IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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あなたはしょせん邪魔者だ! いつまでもジャンル違いがのさばるんじゃない!



            頑固頭


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「うぅ、もう朝から寝たい。家で布団に包まっていたい。あぁ、もうヤダ。眠たくなってきた。頭、グリングリンする。どうしてこの学校は問題児ばっかりなの。やっと、生徒会長に成れたのに、なんでこんなことに、なんで私が悪いの、あぁ、もうヤダ。もう帰りたい。もうヤダ。寝ながら、スナック菓子食べていたい。」

 

更識楯無はとても憂鬱だった。最悪と言っても過言ではないだろう。

その原因はあの変態ストーカー集団『I5』の存在だ。

統制し管理しているつもりだったのだが、自分が変態達の成長を助長させていた。

その結果、囚人に乗っ取られた収容所と化し、看守がコントロールできないものへとなってしまった。だが、打つ手が無いというわけでもなかった。

収容所で暴動が起きれば、軍に看守が報告することと同様に、コントロールできない『I5』の現状を楯無はIS学園の教師たちに報告した。当初、IS学園の教師陣は『I5』のことを楽観視していたが、教師の内の一人が襲われたことで、重い腰を上げた。教師陣が『I5』による被害が出ないように『I5』の一部のメンバーを監視している。

そんな事情から、現在、IS学園では生徒と教師が戦争をするような、三流不良少年漫画のようなことになりかけている。

 

そのため、楯無は教師側の駒として、『I5』の連中と対峙し、『I5』を殲滅する立場となった。そして、楯無はそんな教師陣の命令で『I5』を壊滅することのできる可能性が高い一夏と接触することとなった。

なぜ、一夏がそんな可能性を持っているのか?それは『I5』の目的が一夏のハーレムを築きあげることにあるからだ。そのため、一夏が『○○と付き合います』と言えば、『I5』は自壊する。だが、それがどうなのか教師陣は分らない。

そのため、楯無を一夏に会わせて、それを聞くこととなったのだ。

姉である千冬が一夏に聞くという手段もあったが、最近千冬と一夏との間には距離が出来ているということを千冬本人から聞いていたため、代役が必要となった。

一夏の友人であるクラリッサ・ハルフォーフという選択肢もあったのだが、クラリッサは策を講じることは得意でないため、こういったことには不得手だと千冬は判断する。

結果、これまで接点が無いほうが、一夏との関係を構築させやすいため、一夏の知り合いではない人物が好ましいと教師陣は判断し、一夏と一度も会ったことのない楯無が代役に選ばれた。

他にも一夏と会ったことのない人は居るだろうと楯無は反論したが、生徒同士の方が何かと話しやすいだろうと反論されてしまい、自分がやることとなった。

 

自分としてはこの役だけはしたくなかった。

なぜなら、楯無自身が一番『I5』の恐ろしさを知っているからだ。

自分が会長をやっていたころは、盗撮(一夏の観察をしている)、密売(一夏の盗撮写真を売ってお金を稼ぐ)、銃刀法違反(『I5』の敵をいつでも滅尽滅相できるように)が行われていた。

だが、自分が抜けてからは活動が激しくなったという情報がある。風の噂では窃盗(一夏の私物を一時的に借りて、匂いを嗅ぐ)、不法侵入(深夜、一夏の部屋に侵入し、ベッドの下に潜り込み、一夏と添い寝をした気になる)、密造(一夏の等身大写真が貼られた抱き枕)、器物損壊(一夏の服の第2ボタンを取る。)などがあったと聞いている。

そして、先日の菜月の事件だ。

自分が一夏に接近しようとすれば、どんな目に合うのか、想像するだけで恐ろしい。

 

「まずは、情報ね。」

 

相手を知り、己を知れば、百選危うからず。

一夏に会う前に、楯無は一夏のことを知ろうと実家に頼み、一夏の情報を集めた。

楯無の実家は裏社会に通じる一家だ。と言っても、麻薬を取引するようなマフィアのような一家ではない。逆にそんなマフィアたちから表世界の住人を守るために存在する一家。一言で表すなら、対暗部用暗部が適切だろう。

