IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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勝利とは、走り抜けた後で振り返るもの



        暴走ワンちゃん


16

目の前には知っている光景が広がっていた。

白い天井と壁、そして、白いカーテン。

此処がIS学園の保健室だということにすぐ気が付いた。

そのことにすぐに気づけたのは、以前このベットで寝たことがあったからだ。

また、日は暮れており、窓の外が真っ暗になっていることにも気づく。

今は何時だろうと思った一夏は体を起こし、周りを見渡して、時計を探そうとする。

だが、左手足に重みを感じた一夏は上手く体が動かせなかったため、体を起こすのに苦労する。その重みの正体は一夏の友人だった。

 

「箒、セシリア、鈴。」

 

箒はベッドの上の一夏の腕を枕にするようにして、椅子に座ったまま寝ている。セシリアはパイプ椅子にもたれかかった状態で、寝ている。鈴は一夏の足を枕にして、仰向けで寝ている。3人ともとても器用に寝方をするなと一夏は感心する。

箒と鈴に病人を枕にして寝ないでほしいと普通の人なら言うのかもしれないが、手足は痛くないし、自分の看護をしてくれたのだから、文句を言うつもりはなかった。

体を冷やさないように、3人にタオルケットが掛けられている。

 

「一夏、目が覚めたんだ。」

 

小さな声で自分を呼んだのはシャルロットだった。

手に同じ柄のタオルケットがあったことから、3人にタオルケットをかけてくれたのは、シャルロットだろうと一夏は推測した。

 

「体を起こして無理しちゃ駄目だっt…何笑ってるの?」

「いや、少し前にも同じようなことを言われたからね。」

「?」

「あぁ、シャルがIS学園に転入してくる前に、少し騒動があってね。その時も僕が怪我して、此処のベッドに寝かされていたんだ。それで、目が覚めた時に鈴に同じように心配されたよ。」

「誰だって、心配するよ。」

「そっか。」

 

それから、シャルロットは一夏に自分のことを話そうかと提案したが、箒達の目が覚めたら、話の内容を聞かれてしまうため、後日となった。

その代わりに、一夏は自分が気を失ってからのことをシャルロットに尋ねた。

自分が気を失ってから、セシリアと鈴に助けられ、2人はボーデヴィッヒと戦った。

だが、クラスメイトが読んできた千冬の介入により、試合は中断。

一夏は保健室に運ばれ、3人が自分の傍に居てくれたという。千冬が3人を寮に戻そうとしたが、保険医の先生に戻ったとしても、一夏がそばに居ないから、不安になるだけで、此処に居たほうが、彼女たちのストレスが幾らかマシだろうと判断したからだ。

 

「じゃあ、僕は織斑先生を呼んでくるよ。一夏が起きたら、呼びに来るように頼まれていたからね。」

「分かった。それじゃ、お願いするよ。」

 

シャルロットはそう言うと病室から出て行った。そっと扉を閉めたつもりだったが、扉を閉める音が大きくなってしまい、箒達が目を覚ます。

目が覚めた3人はいきなり一夏に説教を始めた。心配させたのだから、仕方がない。

反論する余裕すら与えず、一方的に3人は説教をした。

 

「それぐらいにしておけ。」

 

3人の説教の最中に、千冬とシャルルが入ってきた。

一夏以外の人の前に居るため、シャルロットはシャルルとしてふるまっている。

千冬は一夏と個人的な話があるため、外に行けと言い、4人は追い出された。

前にもこんなことあったような…と3人は思い返した。

 

「すまなかった。一夏。」

 

千冬は唐突に一夏に頭を下げた。千冬の突然の行動に一夏は驚く。

一夏はどうして千冬が謝るのか、尋ねる。

謝れるようなことをされた覚えがなかったからだ。

 

「ラウラに最も教えなければならないことを私はあの一年で教えられなかった。『何のために強くなるのか』ということを。その結果、アイツはお前に牙をむいた。…私はアイツの教官失格だ。」

 

少し悔しそうな表情をした千冬は一夏にそう言った。

また、千冬は自分の所為で弟に迷惑をかけてしまったと自己嫌悪していると一夏は感じ取った。そんな千冬を見た一夏はある言葉を言った。

 

「違うよ、千冬姉。僕が千冬姉の足を引っ張っているんだ。だから、悪いのは千冬姉じゃなくt」

 

一夏が最後まで言い切る前に千冬は一夏を抱きしめた。

千冬の両腕にもう逃がさないと言わんばかりに力が入る。胸に包帯を巻いている一夏に痛みが走る。激痛にならないのは、千冬が少しは手加減してくれたからだ。

だが、それでも結構痛い。

 

「千冬姉、痛い。」

「お前が馬鹿なことを言うからだ。お前が私の足を引いている?ふざけるな!私はそれ以上にお前に助けられたんだ!お前が居なかったら、私は一人で、今以上にひねくれて、最低の人間になっていたはずだ!だが、お前が居たから、私はこうして頑張れた。頑張れたおかげで、此処の教師をやっている。そして、そんな今が私は楽しくて好きだ。……だから、そんな酷いことを言うな。一夏。」

「……。」

「返事をしろ、馬鹿弟。」

「ごめん。」

 

数分間、一夏は黙って千冬に抱きしめられていた。

千冬が一夏を解放すると『誰にも言うな。』と目で脅してきた。教師である以上、人前では凛としていなければならないため、弱い所を見せられないのだが、少し涙目になっているため、あまり怖くはなかった。だが、ここで千冬を茶化せば、グラウンド100周とか言わされそうだったため、一夏は黙って頷いた。

 

「それで、一夏、お前に個人的な頼みがある。これは他言するな。」

「うん。何かな?」

「今度の学年別個人トーナメントでラウラを倒してほしい。完膚なきまでに。」

 

