IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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ちょっと誰か、パンツァーファウスト持ってこい。



       足引きババァ


12

クラス代表戦の翌日の夕方だった。

一夏はISの特訓が終わり、アリーナの地面で大の字になっていたが、息が整ってきたので、起き上がり、更衣室で着替えていた。

着替えが終わり、荷物を担いで、更衣室から出ていこうとした時だった。

珍しく、携帯電話が鳴り響いた。

一夏は誰からだろうと思いながら、携帯電話のディスプレイを見た。

ディスプレイには『クラリッサ』の文字が映し出されていた。

一夏は歩きながら通話ボタンを押す。

 

「もしもし、織斑一夏です。」

『おぉ、繋がりましたね。一夏。』

「クラリッサだよね?」

『はい。』

「久しぶりだね。」

『えぇ、久しぶりですね。』

「電話とは珍しいね。何か用かな?」

『はい。実は、以前話していた私の上官がIS学園に入学するという話を以前したことを覚えていますか?』

「あぁ、覚えているよ。」

『実は、入学が明日なんです。』

「そうなんだ。」

『はい。そう言うわけですので、ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長のことよろしくお願いしますね。前にも言いましたが、隊長は気難しいので、友達ができないと思います。ですので、廊下でぶつかっておいてくれませんか?』

「……前にも言った通り、考えておくよ。」

『そうですか。…っと、それとですね。一つサプライズがあるので、楽しみにしていてください。』

「…はぁ。」

『では、私はこれから行かねばならないところがありますので、これにて失礼します。』

「じゃあね、クラリッサ。」

 

一夏は携帯電話の通話を切った。

後ろに居た箒からのキツイ視線に晒されていた一夏は振り向く。

ジト目で一夏を見ていた箒は速足で一夏に迫る。

 

「今の電話はハルフォーフさんか?」

「よくわかったね。」

「お前が『クラリッサ』『クラリッサ』と何度も連呼していたからな。お前が私のすぐ近くで電話をしていれば、嫌でもわかる。」

「…そ、そう。」

 

一夏は少し返答に困った。

今の箒の言葉にはツッコミどころが幾つかあったからだ。

1つ目はどうして、男の更衣室の前の廊下に居るのかという疑問によるものだった。

自分を待っていたのだろうが、待つにしても更衣室の前というのはどうかと思われる。

2つ目は、一夏は箒の近くで電話をしていたつもりはない。

では、何故、箒は一夏の近くに居たのか、その答えは簡単だ。

一夏の電話が気になった箒が近づいてきたからだ。

3つ目は、一夏の記憶が正しければ、何度も何度も連呼した覚えはない。せいぜい2回ぐらいだろう。だが、だからといって、それを指摘したら、キレた箒は竹刀を振り回すだろう。

いざとなったら、雪片弐型で防げばいいが、雪片弐型は半壊状態から自己修復しているため、今後のことを考えると使用はさけたい。

黒円卓の聖槍なんて以ての外だ。アレは束さんに使うなと言わせるだけの代物だ。

というわけで、ツッコミどころ満載で困り果てた一夏はスルーし、クラリッサの話題は箒の逆鱗に触れかねないと判断した一夏はまったく違う話をする。

話と言ってもそんな大そうな話じゃない。単なる世間話だ。

 

話をしていると気が付いたら、一夏と箒は寮の自室についていた。

自室に戻った一夏は授業の復習をする。一方の箒はシャワーを浴びる。

シャワーから上がった箒はドライヤーで髪を乾かす。

 

コンコン

 

軽くノックがされた。

こんな時間に来客は珍しい。

一夏と箒は返事をし、箒に比べて廊下に近かった一夏は椅子から立ち上がると、扉の鍵を開けに行く。扉を開けると、目の前には真耶が居た。

こんな時間帯に教師が生徒の部屋にやってくるとは珍しい。

プライベートな話かと思ったが、一夏も箒も真耶との繋がりはそこまで強くない。千冬が絡めば、そうでもないのだが、今この場に千冬は居ない。

一夏はやはり教師としてこの部屋に来たのだろうと推測した。

 