その実家から送られてきたレポートが今朝届いたため、楯無はレポートを読み始めた。

レポートに書かれていることは、『I5』では知りえない情報ばかりであるため、この情報を欲しがる連中に、楯無がこんな情報を持っていると知られたら、襲われかねない。

そのため、このレポートを手に取りたくなかった。だが、これが仕事である以上、やらなければならない。憂鬱な気分だった楯無は仕事モードに入る。

 

「……織斑一夏君ね。」

 

身長は172cm。9月27日生まれ。IS学園1年1組所属。クラス代表。

家族構成は姉弟の二人のみ。両親は幼年期に失踪、現在も行方不明。

出身中学校は近所の公立中学校。成績は上の下。といっても、IS学園に来た生徒のレベルとして考慮すると、成績は下の中と言ったところだ。

中学生時代の部活は帰宅部。

中学時代の友人に五反田弾、五反田蘭、御手洗数馬、凰鈴音のみ。交流のある同世代は4人以外存在しない。同じ中学出身の男子によると、女子から人気があったため、男子から嫌われていたらしい。数度の喧嘩があり、謹慎処分を受けている。

女子からの人気が高く、中学の3年間で、告白された回数は50を、ラブレターを貰った回数は200を超えたという話もある。だが、全て交際を断っている。理由は不明。『唐変木・オブ・唐変木ズ』という称号はこの頃に友人によってつけられたという。

第2回モンド・グロッソで誘拐されたことがあり、一夏の捜索に協力してくれたドイツ軍に千冬が恩返しをするために、一時一人暮らしに。

 

出身小学校は近所の公立小学校。成績は上の下。

小学校の友人は篠ノ之箒のみ。篠ノ之箒の姉である篠ノ之束がISを開発したことで、篠ノ之箒は重要人物保護プログラムにより転校。それ以降は友人が出来ていない。理由は中学の時と同様。篠ノ之箒が転校する前までは共に篠ノ之道場で剣道を行っていた。

また、箒の姉である篠ノ之束と交流があり、束からは『いっくん』と呼ばれていた。

 

「小学生の時も中学生の時も普通のように見えるけど、女の子からの告白を断る理由になりそうな出来事は全くない。どんな女の子たちに告白されていたのか知らないけど、一件ぐらいオッケーしてもよさそうな感じなのにね。篠ノ之さんのことが好きだったのかしら?……あら?」

 

最後に薄いレポートをあることに楯無は気付いた。

そのレポートはとISに関連する論文だった。

ISの業界では日本語は共通語であるため、論文は日本語で書かれていた。

題名は『ISの適性と狂犬病に関する考察』というものだった。

 

「………狂犬病?」

 

論文の発表者はとある医者だった。

この医者は元、狂犬病にかかった一夏の主治医だったらしい。

楯無は論文を読んでいく。冒頭は患者である一夏について書かれていた。

 

小学1年の12月1日、姉の千冬と散歩中に、山に訪れ、その山に居た野犬に噛まれたことが原因。野犬は翌日殺処分され、一夏本人にワクチンが投与されたが、同月25日、狂犬病を発症。症状は精神錯乱、恐水症状、全身麻痺、呼吸困難。

ミルウォーキー・プロトコル治療の効果は無く、回復は絶望的とされた。

だが、治療開始より3カ月後の3月10日未明、突如回復。

後遺症として、記憶障害が残ったが、21日に自分の足で立ち、退院。

狂犬病の致死率は非常に高く、年間50,000人が命を落としている病気だ。

発症前に予防接種を受けるもしくは、ミルウォーキー・プロトコル治療を受けるしか治療方法は無い。現在のところ、狂犬病が完治した人間は50人にも満たないのだが、この人達は全員、どちらかの治療で回復している。

だが、一夏の場合、いずれの治療も効果が無かったにもかかわらず、狂犬病から回復したのは世界初。原因は不明のままだが、ISの操縦者に成れたことに、この狂犬病が関係しているのではないかと書かれていた。

 

この論文は理論がしっかりしていないため、論文の査読の段階で切られたらしく、この論文を知っている人は少なく、情報取集部隊も本当にたまたま見つけたらしい。

 

