IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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なので決めました。これからは語尾にツンデレをつけて話します。
うん、これは良いアイデアねツンデレ。


   熊本


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IS学園の第3アリーナのグラウンドに一年の専用機持ち六人と楯無とクラリッサと千冬の計九人のIS操縦者が集まっていた。千冬以外の八人はISスーツを着ている。この九人は篠ノ之束と織斑一夏の対策についてよく集まっていた。だが、今日はそこにIS学園と関わりのない異分子が一人居た。そのため、初対面の者たちは異分子を警戒していた。その中の一人である篠之乃箒は千冬に尋ねた。

 

「千冬さん、見知らぬ男性が居られますが、IS学園の関係者ではないですよね?」

「あぁ、彼は今回の一夏奪還のためにクラリッサの武器開発の協力をしていただく刀匠の櫻井武蔵だ。クラリッサの刀剣の試し切りの観察に来られた」

「刀匠ですか?…IS武器の専門家ではなく?」

「あぁ、だが、彼はここ数日でIS武器の制作方法を体得した」

「数日でそんなことなんて」

「職人という生き物は一度作ると決めたものは出来るまで心血を注ぎます。特に、武蔵は以前制作していた刀の完成の為に刀に自分の命を注ごうとしたほどですから…」

「もはや狂気の沙汰だな」

 

クラリッサの言う以前の制作で作られた刀とは偽槍のことである。偽槍の制作には特殊な技法を用いていたため、最後の工程で人身御供を行う必要があった。偽槍の完成度を高めるために、偽槍との同調率が高いと思われた己の魂を用いた。その結果、武蔵は偽槍の最初の犠牲者となるのだが、本人は作品完成の一端となることができたと満足していた。しかし、己の魂を用いても思い描く物とならなかったため、武蔵は何代にもわたって偽槍を継承させることで作品の完成を望んだ。

 

「数日で作ったこの一振りの試し切りをしてみろとのことです」

 

そう言ってクラリッサは一振りの刀を展開した。

その刀を見た千冬や箒や更識姉妹は驚きを隠せなかった。本来打鉄の装備の刀などの近接武器は通常の刀より大型であることから機械によって生成されている。型に鋼を流し込み、圧力を加え、機械を使って研いでいく。だが、クラリッサが持っていた刀は一目見ただけで機械的に作られたものではないという事が分かった。それは刃の模様や鋼の繊維などから分かる。故に、刀に触れたことのある彼女たちはその刀から目が離せなかった。

そして、刀の良し悪しが分からない他の生徒たちは千冬が無言でクラリッサの刀を見続けていることに困惑していた。

 

「なるほど。狂気の職人が作ったというだけのことはある」

「千冬さん、それってそんな凄い武器なんですか?」

「…凰、戦ってみれば分かる。この刀たとえ素人が持ったとしても十分凶器となる」

「射撃武器があってもですか?」

 

鈴は困惑してしまう。刀にレーザー兵器が装備しているわけでもない。だから、恐れるに足らない。そう思っていたものが自分より格上の千冬が評価したからだ。

 

ちなみに、武蔵からすれば刀の本懐はその鋭い刃で斬ることであり、圧倒的な切れ味があれば刀にレーザービームなどの小細工は必要ないと彼は考えている。

なぜならば、そのような小細工を搭載すれば、刀のバランスが崩れてしまい、本来の切れ味を発揮することができないからだ。

どうしてもそのような小細工が欲しいのであれば、刀から切り離して別の装備として取り入れるべきである。

故に、赤椿の空裂と雨月を見た武蔵は二つの刀を『刀の真髄を理解していないカタナ(笑)』と鼻で笑い扱き下ろしている。

 

「百聞は一見にしかずだ。クラリッサ、凰と試合をしてみろ」

「はい」

 

鈴はISを展開し、上昇する。上昇しながら、双天牙月を構え、龍砲の砲撃準備をする。一方のクラリッサもISを展開し、鈴の後を追う。そして、ある程度の高さになったところで、停止し、武蔵から持たされた刀の柄を両手で握り中段の構えをとり、試合開始の合図を待つ。

