IS -僕は屑だ-   作:屑霧島

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「穢レロ、朽チロ、許サヌ、逃ガサヌ、末代マデ呪ワレ流離エ」



        死人


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「零落白夜か、なんだか知らないけどさ。躊躇がなくなったら、倒せるって言うの?」

「あぁ、零落白夜はバリアー無効化攻撃だ。そのため、操縦者を傷つけてしまう可能性どころか、殺してしまう可能性さえある。」

「ふーん、要するにアンタはアレの操縦者を殺したくなかったから手を抜いていたけど、アレが無人機だから今からは本気って訳ね。」

「そういうことだ。」

 

一夏はそう言うと、鈴に何か作戦はないかと聞く。

だが、これと言っていい作戦は思いつかないと鈴は言う。そのため、今までと作戦は同じとなった。鈴が撃って、一夏が突っ込み、零落白夜で落とす。

これでは先ほどと同じではないかという疑問があったが、作戦はシンプルな方が良い。

下手に難しく考えれば、裏をかかれやすい恐れがあり、作戦が崩れた時の対処ができにくくなるからだ。

そして、作戦を実行しようとしたその時だった。

 

「一夏!男なら!男なら、その位の敵に勝てなくてなんとする!」

 

ピットの淵に立った箒の声が響く。

あんなに離れているにも関わらず、聞こえてくるのは箒が大声を出しているからだろう。

普段から怒るとすぐ声が大きくなるのだが、此処まで響くほどではない。

だから、あれはいつも以上に力を込めて叫んでいるのだろう。

 

「箒、危ない!」

 

箒の立っている場所はかなり危険地帯だ。戦闘中にこんなところに来るなんて、空襲中に軍事基地の火薬庫にいるより危ないことを、普通の人ならしないはずだ。

だが、これはある意味良い状況だ。

敵が箒の方を向いている。奇襲をするにはもってこいだ。

だが、箒が危険であることには変わりない。

成功すれば、皆助かる。だが、失敗すれば、箒が死ぬ。

一夏は鈴と襲撃者の間を通り、襲撃者へと襲い掛かる。

注意が逸れていた襲撃者に一夏は容易に近づくことが出来そうだ。

 

「鈴!やれ!」

「ちょ!アンタ何、あたしの前にいんのよ!当たるじゃない!」

「良いから、撃て。」

「あぁ、もう知らないわよ!」

 

鈴は衝撃砲を最大出力で襲撃者に向けて乱射する。

乱射とは字のごとく標準が乱れながら撃つことをいう。そのため、当然のごとく、標的の襲撃者や近くの地面にも当たるが、標的の前に居る一夏にも当たる。

その時だった。

白式は光を放つ。淡い影狼のような向こうの景色が歪んで見えてしまうような光だ。

その光の正体は零落白夜が最大威力で発動した時の光だ。

零落白夜は以前にも言ったが、白式のシールドエネルギーを使う技だ。

だから、シールドが起動している時に使えば、威力は増す。

シールドが起動したきっかけは先ほど放った甲龍の龍砲だ。龍砲を数発受けたことで、白式のシールドが最大限にまで起動し、最高の状態で零落白夜が発動した。

さらに、龍砲の衝撃で後押しされ、更に瞬時加速をしたこともあり、一夏は容易に襲撃者の懐に入り込めた。

そして、零落白夜が発動している雪片弐型を振るい、襲撃者の両腕を切断した。

 

だが、襲撃者の肩や胸部の砲口は破壊できていない。

本来なら突きで襲撃者の胸を貫くべきだったのだが、一夏は突きを習ったことがなかったため、この土壇場で成功するか怪しかった。

そのため、得意な剣の振り方で、確実に当たるところを狙ったのだ。

さらに、瞬時加速の所為で、ヒット・アンド・アウェイの形となってしまったため、一夏は襲撃者に止めを刺せていない状態で離れてしまう。

一夏は再び瞬時加速で襲撃者に近づこうと、振り返った。

 

そんな一夏の視界に飛び込んできたのは、光だった。

紫色の光。

あぁ、これはあの襲撃者の砲撃の光だ。一夏はすぐに分かった。

襲撃者は腕を切られた直後、胸部の砲の発射体制に入り、標的を一夏に変えた。

そして、一夏がUターンすることで一時的に動きが鈍る瞬間を狙って砲撃したのだ。

一夏は再び零落白夜を発動させた雪片弐型で襲撃者の砲撃を防ごうとする。

 

だが、襲撃者の砲撃が、一夏の零落白夜相手に威力で勝った。

その要因として、一夏は不意を取られたことで零落白夜が完全な状態で発動したわけではなかったということや、先ほどの襲撃者の片腕切断にISのエネルギーを使い過ぎたということや、そもそも襲撃者と戦う前に鈴と戦っていたためシールドエネルギーの残量が少なかった等の様々な要因が重なったからだ。

 

