IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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私は今――生きているッ!



      破壊大好き獣殿


17

翌日の早朝、一夏とシャルロットは寮の部屋の椅子に座って、お茶を飲んでいた。

一夏は濃いめの緑茶。シャルロットは紅茶だ。

なんで、こんな時間に二人は起きているのか、それはシャルロットが男装してIS学園に来た事情を聴くためだ。

鍵は掛けており、誰かが寮に入ってくることはない。それに、今は早朝だ。夜ならたまに箒やセシリア、鈴が来るが、今の時間帯なら誰も来ない。

誰にも聞かれず落ち着いて話をするのなら、この時間のこの場所が良いと一夏は考えた。

そして、カップの紅茶を一口飲んだシャルロットは話し始めた。

 

シャルロットは母子家庭だった。

父親は誰もが知る大会社のデュノア社の社長だ。そして、シャルロットの母親は父親の愛人だった。隠し子や愛人の存在が明るみに出ては不味いと考えたシャルロットの父親はシャルロットと母親を有無も言わさず、地方の僻地へ送った。

それからは、貧しい生活を強いられた。

その結果、母親は病気にかかり、他界したという。

その後、シャルロットは一人で暮らしていた。このまま、自分もこの僻地で一生を終えるのだろうと思っていた。

だが、そんな自分の人生が最悪になる原因が起きた。

ある時、町に行くとISの簡易検査を行っていたため、シャルロットは遊び半分で検査を行ったところ、ISの適性でA判定が出たという。その現場をデュノア社のスカウトの者に見られてしまい、後日、生活を保障するという条件で養子に来ないかと言われた。

母親に厳しい生活を強いさせた父親に対する嫌悪感から拒否したのだが、断ればシャルロットの住んでいる僻地をダムの底に沈めると言われたため、同じ僻地に住む隣人のためにシャルロットは父親の提案を受け入れるしかなかった。

遠い親戚という形で、シャルロットは養子になった。

それからはデュノア社が作ったISのテストパイロットをやらされていた。

第3世代の開発が上手く行かなかったデュノア社の作った試作のISは危険なもので、何度も怪我をした。そのうえ、家に帰れば、父親の本妻にいびられる。

家も会社も、当時のシャルロットにとって地獄だった。

そして、そんなシャルロットにある命令が出された。

男子としてIS学園に行き、織斑一夏を寝取り、既成事実を作り、織斑一夏を夫にして、デュノア社に連れてこいというものだった。

失敗すれば、証拠隠滅のために、殺されるか、どこかの人知れない牢屋に閉じ込められると脅された。一人の少女が大企業の力に対抗もできるはずがない。

シャルロットは父親の命令に従った。

 

「ありがとう。一夏。僕の話を聞いてくれて。」

「で、君はどうするつもりだ?」

「本国に帰ろうかな?逃げた所で捕まるだろう。結局僕は死ぬか、捕まっちゃうんだ。今さらどうしようと助からない。」

「シャル、僕は君がこれからどうなるのかを聞いているんじゃない。君がどうしたいのか、僕は聞いているんだ?」

「…僕が…どうしたいか?」

「そうだ。君は何をしたい?何を為したい?そのために、僕は君に手を差し伸べることはできるかい?」

「僕は……」

 

シャルロットは考えた。

自分がどうありたいのか、何をしたいのか、何を為したいのか。

己の渇望は何なのか。

 

「このまま学校に居たい!だから、一夏!僕を助けて!」

 

シャルロットは偽りのない切なる願いを一夏に吐く。

皆には自分が男だと嘘をついていることが、心苦しかったが、それでも、僻地で人生の大半を過ごしたシャルロットにとって、初めての学校生活学校は楽しかった。

先生から勉強を教わるという授業というのは楽しかった。

同年代の人たちと一緒にご飯を食べるのも楽しかった。

あんなに辛かったはずのISの操縦も楽しかった。

だから、このまま続けたい。

母親以外に見せたことのない本心をシャルロットは一夏に見せた。

 

