IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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捕まえたぜ、この獣野郎



       不能&シスコンコンビ


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一夏との戦いで受けた傷の治療を終えた五人の専用機持ち達は千冬から指導受けたいと千冬に申し出た。だが、千冬はIS学園の教員であるため、幾ら一夏関連とはいえ四六時中彼女らの指導は不可能である。そこで、千冬が働いている昼間は千冬から与えられた課題をこなし、夕方から夜にかけての数時間だけ千冬が彼女らの面倒を見ることになった。

 

「それでアタシ達は何をしているの?」

「ISを展開したまま昼食を取っているとしか言いようが無いな」

 

箒達はIS学園の屋上で五人はISを展開したまま、昼食を取っていた。

ISを展開したまま食事を取ることは非常に難しい。力を入れ過ぎたならば箸は折れてしまったりパンが潰れてしまい、力が少なすぎたら箸やパンが落ちてしまう。そのため、五人は悪戦苦闘していた。

この課題の必要性を五人は疑ったが、千冬はISの操縦時間が長ければ長いほどISの最適化が進んでより速くより正確に動けるようになると言ったため、五人は納得した。

 

「ラウラさん、それ醤油を入れる入れ物ですわよね。何に掛けるのですか?」

「目玉焼きだが?」

「はぁ?アンタ目玉焼きはウスターソースでしょ!」

「鈴こそ何を言っている。ウスターソースなど濃いものを掛けたら卵の味がなくなるではないか!」

「じゃぁ、箒。アンタは何を掛けるのよ」

「断然、塩だ」

「は?塩?塩ってアンタ味薄すぎじゃない」

「素材本来の味を損なわないようにしているだけだ。シャルロット、美食大国フランス出身のお前なら分かってくれるよな!」

「えぇーっと、僕は素材の味も重要だけどちょっと変化があっても良いかなってことで、塩コショウ」

「まあ、それぐらいなら許容の範囲内だ」

「セシリア、アンタはどうなのよ?」

「私ですか?私はマンゴーソースですわ」

「「「「……さすが、安定のセシリアだな(ね)(だね)」」」」

「褒めないでくださいまし」

「「「「褒めてない」」」」

「もし、一夏さんだったら、何を掛けていたのでしょうか」

「絶対に塩だ」

「ウスターソースね」

「塩コショウだと嬉しいかな」

「日本人なら醤油だな」

「マンゴーソースに決まっていますわ」

「「「「それだけはない」」」」

 

夕食を終えた五人はISを展開したままアリーナに移動し、戦闘訓練を開始した。

今日の彼女らの戦闘訓練中の課題は近接格闘における距離の取り方だった。この訓練の意味するところは一夏の許許太久禍穢速佐須良比給千座置座対策だ。当たれば腐る。ならば、当たらなければいい。そのためにも一夏の間合いを体に浸み込ませておく必要がある。そこで、箒が雨月や空裂を振るいそれを他の全員が避けるという訓練をすることになった。ちなみに、二振りともレーザーによる攻撃が付属しているが、一夏の黒円卓の聖槍の性質のことを考えて、この攻撃は無しとしている。

 

「この訓練で回避面についてはある程度充実してきたかもしれないが、こちらからどうやって攻撃すれば良いのだろう」

「どういうことよ?」

「忘れましたの、鈴さん?一夏さんのあの単一仕様能力は最強の盾でもあり最強の剣でもありますわ。こちらの攻撃を受ければ攻撃してきた武器が腐る。さらに、一夏さんの攻撃が当たれば当たった対象が腐る。厄介なことこの上ありませんわ」

「根性論は合理的ではないが、腐り落ちるまえに攻撃するという作戦ぐらいしか私は思いつかん」

「僕の場合は武器が多いから腐ったら武器を捨てて別のを使うって作戦を立てることができるけど」

「でも、ラウラの作戦もシャルロットの作戦も武器が腐ってなくなっちゃったら終わりよね」

「そういうことだな」

「根本的な解決方法とは言い難いですね」

「「「「「うーん」」」」」

 

 

一方のクラリッサは仕事のある日は昼間に仕事を済ませ五人の専用機持ちの自主練や千冬の特訓に参加していた。そして、仕事の無い日は更識姉妹と共に日本全国の刀匠の元を訪れ、黒円卓の聖槍や櫻井武蔵の聞き込み調査を行った。一夏のISトバルカインに黒円卓の聖槍を持つことから緋々色金を材料とした黒円卓の聖槍の製造方法が何かしらの形で残っていると考え、文献を探し回った。だが、見つからなかったため刀匠に聞くことにした。夏休みに入ってから三人は数件の刀匠の元を訪れたが、今の所は何の情報も得られなかった。一部の刀匠は櫻井一族のことを知っていたが、知っていた程度でどのような技術を持っていたのかはその刀匠も知らないらしい。

今日はある県の数件の刀匠もとに訪れていた。

 