嘗ての教え子を『倒せ』とは、教師としてあるまじき言葉だろう。

だが、千冬のこの願いにはある思惑があり、それに至るにモノがあった。

先ほど、千冬はボーデヴィッヒと会って話したらしい。そこで、ボーデヴィッヒは千冬のことを孤高の無敵だと勘違いし盲信し、自分こそが正しいと思い込んでいる節があった。

そのボーデヴィッヒの思い込みの発生源は、以前ISの操縦者として欠陥品だというレッテルを張られていた所を千冬の指導により部隊最強になれたことにより、千冬を自分の救世主か何かと思い込んでしまったらしい。

 

その話を聞いた一夏はボーデヴィッヒがいつも自分を揶揄する存在と何が違うのか分かった。評論家たちは揶揄するのが仕事であるため、言葉に真剣さがないし、目が腐っている。だが、ボーデヴィッヒは本気で千冬を崇拝しているため、言葉に重みがあり、目に信念のようなものが籠っていた。

 

千冬はボーデヴィッヒの思い込みを指摘したのだが、ボーデヴィッヒは千冬にとってまだ自分は取るに足らない存在だと思われていると勘違いし、去ってしまった。そんなボーデヴィッヒを見て、千冬は今の自分には何を言っても、ボーデヴィッヒには届かないと悟った。

 

だが、ボーデヴィッヒが千冬以外の人と接したならば、自分を見つめ直す機会が出来るかもしれない。だが、これには一つ問題があった。

 

盲信しているボーデヴィッヒが他人の言葉を聞くだろうか?ということだ。

その疑問の答えは『NO』だ。

 

言葉が通じないのなら、少々荒療治だが、体に直接教えてやるのしかない。

つまり、ボーデヴィッヒが人間として成長するために、もう一度負け、自分で這い上がることが必要だと千冬は考えたのだ。

 

「だから、一夏、ボーデヴィッヒに勝ってくれ。」

「分かったよ。そもそも、僕としても、負けるわけにはいかない。箒達が危ない目に合わされているんだ。だから、負けたままじゃ、気が済まないよ。」

 

一夏の言葉を聞いた千冬は安心し、深く息を吐いた。

長い間一緒に居た弟のことだから、弟のことは分っている。だから、自分の頼みごとを断るはずがないとは分かっていたが、嬉しかった。

千冬は笑顔になる。そんな姉の笑顔を見た一夏も少し嬉しかった。

 

「ね、千冬姉。」

「なんだ?一夏?」

「……あのダンボール、何?」

 

一夏が指差す先には、人が一人入れるぐらいの大きさの葱のダンボールがあった。

しかも、ダンボールは一夏が指摘した瞬間、少し揺れた。

そんな不審なダンボールを見た千冬は深くため息を吐く。

どうやら、千冬はこんなことをする人に心当たりがあるらしい。

 

「クラリッサ、いい加減出てこい。」

「え?」

 

ダンボールの蓋が開き、中から迷彩服を着て、バンダナを巻き、眼帯を逆にしているクラリッサ・ハルフォーフが出てきた。そして、ダンボールからジャンプして出る。そして、着地の際に、両手と片膝を地面につけ、ポーズをきめた。

 

「またせたな。」

「また、アニメか?」

「いえ、M○Sなので、ゲームです。私的にはビッグボスの方が好きなので。眼帯は右目です。」

「別に聞いていない。」

「クラリッサ?」

「久しぶりですね。一夏。元気…ではないですよね。」

 

あまりの超展開に困惑してしまい、返答に困った一夏だが、困惑しすぎたため、マイナス気分ではなくなり、クラリッサの言葉を肯定する気にはなれなかった。

 

「……いや、僕を励まそうとユニークな格好で現れたクラリッサを見たら、面白くて、少し力が湧いてきたよ。」

「それは良かった。急いでコスプレした甲斐がありましたね。」

 

クラリッサはそう言うと、ガッツポーズをする。コスプレがうけたのが、かなり嬉しかったらしい。そして、ダンボールを畳みながら、IS学園に居る理由を話し始めた。

現在、クラリッサはIS学園の教師で、1年4組の副担任をしている。

何故IS学園に居るのか?事の発端は先日の襲撃者騒ぎでIS学園の警備について見直しがなされたらしい。結果、ISの国際会議で順番を決めて、IS操縦者がIS学園に派遣されることとなったのだ。各国はIS学園との繋がりを作るために、早くIS操縦者を派遣したいという思惑があり、会議は難航したという。だが、千冬の意見の一部がIS学園側から要望として、会議で採用されたことにより会議は終結した。IS学園からしてもパイプの太い国との連携をしておいた方が、交流の薄い国との連携のための練習になり、役に立つと考えたからだ。そして、採用された千冬の意見にクラリッサの名前があった。

他にも数人が各国から派遣されている。

 

「というわけで、これから1年よろしくお願いします。一夏」

「あぁ、よろしく。」

 

一夏とクラリッサは握手を交わす。

 

「それでは、頑張ってボーデヴィッヒ隊長を倒しましょう!」

「クラリッサ?上司だけど、良いのかい?」

「はい。フリフリメイド服を着こなす隊長や、部下想いな隊長は好きですが、部下の友人であり、教官の弟を軽蔑するあんな隊長は嫌いです。ですので、千冬さんの言うとおり、隊長は一回痛い目に合って、根性を叩きなおすべきです。…というわけで、何か私にできることでしたら、何でも行って下さいね。一夏」

「…あぁ、ありがとう。クラリッサ」

 

ツッコミどころがあったような気がした一夏だったが、クラリッサの申し出は嬉しかった。

 


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