僕は永遠だ!
逃げたんじゃない!誰もついて来れないだけだ!
Don't touch meワンちゃん
第1アリーナで起きた爆発に観客たちは騒然とする。
爆発から数十秒後、煙が晴れてくる。アリーナの中心にはアクア・ナノマシンで体を覆った一人の女性と、満身創痍の一人の女性が居た。
「お姉ちゃん、どうして私を」
ナノマシンで体を覆われていたのは簪だった。
楯無は所有していたアクア・ナノマシンの半分でミストルティンの槍を放ち、簪の打鉄弐式のシールドエネルギーが0になったところで、残りのアクア・ナノマシンで簪を覆い、連鎖爆発する山嵐に備えた。楯無自身を守る物はミステリアス・レイディのシールドしかなかった。
「妹を守るのに、理由がいる?」
爆発によりミステリアス・レイディのシールドエネルギーは0になり、彼女は負傷したが、それでも彼女は構わなかった。妹を守ることが出来たのだから。
「…うそ」
「嘘じゃないわ」
「だったら、どうして『弱いことを、みっともないことを、受け入れなさい』なんて言ったの?」
「簪ちゃん、その後私の言葉覚えてる?」
「え?」
「『強がってばかりじゃ、何も見えなくなるわよ』って言ったのよ。簪ちゃん、私と比べられるのが嫌で、一人で頑張ってISを作ろうとしていたわよね?でも、私は一人でISを作ったわけじゃないの。簪ちゃんはそれをなんでか知らないけど、私が一人でISを完成させたって勘違いしたみたいだからね。アドバイスしようとしたのよ」
「それじゃ、全部私の勘違い?」
「そう、でも、簪ちゃんは悪くないわ。簪ちゃんを勘違いさせたまま放ったらかしにした。それに、私から何か言っても簪ちゃんは気分を悪くすのは分かっていた。だから、私が悪いの。ごめんね、簪ちゃん、私が悪いお姉ちゃんで」
「お姉ちゃん!」
ミステリアス・レイディは待機状態となり、簪の体を覆っていたアクア・ナノマシンは解除され、楯無は落下する。簪は慌てて打鉄弐式を展開し、落下する姉の後を追い、抱きしめ、地面への衝突という危機から姉を救った。
「そんなこと言われたら、怒れないじゃない。嫌いになれないじゃない」
「そう、だったら、泣かないでよ」
「お姉ちゃんも泣かないでよ」
こうして、更識姉妹の決闘(姉妹喧嘩)は終わり、姉妹の仲は翌日の姉妹の話し合いによって、互いの想っていたことを言い合い、修復された。更識姉妹は自分たちに一度想いをぶつけあう機会を与えてくれたクラリッサに礼を言いに行った。簪はその日に生徒会に入り、楯無のサポートをすることになる。生徒会への簪の入会によって暴走しかけていた『I5』は少し沈静化した。
「更識姉妹の決闘、もとい喧嘩はどうでしたか?ボーデヴィッヒ隊長?」
更識姉妹が和解した日の夕食時、食堂に居たラウラにクラリッサは話しかけた。
「あぁ、更識楯無のあの切り札の威力には目を見張るものがあった。アレを全力で私に向けて撃ってきたならば、AICを使ったとしても対処しきれなかっただろうな」
「……」
「どうした?」
「ボーデヴィッヒ隊長、私が聞きたかったのはそういう話ではなくてですね。更識姉妹の姉妹喧嘩を見て、何か思うことはありませんでしたか? という話です」
「だからだな」
「いえ、そうではなく、姉妹という絆についてです?」
「私には姉妹が居ない。だから、あの姉妹の気持ちは分からん」
「私はお互いを思いあう兄弟愛というものに魅かれましたよ。喧嘩しても本当はお互いに想いあっている。まるで、我々の部隊の仲間意識に通ずるものがありました」
「……」
「ですので、我々が織斑姉弟の絆のことをどうこ」
「クラリッサ・ハルフォーフ。仮に貴様の言うことがそれ単体正しかったとしても、場合によっては正しくない時もある」
「それはどういうときですか?」
