ネコネココネコ   作:ぴぴるぴる

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今回説明多いです。
あまりにも説明が多い気がしてきたので追加修正しておきます。
更に追加修正します。


第04話 水が増えるって具現化してるんじゃ?

 あまりオーラは抜かれなかったな。

 移動した場所はなんとも目が悪くなりそうな部屋だった。直線のみで描かれた迷路のような幾何学模様が壁を覆っている。棒御神籤みたいに天井の高い6角形の部屋の中央に立っていた。

 ずっとここにいるとクラクラしそうだ。

 扉を抜け長い廊下を渡ると先ほどの同じような部屋にこのゲームの受付嬢がいた。

 

G・I(グリード・アイランド)へよ・・・・・・・・・マジュウ?」

 

 受付嬢が豆鉄砲でも食らったような顔をしてこちらを見ている。

 そりゃそうだよね。ここって人間の念能力者しか想定していないだろう。

 

「魔獣だとプレイできないの?」

 

 すごい勢いで受付嬢が目の前にある台座にタイピングし始め、数秒もすると佇まいを正してこちらを見てきた。どこかに問い合わせをしてたのかな。

 

「失礼いたしました。

 G・I(グリード・アイランド)へようこそ。プレイは可能です。

 プレイヤーネームをお決めください。」

 

「ネフェルピトーで。」

 

「ネフェルピトー様ですね。

 ではこちらをお受け取りください。」

 

 受付嬢に指輪を渡され人差し指に嵌める。

 中央に水色の水晶1つと左右に一回り小さい緑色の水晶が2つ嵌めこまれており、金色に鈍く輝く円環部分は視力検査用の記号のように一部分が欠けている。

 随分と古めかしい指輪なこと。人差し指につけてみると聞いてた通り抜けなくなった。4本指なので人差し指といっていいのかな。

 

「ルール説明は必要ですか?」

 

「しなくても平気。」

 

 ゴンとキルアからルールは聞いている。今更聞きなおす必要はないだろう。

 

 

 

 

 

 グリード・アイランド(略してG・I)は11人の念能力者によって作られたゲームだ。発売当初は限定100本で1本のお値段は驚きの58億ジェニー。しかも現金一括払いでご提供となっていたが、お値打ち価格だったのか発売当日に完売となった。

 

 実際には実在する島に飛ばして、念能力者同士でのカード収集を競うゲームだ。

 指定された100種のカードを全て集めることでクリアとなる。

 

 このゲーム内では物質、生物の区別なくあらゆるものがカード化できる。ゲームだけあって魔法なんてものまでがカードとして存在する。名前はそのまま呪文(スペル)カード。

 

 渡された指輪には所持カードを収める(バインダー)を呼び出すことができる魔法が使えるようになる…という設定。

 (バインダー)の呼び出しや消す場合は【ブック】とキーワードを唱えれば可能。

 (バインダー)には指定カード100種専用の指定ポケットが100、自由にカードを収めることができるフリーポケットが45ある。最後のページが呪文(スペル)カードなどの操作画面だ。

 

 カード化するには入手すればいいだけだ。プレイヤーが入手したものは入手時に自動的にカード化される。

 ただし、一分以内に指定ポケットもしくはフリーポケットに収めなければカード化が解除されてしまう。

 

 プレイヤーが自らカード化を解きたいときは【ゲイン】と唱えればいい。1度でもカード化を解かれたものは2度とカード化されることはない。時間切れによる強制解除も同じである。ちなみにこのゲーム内では【ゲイン】や呪文(スペル)カードはプレイヤーなら誰でも使える魔法ということになっている。

 

 カードには多くの種類があり入手難易度やカード化限度枚数がそれぞれ決まっている。カードの左上に種類を指すNo,(ナンバー)が、右上に入手難易度のランクとカード化限度枚数が表示されている。入手難易度はアルファベット文字(SS、S、A~H)で表されており、入手難易度が高いほどカード化限度枚数が少なくなる。

 指定カードはNo,000からNo,099まで。全てが入手難易度B以上である。ついでに呪文(スペル)カードはNo,1001~No,1040の40種である。

 

 指輪は(バインダー)機能と同時にプレイヤーがカードを所持データを記録する媒体でもある。ゲーム機に挿したメモリーカードはクリアの途中で現実世界に戻るときにカードデータの保存のために使われる。現実世界といってもプレイヤーが《練》をしたゲーム機の前、もしくはどこかの港に戻るだけ。

 

 指輪はゲーム内ならば奪われることはないし、所持するプレイヤーが死なない限り指輪が消えることもない。

 しかしG・Iの外でならば奪われることはある。その上に他のプレイヤーに装備されてしまうとデータの上書きがされてしまい、再度ゲーム内に入っても初期化された指輪がプレイヤーに渡されるだけである。

