IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

23 / 43
私は二度と、私の愛を失わない


       腐れ神父


21

楯無は険しい表情で第1アリーナの廊下を歩いていた。

時間はSHRが終わり、放課後になってから2時間は経っている。そのため、生徒たちは部活や宿題、ISの自主練等、思い思いに過ごしている。

だが、自分が今居る第1アリーナのグラウンドには一人を除いて誰も人が居ない。

いつもなら、ISの自主練をする学生で賑わっているのだが、第1アリーナは練習試合のため、貸切りになっていたからだ。だが、練習試合の見学という形で多くの生徒が観客席に居た。観客席はたとえ練習試合になっても、出入りは自由になっているからだ。

アリーナの貸切願いを出した人物は、自分の妹であり自分の決闘の相手である更識簪。

 

「……『決闘を申し込みます。明日の夕方6時、第1アリーナに待っています。更識簪より』……ね。」

 

楯無は昨日クラリッサから貰った果たし状に目を通す。

果たし状であるにもかかわらず、喧嘩を売っているような書き方をしていない当たり、引っ込み思案な簪の性格が滲み出ていると楯無は感じ取りつつ、簪の意外な一面を見て驚いていたりする。なぜなら、楯無は、簪は決闘なんて非生産的なことはしないと思っていたからだ。簪が今でも合理主義者であるなら、この決闘になにかしらの意味があるのだろうと、楯無は考えた。

 

では、自分と決闘をして簪にとって意味のあることは何かと、楯無は考える。

自分はIS学園の最強の生徒と自負している。自惚れているのではないかと思われるかもしれないが、それでも客観的に分析して、自分が簪に負けるとは思えない。

 

なぜなら、ISの操縦者としての技量は自分の方が上であるからだ。

そうでなければ、生徒会長という役職に自分は就けていない。

なぜなら、生徒会長は生徒を守る立場になくてはならない。そのため、生徒会長には強さが求められる。結果、IS学園の生徒会長は一般的な生徒会長のように生徒会選挙のようなものが行われるわけではなく、奇襲や武器、IS等、何でもアリの戦いで、勝った者がIS学園の生徒会長となるとされている。

そのため、IS学園の歴代の生徒会長は皆、武術に精通しつつ、ISの操縦技術が高い。

特に、楯無は歴代最強の生徒会長と言われている。

そんな自分が妹に負けるはずがない。これは主観抜きの客観的な判断だ。

そして、頭が悪くない簪自身もそれに気づいていないはずがない。

 

では、負け覚悟で戦いを挑んできたのか、それとも何か切り札があるのだろうか。

それで勝って、何をしたいのか、何を手に入れたいのか。

分からないが、あれこれ考えても仕方がない。

 

「5時55分、時間通り。」

 

様々なことを考えていた楯無はアリーナの管制室に着いていた。

指定された時間の5分前、自分の専用機を展開するには十分すぎる。それどころか、アリーナの中央に居る妹の専用機の分析を軽くするぐらいの時間があった。

楯無はアリーナの管制室のパネルを操作し、簪の専用機をモニターに表示した。

 

「打鉄弐式。」

 

日本の第2世代ISである打鉄の後継機だ。

倉持技研が開発途中だったが白式の開発及びデータ収取のため、人員が裂けなくなり、簪が引き継ぎ、一人で開発を行っていたと聞いていたが完成しているとは知らず、訓練機の打鉄で戦うと思っていた楯無は驚きを隠せなかった。

モニターに表示されたスペックから考えて、打鉄弐式のコンセプトは、防御重視の打鉄と異なり、機動性を重視していることが分かった。

武装も打鉄と異なり、薙刀が一つと、大きなミサイルポッドが複数あるのが分かっただけで、それらの武器がどのような特性を持っているのか、他に何か武器を備えているのかは分らなかった。

 

「どうやって、完成させたのかしら?」

 

楯無は疑問に思った。簪の技量から考えて、簪が一人で専用機を開発し、完成させるとは思っていなかったからだ。となると、誰かが簪の専用機作りを手伝ったのか?と楯無は仮説を立てた。自分と布仏家の人間以外と喋ったところをみたことがないため、あり得ないと楯無は思ったが、それしか考えられない。

