IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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わたしのヴィルヘルムに、手をあげたなぁぁぁァァッ!!



           ヤンデレブラコン姉ちゃん


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気難し人だと聞かされていたが、自分を嫌っているとは思っていなかった。

いや、可能性としてありえなくはないと思っていた。

 

第2回モンド・グロッソの決勝戦の直前、一夏は誘拐された。

誘拐犯の思惑は知らないが、千冬が2連覇することを危惧し、妨害してきたのだろうと世間では言われている。そして、千冬は決勝戦を棄権し、一夏を助けに来た。

千冬は無事だった一夏を見て、泣いて喜び無事に再会できたと安心した。

あの時の顔を一夏はいまだに忘れていない。

 

『千冬が2連覇できなかったのは屑な弟がいたからだ。』

あの事件以降、そんな風に一夏を揶揄する連中が現れた。

その連中は揃ってそんなことを言ってきた。一夏はテレビに出演していた女尊男卑の世界で調子に乗っている女評論家からそんなことを言われもした。

当然、そんなことをいう連中は大人だけではなかった。

子供は大人の鏡という言葉がある。

子供は大人のマネをしたがる。そのため、子供も一夏を非難するようになった。

当時は鈴や弾、数馬が守ってくれたが、それでも心無い誹謗中傷は一夏の耳に入ってきてしまった。だから、これぐらいのことは日常茶飯事だった。

日常茶飯事とも成れば、慣れてくる。

そのため、一夏は静かに『そう。』としか答えなかった。

 

朝のSHRは終わり、最初の授業となる。

今日の1限目はISの実習だ。

デュノアが男子であるため、一夏が面倒を見ることとなった。

デュノアは一夏に挨拶をしてくるが、教室は女生徒たちの着替える場所になるため、一夏達はアリーナの更衣室を使う必要があった。

一夏はデュノアを連れて、速足で更衣室へと向かった。

アリーナの更衣室に向かう途中で、IS学園の生徒たちに取り囲まれてしまうため、一夏は人通りの少ない道を使った。

途中でデュノアが自己紹介をしてきた。

 

「よろしくね。織斑君」

「あぁ、よろしく、デュノア」

「僕のことはシャルルで良いよ。」

「だったら、僕のことも一夏で良い。」

 

更衣室に着くと、一夏は腹痛のためトイレに行くとデュノアに言い、遅くなるから先に行けるようにとアリーナまでの道を教えるとトイレに行った。

デュノアは着替えると、一夏を更衣室の前で待った。

数分後、更衣室の扉が開いた。デュノアは一夏に声をかけようとする。

 

「シャルルってことは、本名はシャルロットってことかな?」

「え?」

 

デュノアは驚きのあまり、体が固まってしまう。一方の一夏もデュノアの声を聞いて唖然とする。デュノアを先に行かせで、こんなところにいるとは思っていなかったからだ。

 

「シャルル、どうして此処に…。」

「一夏を待ってだけだったんだけど…。」

「……そうか。じゃ、行こうか。」

 

一夏は先ほどのことを無かったことにしようとした。

お互いに見なかった、聞かなかったことにすれば、問題ない。そう思っていた。

だが、歩き出そうとした一夏の腕を引っ張られた。

この場に居るのは自分かデュノアの二人であるため、一夏の腕を引っ張ったのはデュノアだった。

 

「待って。」

「…どうしたんだ?」

「どうして、僕の名前がシャルルじゃないって、女だってわかったの?」

 

シャルルはフランスの男性名で、シャルロットはそれの女性名にあたる。日本人の名前で例えるなら、優介と優子のようなものだ。それを知っている人なら、デュノアが女性と知っていたなら、本名がシャルロットだろうと推測しただろう。

 

では、何故、一夏はデュノアが女性だと気づいたのか。

それには2つの理由があった。

1つ目、本当に男性なら、もっと大々的に報道されているはずだからである。

なぜなら、現在フランスはISの部門でEUの中で不利な立場にある。それを打開しようと思うのなら、男性のIS操縦者が出たのなら、新聞の一面を飾るぐらいの発表がなされてもおかしくないはずだ。男性のIS操縦者の安全のため、秘密にしていたのなら、納得いかなくはないが、それなら、何故IS学園に入学したのだろうという疑問が残ってしまう。そのため、一夏はシャルル・デュノアという存在を疑問視した。

2つ目、声がどこか高いような気がするし、手を握った時の感触が箒に鈴に近かった。

要するに、感覚的にどこか女のような感じがしたのだ。

その2つの理由をデュノアに一夏は話した。

 