 

「試合始め!」

 

オープンチャネルから聞こえてきた千冬の合図の直後、鈴は双天牙月で斬りかかる。一方のクラリッサは動かず、中段の構えのままだった。そんなクラリッサの様子を見ていたセシリアとシャルロットはこの試合が早々に終わると思っていた。だが、クラリッサはその場から動くことなく鈴の動きを凝視し、双天牙月の軌跡から斬撃の軌道を読もうとしていた。故に、クラリッサは不意を突かれたのだと周りは判断した。だが、双天牙月の斬撃が上からの縦一直線だと見切った直後、クラリッサは一歩後退し、武蔵から貰った刀の切先を双天牙月の刀身に添えて右に力を加えた。その結果、鈴の最初の一撃は空振り、鈴に大きな隙が出来てしまう。決まると思っていた攻撃が外れてしまったことを認識できなかった鈴は現状を理解出来ず、思考が停止してしまう。その隙にクラリッサは逆袈裟斬りで龍砲の一つを両断する。両断された龍砲はゆっくりとズレ、コンマ数秒後断面図が半分ほど露わになった所で、爆散した。

 

「あんな細い剣なのに…どうして?」

「シャルロット、お前は料理をしたことがあったな」

「うん」

「切れ味の良い包丁は持っているか?」

「持ってるよ。良い包丁を持つことが料理を上達させるための近道って聞いたことがあるから」

「では、その包丁で指を切ったことはあるか?」

「あるよ。切れ味が良かったせいか、凄く痛かったけど、最初は血があまり出なくて驚いた。でも、傷口を抑えたら、思った以上に深手だったみたいで、ゆっくりたくさん血が出たのを覚えているよ」

「もし、その包丁が鈍らだったら、切り傷を負わなかったか、すぐに血が出ただろう。切れ味の良いものは斬った際に斬ろうとしたモノが動いてしまい、刃が通らないか、斬られたモノがズレてしまうからだ。だが、切れ味の良い包丁で素早く切れば、斬られたモノは斬られた後にズレる。だから、血がなかなか出てこない」

「鈴さんの龍砲が斬られてから遅れて爆発したのはそういうことでしたの」

「そうだ。…だからこそ、気になる。あの櫻井武蔵という刀匠、本当にただの刀匠か?」

「どういうことですの?」

「刀は大きくなればなるほど制作が困難を極める。切れ味の高めながら、斑が出ない様に均一にしつつ、刃零れを防ぐためにも刀身の強度や密度にも注意しなければならない。あの大きさであの切れ味を実現しようとすれば並みの技術では不可能だ」

 

箒の解説に補足説明を入れるならば、武蔵の刀が刃零れを起こさないのは特殊な金属と特殊な製法を用いていたからである。その特殊な金属とは緋々色金である。緋々色金は太古日本の神武天皇以後の御世において極めて希少なモノで扱いが極めて複雑であった。故に、正当な製法を用いなければ、すぐに欠けてしまったり、錆びてしまう。だが、櫻井家はこの緋々色金の正当な製法を知る一族であった。故に、武蔵は緋々色金とその製法を用いて、欠けない上に錆びない刀を作ることができる人物である。

武蔵の刀製法の技巧に驚かされた一同は武蔵の方を見る。

 

武蔵はクラリッサと鈴の闘いを目を細めて観察しながら、棒を片手に地面に何かを殴り書きをしていた。だが、何を書いているのかその場にいた全員が見たが、全く読めなかった。

殺気のようなものが感じられる武蔵の目つきに周りが若干委縮している。

 

「武蔵殿、何を書かれて…」

「…ブツブツ……」

「千冬さん、どうでしたか?」

「駄目だ。完全に自分の世界に入っている。おそらく二人の闘いが終わるまで戻ってこないだろう。職人は常に自分だけの時間や世界を作り、その中で最高のものを作り続ける。そういう生き物だ」

 