「わかった。だったら、僕が君の苦しみを引き受けよう。」

 

一夏はシャルロットの手を握る。

 

「とりあえず、特記事項があるから、3年間、IS学園に居る限りは向こうから強引な手を出せないだろうけど、その後のことを考えると、3年間になんとかしないと不味い。」

「あのね。一夏、すごい自分勝手な我儘なんだけど、デュノア社を倒産させるようなことがあったら、デュノア社の社員まで巻き込んでしまうから、やりたくない…駄目かな?」

「シャルロットは優しいな。そうだね。僕としてもシャルロットの意見に賛成かな。社員の恨みを買ってしまうと、シャルロットのその後の生活に影響してくるかもしれないから、デュノア社の倒産はあまりいい手ではない。だから、社長をピンポイントで叩けるようにすればいいのだけど……」

 

一夏は顎に手を当てて、真剣に考え、そんな表情の一夏を心配そうな目で見つめる。

一方、シャルロットは一夏にとてつもない無茶なことをお願いしているということに気が付いた。いや、もともと無理なことは分っていたが、やっぱり、シャルロットの願望的なものがあり、なんとかなるのでは?と思っていたのだが、冷静に客観的に考えてみたら、やっぱりこれは無理だということに気が付いた。

何か案が思い浮かんだとしても、それは一夏に危険が伴うものになってしまう可能性が大きい。自分一人のために、一夏に迷惑をかけられない。

やっぱり牢屋暮らしで良い。そう、一夏に告げようとした。

 

「よし、これで行こう。」

 

一夏は立ち上がると、そそくさと出て行ってしまった。

 

シャルロットは一夏を止めようと急いで追いかけるが、立ち上がるのが遅れてしまったせいで、見失ってしまった。携帯電話で一夏に電話するが、通話中になってしまう。シャルロットは一夏を探し回るが、見つからない。早く見つけないと、一夏が危険なことに巻き込まれてしまいかねない。焦ったシャルロットは廊下を走って一夏を探す。

 

「きゃ!」「おわ。」

 

寮の廊下を曲がった瞬間、シャルロットは誰かとぶつかった。

シャルロットは謝るために、相手の顔を見た。

探していた人物の織斑一夏だった。シャルロットは一夏に抱きつく。

 

「シャル、どうしたんだい?」

「もう、良いよ。僕は大丈夫だから、僕のために一夏が危ない目に合うのは止めて。」

「え?」

「だから、その、デュノア社のこと。」

「あぁ、それならもう何とかしたよ。だから、もう大丈夫。」

「え?だって…さっき出てから数分しか経っていないよ?」

「ちょっと、知り合いでISに精通している人が居るから、その人にちょっとね。そうしたら、シャルから手を退くって確約を取ってもらったよ。」

 

一夏がしたことはたった一つ。

デュノア社にある電話をしてくれと篠ノ之束に頼んだ。

一夏は束に世話になりっぱなしなので、気が進まなかったが、他にシャルロットのためにデュノア社を何とかする手段がないため、背に腹は代えられなかった。

一夏に頼まれた篠ノ之束は快く一夏の頼み通りに、デュノア社に電話をかけた。

篠ノ之束直々の電話を貰ったデュノア社の社員はすぐに社長に電話を回した。

デュノア社の社長は束からなにかISに関連する情報でも貰えるのかと楽しみにしていたが、束の最初の言葉で表情は一変する。

 

『自分の娘を使って、いっくんを、よくも利用しようとしたな。』

 

それから、シャルロットから手を退くことと、手を退かなかったら、会社を強引に買い取って、社長の家が焼け野原になって、財産を全て取って、お前の家は明日からトタン屋根のダンボールになるぞと束はデュノア社の社長を脅すと、電話を一方的に切った。

電話が終わった束は一夏に事後報告をした。

束に注文しておいてなんなのだが、束がえげつないと一夏は思ってしまっていたりする。

そして、そんなことを考えながら、廊下を歩いているとシャルロットとぶつかったわけだ。

 

