IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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知らぬ存ぜぬ。纏めて心底どうでもいい。



      Bカップ電波先輩


18

「更識さん、また、一緒にご飯してもいいですか?」

「別に……いいですよ。……ここは私だけの場所じゃないですから。」

「そうですね。それでは横を失礼。」

 

クラリッサは自分が受け持つクラスの女生徒の隣に座る。

女生徒の名前は更識簪。かなり大人しめの生徒だ。

さらに、付け加えるなら、此処の生徒会長の妹である。

だが、二人の性格は真逆で、先ほども言ったが、簪は大人しめなのだが、姉である更識楯無はイタズラ好きの猫のような性格でありながら、カリスマ性のある人物だと聞いている。最近少しやつれたと聞いているが、基本はそんな感じらしい。

そんな生徒会長で目立っている姉がいるせいで、あまり評価されていないが、簪自身は成績がとてもよく日本の国家代表候補生となり、4組のクラス代表をしている。

だが、こんな詳しくクラリッサが簪のことを覚えていたのには、他の理由が大きい。

そのうちの一つがクラリッサの受け持つ1年4組の唯一の専用機持ちだからである。

といっても、簪が専用機を持つという確約があるわけで、現在専用機を持っているわけではない。というのも、一夏の登場で、簪に回ってくるはずであった専用機が一夏に回ってしまったからだ。そんな複雑な事情を担任から聞かされていたため、クラリッサは覚えていた。そして、もう一つの理由が

 

「眼鏡っ娘……萌え。」

 

簪に聞かれないようにクラリッサは小さく呟く。

眼鏡をかけ、大きめの髪飾りをしている簪の姿がクラリッサのオタク魂をくすぐったのだ。

クラリッサはフォトショを使って、合成写真を作り、生徒たちに合う萌え属性を調べていたりしていて、更識簪はもともと大人しめクール委員長系眼鏡っ娘という属性を備えており、追加で付与する属性がこれと言って見つからない、と言いますかこれで完成しているということが分かったクラリッサは簪という生徒のことを気に入っていたりする。

 

「更識さんはいつもこんなところで食べているのですか?」

「はい。」

「寂しくないですか?」

「寂しくない。友達もいらない。」

「友達欲しくないですか?」

「自分のことで精一杯なのに、友達が出来ても、重荷になるから。」

「……そうですか。」

「先生こそ、誰かと一緒に食べなくて、寂しくないですか?」

「……寂しいですよ。でも、これは仕方がないのですよ。書類が…書類が襲ってくるので、職員室から戦略的撤退をしているだけで、私を職員室に連れ戻そうとする千冬さんから逃げているわけではありません!」

「そ…そうですか。」

「はい。そうなんです。……これ以上話している辛くなってくるので、書類の話とか、寂しいとか、そんな話は止めましょう!」

「先生が話し出したと思うのですが…。」

 

ため息を吐きながら、簪は言う。

 

「では、更識さんの専用機について話をしましょう。」

「え?」

 

簪は予想外の話題に驚き、持っていた箸を落としてしまう。

自分の専用機についての話題を振られると思っていなかったからだ。

 

前述のとおり、簪はある事情により専用機を持っていない。

だが、政府からISの核は与えられている。

簪の専用機を開発する予定だった倉持研は、白式の開発と研究で人員に余裕が無いが、他にIS企業は国内に数件あるのだから、ISの核を持っていき、他のIS企業に専用機の開発を依頼すればいい。それでも、簪は自分で専用機を作ることに固執した。

 

それには自分の姉である楯無が関係している。

文武両道、才色兼備、等々周りから尊敬されている姉は自分と同じときに自分の専用機を作った。優秀な姉に対して劣等感を抱いている簪は姉と同じことが出来ることを証明したかった。そうすれば、周りは自分を姉の付属品ではないと認めてくれる。

簪はそう思い、ISを作っていた。だが、専用機の開発は困難を極めた。

いつまで経っても、思いが形にならない。そんな時だった。

 

『だから、あなたは弱いことを、みっともないことを、受け入れなさいな。』

 

ショックだった。劣等感はあったが、尊敬し、慕っていたからこそ、辛かった。

 

結果、簪は全てが煩わしくなり、他人と疎遠になり、一人になってしまった。

だが、そんな状況を簪は嫌いではないと、そう思うようになってしまい、それが楽だと感じるようになってしまった。結果、何のために自分は専用機を作るのか分からなくなり、頑張っていたはずの専用機作りにも身が入らなくなり、上手く行かなくなってしまう。

たまに、ISいじりをしているが、開発が停滞してしまっている。

 

簪の担任は簪が専用機作りをする当初の動機を知っていたため、姉のことが嫌いになった簪が今以上に部屋にこもるのではと心配し、専用機の話をあまりしないようにしていた。

そして、担任が自分を腫れもの扱いするということを簪は感じ取っていた。

簪もそのままにしておいてほしいと思っていた。

 