では、誰が手伝ったのか?最初に思い浮かんだのはクラリッサだった。彼女は簪のクラスの副担任である。それに、簪の書いた果たし状を自分に持ってきたのはクラリッサだ。彼女が手伝っていないと考える方が無理な話だ。他にも、簪直属のメイドである布仏本音も考えられる。彼女ならISの整備技術に通じているため、戦力になる。だが、3人で専用機を開発するには限界がある。そのため、他にも人は必要だ。

となると、ほかに考えられるとしたら、…クラスメイトぐらいだ。

 

「簪ちゃん、知り合いが出来たのね。」

 

簪が自分や本音以外の人と喋っている記憶のない楯無は、純粋に妹の成長が嬉しかった。

一通り打鉄弐式の分析が終わった楯無はパネルを終了させ、管制室を後にし、ピットへと向かった。管制室とピットはそんなに離れていないため、すぐに着いた。

楯無はピットの発射台の中央に立ち、アリーナの中央に居る簪を見据えた。

すると、簪も自分の存在に気が付いたのか、表情が険しくなる。

 

「さて、決闘の時間ね。」

 

楯無は自分の専用機ミステリアス・レイディを展開し、アリーナへと飛び立ち、アリーナの中央の上空20mの試合開始地点へと向かう。

同時に、アクア・クリスタルからナノマシンで構成された水のヴェールを展開する。

 

「…こんな形で、貴方と向き合うとは思っていなかったわ……簪ちゃん。」

「…私も。……ハルフォーフ先生が背中を押してくれなかったら、此処に来る勇気が無かった。」

「良い先生を持ったのね。」

「お姉ちゃんより、……本物のお姉ちゃんみたい。」

 

その簪の言葉は楯無にとって、辛いものだった。

自分は姉として、妹に姉らしいことをしていなかったどころか、妹から逃げていた。

織斑一夏という天然のジゴロに近づき、一夏の内心と好きな人を知るために、妹との不仲を利用しようとした考えたこともあったが、そんなことは所詮自分の頭の中でのことであり、妹との関係の修復は主目的ではなく、副目的。しかも、そのようなことを考えるだけで、行動に移さなかったのは、今の妹との関係は自業自得賜物だから、自分の非道を直視したくなかった。楯無は妹との関係を修復したかったのだが、現実を見ることが怖かった。

だが、妹から直接無慈悲な言葉を言われて、楯無は妹の言葉にむきになってしまう。

 

「私以上のお姉ちゃん…ね。良かったじゃない。私よりお姉ちゃんらしい人に出会えて。で、もう私は要らないから、引導を渡すってところかしら?でも、私は弱くないわよ。ISの試合で簪ちゃんに負けるなんて万に一つもあり得ない。」

 

蒼流旋を展開し、その刃先を簪に向け、いつでも掛かってきても良いように構える。

楯無は問答をしたくない。自業自得をこれ以上自覚させられたくなかったからだ。

一方の簪も夢現という薙刀と険しい視線を楯無に向け、突撃する。

 

 

 

織斑一夏は第一アリーナの観客席でIS学園最強とその妹の試合を見ていた。

IS学園の生徒会長は学生最強だと言われており、有名だ。

セシリアや鈴たちがそんな楯無の動きを見てISの勉強をしようという建前で誘ってきたからだ。一夏はこれを断る理由が無かったため、箒とシャルロットも誘いアリーナに来た。

 

「……あれがIS学園最強。流石ですわね。」

「噂では聞いていたけど、これほどの実力を持っていたなんて……もう、会長が主導権を握ってるわよ。」

 

簪の夢現による初撃を楯無は蒼流旋で受け流した直後、蒼流旋に内蔵されたガトリングガンで背後から射撃を行い、打鉄弐式のシールドを削る。

簪は振り向き、反撃を試みるが、その頃には楯無は簪から距離を取っていたため、ある程度のダメージ覚悟で簪は再び特攻をかける。

だが、ミステリアス・レイディの周囲に展開されたアクア・クリスタルによるクリア・パッションによって行く手を阻まれる。楯無は自分の攻撃の衝撃を防御用に用意していたアクア・クリスタルによって防ぐ。一方の打鉄弐式は防具が無いため、楯無の攻撃を防ぐことが出来ない。打鉄弐式を機動性重視したため、打鉄にあった防具をきったからだ。