「その選択が大きな利益をもたらせる場合だ。私は生まれながら軍人であることを求められた。それが国家の利益のためであったからだ。仮に、私が軍人以外の生き方を選べば、私は得をするかもしれないが、それは国家の損失となる。それぞれの選択による利得を比較考慮すれば、私が軍人でなければならないことは論議するまでもない。そして、教官がISに全てを捧げた指導者であり続けることが世界の利益である」
ラウラはそう言い切ると席から立ち上がり、食堂から出て行った。
更識姉妹の試合を見て、触発されたらしく、これからアリーナで特訓をするらしい。
ラウラに置いていかれたクラリッサは食堂で一人寂しく夕食を取る。最近秋葉原で買い物をし過ぎたため、所持金が無く、唐揚げと御飯だけ食堂で買い、マヨネーズをかけて、腹を満たそうとしている。
「クラリッサ?」
そんなクラリッサの元に、一夏とシャルロットが現れる。
「一夏、この人は?」
「あぁ、二人は初対面だったね」
「私はクラリッサ・ハルフォーフ、四組の副担任で、ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長の部下で、黒兎部隊の副官です。千冬さんとは懇意にさせてもらっていたので、それで、一夏と知り合いました」
「そうだったんですか。僕はシャルル・デュノア、一夏の友達です。よろしく願いします」
「確か、一夏と同室でしたね」
「はい」
「むむ、どちらもハーレム属性のように見えますが?大丈夫なのですか?」
「??」
「クラリッサ、それはどういう?」
「はっ!すみません。今のは忘れてください」
クラリッサは二人に頭を下げ、謝り倒す。
クラリッサの謝り具合に一夏とシャルロットは圧倒され、すぐにクラリッサを許した。
「ところで、……何を食べてるの?」
「唐揚げ丼・土○スペシャルです。食べますか?」
「僕にはマヨネーズにしか見えないんだけど、それ丼なんだ」
「はい、●魂という漫画で○方という人が食べてまして、一度やってみたら、原価が安いうえに、腹を満たせるということに気づいたんですよ」
「野菜取らないと、体に悪いよ」
「それは抜かりありません。『野菜壱日これ壱本』を飲んでいますから」
「う…うん、でも、ちゃんとしたもの食べた方が良いよ」
「お金ないから、これ以外の物は食べられないんですよ」
「じゃあ、僕が作ろうか?」
「え?」
「毎日とはいかないけど、週に二回ぐらいお昼の僕と千冬姉ぇのお弁当作るから、ついでにクラリッサの分も作ろうか?」
「良いんですか!?」
「二人分作るのも、三人分作るのも対して変わらないから良いよ」
クラリッサは立ち上がり、ガッツポーズをした。クラリッサにとって異性から弁当を作ってもらえるのは初めてだからだ。生まれながらして軍人としての人生を歩み、ISの操縦者としての教育を受けてきた、更にオタク文化にドップリと使っていたため、異性との青春を送ったことがなかった。
「人生の春キタァァーーー(゜∀゜)ーーーー!!!!!」
クラリッサは嬉しさのあまり一夏の手を取り、食堂の中心でクルクル回り出した。
そんな光景を見せられた周りの女生徒たちは内心穏やかではいられなかった。
「っく、一夏さまのお弁当とダンスなんて」「流石に見過ごせないわね」「次回の『I5』の議題にしてもらった方が良いわね」「Zarfall'in Staub deine stolze Burg!Und ruhre mich nicht an!」「胃が痛い」「しっかりして、お姉ちゃん!虚さんから胃薬貰ってくるね」
一夏と親しく、一夏の恋人の座を狙っている箒たちも例外ではなかった。
「イライラする」
「堪忍袋の緒が切れそうですわ」
「一夏、アイツに色目使って、鼻の下伸ばして、一回ギッタンギッタンにしないと駄目みたいね」
彼女たちの主観フィルターが入っているため、そう見えてしまうだけで、実際の一夏はクラリッサに色目を使っていないし、鼻の下を伸ばしてもいない。
「さて、我ら三人の話し合いの議題だが…」
