってしまったせいで、泣いている◆に怒られてしまい、もう釣りはしないと言って◆はへそを曲げてしまった。

だが、◆のお気に入りのジュースを◆に渡すと、少しだけ機嫌を直してくれた。

泣きながらジュースを飲む姿はとても可愛らしい。

そして、◆が落ち着いたところで釣りは再開となったのだが、昼時は暑くて魚の動きが鈍るせいか、まったく釣れない。

 

「■~、お腹減った~。」

「ごめん、■■■■■。簡単なものなら用意してあるけど、釣った魚をお昼にするつもりだったから、すこし足りないかも。」

「そうですか。魚があれば良いんですね。◆、竿を上げてね。」

 

■■■■■はそう言うと、真剣を取り出し、水に付ける。

そして、剣に電流が走った。

 

--よくわからないが、■■■■■は剣から電気を流すことが出来るらしい。

--その剣にどんな機械が埋め込まれているのか分からないが、

--真剣を持つのはいくら1991年の日本でも禁止されているはずだから、

--一応銃刀法違反のはずである。

 

電気が川の中を流れたことにより、川の中に居た魚が次々浮いてくる。

 

「■、これだけあれば、十分ですよね?」

「そうだけど、■■■■■。これは禁止されている漁法だよ。」

「嘘?」

 

■■■■■は呆気にとられている顔をしている。

僕は同じように禁止されているガチンコ漁よりひどいと簡単に説明した。

酷い獲り方だったが、捨てるのはもったいないので、魚を出来るだけ回収し、今食べられる分だけ、焼いて食べることにした。

 

--あぁ、目が覚める気がする。

--今日の夢は此処までか。後で日記に書いておかないとな。

 

……

………

 

「ん、んんー。」

 

ベッドの上で大きく伸びをしながら、一夏は体を起こす。

昨晩、ベッドで寝た記憶がないのだが、それはまあ良いとしよう。

一夏はベッドから出て、新品のノートにあの夢の内容を書き記していく。こうしておけば、寝る前に見返すことが出来る。今のところ、あの夢の内容に変な矛盾点がなく、夢はずっと続いている。この夢を見始めたのはちょうどあの時だ。

 

「……束さん。」

 

思わず、一夏の口から恩人の名前が漏れ出してしまう。

一夏はボールペンを動かし、夢の内容を書き記していく。

名前は■や◆や■■■■■では分かりにくいので、A男、B妹、C女として書いている。

他の登場人物も出てくるが、彼らは名前が判明しているため、D男やE女みたいな変な名前を付けずに済んでいる。

 

「おはよう。一夏。……何をしているのだ?」

「あ、おはよう、箒。これかい?…日記を書いているんだ。」

「普通、日記は一日の最後である夜に書くものではないのか?」

「あぁ、言い方が悪かったね。これは僕の夢の日記なんだ。」

「夢の日記?」

「そう、夢の出来事を書き記した日記だ。今度気が向いたら、見せてあげるよ。」

「そうか。楽しみにしている。では、一夏、何故お前が此処に居るのか聞こうか。」

 

突如、箒は機嫌が悪くなる。

そう言えば、説明をしていなかったなと、一夏は気付く。箒は木刀を持って、一夏を睨んでいる。下手なことは言えそうにないので、一夏はありのままのことを話すことにした。

 

「なるほど。要するに、護衛しながら帰宅するより、IS学園の寮に押し込んだ方が安全なので、寮に入ることになったと。だが、どうして、私なのだ!?」

「僕の知り合いと同室にしておけば、気後れせずに済むだろうって千冬姉が。」

「そうか。千冬さんがこの部屋にお前を入れたのだな。」

 

箒はそう言うと少し嬉しそうに、何度も頷いている。

箒は何故自分なんかと同じ部屋になって嬉しいのか、一夏は理解に苦しんでいた。

日記も書き終わったので、一夏はIS学園の制服を着て、食堂へ向かおうとする。

 

「箒、僕はもう食堂に行くけど、どうする?」

「私も行くから少し待ってくれ。」

「分かった。」

 