 

 全部覚えていられるかちょっと不安。僕がここに来た目的は念の修行とクリア報酬としてもらえる3枚の指定カードだ。

 

 

 

 

 

 

「それでは御健闘をお祈りいたします。

 そちらの階段へどうぞ。」

 

 受付嬢の周りの床が降下していき螺旋階段になった。階段を下りるとビスケが階段横で女の子座りで待っていてくれていた。というか受付って巨木みたいな建物の中だったのか。

 

 ん~、なんか見られてる気がする。体がゾワってなるほど気持ち悪い何かが体に纏わりつくようだ。嫌な感じのする方から身を隠すようにビスケの隣に座る。

 

「クリアする前よりは減ってるわね。」

 

「こっち見てる人が?」

 

「そうよ。あんたはフードをかぶっときなさい。」

 

 ビスケに言われフードを被って猫耳を隠す。尻尾は腰に巻きつけておくだけで隠せる。

 今の僕の服装はグレーの半袖パーカーのミニワンピ、黒のスパッツ、茶色のブーツだ。

 ミニワンピなら大きいパーカー着ているようなものなので妥協はできた。スパッツは小さい穴開けるだけで尻尾が通るから一番楽。スカート?アレを履いたら僕の中の何かが終わると確信してる。

 

 

「待った?」

 

 ゴンが螺旋階段を下りてきて、僕とビスケの前に胡坐をかいて座り込んだ。

 

「ううん、僕も今来たところ。」

 

「アベックか!」

 

「アベック?」

 

 ビスケのツッコミがわからなかったのかゴンが首を傾げる。

 アベックって……。

 

「死語じゃん。」

 

 今度はビスケの物理的なツッコミが頬を掠めた。

 危なっ!拳に『凝』してたよ!避けれてよかった~。

 

「チッ!

 ……『凝』しなくてもオーラが見えてるのね。」

 

 し、舌打ち!?

 今度から言葉には気をつけるようにしよう。

 

「えっと、『纏』をしてない自然体でも問題なく見えるよ。」

 

 ビスケが一瞬なにかを考えるそぶりを見せるとキルアが階段を下りてくる音でビスケが立ち上がった。

 

「おまたー。

 んじゃ、マサドラ行くか。」

 

魔法都市マサドラ。魔法都市というだけあってそこでのみ呪文(スペル)カードをショップで買うことができる。呪文(じゅもん)カードのチュートリアルクエストも受けられる。受講料は3万ジェニー。高いと思うか安いと思うかはその人次第だ。

 

「ま、最初に行くとしたらそこしかないわよね。

 それじゃ、ゴンとキルアは『練』しながら走りなさい。ついでにピトーもね。

 目標は3時間『練』を持続させられるようになること。」

 

 ビスケが立ち上がり、両手を天に突き出して背筋を伸ばす。

 どうやらビスケが僕達の先導するようだ。

 

「えぇ!?そんなことしたらピトーの手伝いができなくなるよ!

 キルアはどのくらいいける?」

 

「調子がいいときで最長55分位だな。

 オレも3時間やって立ってられる自信なんてねーわ。」

 

 ビスケの言に立ち止まって反発するゴンとキルア。

 1時間くらいしか『練』できないのは僕も知ってる。

 さすがに2時間延長はきついだろう。

 

「ピトー、しばらくこの子達にかかりきりになるけどいい?」

 

「いいよー。」

 

 予想はしてたのですぐにイエスマンになった。

 2人に時間を割かなくちゃいけなくなるのは最初から承知済みですとも。

 

「ということでピトーの許しも得たわ。

 あんたたちはお荷物になるのを止めるって決めたんでしょ!

 だったらグダグダ言ってる暇なんてないのよ!」

 

「「押、押忍!!」」

 

 ゴンとキルアがビスケの迫力に早々に白旗を上げる。

 1時間もしたらどちらかを背負うか休憩くらいはするだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴンとキルアは僕達に背負われながらも『練』を3時間続けようとしてたが、途切れ途切れになってしまいすぐにへばっていき今では力尽きて眠っている。

ゴンをビスケが、キルアを僕が背負って岩石地帯を目指している。そこで修行再開する予定だ。

 

 途中にあった懸賞都市アントキバへは食料と水の調達のために少しだけだけ立ち寄っただけだ。

 呪文(スペル)カードで攻撃されないためでもある。呪文(スペル)カードの中には対象者のポケットをいつでも覗き見ることができるカードがあり、永続効果があるので島の外に出るまで解呪できない。地味に厄介なので念には念を押して最小限の準備だけで再出発した。お金はもちろん早食い大会。《ヘルカイダー》食べたかったなー。

 

「思いっきり寝ちゃったわね。

 世話が焼けるわさ。」

 

「いきなり『練』の持続時間を2時間延長だよ?