鈴は残った片方の龍砲を乱射しながら、双天牙月でクラリッサに攻撃を仕掛ける。

砲撃と斬撃という同時に行われる異なった種類の攻撃にクラリッサは苦戦を強いられていた。通常の試合ならば、クラリッサの専用機に搭載されたAICを使用し、龍砲を無力化した直後間髪いれずにレールカノンなどで止めを刺す。だが、この試合の意義はあくまで武蔵の刀の試し切りである。故に、武蔵の刀を度外視した攻撃手段をクラリッサは取ることができなかった。武蔵の刀を使用した上で鈴を打倒できるような手段をクラリッサは思案するが、これといったモノが出てこない。そして、武蔵の刀と鈴の双天牙月の刃が衝突する。鍔迫り合いとなったところで、鈴は龍砲を双天牙月の峯に向かって放つ。龍砲の衝撃でクラリッサは押し飛ばされてしまい、武蔵の刀は刃零れを起こしてしまう。だが、峯に負荷がかかったことと、切れ味のよい武蔵の刀と鍔迫り合いをしていたことで双天牙月の刃が真っ二つに折れてしまった。二人が己の得物の状態を確認し、驚愕した直後だった。

 

「止めぇ!!」

 

オープンチャネル越しに聞こえてくる武蔵の大声によって二人はビクッとなり、声の主である武蔵の方を向いた。

 

「成果は十分得た。試合にこれ以上意味はない。成果のないものを見る暇を俺は持っていない。今すぐ止めて、俺の質問に答えろ」

「はぁ!?こんなところで辞めさせられたら、気持ち悪いんだけど」

「却下だ。俺の刀作りが最優先だ。貴様の消化不良など、どうでも良い。ヴァルキュリア、その刀の感想を聞かせろ」

「感覚の話になるのですが…少し軽いかと…」

「…やはりか。形状に関して思う事は?」

「何か…違いますね。……なんというか…なじまない?」

「左様か。…調整が必要だな…やはり…でないと…だが…」

 

武蔵は再びブツブツ呟きながら、二人の試合中に地面に書いたモノの近くに行き、和紙に筆で書き写していく。そして、大小様々なサイズの文字が乱雑に並ぶ広さ5×5メートルの殴り書きをA3用紙三枚に清書していく。和紙に書かれた文字は非常に小さく新聞の活字ほどしかないため、目を凝らさなければ、何が掛かれているのかが分からない。しかも、全て漢字と数字で書かれていたため、古文の知識を持たなければ理解することが不可能である。だが、幸いにも所々図があるため、その文章がISの装備や人体に関するものだということは誰の目にも明らかだった。

地面に書かれたものを写し終えた武蔵はクラリッサに工房に刀を持ってくるように言い残し、アリーナを後にする。その後ろ姿を一同は黙って見送る。武蔵の背中が見えなくなった瞬間、IS学園の生徒たちは緊張感から解放されたのか、大きく息を吐いた。

鈴は改めて自分の専用機の武装の被害状況を確認する。

 

「あちゃー、双天牙月と龍砲が故障か。一応予備があるから大丈夫だけど、壊れたのは本国送りね」

「すみません。私の試し切りのために」

「別に良いわよ。…それより、その刀借りても良い?双天牙月を真っ二つにして、龍砲の衝撃砲受けて刃零れ程度で済んでいるなんてチート刀に興味湧いたわ」

「良いですけど…はい」

「へえ、思った以上に軽いじゃない」

「当然だ。日本刀だからな…それより、ハルフォーフ先生」

「何ですか?」

「武蔵殿は貴方を名前以外の呼び方をしていましたが」

「ヴァルキュリアと呼んでいたな。ドイツ語でヴァルキリーを意味する言葉だな」

「えぇーっとですね」

 

前世の話をしても信じてもらえないだろうと思ったクラリッサは持ち前の妄想力を生かし、即興で自分と武蔵の関係の設定を考えて話す。

 

(武蔵が私をクラリッサと呼んでいたら、こんなことにならなかったのに…恨みますよ)

 


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