「何かしらね。」

 

楯無は電話を取り、実家の情報収集部隊にこの病院の調査を依頼した。

一夏の意中の人を聞くことに直接関係していないかもしれないが、長年暗部としてやってきた楯無の直感が、これは何かがあると感じ取ったのだ。

全て計算して動く打算的な楯無だが、こういった勘を重宝している。

なにせ、今まで自分の勘は外れたことがないからだ。

だが、一夏が狂犬病を発症したことがあまりにも昔過ぎるため、調査の結果が出るのは遅いだろうと楯無は判断する。速くても、一か月。遅くても半年ぐらいだろう。

 

その間、遠回しに、一夏の狂犬病について、自分自身で何かしらの探りを入れてみるが、おそらく望み薄だろう。なぜなら、一夏は記憶が欠落しているらしく、そのうえ、一夏の姉は千冬で、千冬に千冬の家族の話は禁句とされているのは学内では有名な話だからだ。

 

「私が今できることはこんなところかしらね。」

 

楯無はそう言うと、ジャムがたっぷり入ったロシアンティーを飲む。

疲れた体に、糖分が染み渡り、心を落ち着かせてくれる。

最近の楯無の楽しみはこれぐらいしかない。

昔は妹と遊ぶのが好きだったのだが…

 

「簪ちゃん、どうしているかな?」

 

楯無には妹が居る。

更識簪。日本の代表候補生で4組のクラス代表にして、専用機持ちだ。

少しネガティブ思考だが、根はとても優しい。

昔は自分の後を追いかけてきたのを覚えている。

だが、年を重ねるごとに、妹は自分から離れて行った。その理由が、周りからのある言葉を簪は気にしていたのだと、ある時楯無は知った。

その、ある言葉というのが『お姉さんは出来たのに』だった。

その言葉で簪は自分に対し、劣等感を抱くようになり、自分と比べられたくないから、自分から距離を取り始めたのだ。

そこで、楯無は簪に話をして、励まそうとしたのだが、自分の言葉の途中で簪が逃げてしまい、自分の伝えたいことを伝えきれなかった。そして、それ以降、簪は自分を拒絶するようになってしまった。今考えれば、自分と比べられていることを気にしている簪が自分に励まされると言うのはとても惨めなことだ。あの時の簪はそう思い、余計にマイナス思考になってしまい、途中で逃げてしまったのだろうと楯無は反省した。

下手に話さなければ良かったと後悔している。

 

「私馬鹿だな。」

 

大事な妹が自分の所為で、どんどん引きこもりになっていく。手を差し伸べたいのだが、妹を此処まで追いつめてしまったのは自分だ。今さらどんな顔して合えば、分からない。

会いに行ったとしても、門前払いされてしまうだろう。

会いに行ったことはないから、門前払いされたわけではないが、そんな気がする。

潔く、開き直って、会いに行って、話をすればいいのだが、楯無は簪に汚い言葉でなじられるかもしれないと、尻すぼみしてしまい、なかなか妹に会いに行く踏ん切りがつかない。

 

仲良くしたい。昔みたいに、お姉ちゃんって呼んでほしい。

だけど、やっぱり怖い。

楯無は自室に飾られた姉妹で映った昔の写真を見ながら、そんなことを考えていた。

 

コンコン

 

「誰かしら?こんな時間に?」

 

楯無は立ち上がり、扉へと向かう。鍵を解除し、扉を開けた。

すると、扉の向こうには…。

 

「頼もう!」

 

妹のクラスの副担任、クラリッサ・ハルフォーフが居た。

ただし、ちょん髷の被り物を被り、羽織袴を着ている。謎すぎた。

羽織には家紋ではなく、シュヴァルツェ・ハーゼの紋章が入っていた。

侍のコスプレなのだろう、ちょび髭を付け、脇差を刺しているあたり、本格的だ。

クラリッサは封筒ぐらいの大きさの折りたたまれた紙を楯無に突き出す。

その紙の表紙にはこう毛筆で書かれていた。

 

「果たし状?」

 


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