IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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奴らに恐怖を与えろ。この国に、我々に、身のほど知らずにも敵対した愚を思い知らせ、後に矮小な勝利をくれてやれ。


     獣大好き鉄の恋愛処女


15

放課後、一夏はいつものメンバーでISの自主練習をしていた。

だが、箒の教え方には擬音語が多すぎてわからず、セシリアは専門用語と数字が多すぎてわからず、鈴は『なんとなく』『フィーリング』『感覚』という言葉が多すぎて分らない。

一夏はなんとか頑張るが、皆違うことを言うため、二律背反になってしまう。

しまいには3人が喧嘩を始めてしまった。

これをどうやって諌めようかと一夏はその場で考え込んでしまう。

そんな時だった。

同じアリーナで自主練をしていたクラスメイト達が騒ぎ出した。

 

「あれ、ドイツの第3世代じゃない。」

 

一夏はクラスメイト達が見ている方を見た。

そこには今朝、一夏に平手打ちしたラウラ・ボーデヴィッヒがISを展開して、まるで、汚物でも見るかのような嫌悪の眼で一夏を見下ろしていた。

 

ボーデヴィッヒが乗る専用機は漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』。

ドイツの第3世代型だ。

 

開発に成功はしたが、まだ本国でテスト稼働の状態にあると聞いていたため、アリーナに居たクラスメイト達は驚いている。

 

そんなボーデヴィッヒを見つけた箒達は喧嘩を止め、表情がさらに険しくなる。一夏が殴られてことを根に持っていたため、気の短い箒達は今すぐにでも手を出しそうだ。

 

「織斑一夏、お前も専用機持ちだそうだな。」

「……。」

「その沈黙肯定と受け取るぞ。ならば、話が早い。……私と戦え。」

「断る。君と戦う理由が僕にはない。」

「貴様になくとも私にはある。」

 

平手打ちをされた時のことを思い出した一夏は、ボーデヴィッヒの戦う理由が、第2回モンド・グロッソの時のことと関係があると確信する。

ボーデヴィッヒの目はあの時の一夏を非難する下らない評論家の眼と通ずるものがあった。

だが、同一ではない。それが一夏の心に引っかかっていた。

 

「君にあっても、僕にはないから断る。僕が嫌いなんだろ?だったら、僕の見えない所に行けばいい。」

「違うぞ。貴様を倒せばそれでいい。教官も目が覚めるだろう。」

 

ボーデヴィッヒはレールカノン『ブリッツ』を起動させ、一夏に向け、放った。

一夏は動かず、雪片弐型でブリッツを防御する。回避できなくはなかったが、後ろには箒達が居るため、避ければ、彼女たちに流れ弾が当たってしまう。

ブリッツの威力は鈴の衝撃砲を超える威力があった。

一夏はセシリアと鈴に専用機を展開し、箒を連れて、逃げるように指示する。

セシリアたちは専用機を持っていないクラスメイトを安全な場所に連れて行くと、一夏の味方をするために戻ってきた。

 

「一夏さん、私もこの方には少し痛い目を見てもらった方が良いですわ。」

「そうね。ただ普通にリンチにしたんじゃ、気が治まらないから、ギッタンギッタンにして、ミンチにして、卵とパン粉を絡めて、カラッと揚げてやるわよ。」

 

ブルー・ティアーズを展開し射撃体勢に入っていたセシリアと、双天牙月を構え一夏の前に立った鈴はかなりやる気だった。

 

「いや、僕がやる。これは僕の問題だ。二人は下がっていてくれ。」

 

セシリアと鈴を押しのけて、一夏は前に出る。

二人は反論するが、ボーデヴィッヒは自分に用があるのだから、自分が逃げて二人が代わりに戦った所で、自分を追いかけてくるだろうから、意味がないと言い返す。

すると、二人は大人しく引き下がった。

 