ちなみに、一夏はシャルロットにそんなやり取りがあったことは話さない。

篠ノ之束との接点を隠すためというのもあるが、優しいシャルロットに黒い話はよろしくないと考えたからだ。

 

「シャル、電話。」

「う、うん。」

 

シャルロットは送られてきたメールを見て、驚く。

メールの送り主はシャルロットの父親だった。

シャルロットが一夏に何かをしたら、不味いと思ったデュノア社の社長はシャルロットに一夏を籠絡するのを止めろと命令のメールを送っていた。

それを見ると同時に、シャルロットは自分を縛る鎖が無くなったことで、安心し、腰が抜けてしまい、その場にヘタレこんでしまう。

 

そんなシャルロットの手を一夏は握る。

一夏の手は大きく、とても優しくシャルロットの手を包み込む。

まるで、お母さんに抱きしめられているような、そんな安心感が自分の心を満たしていく。

安心しきったシャルロットは今まで溜めこんでいたものが爆発してしまい、自分の心に溜めていたものを吐き出しながら、泣き出した。

 

「え?シャル、ちょ。」

 

一夏はシャルロットをお姫様抱っこし、廊下を疾走し、自分の部屋へと戻った。

途中数人の部活の朝練で起きていた女子に見られてしまう。

一夏が攻めとか、シャルが受けだとかいう話が少し聞こえた一夏だったが、泣いているシャルロットを放っておけないので、何のことかわからないが、広まってしまったとしても、仕方がないとしておくことにした。

まあ、この時、『I5』の人間は睡眠ガスでやられているため、『I5』の人間に見られることはなかったのは不幸中の幸いだろう。

部屋に戻り数分すると、シャルロットは泣き止んだ。

 

「ごめんね。一夏、迷惑ばっかりかけて。」

「気にしていないから大丈夫だよ。」

「そう言ってくれると嬉しい。」

「僕が言うのもなんだけど、シャルは誰かに迷惑をかけていると思い過ぎているから、もう少し誰かに甘えることが必要だよ。そうじゃないと、君は損ばかりしている。」

「うん、わかった。一夏に甘えられるように、努力する。」

「甘えるのに努力っているのかい?」

「いるよ。一夏だって、お姉さんに甘えるように言われたら、簡単にできる?」

「確かに…そうだね。」

 

その後、少し早目の朝食となり、一夏とシャルロットは食堂へと向かった。

シャルロットは一夏と同じように和食を注文した。箸の持ち方の練習というのもあるが、一夏の食べている物に興味を持ったというのが主な理由だ。

慣れないながらもシャルロットは頑張って、箸を使って、ご飯とみそ汁は食べることが出来たのだが、焼き魚が難しく、なかなか食べられない。

見かねた一夏が食べさせてあげようかと、言いだし、シャルロットに食べさせる。

そんな二人の様子を数人の女子が『あそこは薔薇が咲いている』と言いながら、遠くから眺めていたことに、一夏とシャルロットは気付いていなかったりする。

 

 

その頃

 

「ふーぅ、結局、軍人でも、教師でも書類作成は多いんですね。……いや、IS学園の教師の方が忙しいですね。私が新米だから、仕方がなんでしょうけど。それでも、ご飯食べながら、ボールペンを動かすなんて器用なことできませんから。と言いますか、お昼ご飯位ゆっくりと取っても良いと思うんですよね。私的に。学校の屋上でご飯を食べていると、異性のクラスメイトがやってきて、一緒にご飯を食べることになって、そんな彼と友達になって、最後には見事ゴールイン。そんな素敵イベントがあっても良いと思うんですよ。って、私は先生でした。…となると、先生と生徒のイケナイ関係になるのでしょうか?……いや、そもそも、此処には一夏しか異性の生徒はいませんでしたね。おや?」

「え?」

「えぇーっと、更識さんですよね?」

「はい。ハルフォーフ先生。」

 


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