「確か、前は『I5』との接触に失敗したのでしたね」
「まさか、アタシたちが要注意人物扱いされているとは思わなかったよ」
「確かに、私たちは他の女生徒に比べれば、確かに…」
「箒はファースト幼馴染で、セシリアは一度真剣勝負した仲、アタシはセカンド幼馴染」
「だが、当の一夏本人が鈍感すぎて反応しない」
「これでは、他の方と同じように同級生として接しているのと変わりませんわ」
「何か一発逆転が欲しいわね」
「たとえば?」
「たとえば、三人で夜這いを」
「は…は破廉恥だ!」
顔を真っ赤にした箒は真剣を取出し、構える。
「冗談よ!一夏にはあのシャルルと同室なんだから、無理に決まってるじゃない」
「む、確かに言われてみればそうだ。すまない、鈴、少々我を忘れてしまっていたようだ」
「いいわよ。……一夏を一人部屋のセシリアの部屋に呼び出すつもりだったって言わなくてよかった」
「何か言ったか?」
「ン?ナンノコト?」
「いや、どうやら、気のせいだったようだ。セシリアは何か案はないか?」
「……」
「セシリア?」
「透ける白か、際どい黒か、一夏さんはどちらが好みなのでしょう?」
「……」
「……うわぁ、セシリアはエロいわね」
「あれ?鈴さん、私たちはその夜這いの話をしていたのでは?」
「箒が無しって言ったじゃない」
「え?そんなこと言っていましたの?」
「もしかして、アンタ、いろいろ考えていて、アタシたちの話耳に入ってなかったの?」
「どうやら……」
「はぁ……」
「ですが、もうこれぐらいしか方法がないと私は思うのですが?」
「どういうことよ?」
「考えてみてください。箒さんと同室であった時に何かありましたか?」
「何かとは何だ?」
「その裸を見られたとか的なアクシデントってことよ」
「む、それに近いのはあったが……」
「その時一夏さんは?」
「逃げただけで、何もなかった」
「は?なんで逃げたのよ?」
「私に斬られると思ったのだろう。私も我を忘れるとすぐ斬りかかる自分を替えたいのだが……」
「女体という生肉を前にして、襲い掛からないとなると、一夏さんは不能なのか、ドが点くほどの鈍感なのかどちらかと考えざるをえません。不能ならば、諦めは付きますが、鈍感となると、普通のやり方では到底気付いてもらえないと思いますわ」
「確かに…」
「だが、今度の学年別トーナメントで勝てば、付き合ってもらうと宣言したぞ」
「宣言って、アンタ、一夏と約束したわけじゃないでしょ。そんなの無効よ!」
「こういうものは言ったもの勝ちだ」
「仮に、箒さんの言ったことが有効だとしても、恋仲にはなれないと思いますわ」
「む、いったいどういうことだ、セシリア?」
「ですから、付き合ってもらうという約束であったとした場合、それを一夏さんは“買い物に”付き合う程度にしか考えていない可能性が高いかと…」
「……」
「あー、ありえるわね。箒、ドンマイ」
「ですから、押し倒すというのも視野に入れて考えなければ……」
「だが、それはあくまで最終手段だ」
「分かってるわよ。アタシも女の維持があるの。そう簡単に体を出すような安い真似はしたくないものね」
「そうですわね。とりあえずは……」
セシリアはギロリと箒を睨む。
「箒さんを優勝させては成りませんわね」
「何故だ?私が優勝しても、買い物に付き合う程度なのだろう?」
「高い可能性だと私は言ったはずです。万が一ということもありますし、それに、箒さんが買い物の時に一夏さんとそういうことになる可能性はなきにしもあらずですわ」
「確かにそうね。セシリア」
「鈴さん、此処は専用機持ちである私たちは組んだ方が得策かもしれませんわね」
「それ良いね。二人で箒倒しちゃおうか。二度と抜け駆けが出来ない様に教え込むために」
どっちの方が、読む人が多いのかなと、ほぼ同時に投下した結果、こっちの方が多かったので、当分こっちを進めていきます。
屑霧島