「ふん、ようやく、やる気になったか。」

「君は僕の友人に手を上げようとした。僕が君と戦う理由には十分すぎるよ。」

「ふん。」

 

ボーデヴィッヒはそう言うと、2本のワイヤーブレードを向ける。

ワイヤーブレードが蛇のように蛇行しながら、一夏に向かう。

一夏に狙いを見切られないようにするためだ。

一夏はワイヤーブレードを十分引き付け、喰らう寸前で、雪片弐型を振るい、2つを弾く。

ボーデヴィッヒの攻撃を防いだつもりの一夏だったが、はボーデヴィッヒのワイヤーブレードを喰らってしまい、砂ぼこりを上げ、地面の上を転がった。弾いたはずだと一夏は困惑するが、ボーデヴィッヒの専用機から4本のワイヤーブレードが伸びていたことに気付いた。そこで、一夏は最初の2つのワイヤーブレードと時間差で、もう2つのワイヤーブレードが襲ったのだと分かった。

そして、ボーデヴィッヒは倒れた一夏に向けて、ブリッツを放った。

隙の少ない小技で相手のペースを乱し、大技で決める。理にかなった戦法だ。

だが、一夏は仰向けの状態のまま、スラスターの出力を上げることで、空中に上昇し、ブリッツの弾を避ける。

レールカノンの弾はアリーナの地面に衝突し、クレーターを作る。

 

「ほう、肩透かしと思ったが、そうでもないようだな。…では、少し、本気で行かせてもらうぞ。」

 

ボーデヴィッヒは再び、4本のワイヤーブレードを一夏に向けて飛ばす。

一夏はそれを避けながら、ボーデヴィッヒに接近を試みる。

一方のボーデヴィッヒもワイヤーブレードだけでなく、ブリッツを使い、迫りくる一夏を迎撃してくるため、一夏はなかなか接近できない。

 

このままでは、ジリ貧だと判断した一夏は、ボーデヴィッヒがブリッツを放った次の瞬間、零落白夜を発動させ、全てのワイヤーブレードを斬り、相手の攻撃の手が緩んだ瞬間に、瞬時加速で接近する。ブリッツは充電に時間がかかるため、次が発射できなかった。

一夏は雪片弐型を振り上げ、もっとも得意な技を出そうとする。

 

零落白夜を発動させている雪片弐型に全体重を乗せての切り下し。

 

箒と再会した時にIS学園の剣道場で引き分けに持ち込んだ技だ。

だが、この技には欠点がある。技を出した直後、大きな隙が出来てしまうのだ。

そのため、中学の全国大会に出場できたのはこの技によるところが大きいが、この技を失敗したがために、一夏は全国大会で2回戦敗退してしまった。

だが、今回は出しどころが完璧だったため、攻撃が外れるはずがない。

それはアリーナのピットから見ていた箒にも分かった。

 

だが、一夏の雪片弐型はボーデヴィッヒに届かなかった。

一夏の雪片弐型はボーデヴィッヒに当たる寸前で止まってしまったのだ。

別に、バリアー無効化攻撃で躊躇し攻撃の手を止めたわけではないし、寸止めで相手を降参させるつもりも一夏にはなく、本気の得意技を出したつもりだった。

にも、関わらず、攻撃は止まっている。

一方のボーデヴィッヒはただ単に手を自分に向けて突き出しているだけだった。だが、その表情に余裕の色があった。まるで、この展開を読み切っていたかのようだった。

目の前で起きている予想外のことに、一夏は驚く。

 

「なんだ?これは?」

「AICも知らないとは、勉強不足だな。」

「何?」

「『何?』と聞かれて、素直に教えてやる敵がどこに居る?貴様はさっさとくたばれ。」

 

ボーデヴィッヒは余裕の表情でブリッツの充電をする。

一夏は回避、もしくは防御の姿勢を取る、もしくは黒円卓の聖槍を出そうとするが、指先すら動かせない現状でそんなことはできるはずがない。セシリアと鈴は割り込もうとするが、距離が離れすぎているため、ボーデヴィッヒを止めることが出来ない。