 こうなるのは当然じゃない?僕も疲れてきたよ。」

 

 実際2人はよくがんばってると思う。

 カイトを死地に置いてきたわけでもなく、同行できなかった悔しさをバネに訓練してるんだ。覚悟を決めた決心などなくてもこのひたむきさ。正直羨ましい。

 

「どこがよ!?ピンピンしてるじゃない!

 はぁ、アンタを見てると1ヶ月でこの子達を仕上げられるか不安になってくるわー。」

 

 だが疲労は確実に溜まっている。

 まだまだ動けるしオーラも尽きることはないが、この体の元々の身体能力によるところが大きい。生まれてからほとんど寝てないというのもあるけどね。でもなんだかズルしてるようで気がひけてしまう。

 

 

 

 

 

 

 岩石地帯につき2人を横にしてビスケに《桃色吐息(ピアノマッサージ)》をしてもらう。

 

 ビスケの念能力は美容という趣味を突き詰めた《魔法美容師(マジカルエステ)》という能力だ。

念人を具現化し特殊なローションにオーラを具現化させて対象者を癒す。

他にも美容に関するさまざまなマッサージも可能。絶不調時でも体調管理もお手の物だ。

 《桃色吐息(ピアノマッサージ)》とは30分の睡眠で8時間と同等の休息効果を与える派生能力だ。

 

 2人の回復に努めてもらうため近寄ってくる怪物を僕が片付けているが…。

 

「むぅ、手加減が難しい。」

 

「もう少しで終わるから頑張りなさいな。」

 

 目の前の肉食ワームは勝手に気絶してくるタイプではなく倒さなくてはいけない。

オーラが見える分弱点はわかりやすい。ランクが低いほどそれが顕著だ。そして弱点が分かってしまうとただの作業と化す。そのおかげで倒せているがどうも倒すタイプはオーバーキル気味。簡単に千切れてしまう。殺してしまうとカード化されないというのに…。

 

 カードは換金できるからどっちみち倒すことになる。今のうちに手加減して倒せるようにならないとね。

 でも一番高くてランクCの怪物カードしか手に入っていない。それに全部売るにはポケットの数が圧倒的に足りない。ランクが低いほど数が多いのだ。ランクCだけを売ったとしてどれだけの金額になるのやら…。

 

 

「こっちは片付けたよ。

 ビスケ、そっちのフリーポケットにこのカード入れといて。」

 

「ええ、いいわよ。こっちも終わったところだわさ。

 起きなさい、ゴン!キルア!」

 

 ビスケにフリーポケットに入りきらなかったカードを渡そうとするとビスケもちょうど桃色吐息(ピアノマッサージ)が終わったところだった。ゴンとキルアがビスケの声に飛び跳ねるように起き上がる。

 

「…岩石地帯だね。」「なつけー。」

 

 スッキリした目覚めだったのか寝ぼけることなく起きれたようだ。

 そういえば寝てる最中の攻撃を回避する訓練をやってたっけ?

 

「さぁ、周りが起き出さないうちに行きましょ。もちろん移動中も『練』の修行。

 3時間『練』を持続できるようになるまで次にはいかないわよ。」

 

 ん~、それなら指定カード集めは止めて、しばらくは金策しながら念の修行するかな。交換(トレード)ショップでお得意様になれば指定カードのBランクは購入可能になる。それに呪文(スペル)カード40種集めればランクSSの《大天使の息吹》と交換できる。

 そのうちゴンとキルアが3時間『練』ができるようになれば僕が相手をすることになるはず。保険として《大天使の息吹》は欲しい。そのためにもお金は必要かー。

 

 

 

 

 そこそこ離れたところで僕達は立ち止まった。

 

「ここらで一度休憩ね。ゴン、キルアは『練』を続けなさい。

 『練』の持続時間を10分増やすのに1ヶ月かかることなんてざらよ。

 寝てる暇なんか無いわさ。」

 

 ゴンとキルアが立った状態で『練』をするのを尻目にビスケがこちらに寄って来て腰あたりまである巨石の上に座ってる僕の前で立ち止まる。

 

「ピトーは何系統なの?