「そうだったんだ。」

「君には何か複雑な事情がありそうだから、聞いてほしいと言わない限り、僕の方から詮索しないし、君が女だってことを隠すことにも協力しよう。」

「…どうして?」

「何が?」

「どうして、一夏は僕にやさしくしてくれるの?」

「人の涙を見たくない。特に女性の涙は見たくない。それだけだよ。僕の自己満足だ。君が思うほど、僕は良い人間じゃない。」

「それでも、ありがとう。」

 

シャルロットは自然な笑顔で言った。

その後、一夏とシャルロットは、これからのことを軽く話し合った。

込み入った話は時間がかかるから、授業に遅れてしまう恐れがある。

決まったことは、何故男装して転校してきたのか後で詳しく話すから一夏に聞いてほしいこと、今後も男子として学校に居るのなら、シャルロットがシャルルであり続けるために一夏が協力することぐらいだ。

ちなみに、さきほど、一夏がトイレに行ったのは、女であるシャルロットが着替えられるようにとの配慮だった。

 

「早く行こうか。シャル。」

「シャル?」

「あぁ、シャルロットとシャルルを使い分けていたら、ボロが出るかもしれないから、どっちでも通用する呼び名を考えたのだけど、駄目だったかな?」

「良いよ!凄く良い!」

「そんなに喜んでくれるなら、考えた方も嬉しいよ。」

 

一夏とシャルロットはアリーナへと向かった。

 

ISの演習は久しぶりであったため、最初はこれまでの授業の復習だった。

演習が久しぶりだったのは、先日のクラス代表戦の騒ぎがあったからだ。

演習の最初の内容はISを装着して、数歩歩き、自分で解除するという基本動作だった。

一夏と同じ班になったクラスメイト達は前回と同じように、立ったままの状態でISを解除するため、一夏は次の娘をお姫様抱っこでISのコックピットまで運ぶ作業に追われていた。そんな感じで一夏は演習中ISを装備している状態だった。

男子としてクラスメイトと接しているシャルロットも一夏と同じように、女生徒達をお姫様抱っこさせられていた。

一夏と同じグループだった箒は一夏にお姫様抱っこされたことが嬉しかったのか、恍惚の表情を受けたままだった。同じグループになれなかったセシリアと鈴は一夏を嫉妬の目で見ている。他のグループのクラスメイト達も同じだった。

だが、一人だけ、違う目で一夏を見ていた。

 

「……。」

 

一夏を軽蔑の目で見ているのはラウラ・ボーデヴィッヒだった。

彼女は一夏だけではなく、他のクラスメイト達をも蔑むような目で見ていた。

 

ISの演習はなんとか終わった。

その後、普通の高校の授業を受けると、昼休みになっていた。

 

「一夏、約束は覚えているか?」

「あぁ、屋上でお昼ご飯だよね?」

「そうだ。うむ、それではさっそく行こう。」

 

箒は嬉しそうにスキップしながら、屋上へと向かった。

だが、いざ、昼食が始まると、箒は一気に機嫌が悪くなった。

二人で昼食を取りたかった箒の邪魔者が居たからだ。

 

 

その数時間前、

 

「……遅いな。もう、朝のSHRの時間終わっちゃうんだけど。」

 

1年4組担任の榊原菜月は焦っていた。

いつまで経っても、紹介したい副担任が教室に来ないからだ。

だが、突如、クラスの扉は開き、一人の女性が教室に入って来た。

 

「遅れまして、すみません!」

「あぁ、なんとか間に合いましたね。それでは、自己紹介をお願いします。」

「はい。本日より1年4組の副担任をさせていただきます。ドイツ、シュヴァルツェア・ハーゼ所属クラリッサ・ハルフォーフ大尉です!受け持つ教科はISの演習で、ISの演習の手伝いをさせていただきます。私のことは『ハルフォーフ先生』と呼んでください。よろしくお願いします。…質問のある人は?」

「ハルフォーフ先生はどうして、IS学園に?」

「先日、IS学園で襲撃騒ぎがあったと政府の高官様から聞きしまして、千冬s…織斑先生の紹介で此処の警備強化のため、一時的にIS学園に席を置くことになりました。」

「趣味はなんですか?」

「日本のゲーム、漫画、アニメ、ラノベです。最近は『俺の姉ちゃんがこんなに綺麗なはずがない』、『お姉ちゃんのことなんかそこまで好きじゃないつもりなんだからねっ!!』、『お姉ちゃんだけど色欲さえあれば関係ないよねッ!』、『この中に1人、お姉ちゃんじゃない奴がいるらしい』にハマっています。」

「「「………。」」」

「…えぇーっと、時間も押しているようなので、自己紹介はこの辺にしておきますね。」

 

クラリッサは担任に背中を押され、教室から出て行った。

 

「あの先生なら……話が合うかも。」

 


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