ボッコボコにされて、傷だらけで帰ってきたりしてな? まーそれならいいけど?
ヘタしたら、刃傷沙汰になってたりとかな?
アブない奴なんだァ…。ちょいと刺したり刺されたりぐらい、
若気の至りで ハッテンしてみたり?
モンペを煽る不能
一学期は終わりかけようとしていた七月初旬。
日差しが強く、半袖で出かけようとすれば日焼けするのは明らかだった。そんな猛烈な日光の下、数台のバスがIS学園を出発した。観光バスの乗客はIS学園の一年生で、この数台のバスはこれから臨海学校の為に近くの海辺の宿屋へと向かっていた。
一年一組の生徒が乗ったバスの後ろの方は騒がしかった。女子は三人居れば姦しいとよく言う。だから、15.6歳の少女たちが数十人も居れば姦しいどころの話じゃない。特に、この学園の唯一の男子である織斑一夏の周りは騒がしかった。
「一夏、おはぎを作り過ぎたのだ。食べろ」
「一夏さん、フルーツサンドウィッチは如何ですか?」
「お兄ちゃん、私のシュトーレンを食べるが良い」
自作のお菓子を一夏に食べさせようとする生徒、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、ラウラ・ボーデヴィッヒの三名だ。ちなみに、一夏をお兄ちゃんと呼んでいるのはラウラで、『お前を兄にする宣言』以来、彼女は一夏をこう呼んでいる。ちなみに、鈴は二組であるためこのバスに乗っていない。このバスに乗り込もうとしていたが、千冬に見つかり、二組のバスに強制送還されてしまった。
お菓子を三人に口に押し込まれた一夏がせき込むと、近くの席に居たシャルロットが魔法瓶から冷えていた紅茶をコップに入れて差し出した。一夏はコップを受け取り、一気に飲み干し、喉のつまりを解消した。
「ありがとう。シャル」
「どういたしまして」
笑顔でシャルロットに礼をいう一夏を見た箒、セシリア、ラウラは顔をしかめ、一夏のわき腹を力いっぱい抓った。あまりの痛さに一夏は顔を歪め、自分の脇腹を見るが、自分の脇腹を抓った三人の犯人は既に腕を引っ込め、知らんふりを決め込み、シャルロットをチラッと睨んでいた。それに対し、シャルロットは不敵な笑みを浮かべていた。一方、一夏は誰が自分を抓ったのか分かっていたが、ため息を吐いて無かったことにした。
こんなやり取りを数度繰り返す内に数時間が経ち、目的の旅館に到着した。
旅館の門を入ってから十数メートル続く石畳の道の先に旅館の玄関があった。石畳の道の両脇には見事な日本庭園があり、外国出身のIS学園の生徒は見入ってしまい、歩を止めてしまう。数秒後、後ろ生徒に押され我に返り、再び歩を進めるが、視線の先には常に庭園があった。特に、様々な花々が咲き乱れ彫像が無数に飾られた西洋の豪華絢爛な庭園を良く知るセシリアにとって日本庭園は初見であったが、彼女は心を奪われてしまっていた。立ち止まるセシリアに箒はまた後で見ることができるといって、セシリアを歩かせる。
旅館の玄関に到着すると、旅館の女将が出迎えていた。毎年IS学園が此処を利用しているため、千冬と女将との挨拶はすぐ終わり、入館した生徒と教員たちは割り当てられた部屋に行き、荷物をおろし、水着に着替え、上からシャツを羽織ると近くのビーチへと向かった。
「良い所だな」
ビーチは警備上の理由から、IS学園の貸切となっていたため、IS学園の生徒以外に誰も居ない。晴れてはいるが日差しはそこまで激しくないため、浜辺は裸足で歩くことは可能であり、肌を焼いてしまう心配は無用だ。更に、気温も高すぎない為、日射病に掛かる心配もいらない。
つまり、誰にも邪魔されることなく、のびのびと海水浴を満喫できる条件がそろっていた。だが、IS学園の女子たちは海に直行することはなかった。
「織斑君、ビーチバレーしようよ!」
「織斑君、向こうで泳がない?」
女子たちは一斉に一夏のもとへと向かった。