そんな打鉄弐式のコンセプトを試合前の短時間で見抜き、広範囲の攻撃を打鉄弐式は苦手としているとすぐに見破れたのは楯無の技量によるものだ。

そして、楯無はクリア・パッションによる広範囲攻撃という必勝のパターンをひたすら繰り返す。相手の苦手な戦術が分かれば、その戦術に徹することが勝利への近道で、攻撃を変え、様々な戦術を取るのは三流だと言うのが楯無の理論だったからだ。もし、相手が自分の攻撃パターンに慣れてきたら、その時に攻撃のパターンを変えればいい。

楯無は簪の攻撃をすべてやり過ごしたが、一方の簪は大幅にシールドを減らしてしまう結果となってしまった。

 

「箒とシャルはどう見る?」

「セシリアや鈴の言う通り。会長さんに勝てないと思う。会長さんはまだ手を隠しているはずだよ。」

 

機体の名前はその機体の特徴やコンセプトが現れる。

白式なら機体の色がそのまま名前に反映され、ブルー・ティアーズはそのメイン射撃武器を雫に例えたことから来ている。ラファールは風のように機動性が高いということから来ており、打鉄は打った鉄のように固いというところから来ている。

ミステリアス・レイディはその攻撃手段の多さと激しさから、不思議な面白い女性のようだとある男に評され、そのような名前が付いたというのはIS学園では有名な話だ。

 

「私もシャルルと同意だ。……だが、負けるつもりはないみたいだ。」

「?」

「何でそう言えんのよ?戦力差は圧倒的じゃないの?」

「そうだ。だが、……生徒会長の妹さんからは諦めた気が感じられない。考えられるとしたら、生徒会長と同じく手を隠して、今はその決定打の出しどころを探しているのではないか?」

 

箒の言葉の直後、簪は楯無と距離を取り、切り札を出す態勢に入る。

一方の簪から只ならぬ気配を感じ取った楯無は身構える。

打鉄弐式の『山嵐』である。

大気の状態、各弾頭の機動性、タイムラグ、爆発における相互干渉、発揮できる攻撃力などの情報をもとに、各弾頭の動作のプログラムを打ち込む必要がある。

故に、試合会場によって、それぞれのプログラムを設定する必要がある。

だが、この試合会場はIS学園のアリーナであり、時間指定をした。自分が事前にこれらの情報を四十八基すべてに入力していないわけがない。

山嵐の発射はすぐにでも出来た。

 

「力を貸して!打鉄弐式!」

 

ミサイルポッドから一斉に発射され、その内の数機が真っ先に楯無に襲い掛かる。

楯無は正面の水のヴェールを厚くし、防御と回避に徹する。

この誘導型ミサイルを凌ぎ切れば、簪の大きな隙が出来るはずだ。攻撃を耐えきり、攻撃直後の隙を突くことが出来れば、簪に確実に勝てる。また、防御と同時に回避行動を行えば、着弾のタイムラグを広げることが出来るため、防御をより確実なものにできる。

だが、楯無がそのような戦略を取ってくることなど知っていた簪はその対抗策を準備していた。その対抗策というのが、自らの特攻だった。

 

「なるほど。ちゃんと切り札が切れるように自分すらも犠牲にするというわけね。流石は我が妹。無茶苦茶するわね」

「お姉ちゃんの動きを制限できれば、山嵐は私の期待に応えてくれる」

 

装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点に集中させる。

 

「でもね、私もね、ミストルティンの槍っていう切り札持ってるのよ」

 

集めたアクア・ナノマシンを超振動させながら前方に向けて放出し、特攻してきた打鉄二式の装甲を粉砕する。壊れた装甲の隙間にアクア・ナノマシンを流し込み、エネルギーを暴発させ、爆発が起きる。この爆発によって、ミサイルポッドの信管が反応し、大爆発が起き、楯無と簪はこの爆発に飲み込まれた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。