「お引越しです。」

「なるほど。」「はい?」

 

二人の返事のまったく異なるものだった。

一人は納得し、一人は困惑していた。前者は一夏、後者は箒だ。

一夏が納得したのは寮の改装がようやく終わり、部屋が増えた。それで、自分か箒のどちらかが部屋移動となったのだろうと自己完結したからだ。予定より遅れていたことに一夏は文句を言いたかったが、真耶に言ったところで何も変わりはしない。

だが、一方の箒は焦る。

なぜなら、箒はこれから3年かけて一夏と同じ部屋で暮らし、仲を発展させて、恋仲になろうと考えていたからだ。だが、計画は1か月弱で破たんの兆しが見えてきたからだ。

箒はまだ一夏と一緒の部屋に居たいと一夏にアイコンタクトをする。

だが……。

 

「箒、朝起きれないのが、心配なら起こしに行ってあげるから、大丈夫だよ。」

 

その言葉を聞いた箒の中で、何かが壊れた。

しかめっ面の箒は素早く荷物をまとめると出て行ってしまった。

箒が出て行ったのを見送った一夏はようやく一人に成れると、少しホッとする。

一夏だって男だ。女とずっと居ては精神的に疲れてくる。自分の居るところが女しかいないのなら、一人になりたいと思う時だってある。

女しかいないところで平気でやっていける男が居るとすれば、それは頭のねじが緩んでいる変な男だろうということを一夏はこの1ヶ月で実感した。

 

「久しぶりに一人か。そのうち、ずっと一人になるんだ。慣れておかないと。」

 

復習が終わった一夏はベッドに仰向けになって倒れこみ、そんなことを呟いた。

そんな時だった。

 

コンコン

 

再びノックが聞こえた。一夏は起き上がり、扉を開けに行く。

扉を開けると、向こうには箒が居た。

忘れ物でもあったのか?と一夏は振り返り、部屋を見渡すが、忘れ物がある感じはない。

では、何か自分に話があるのかと思った一夏は改めて箒を見る。

箒は目を逸らし、何か口ごもっている。

廊下では話しにくい内容なのかと思った一夏は箒を部屋の中に即そうとするが、直前で箒が口を開いた。

 

「一夏、来月の学年別個人トーナメントの話だが…。」

 

箒の言うとおり、来月には学年別個人トーナメントがある。

IS学園はIS操縦者育成のための学校であるため、こういったISに関連する行事は多い。IS関連の行事が多すぎではないのか?と思う人もいるだろうが、スポーツ専門のクラスの話をすれば、そう言った人たちはたいてい納得してもらえる。

たとえば、ゴルフ選手育成の専門のクラスがあったとする。そのクラスは当然ゴルフの練習ばかりする。だが、個人練習ばかりしていても試合になった時に本領を発揮できるかと言えば、そうもいかないだろう。そのため、当然ゴルフの試合に出る必要がある。だが、ゴルフ選手育成のクラスのある学校というのは少ない。そのため、クラスメイトと試合するのが、もっとも行いやすい試合だろう。そのため、そのクラスはよくクラスメイトとゴルフの試合をするとなるわけだ。

これをISに当てはめてみる。IS学園には他校が存在しないため、クラスメイトとの試合でしか、試合の練習ができない。そのため、学生たちに試合の練習をさせるために、このようなISの行事が多くしているというわけだ。

 

「私が優勝したら…、つ!」

「つ?」

「つき合ってもらう!」

 

箒は大声で一方的に一夏に言うと、走り去った。

好きなように勝手に暴れて、好きな時に去っていく。まるで嵐のようだった。

一人残された一夏は少し俯き、部屋の中に戻った。

 

そんな様子を3人の女学生が見ていた。

一夏と箒のクラスメイトの相川清香、谷本癒子、布仏本音の3人だった。

 

「聞いた?」

「聞いた。」

「これは…。」

「「大ニュースだ!」」

 