一夏は椅子に座り、先ほど書いた日記を読み返している。

本当の夢の日記は実家にあるので、今一夏が読み返している日記は新品のノートに走り書きしたもので、清書した日記ではない。

実家に帰ることがあったら、これまで書いてきた日記を取ってこないとと考える。

帰宅時のことを考え始めた一夏は、IS学園に持ってくる物をリストアップし始める。

 

「こんなものか。」

「一夏、待たせた。食堂に行くぞ。」

「あぁ。」

 

一夏は立ち上がり、部屋から出た。

少し早めに出たため、食堂はすいている。これなら、席の確保はしなくて済みそうだ。

一夏と箒は食券を買い、朝食を受け取る。

 

「一夏、あそこにいるのは千冬さんか?」

「あぁ。そうだね。折角だし、一緒に朝食しようか。」

「隣の人に知らない人がいるが大丈夫だろうか?」

「あぁ、クラリッサだね。彼女なら問題ないよ。」

「…女の友人か。」

「友人って言うほどの関係じゃないよ。昨日初めて会ったばかりだしね。だから、どちらかというと知人と言った方が良いのかな?」

「その割には相手のことを良くわかっているみたいだな。」

「そんなことないって。クラリッサは人見知りせずに、言いたいことを言えるまっすぐな人だからね。」

「ふーん。では、千冬さんのところに行くか。」

「あぁ。」

 

一夏と箒は千冬とクラリッサが座っている席へと向かった。

箒が一夏の提案に乗ったのは新たに表れたライバルの視察をするためだ。

一夏は千冬とクラリッサに挨拶をし、正面に座ってもいいか確認すると、千冬は無言で頷いたので、一夏は千冬の正面に、箒はクラリッサの正面に座った。

食事中に会話をするのは行儀悪いと千冬に叩き込まれた一夏は無言で食事をとる。

食事が終わると、千冬は教師としての仕事があるので、先に行くと言い、どこかに行ってしまった。残されたクラリッサと一夏と箒は食事が終わってから、温かいお茶を飲みながら、雑談をする。

 

「なるほど、一夏と篠ノ之さんは幼馴染ですか。」

「えぇ。6年ほど会っていませんでしたけどね。」

「なるほど。では、朝、一夏は篠ノ之さんに起こされるというイベントはこなしたのですか?」

「はい?」「え?」

「それとも、お弁当を作ってもらい屋上で食べるというイベントをこなしたのですか?」

「……。」

「クラリッサ、日本の幼馴染は絶対そんなことをするというわけじゃないんだよ。」

「そうなのですか!?ですが、日本の漫画やアニメや小説、ゲームでは!」

「確かに、漫画とかではよくある展開かもしれないけど…。」

「くっ!では、お医者さんごっこもしていないのですか!」

「ぶっ!」

「となると、将来結婚するという約束も!」

「ん!…ゴホゴホ!」

 

箒は顔を真っ赤にして咳き込んでいる。

一夏はお茶を口に含んでいなくてよかったと安堵する。

このままでは、話の方向が変な方向に行きそうだったため、一夏は大声出すと千冬姉に怒られるよと言って、この話題を何とか終わらせた。

 

「ところで、クラリッサはオタクみたいだけど、秋葉原とか行ったことある?」

「いえ。ですから、今日この後行く予定です。」

「そうなんだ。」

「っと、そういえば、そろそろ行かないと、イベントに遅れてしまいますね。というわけで、私はこれにて失礼します。一夏、篠ノ之さん、Tschüss.『チュース』」

「Gute Reise.『グーテ・ライゼ』クラリッサ。」

 

クラリッサは笑顔で立ち上がると、お盆を持って返却口に運んで行った。

 

「一夏、彼女何と言ったのだ?」

「バイバイって。ちなみに、僕は『良い旅行を』って返しておいたよ。」

「ドイツ語か?」

「うん。千冬姉がドイツに行くことがあったから、その時少し勉強に付き合わされたんだ。じゃぁ、箒、もう時間だし、そろそろ学校に行く準備をしようか。」

「そうだな。」

 


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