「今回は望み薄ね」

「どんな刀匠なんですか?」

「今代が初代の刀匠です。噂によるとある日突然この先の森の中に家を建てて刀鍛冶を始めたとか。他の刀匠からは奇人変人と恐れられていたそうです」

「名前は?」

「それが名乗っていないらしいです。なんでも自分の求めている物が出来ていないから、名乗るのはおこがましいとかなんとか。職人気質なんでしょうけど、ちょっと変わっているように思われます」

「黒円卓は変態の集団でしたからね。よほどの人じゃない限り驚かない自信がありますよ」

「場所はこの道を行った先です」

 

楯無の言う道は人のための道ではなく、此処一帯に生息する野生動物が作ったのではないかと思ってしまうような細いお粗末な道だった。その道の先には過去に大災害があり多くの人が命を落としたため封鎖され人の侵入を禁止していた森林があった。進入禁止の立て看板があるだけで、侵入者を阻む柵はない。

このような人気のないところに住んでいると分かったのは、その刀匠の作品を販売している小売店の店主が刀匠を家に送り届けた時に、刀匠がこのけもの道を通って森林の中に入っていったと証言したからだ。

この先は国有の土地だが、国の管理下にない無法地帯。人のいないスラム街のようなところだ。

 

「お姉ちゃん、此処って、もしかして」

「簪ちゃんの想像の通りよ」

 

三人の立っている場所は国道沿いにある駐車場だ。

その駐車場の雰囲気は明らかに異常なものだった。何故なら乗り捨てられたかのような車が数台止まっていたからだ。フロントガラスが汚れ、数十枚の木の葉が車の上に溜っていた。この駐車場の近辺には大災害直前まで運営していたであろう喫茶店やガソリンスタンドがあるだけで何もない。つまり、人がここに来る理由などある一点を除いてない。

その理由が……

 

「ここはオカルトマニアの間ではかなり有名な自殺心霊スポットなのよ」

「なんでこんなところに住んでいるの」

「簪さん、脚が震えていますけど、大丈夫ですか?」

「かなり大丈夫じゃない」

「ここに残りたい?」

「うんうん」コクコク

「しかし、日本の都市伝説を紹介しているサイトに書かれていたのですが、こういう自殺スポットには自殺幇助犯や強姦犯が刀や銃を持って襲い掛かってくるそうです」

「お姉ちゃん、怖いよ」

「ハルフォーフ先生、簪ちゃん泣いているじゃないですか」

「ごめんなさい。でも、本当に一人で残るのは危ないと思うので、全員で動いた方が良いかと」

「そうですね。では、ハルフォーフ先生、簪ちゃん、私という並びで、私は後方にハルフォーフ先生は前方に注意を払いながら進みましょうか」

 

三人は人一人がなんとか通ることのできる獣道を進み始めた。獣道の周りに生えている草は奥に進めば進むほど背が高くなっていき森に入る直前には自分たちの背丈を越えるぐらいの高さになっていたため、道の周りがどうなっているのかよく分からなかった。

森林の中に入ると遥か頭上で青々と生い茂る樹木の葉が日光を遮るため、地表は薄暗かった。そのため、地表付近にあまり植物は生えていないため、周りの警戒は容易になったが、薄暗く湿気ていたため不気味であった。簪はこの場の雰囲気の所為で怯えてしまい、クラリッサの服の裾を掴んでいる。

 

「ちょっと待ってください。……何か聞こえませんか?」

「何かを叩く音?ハンマーで金属を叩いているような……それに何か燃えているような匂いがする」

「……近いようね」

 

そう言いながら楯無は近くの切株に触れる。

切株の断面から木を切られたのが最近であるということが分かる。しかも切株は一つや二つではない。この近くに人が住んでいて、木を切っていることは明らかだった。

 

「きゃあああ!」

「どうしたの、簪ちゃん」

「……あれ」

 

顔面蒼白の簪は震える指であるモノを指した。

そこには人の惨殺死体があった。腐敗の速度や湧いている蛆虫の数から死後数週間は経っており、頭部が鋭利な刃物で切られたことが死因であるとクラリッサは推察した。切断面をからしてかなり鋭利な刃物であると分かる。人の頭部を切断するような鋭利な刃物と言えば刀や剣ぐらいしか思いつかない。周りにその鋭利な刃物が落ちていないことから、死体の主が自殺ではなく他殺であり、切断面が真っ直ぐであったことから犯人が剣術の達人であるとクラリッサは判断した。

自殺幇助犯の犯行かと考えたが、今まで誰にも襲われていないため、その線が薄いかもしれないとクラリッサは判断した。最も可能性が高そうなのは件の刀匠だろう。どのような製法の刀が最も切れるのか判断するために、昔は罪人で試し切りをしていたということを聞いたことがあったからだ。

 

かなりの剣の腕前の刀匠。

クラリッサはこれに当てはまる人物に心当たりがあった。

 