3人はさっそく話を広めようと考えた。他人の恋愛事情を何故広めようとするのか、そんなことをしてもこれと言って得なんかないのに。

理由は簡単。彼女たちが現役の女子高生だからだ。

女子高生ほど、恋バナを好物とする生き物はいない。

純粋に好きなネタだから、その話をする。

好きな食べ物を好んで食べることと変わらない。

 

「ねえ、さっきの織斑君、変じゃなかった?」

「清香もそう思った?」

「も、ってことは、癒子も?……本音は?」

「おりむ~、なんか悲しそうだった。」

「そうだよね。なんていうかフラれた感じかな?」

「告白されたのにフラれたね…。それおかしくない?」

「じゃあ、それ以外、良い表現方法ない?」

「それを言われたら…。」

「でしょ。ちょっと気になるけど、今は止めておいた方が良いわ。織斑君の真意が分からないし、だから、他の人に言う時は、この話はナシね。」

「「了解しました。癒子隊長」」

 

3人は夕食を取るために学生が集まる食堂へと向かった。

今の時間のあそこなら、自分たちと仲の良いクラスメイトが数人は居るだろう。

いつも座る席に行くと、案の定仲のいいクラスメイトが居たので、さっそく話し始めた。

 

 

そのころ、とある場所。

 

「ハルフォーフ大尉、これはなんだ?」

「知りませんか?お好み焼きですよ。簡単に作れるお好み焼きセットが売っていたので、作ってみたかったんですよ。幸い、ここの職員寮にはフライパンがあったので、良かったです。あ、言っておきますが、これはお好み焼きであって、広島焼きではありません。あれは、ひっくり返す時が難しいらしいので、今回は止めておきました。」クッ

「ふむ。しかし、この国にはこんなソースが掛かり過ぎているような料理もあるのだな。日本食と言えば、教官が作ったような薄味の繊細な物を思い浮かべるのだが…」

「プハー、確かに、教官の作ったおでんや、寿司、天ぷらこそが日本料理だと思われがちですが、こんなB級グルメと呼ばれる日本食も日本料理ですよ。」

「B級グルメ?何だそれは?」

「簡単に言えば、お手軽に食べれて、大雑把な味だけど美味しくて、それなりにお腹がいっぱいになる。そんな料理がB級グルメと呼ばれる料理です。」トクトクトク

「ふん、要するに、少し大きめのハンバーガーのような物だろ。それが美味い美味いと食べるとは、つくづく理解に苦しむ。」

「ふっふーん、そんなことを言っているのも今の内ですよ。ささ、温かい内にどうぞ。っと!危なかった、零れるところでした。」

「では、頂こう。」パク

「どうですか?」グビグビ

「相変わらず、普通だな。コンビニの料理を温め直した感じがする。」

「…そうですか。」ヒック

「どんな料理をしても普通の味にしかならない。これはある意味才能だ。美味くはないが、絶対に不味くないのだ。誇るが良い、ハルフォーフ大尉」

「シャーラーーップ!」ダン

「!!」

「いいですもんね!料理なんてできなくたって!ええ、普通の味ですよ。それの何がダメなんですか!女軍人が料理できなければならない!なんて誰が決めましたか!法律に載ってないでしょ!だから、良いんですー!」

「……。」

「だいたい、私は料理できなくて構いませんよーだ!だって、夢の中の私の王子様が私のために、美味しい美味しいご飯を作ってくれますからね!愛情たーっぷりの手料理ですもんね!」

「……。」

「羨ましいでしょ!ボーデヴィッヒ隊長!悔しかったら、隊長も料理の出来る男性をモノにしたらいいんですよ!そうすれば、問題ナシです!女は料理するために、エプロンをするんじゃないんですよ!裸の上からエプロン着て、三つ指ついて待ってればいいんですよ!それが男にとって最高の手料理なのよ!」

「クラリッサ・ハルフォーフ大尉、これより、1週間の禁酒を命令する。上官命令は絶対だ。今すぐ、その日本酒から手を離せ。」

 


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