「……放っておいてください。」

「駄目です。」

「どうしてですか?ハルフォーフ先生に迷惑はかけていませんよね。」

「確かに、そうです。1年4組の成績が悪かったら、給料が下がるとかいう規定もありませんから、更識さんの専用機が出来なくても私は全く問題ありません。」

「だったら、どうして、私に構うんですか?」

「私が先生だからです。」

「…先生?」

「更識さんは、先生とは何のために居るか考えたことはありますか?」

「……勉強を教えるため?」

「残念、スーパーヒサシくん、ボッシュートです。」

 

クラリッサは口をとがらせて、簪の答えを否定する。

そんなクラリッサの表情に一瞬簪はイラッとする。

だが、ふざけていたクラリッサは笑顔になる。

それどころか、真剣さがある。

こんな澄んだ目を見たのは初めてで、その眼には何が映っているのか知りたかった。

そう思ったのは、クラリッサの澄んだ青色の眼が自分を見ていたからだ。

 

「先生は、生徒たちが未来への道を見失わないように、照らす閃光なんですよ。」

 

クラリッサは曇りない声で誇らしげに言った。

先生とはそうあるべきで、現在教鞭をとっている自分はこう在りたいと思っている。

それは、シュヴァルツェ・ハーゼの最年長で部隊の皆から頼られるお姉さんでありたかったとクラリッサが思ったのもあるが、ラウラ・ボーデヴィッヒという尊敬する上官が自分勝手な価値観の押し付けで一夏を殴ったということを聞き、ボーデヴィッヒを正したいと願ったところが大きい。

 

「だから、生徒が間違った道に行こうとしたら、道を正させる。それが学校の先生です。」

「…間違った道」

「はい。更識さんは自分で建てた『お姉さんに勝ちたい』という目標から逃げています。」

「でも、お姉ちゃんには本当に敵わない。」

「本当にですか?」

「……うん。駄目だった。」

「絶対に?どんな些細なことでも?」

 

普段の簪は追い打ちをかけられているように感じてしまうだろう。

クラリッサは自分と姉と比べている。

だが、それは自分が姉の劣化コピーじゃないと証明するために、自分を見直させるための言葉であると簪は気付いていた。普段の簪なら、それに気づかないであろうが、さきほどのクラリッサの自分のあり方を聞いた簪は、いったい自分は本当はどうありたいのか、見つめ直さなければならないと思った。

 

「……編み物。」

 

簪は小さな声で呟いた。

 

「ほら、あるじゃないですか。勝ってるところ。」

「でも…、編み物なんて…お姉ちゃんが苦手で、私の方が少し出来るだけで、勝ち負けとかそんなじゃないです。」

「それでも更識さんがお姉ちゃんに勝っている。だったら、他のことでも勝てるかもしれませんよ?」

「……。」

「もっと、いろんなことで勝ちたくないんですか?」

「……分からない。」

 

分らないと答えたのは自分自身がどうありたいのかと簪は見失ってしまっていたからだ。

だから、『勝ちたい』とも『負けてもいい』とも答えられなかった。

 

「ISでは?」

「…無理。」

「だったら、どうして、時々、開発中の自分の専用機を触っているのですか?」

「…え?」

 

簪は時々、整備室に足を向け、自分の専用機の開発をしていた。

時々と言っても、唐突に専用機を作りたいと思った時だけで、時々と言えるような頻度でもないと思われるようなものだ。本当に2週1度、もしくは週に1度、1時間程度だ。

何故か、その時だけ自分が専用機を作りたいと思う。

理由は簪本人でも全くわからない。

分らないが、どうしても足が整備室へと向くのだ。

 

「本当はISでお姉ちゃんに勝ちたいって、お姉ちゃんを見返したいって。諦めきれないから、専用機を完成させたいって思っているんじゃないですか?」

「……。」

「…はぁ……更識さん!」

 

煮え切らない簪を見て苛立ったクラリッサは立ち上がる。

黙ってしまった簪の前に、クラリッサは移動すると、簪の肩に手を置いた。

簪はビクッとし、ゆっくりと顔を上げる。

 

「ちゃんと姉妹喧嘩をしましょう!」

「……え?」

 

クラリッサの言葉は簪の理解の範疇を越えていた。

 

 

その頃、

 

「すまん、ハルフォーフ先生は居るか?」

「あ、お疲れ様です。織斑先生。ハルフォーフ先生なら、『購買で焼きそばパンを買いに行く』と言って出て行ったっきり、かれこれ2時間戻ってきませんが、何か用ですか?」

「あぁ。織斑が私に弁当に作ってくれたのだが、私はすでに昼を済ませてしまってな。ハルフォーフ先生に譲ろうかと思ったのだが…。」

「織斑君のお弁当ですか?」

「あぁ。榊原先生はお昼が未だでしたら、良かったらどうですか?」

「え!良いんですか!」

 

菜月は職員室の椅子から勢いよく立ち上がり、千冬に迫る。

異性の作った弁当を食べたことのない菜月の食いつき方は、絶食させられていた獣の前に肉の塊を見せた時の反応に近いものがあった。

 

「あぁ。良かったら、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 

菜月は弁当を抱えると、一夏に礼を言うために、スキップで、1年1組に向かった。

 

翌朝、『I5の皆さん、ごめんなさい。もう弁当は食べません。一夏様のお弁当は受け取りません。』と呟き怯えながら、菜月は職員室に出勤した。

 


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