この回の執筆に手間取り、もう一つの方の作品を書いていました。
ですが、何とか書きあがったので、投稿します。
今後の展開もすでに考えているので、一気に書いてしまいたいところですが、もう一つの方の作品も展開をすでに考えているので、どうなるか分かりません。
ですが、かならず完結させますので、ご安心ください。
屑霧島
IS学園の正門前で私服の一夏は人を待っていた。
今日は休日で、ある知人と出かける約束をしていたからだ。一夏は乗り気ではなかったが、相手に押し切られてしまい、無理やり外に出る約束をさせられてしまった。
待ち合わせ場所に着いてから十分、待ち合わせ時間から三分ほど過ぎようとした時だった。
「ごめんなさい。一夏。待ちましたか?」
外出の約束をした相手クラリッサ・ハルフォーフが一夏に声を掛けてきた。彼女はいつものスーツ姿でも軍服姿でもなく、普通の大人の女性の私服姿をしていた。相変わらず眼帯はしているが、それでも誰もが見惚れてしまうほど華麗な私服を着こなしていた。
「いや、待っていないよ」
「おぉ! 本当に言うんですね!」
「何を?」
「日本の少女漫画やドラマではデートの待ち合わせに少し遅れてきた女性が“待った?”と聞くと、少し待たされた男性が“待ってないよ”と女性を気遣って笑顔で対応するという描写がありました!」
「…なるほど」
「さ、行きますよ!」
クラリッサは一夏の手を握ると、鼻歌を歌いながら、歩き出す。
男性との初めてのデートで嬉しいのか、少し速足になっている。
クラリッサに急に手を握られ引っ張られた一夏は少し扱けそうになったが、すぐにクラリッサの歩調に合わせて歩きだし、横に並び、今日一日クラリッサに付き合おうと決めた。
「いったな」
「後を追いますわよ」
「いぃちぃかぁ、幼馴染を放って遊びに行くなんて良い度胸じゃない」
「本当に僕も行かなきゃ駄目なの?」
その遥か後方に四つの影が一夏たちを追跡していることに一夏たちは気づいていなかった。
「臨海学校用に水着を買いに来たんだよね? だったら、あそこのお店かな」
一夏はクラリッサを連れて、ショッピングモール内のスポーツ用品店へと向かう。
夏に入りかけていたこともあり、店内は様々な水着が陳列されており、クラリッサは秘宝を見つけた探検家のように目を輝かせていた。
「良いですね。やっぱり服や水着を買うなら、日本ですね」
「どうして?」
「私の国では服装に対して固定概念のある人が多いものですから、個性的な服装にしたら、すぐに変な目で見られます。ですから、渋谷や原宿の若者や、漫画のキャラクターの自由で個性的なファッションに外国の若者たちは憧れるんですよ」
「そうなんだ」
「一夏、せっかく一緒に来てなんですが、少し店の中を物色し、試着してみる水着を数個に絞りますから、待っていてくれませんか?」
「いいよ。僕もちょうど今度の臨海学校用の水着用意していなかったから自分の分選んでくるよ」
「ありがとうございます。終わったら、店の前で待っていてください」
「分かったよ」
一夏は男性用の水着が陳列されている棚を見て、品定めをする。
派手な柄は自分には合わないため、黒色の生地の水着を選ぶと、レジに持って行った。会計を済ませ、スポーツ用品店から出ていこうとするが、すれ違った女性に一夏は声を掛けられた。
「ちょっと、貴方、私の代わりにこの服戻しておきなさい」
「どうして、無関係な僕が君の手伝いをしないといけないんだ?」
「女尊男卑の世の中なんだから、男が女の言うことを聞くのは当然なの、当たり前でしょ。それに、今ここで私が悲鳴を上げて乱暴をされたなんて言ったら、警備員に連行されることぐらい、馬鹿な貴方でもさすがに分かるわよね」
見ず知らずの女は不機嫌そうな表情を浮かべ、舌打ちをして横目で一夏を睨みつけていた。
一方の一夏は、面倒な人に目を着けられたと困った顔で女を見ている。一夏が反抗的な態度を取っていると気に食わなかった女は声を上げて、警備員を呼ぼうとしていた。
それを遠くから見ていたセシリアたちは、女性が声を上げた瞬間飛び出し、一夏の弁解をしようと物陰で待ち構えていた。
「一夏、どうしたんですか?」
そこへ、買い物を終えたクラリッサが現れた。
「貴方の男、躾がなっていないわね」
「一夏が何かしたのですか?」
「女の私の言うことを聞かないから迷惑しているのよ。本当に」
「そうですか」
クラリッサは女に想いっきりビンタをかました。
ビンタを喰らった女と横で見ていた一夏は驚きのあまり目が点になる。
「行きますよ、一夏」
「え?」
「貴方ね!」
「こんな女性の言うことを聞く必要はありません。誇りと傲慢をはき違えて、無い袖振って威張り倒す姿は見苦しいです。見ているだけで、同じ女性として腹が立ちます」
「何ですって!警備員呼ぶわよ!」
「えぇ、良いですよ。私の友人が冤罪で捕まるよりかは、全然良いので。それに……」
クラリッサはスポーツ用品店の天井のある場所を指した。