「ハルフォーフ先生、何かを叩く音が消えました」

「二人ともISを展開してください!」

 

クラリッサは二人にISを展開するように指示する。

先ほどの簪の叫び声が刀匠の耳に入っていたら、試し切りのために襲撃してくるかもしれないとクラリッサは判断したからだ。クラリッサの焦りの混じった声を聞いた楯無と簪はISを展開する。その直後、楯無のミステリアス・レイディの右側のアクア・パッションが爆裂した。

 

「楯無さん、大丈夫ですか!」

「えぇ、ハルフォーフ先生のおかげでISの展開が間に合いましたので。私が飛んでくるクナイに気付かないなんて。もしアクア・パッションがなかったら、私の胸に刺さっていたかもしれないわね。……簪ちゃん、ハルフォーフ先生、相手は殺気を隠せる相当な手練れのようです」

「相手はおそらくクナイを作った刀匠です。絶対に殺さないでくださいね」

 

アクア・パッションの片側を失ったことで、楯無の操ることのできる水のヴェールの量が半減してしまう。楯無は左側のアクア・パッションと自分の体をヴェールで包み、襲撃に備える。簪は右側の守りが薄くなった楯無を守るために、楯無の右側に立ち武器を構える。

簪が武器を構えた直後、再び三本のクナイが飛んでくる。簪は夢現で弾こうとする。

 

「簪ちゃん!」

 

簪が飛来してきたクナイに気を取られている数秒間に、男が現れ簪との距離を縮めた。安定しない地形であるにも関わらず、男はまるで平坦な道を走るかのようだった。男は黒い甚平姿で、頭に白い手拭いをしており、草履を履き、左手に刀を持ち上段の構えをとっていた。年齢は40代、口髭と顎鬚を生やし、鍛え抜かれた肉体をしていることは甚平の上からでも分かった。

刀で簪に斬りかかろうとしてきた男の手にしている刀は通常の刀でないことは刃物に精通していない楯無や簪がパッと見ても分かるぐらいだった。なぜなら、男の手にしていた刀は白銀色ではなく黒光りであったからだ。直感的にあれに切られてはならないと感じ取った楯無はラスティー・ネイルで男に行く手を阻む。男は跳ぶことでラスティー・ネイルをやり過ごした。楯無はラスティー・ネイルをもう一度振るい、男に追い打ちを掛けるが、男は持っていた刀を振るいラスティー・ネイルを切断した。

 

「ラスティー・ネイルが!」

「蛇腹剣は関節を狙えば誰であろうと容易に破壊できる。……ふむ。ISの武器には絶対防御が適用されないか。なるほど」

 

楯無は蒼流旋を展開し、直地直後の男に攻撃を仕掛ける。

男は刀で蒼流旋を防ぐが、ISによって増幅した力によって飛ばされてしまう。男は転がりながら立ち上がると木の陰に隠れた。楯無はクリア・パッションで男が隠れたと思われる一帯を人の死なない程度の威力で爆破した。

 

「ガッ!」

 

男のうめき声が聞こえた。さらに、手ごたえがあったことから楯無は攻撃が成功したと判断した。威力から考えて瀕死の重傷を負っているはずだと考えた楯無は不用意に男の居る方へと近づいてしまった。

 

「え?」

 

爆破によって立ち込めた煙の中から男が現われ楯無に斬りかかろうとする。

先ほどの楯無の攻撃のダメージを男は受けたことにより、甚平の左半分が破け、数か所の裂傷と火傷という重症を負っているが、まるで動きは衰えていなかった。男の素早い動きによる不意打ちに楯無は対処できなかったが、寸前のところで男の持つ刀が止まった。

クラリッサの専用機に搭載されたAICに捕まったからだ。

 

「これがISか。なるほど、俺はそれを過小評価していたらしい」

「これから殺されるかもしれないのに随分余裕のある人ですね」

「俺を殺す?馬鹿が。俺を殺す気があるなら手加減する必要が何処にある?それに、ISをわざわざ展開して身を守った。それは自殺志願者でない証拠だ。自殺志願者以外で此処に来る理由があるとすれば、俺に要件があるとしか考えられん。だったら、俺を殺すはずがない。少し考えればわかることだ。それで、そこの女だろう。俺に用があるのは」

 

男はクラリッサの方に視線を送ると、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「敗北を叩き付けられたのは久しぶりだ。名を聞かせろ」

「クラリッサ・ハルフォーフ。前世ではベアトリス・キルヒアイゼンと名乗っていたはずです。この名前は聞き覚えがありますよね、武蔵」

「なるほど。ヴァルキュリアだったか」




武蔵の風貌は
http://park8.wakwak.com/~attyonnburike/hp/19.jpg
を参考に、職人の格好をさせたものです。

戦闘シーンが少し駆け足になった感が否めませんが、作者の力量不足によるものです。

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