零落白夜の光は次第に弱まり、襲撃者の砲撃の光に飲み込まれていく。

そして、零落白夜の光が消え、雪片弐型が崩壊し始めた。

まるで強風で屋根から瓦が剥がれるかのように、なくなってくる。

それは白式のシールドがほとんど尽きたことを示す。

シールドが尽きれば、次は装甲が無くなる。

装甲が完全に無くなれば、次に襲撃者の光が飲み込む物は一夏本人だ。

 

普通の人間なら、ISの兵器を生身で受ければ、良くて肉片、悪くて灰だ。

だから、秘密を隠し通すためにも、この場で生身でこの攻撃を受けてはならない。

 

ならば、どうすればいいのか。

雪片弐型はもう駄目だ。半壊している。回復しない限り使い物にならない。

だが、そんな今すぐに都合よく回復するような超展開なんてあり得ない。

だから、雪片弐型を使わず、シールドをこれ以上削らず、自分でこの場をなんとか乗り切らなければならない。

答えは簡単だ。それに、一夏はすぐに気が付いた。

 

アレを使えば良い。

 

そう、アレを。

 

束さんに使うなと言われていた?そんなことはどうでも良い。

今のこの状況を打破できるのなら、それで良いのだ。

僕が今此処でくたばれば、鈴と襲撃者の一対一になってしまう。

襲撃者の戦力はだいぶ落ちているが、同じように鈴の甲龍のシールドも減っている。

先生たちもまだ来ない。セシリアのブルーティアーズは中遠距離射撃型であるため、この状況に会っていない。そのため、セシリアが増援に来ることはないだろう。

鈴が襲撃者に勝って、襲撃者による被害が拡大しないという保証はない。

それに、どうせ被害を蒙るのは僕一人だ。

箒やセシリア、鈴や千冬姉のためなら、犠牲になろう。

 

だから、僕はアレを使う。

 

 

黒円卓の(ヴェヴェルスブルグ)聖槍(ロンギヌス)。」

 

 

一夏は白式に無いISの武器を初めて手に取った。

槍という名がついているにも関わらず、それは間違いなく大剣であった。

第一印象は黒く、大きく、飾り気のないだけの普通の剣だった。だが、模様がない訳ではない。剣には稲妻のような赤い模様が、唾に当たるところから剣先まで続いているだけだ。

剣や刀にあるような光沢は全くなく、まるで黒い石でできた剣のように見えてしまう。

そして、見た者が奇妙な感覚に襲われる不思議な空気を大剣は纏っていた。

大剣は神々しいと禍々しいという矛盾するものを持っていた。

 

大剣の柄を右手で逆手に持ち、前に突き出し、己の身を守る盾のように使い、襲撃者の砲撃を防ぐ。だが、襲撃者の砲撃の威力は片手で持った大剣で防げるほど脆弱ではない。

そのため、一夏は大剣の剣先に、雪片弐型を持った左手を添える。

こうすることで、剣は安定し、襲撃者の砲撃を完全に防げた。

そのまま、一夏は瞬時加速を使い、力技で襲撃者に近づく。

襲撃者に手が届くほどまで一夏は近づくと、大剣を手放し、下に潜り込んだ。

そして、半壊した雪片弐型を襲撃者の胸の砲口に突き刺す。

突きは上手く行くかどうかは分らない一夏だったが、こうするしか方法はなかった。

雪片弐型は半壊しているため、斬るだけの刃が残っていなかったからだ。

そのため、これは賭けだった。

 

そして、一夏は賭けに勝った。

雪片弐型が襲撃者の胸に刺さったのだ。

 

そして、雪片弐型が柄まで刺さると、襲撃者の胸の砲は暴発した。暴発により、襲撃者は上半身が吹き飛び、下半身だけが残り、襲撃者の下半身は力なく、倒れる。

 

「一夏!」

 

自分の上空に居た鈴が下りてきて、ISを纏ったまま、一夏に抱きつく。

だが、満身創痍の一夏は鈴の抱きつきの衝撃に耐えきれず、倒れてしまった。

 

 

そのころ、ドイツ

 

「隊長!」

「なんだ?ハルフォーフ大尉?」

「野球をしましょう!」

「何故だ?」

「私は思うのです。私たちは軍人になるために生まれてきました。ですが、このまま軍人として生きて、軍人のまま死ぬというのは些か寂しくありませんか?」

「……それで?」

「だから、私は野球をやろうと思います。」

「意味不明だ。」

「考えてみてください。私たちは軍人です。戦うのが仕事です。ですが、戦うことは戦う意思があれば、誰でもできます。戦っているだけなら、私たちがやる必要がありません。だから、私たちは私たちであるために、他の軍人にはできないことをしようと思います。」

「ふむ。」

「だから、野球をしようと思います。」

「……。」

「チーム名はリトルラビッツです!」

「無駄話は終わりか?私は射撃訓練で忙しい。それではな。」

「隊長の頑固頭!」

 


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