これには旅館の部屋割りが関係している。臨海学校で一夏と距離を詰めたいと考えていた女子たちは夜に一夏の部屋に遊びに行くことを考えていた。だが、一夏の部屋割りを見た女子たちは血の気が引いた。何故なら、一夏と同室になっている人物が規律を重んじる千冬だったからだ。一夏に限っていないだろうが、夜に何かの間違いで一線を越えてしまうかもしれないと千冬は考えたからだ。そこで、女子たちは昼の海水浴の時に一夏との距離を一気に詰め、夜は自分たちの部屋に遊びに来てもらうという方法を考えた。この作戦ならば、虎穴に入らなくとも、虎児を手に入れることができる。
一夏は一気に押し寄せてくる女子たちに圧倒されてしまう。先約があるから断りたいのだが、一夏の目には女子たちが肉食獣に見えてしまい、断りづらかった。
困惑する一夏に助け舟が出る。
「一夏さん、私との約束をお忘れですの?」
パラソルとレジャーシートを持って現れたセシリアの声にその場の全員が反応した。
セシリアはパラソルとレジャーシートを広げると、うつ伏せになり、ブラのホックを外す。そして、日焼け止めのクリームを自分の横に置いた。一夏は日焼け止めのクリームを掌に出し、伸ばす。いきなり背中に塗っては冷たいから手で伸ばしながら温める方が良いと千冬から聞かされていたからだ。ある程度クリームが温まったところで、一夏はセシリアの腰に手を当てる。腰を触られたセシリアは声を少し上げるが、過度の反応があるわけではないので、一夏はそのままクリームを塗っていく。最初は緊張していたのか強張っていたセシリアの表情が緩んでいく。
「気持ちいいですわ、一夏さん」
「背中が張っていたから、少しだけ血行が良くなるようにマッサージをしたからね。本格的にやろうと思えば出来るけど、時間が掛かるから簡単なものにさせてもらったよ」
「通りで…気持ち良くて、私眠くなってきましたわ」
「はい、これで終わり、お疲れ様」
「セッシー、いいな」
「ねえねえ、織斑君、次、私にもお願い」
「抜け駆けは駄目だって」
「じゃあ、皆してもらおうよ」
「良いけど、それだけで自由時間終わっちゃうよ」
「うーん、それはもったいないかも」
「じゃあ、皆で遊べる何かをしようよ」
その後、色んなグループに一夏は振り回された。自由時間が終わるまで休む間もなく海水浴にビーチバレーなどのマリンスポーツ漬けだった一夏は夕食直前には満身創痍だった。一夏の体力を特に削ったのは千冬とのバレーボールであった。千冬はたとえ相手が実の弟である一夏でも容赦なくアタックをし、点を取りに行っていた。
自由時間の後の夕食は大宴会場で行われた。
正座に慣れていなかったセシリアは足がしびれてしまい、夕食どころではなかった。だが、隣に座っていた一夏はセシリアの分の料理を箸で取り、セシリアに食べさせることでセシリアは何とか夕食を取ることができた。その様子を見ていた他の女性とはセシリアばかり優遇されていることに不満を漏らす。彼女たちの不満は周りに伝染していき、セシリアは十人以上から非難の声を上げられる。これ以上伝染しては不味いと判断した千冬は静かに夕食を取れと女生徒たちに注意し、もう少し考えて行動しろと一夏にも注意する。
夕食後は自由時間であったため、思い思いに過ごした。
多くの生徒は自室で遊ぶか、温泉に浸かっていた。だが、自室で遊ぶことなく、温泉に浸かることも無く、ある部屋の扉に耳を当て、中の様子を窺っている生徒が五人居た。
箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラだ。
中から一夏と思われる男の声と、千冬と思われる女の艶めかしい声が聞こえてくるため、五人はもっと中の様子を詳しく知ろうと前のめりになっていく。五人の体重が掛かった扉は重さに耐えきれず、部屋の内側に倒れてしまう。支えを失った五人は扉と共に、部屋の中へと倒れてしまい、声を上げてしまう。
「そこの五人、中に入ってこい」