指した先には、こちらにレンズを向けているカメラが一台あった。
「あの映像が彼の無罪を証明します。更に、貴方は迷惑な客だとレッテルを貼られ、このショッピングモール出入禁止になりますよ。それでも良いのでしたら、どうぞ」
「……」
苦々しい表情を浮かべた女が黙りこんだため叫ばれて警備員を呼ばれないと判断したクラリッサは一夏の手を引き、店から早歩きで出て行った。店から数十メートル離れるまで、クラリッサは一夏の手を引いたまま早歩きで歩き続ける。一夏は完全になされるがままだ。そして、あるところでいきなり立ち止まると、クラリッサは一夏の方を向いた。
「ごめんなさい」
クラリッサは頭を深々と下げ、一夏に謝り出した。
「一夏を助けるためとはいえ、一夏に不快な思いをさせて、すみませんでした」
「え…でも、クラリッサが謝ることじゃないと思うんだけど」
「ですが、私が連れ出さなければ、こんなことには…だから、お詫びをさせてください」
「お詫びね。じゃあ、あそこの喫茶店でお昼一緒にお昼はどうかな?」
「そんなので良いのですか?」
「うん、僕の友達がバイトしていてオススメだって話してくれたんだけど、女性客が多いから入りずらくてね」
「なるほど。では、あのお店に行きましょう」
二人は少し小洒落た感じのイタリアンの店に入る。店の中は落ち着いた古いバーをイメージしているのか、少し暗く、時代を感じさせる少し劣化した木の椅子と机が置かれている。そして、低音量でかかっているジャズが来店者をリラックスさせる。
着席すると、一夏の友人でありバイト中の数馬が水を持ってきてくれた。
数馬は軽くあいさつをすると、注文を取り、厨房へと向かった。
十分後数馬が二人の注文した料理を持ってきた。
一夏はミートスパゲティ、クラリッサはカルボナーラだ。スパゲティを食べ終えた後、数馬はサービスだと言って、カップル用のパフェを持ってきた。
一夏は別にデートじゃないと言ったのだが、ツンデレ乙と言われてしまった。
「カップル扱いされてしまいましたね」
クラリッサは少し嬉しそうにつぶやいた。一夏は嫌な気持ちにはならなかったが、恥ずかしくもあり、申し訳ない気持ちもあった。複雑な表情を浮かべる一夏をクラリッサは心配する。
「その…迷惑でしたか?」
「そんなことはないよ。僕はクラリッサと居ると嫌な気分になることはないよ」
「一夏もですか」
「も?…っていうことは、クラリッサも」
「えぇ。一夏と初めて会った時も、何故か初対面の気がしませんでした。前に、何度か会った……一緒に暮らしていたような気がするんです。此処じゃない何処かで、今じゃないいつか。既知感……という言葉が一番適切な気がします。だからなのか、安心します」
「そうなんだ。……僕はクラリッサの声を何度も聞いたような気がする」
「私の声ですか」
一夏はどこでクラリッサの声を聞いたことがあるのか知っているが、夢の中でなんて言っても笑われると思ったため、何処で聞いたかはクラリッサには伝えなかった。
「やっぱり似ている」
デザートのパフェを美味しそうに頬張るクラリッサを見ながら、一夏はクラリッサが聞き取れないほどの小さな声で呟いた。■■■■■とクラリッサの声があまり似ている。声だけ聴けば、同一人物なのでは?と思ってしまうほどだ。
聞いていてとても安心する声だ。
だから、時間が許すなら、彼女と一緒に居たいと思った。
「そこまで願うのは僕には贅沢すぎだな」
「ふぁにがでふふぁ?(何がですか?)」
「何でもないよ」
「そうですか。ですが、一夏は損な性格をしていると私は思います。いつも自分の言いたいことを言わず、問題を自分一人で抱え込んで、一人で解決しようとする。私の知り合いにも同じような人がいて、同じように問題を抱えていて、辛そうだけど納得していて、それでいて諦めている顔をしていました。身近に居るのですから、もう少し頼ってほしかった。だから、一夏は私に頼ってほしい」
「それはできないね」
「どうしてですか?」
「他人に話すには重すぎる。悩んで苦しむ。それでいて絶対に解決できない問題だから」
「そうですか。……でも、私は一夏が話してくれる日を待っています。耐え切れなくなったら、絶対に私に話してください。話してくれなくても、苦しそうにしていたら、絶対に助けに行きますから」
「どうして、君は僕にそこまでしてくれるんだ?」
「言ったでしょ。一夏は私の知り合いにそっくりだから……」
「……お店混んできたし、出ようか」
「そうですね」
二人は席から立つと、会計を済ませて、店から出る。
喫茶店での会話の所為で、二人の間に微妙な距離が出来てしまい、気まずい雰囲気となった。仕方なく、二人はIS学園に戻ることとなり、IS学園の学生寮前で二人は分かれた。そして、二人は自室へと帰って行った。
クラリッサは荷物を置くと、ベッドに飛び込み、枕に顔をうずめた。
「一夏……貴方は戒じゃ…ないんですよね?」