IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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血 血 血 血が欲しい
ギロチンに注ごう 飲み物を
ギロチンの渇きを癒すため
欲しいのは 血 血 血

              金髪おっぱいより




 

「ちょっと、よろしくて?」

 

3限目の授業が終わり、エリート高校のIS学園の授業についていけると安心していた一夏に、突然、声をかけられた。だが、不意打ちではなかった。

2時間ほど前に箒に声をかけられたのだから、また誰かに声をかけられるかもしれないと、心の準備だけはしていたからだ。一夏は声をかけてきた人の方を向く。

 

「何かな?オルコットさん?」

 

自分を呼んだ人物の顔を見た一夏はさきほどの授業で先生から呼ばれていた名前をなんとか思い出し、オルコットの呼びかけに返事をするために席から立った。

オルコットの名前を憶えていたのは、今日の初めの自己紹介の際に、自分のことをすごく凝視していたことが一夏にとって、とても印象的だったからである。

さらに、授業で先生の質問に、大きな態度で答えていたことから、オルコットは今の女尊男卑の世の中の女性の立場を表したような人だと一夏の記憶に残っていたということも、一夏がオルコットの名前を憶えていた要因であった。

一夏はこういった女性の扱いを心得ていた。

基本的に相手を褒め、貶めず、調子に乗らせ過ぎなければ、基本的に無害だが、露骨に褒めたら、馬鹿にしているのかと思われかねないため、そこは注意しなければならない。

そのため、相手の出方を注意しなければならないのだが、オルコットは自分の周りをぐるぐる回りながら、まるで品定めをするように見ている。

予想外のオルコットの行動に一夏は戸惑っていると、ピタリとオルコットの足が止まった。

 

「思ったより、幸薄そうな男性ですわね。」

 

『だからどうした?』と一夏は不機嫌になるが、顔に出したら、気づかれてしまうかもしれない為、顔色を変えずに、適当にあしらう。

だが、それも無用の心配だったらしく、オルコットは自分が専用機持ちのイギリス代表候補生であり、IS学園の入試で唯一教官を倒したと自慢し、自己陶酔している。

 

そんなオルコットは誰から見ても傲慢に見えるが、それは実力があるからこその態度だ。そして、その実力は『国家代表候補生』という肩書が証明している。

『国家代表候補生』とは文字通り『国家代表』の候補であり、例えるなら、オリンピック候補生が一番近いと言われている。だが、ISの登場で社会の構造や軍事力のバランスを変えるほどの注目度を考慮すると、『国家代表候補生』になることはオリンピック選手になるぐらい難しいとさえ言われている。

 

面倒な奴に捕まったと、一夏は不満に思うが、この状況を何とかする方法がない。

こういう輩は無視すると、後々面倒だからだ。

だから、適当に合わせながら、会話の内容だけ記憶しておく。

会話の内容を覚えておけば、相手の逆鱗に触れずにすむ可能性が高い。

 

「まあ、泣いて頼めば、教えてやらなくもないですわ。…では、そろそろ授業が始まりますので、失礼。」

 

適当に相手をしていると、オルコットの話は終わり、オルコットは満足そうに自分の席に戻っていった。一夏は誰にも見られないように、『オルコットの相手に疲れた』とため息を吐きながら、次の授業の準備をした。

 

数分後、真耶が教室に入って来たことにより、授業が始まる。

IS学園はIS操縦者育成専門の学校だが、高等学校だ。そのため、普通の高校生が習うような授業もIS学園の授業の中に含まれている。

一夏は教科書を開き、授業を受ける。その姿は本当にどこにでもいる高校生の姿で、世界で唯一ISを動かせる男とは思えない姿だった。

 

「これで今日の授業は終わりです。」

 

麻耶の言葉でSHRが終わる。

一夏のクラスメイト達の放課後の行動は幾つかに分かれた。

大きく分けて3つ。

1つ目のグループはIS学園の施設の見学をする女生徒が集まったグループだ。今日はIS学園に入学して初日だ。これから3年間過ごすIS学園の校舎と関係施設、寮についてチェックしておく必要があると彼女たちは考えたのだろう。

2つ目のグループは 寮の1階にある食堂へと向かう女生徒たちのグループだ。彼女たちはIS学園の施設見学は後でもできるので、今は早めに夕食を取って、食堂が人で溢れかえり、混雑する時間をさけようと考えていたのだろう。

2つのグループも着眼点は間違っていない。広大な敷地を持つIS学園の施設を把握しきれず迷子になる1年生は数人居るし、食堂は毎日だいたい6時から7時ごろになると混雑し始め、席を確保できなかった何人かは食堂の外で食べさせられているのはよく見かける光景である。そのため、2つのグループも共に合理的な判断をしていたと言える。

そして、残る最後のグループは……

 

「こんな男を観察するために集まるなんて、物好きも居たものだな。」

 

一夏を観察するために集まった女生徒のグループだった。1日中観察され続けた一夏はうんざりしながら、ため息を吐き、席を立つ。だが、少し嬉しそうにしながら、教室から出ていく。なぜ、一夏は嬉しそうだったのか、それは一夏が自宅に帰宅するからだった。

IS学園は本来全寮制で、学園生は全員寮に住むことが義務付けられている。

それはISが外部に持ち出されないようにするためや、IS学園の生徒を保護するため等、様々な理由がある。

では、何故、一夏は自宅に帰宅できるのか?