千冬に見つかってしまった五人は千冬に中に入るように命じられてしまう。これから一夏の前で公開処刑されると怯えながら、五人は部屋の中に入った。部屋の中に入ると布団が敷いてあり、布団の上で千冬はうつ伏せになり、一夏は千冬に馬乗りになって、背中に手を当てていた。
「一夏、マッサージはもう良い。温泉に一時間ほど浸かって疲れを取ってこい」
「はいはい」
「マッサージだったのですね」
「何と思ったの?」
「それは」
ラウラの口を抑え黙らせた四人は一夏に愛想笑いをする。想像していた光景と違ったため、ラウラを除く四人は安心した。一夏は首をかしげながら、着替えを持って、部屋から出て行った。これ以上追及しても無駄だろうと判断したからだ。
一夏が出ていくのを確認した千冬は五人を座らせると、冷蔵庫からジュースを取出し、五人に配った。
「私の奢りだ。遠慮するな」
五人はジュースの缶を開けると、一口飲んだ。ジュースを飲んだことを確認した千冬はニヤリと笑う。千冬の不気味な笑みを見た五人は背筋が凍りつき、これから処刑されるのだと覚悟した。
「よし、飲んだな。今から質問に答えてもらうからな」
「「「「「うっ」」」」」
「ま、そう身構えるな。で、お前ら、あいつの何処が良いんだ?」
箒とセシリア、鈴は素直になれず、一夏の悪い所を上げ、それを直すために一夏の傍に居ると言って誤魔化した。そんな三人の様子を見た千冬はそれを一夏に伝えておくと言うが、三人は詰め寄り、千冬に一夏に言わないでくれと嘆願した。
シャルロットは一夏を好きになった理由に一夏の優しさを上げる。
「だが、アイツは誰にでも優しいぞ」
「そ、そうですね。……そこがちょっと悔しいかな」
「ま、お前の境遇を考慮すれば、そんな簡単な理由で堕ちるのは仕方がないか」
「簡単な…って」
「女尊男卑の世の中だ。女に優しくする男は腐るほどいる。違うか?」
「そうかもしれません。でも、掛け値なしにボクに優しくしてくれたのは一夏だけだったんです。だから、ボクはそんな一夏の事が…」
「分かった。で、ボーデヴィッヒ、お前は?」
「私ですか?」
「そうだ。今のお前の態度は以前と違い、軟化している。一夏を一人の男として見るようになったかどうかは分からんが、一夏の魅力を見つけたからだろう?」
「確かに、そうですね。お兄ちゃんの好きな所を上げるとしたら、強い所でしょうか」
「強いかね?お前と一夏がサシで戦えば、お前が勝ちそうだが?」
「いえ、ISの戦闘における技能的なことではなく、心の強さです」
「心の強さか」
「何があっても自分の大事なものを守り抜こうとするお兄ちゃんの姿勢に私は憧れています」
「ふーん、まあ、強いかどうかは別として、あいつは役に立つぞ。付き合える女は得だなどうだ、欲しいか?」
「「「「くれるんですか?」」」」
「やるか、馬鹿」
「女なら、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ。ガキども。ジュースを飲んだら、部屋に戻れよ」
「教官、一つ良いでしょうか?」
「教官と呼ぶなと何度言えば分かる?」
「失礼しました」
「で、何だ?」
「最近、クラリッサの様子がおかしいのですが、何か心当たりはないでしょうか?」
「クラリッサがか?」
「えぇ、いつも何処か上の空で心此処に非ず。勤務時間外は部屋に籠って読書をしたり、更識家の者と話していたりと奇行が目立ちます」
「オタク関連ではないのか?」
「いえ、それが読んでいる本がドイツの第二次大戦関連の書物であったり、日本の刀匠に関する書物であったり、魔術に関する書物であったりと分野が無茶苦茶なのです」
「確かに、妙だな」
「何か悩んでいるのかと聞いてみたのですが、『悩みはあるが、誰にも話すことができない』と」
「いつからだ?」
「学年別個人トーナメント直後ぐらいでしょうか」
「そうか。私の方でもそれとなく探りを入れてみる」
「よろしくお願いします」
次回の途中までは事務的に進んでいきます。