 

そして、充電が完了し、最大出力でブリッツは弾を放った。

零距離砲撃を喰らった一夏は吹き飛び、アリーナのバリアーに背中からぶつかる。

零距離砲撃の衝撃と、背中を打った時の衝撃で、白式はシールドエネルギーのほとんどを失った。一夏本人も絶対防御を越えて伝わってきた衝撃が体の芯に響き、激痛に見舞われる。致命傷ではないが、十分重傷と言えるような怪我を負っていた。

そのため、一夏は体を上手く動かせない。

 

「この程度か。」

 

ボーデヴィッヒは横たわっている一夏の首にワイヤーブレードを巻き付け、まるで首つり死体のように、つるし上げる。

一夏はワイヤーブレードを引きはがそうとするが、力が入らない。

雪片弐型でワイヤーブレードを斬ろうと試みるが、先ほどのダメージでシールドエネルギーがほとんどないため、零落白夜は発動しない。

 

「無駄だ。」

 

ボーデヴィッヒはそう言うと、ワイヤーブレードを振るい、つるし上げていた一夏を地面に叩きつける。手加減の薄かったからなのか、アリーナのグラウンドにクレーターが出来る。一夏は激痛のあまり呻き声が漏れてしまう。

そんな一夏にとどめを刺そうと、ボーデヴィッヒはプラズマ手刀を叩きこもうとする。

だが、横から攻撃されたため、攻撃が逸れてしまい、体勢を崩す。

そこに鈴が双天牙月で追い打ちをかけ、ワイヤーブレードから一夏を解放する。

 

「鈴さん!私が時間を稼ぎますから、一夏さんを保健室へ連れて行ってくださいな。」

「了解!でも、アンタ、アイツ倒せんの?」

「倒せるかどうかはわかりませんが、私は堪忍袋の緒が切れましてよ!」

 

セシリアは4機のブルー・ティアーズを飛ばし、ボーデヴィッヒを包囲し、射撃を行う。

ボーデヴィッヒは残っていた2本のワイヤーブレードを操作し、ブルー・ティアーズの破壊を試みる。鈴はその間に一夏を抱いて、アリーナのピットへと逃げ込んだ。

気を失っている一夏を箒に預け、他のクラスメイト達に教員を呼ぶように頼む。

クラスメイトの一人が走って出ていくのを確認すると、鈴はセシリアの助力に向かった。

 

「その小奇麗な顔、穴だらけにしてあげるわ!」

 

鈴はそう言うと、衝撃砲を最大出力で放った。

シールドの半分は削れるほどの攻撃であったにも関わらず、ボーデヴィッヒは手を前に突き出すだけで、これといった回避行動も迎撃行動もしないように見えた。

だが、衝撃砲はボーデヴィッヒに当たる直前で、無効化されてしまった。

 

「あれが、AIC」

「厄介ですわね。」

 

AIC。アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。

ISにもともと搭載されているPICを発展させた兵器で、任意に相手を停止させることの出来る第3世代兵器だ。完成停止結界とも言われている。

 

『オルコット、鳳、ボーデヴィッヒ、何をしている?』

 

アリーナの放送で、千冬の声が響き渡る。

3人は動きを止める。模擬戦をするのは大いに結構だが、怪我人が出たうえに、アリーナが損壊してしまっては、教師の問題となってしまう。

だからと言って、IS学園の意義から試合を禁止するわけにはいかない。そのため、今度の学年別トーナメントで決着をつけることとなった。

千冬の言葉には従順なボーデヴィッヒはISを待機状態にし、大人しく退いた。

気が済むまで、戦えなかったセシリアと鈴は少々消化不良だったが、此処で騒いでも仕方がないと、あっさり退いた。

 

 


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