それは、一夏が男子だったということと、一夏の入学が決まった時期とが関係している。

IS学園はこれまで女子しかいなかったため、寮は女性しか住まないという前提で作られており、一夏が住むには不便すぎたからだ。さらに、一夏がIS学園に入学することが決まったのが、遅かったため、寮を改装するだけの時間もなく、寮の部屋が少ないため一夏を一人部屋にさせることもできなかったからだ。

そのため、一夏は護衛付きで自宅に帰宅することとなったのだ。

自宅に帰ることが出来るということは、すなわち、この観察から解放されるということを意味している。そのため、一夏は嬉しかった。

 

「だけど、2週間もすれば、寮に住むんだよな。」

 

突貫工事でIS学園の寮は改装され、部屋数が増え、男子トイレが作られることになっている。部屋数が増えれば、一人部屋に一夏を住ませることが出来る。そして、男子トイレさえできれば、一夏がトイレで困ることはないので、寮で暮らせなくはない。

そうなれば、IS学園の規則上、寮に住むことが決まっているので、一夏は安全な寮に住むことになる。これから2週間、放課後のプライベート時間を満喫しようと一夏は決めた。

 

「織斑君、すこし良いですか?」

 

職員室の前を通りかかった一夏は、副担任の真耶に声をかけられた。

一夏は嫌な予感がしたが、相手が副担任である以上、下手に無視すると千冬姉からの制裁が居たい。一夏は仕方なしに振り返り、真耶の方を向いた。

 

「なんですか?山田先生?」

「実はですね。」

 

麻耶が話した内容を要約するとこんな感じだ。

一夏を誘拐するという犯罪予告があったという報告が千冬の元に来たらしい。状況から考えて愉快犯という線が濃厚で、実際に襲われることはないだろうと思われていたが、万が一のことを考えて、一夏を帰宅させるのではなく、寮に無理やり今日から住まわせることとなったのだ。

今のところ空部屋がないため、一人部屋は用意できなかったので、誰かと相部屋になる。

男子はIS学園には自分一人しかいない為、自然と相手は女子になってしまう。しかも、ほとんど初対面の人ばかりだ。あまり好ましくない状況である。

 

「ですが、初対面の女生徒と同室というのは…」

「安心しろ。相手はお前の知っている者にしておいた。」

 

そう言って会話に入り込んできたのは千冬だった。

知り合いなら、まだマシだが、他にも自宅に帰らないと問題はある。

 

「それに、私物が…。」

「生活用品なら、私が用意してある。下着と携帯の充電器程度あれば、充分だろ?」

 

千冬は一夏にバッグを渡す。どうやら逃げ道はないらしい。

一夏は受け取ったカバンを開けると乱雑に下着やタオルや歯ブラシ、携帯の充電器が入っていた。千冬姉は相変わらず整理整頓が苦手なようだなと、一夏は思いながら、鞄のチャックを閉め、鞄を担ぐと、千冬から鍵を渡された。

どこかの旅館の鍵みたく鍵に大きなプラスチックのキーホルダーが付いている。プラスチックには『1025』と書かれている。どうやら、一夏の量の部屋はこの部屋らしい。

一夏は別れの挨拶を済ませると、寮へと向かっていった。

 

「あ。」

「どうしたのですか?織斑先生?」

「いや、一夏に、知人を紹介し忘れていただけだ。」

「もしかして、今日、IS学園に来ていた人ですか?」

「あぁ。まぁ、三日ほど、こっちに居るらしいから、また今度で良いか。」

「名前は確か…クラ…ラ?さんでしたっけ?」

「クラリッサ。クラリッサ・ハルフォーフだ。」

「お呼びですか?千冬さん?」

 

そう言って、職員室から出てきたのは軍服姿の女性だった。

彼女の着ている軍服の柄から、彼女がドイツのシュヴァルツェ・ハーゼの所属であるということはISに携わる者なら、ほとんど知っているだろう。

そんな軍服が印象的過ぎて、分りにくいかもしれないが、ハルフォーフという女性は艶のある黒髪を持ち、澄んだ蒼い瞳に、小顔のスラッとした体系の美人だ。

おそらく、彼女が私服だったら、男なら誰もがその姿に見とれてしまうだろう。

そんなドイツ軍人のハルフォーフとIS学園の教師の千冬が何故知り合いなのかというと、千冬はとある事情でドイツ軍に所属していたことがあり、そこで二人は知り合った。

年が近いことから、話がよく合い、その結果、互いに気を許し合う友人関係になった。

それでも、千冬の方が若干年上であるため、一応敬語を忘れていない。

 

「あぁ、お前を弟に紹介し忘れただけだ。近々紹介してやる。」

「そうですか。では、楽しみにしています。」


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