 そういえば聞いてなかったわよね。」

 

「強化系だよ。」

 

 

 水見式はコップいっぱいに入った水の上に葉っぱを1枚乗せ、両手を添えて『練』をすることで起きる変化で系統の判断をする。

 

 強化系・・・水の量が増える。

 放出系・・・水の色が変化する。

 変化系・・・水の味が変化する。

 操作系・・・葉っぱが揺れる。

 具現化系・・・水に不純物が混じる。

 特質系・・・上記5つ以外の変化がおきる。

 

 僕は強化系なのであの夜の水見式では壊れたスプリンクラーのように部屋中に水が降り注いだ。

金たらいは用意してなかったけど用意してたとしてもあれではそれだけでは不十分だったね。

おかげでビショ濡れの上、膝下まで床上浸水だったよ。掃除は大変だしキルアには(キレ)られるし散々だった。もう水見式は外でしかやらない。

 

 

「ゴンと一緒ね。

 なんか納得するわ。」

 

「え?そうかなー。」

 

 本来のネフェルピトー(ぼく)は特質系だった。

 だから原作通り葉っぱが枯れてくれるかと思ったんだけどなー。

 はぁ、能力どうしよう…。

 

 んー、そうだ。これはいい機会かも。 

 前々からの疑問をビスケに解消してもらおう。

 

「ねね、前から疑問だったんだけど水増えるのは水が具現化してるって可能性はないの?」

 

 水が増えるのはなにも強化系だけではないだろう。水の具現化でも増えることはあるはずだ。

 考え込んだビスケが僕の横に座る。

 

「ふむ。ない…とは言い切れないわね。

 でも、具現化系なら最初の内は必ず不純物が出るわよ。

 ピトーは水見式についてどこまで知ってるの?」

 

「え?そういえば詳しくは知らないや。」

 

「オーラは突き詰めて言ってしまえば、ただのエネルギーよ。

 そしてオーラの操作技術は精孔の開閉と念能力者の意志のみで成り立っているわ。

 オーラはただ意志に染まりやすいだけでしかないの。

 そのオーラは水に向けると溶ける。溶解するのよ。

 オーラを溶かした水は念能力者の無意識に使う適性の高い系統能力に影響され変化する。

 その変化で系統を図ろうとするのが水見式よ。

 具現化系能力の場合は不純物ができるけど、それは無意識下の稚拙な能力の発露。

 純粋な水が実体化されることはないし、時間経過で実体化なんてすぐ解けるわ。

 もし純粋な水を実体化させるならそういう能力にしなきゃ無理ね。」

 

「へぇ、そうなんだ。」

 

 ビスケ先生の念能力講座はためになります。

 その証拠にゴンとキルアも『練』を止めて聞き入っている。

 

「そこの2人!いつあたしが止めていいといったの!

 しっかりやりなさい!」

 

 ビスケが僕の隣から立ち上がって2人に叱咤する。

 あまりの声の大きさに両手で耳を閉じた。耳が痛いです。ビスケ先生。

 

「「押忍!」」

 

 ビスケが再度『練』を始めるゴンとキルアを確認するとこちらに振り向いてきた。

 

「しばらくはピトーもゴン達がやった修行を一通りやりなさい。

 2人のついでにあたしが見ててあげるわ。」

 

「押忍!」

 

 がんばろっ!

 

 

 

 

 

 僕が『周』の訓練を終える頃には日が昇っていた。おかげで周りの岩が穴だらけだ。というかビスケはスコップなんていつの間に買ったのだろう。ん~、アントキバしかないか。

 ゴンとキルアも《桃色吐息(ピアノマッサージ)》で起きたばかりだったので、みんなで休憩朝食をとることになった。

 

 カード化されている料理を買ってきたからメニューは和食、中華、洋食好きなものを選べる。

 水は僕が増やすから困ることはない。でもなんか納得いかない。前までは水を増やすのはゴンがやってたらしい。不憫に思える僕が変なのかな。ゴンとキルアは特に何とも思ってなさそうだ。

 水に味をつけたかったらキルアの出番になる。いつもやってるのか味の調整はお手の物。ちなみにビスケがやると渋味が出る。これはキルア情報。

 

 

 ゴンとキルア、ビスケと僕に別れて2つの岩に対面するように座り朝食を食べ始めた。

 

「ピトーは何でいつもサラダなんだよ?」

 

 それぞれが選んだ朝食を膝の上に乗せて食べているとキルアが僕に尋ねてきた。

 

「あ!それオレも気になってた。

 3人で食べるときに時々こっちを見てるし、ベジタリアンってわけじゃないよね?」

 

 ゴンも気になるようだ。

 気づかれないようにしてたつもりだったんだけど、バレバレだったみたい。

 

「生まれてくるキルアとの赤ちゃんが女の子になるようにね。」

 

「「ぶほっ!」」「へー、そうなんだ。」

 

 …きたニャい。

 さすがに2方向から噴き出したものは避けれなかった。でもサラダは体を張って死守した!

 冗談のつもりだったのに、なぜかゴンは納得してしまったようだ。

 

「嘘だ!騙されんな!

 オレはコイツに手なんて出してない!

 今までほとんど一緒に訓練漬けだっただろ!?」

 

「あ、そっか。

 なんだ、冗談か。」

 

「てへ♪」

 

「てへじゃねー!!

 あっぶねー。今始めて女が怖いと思った…。

 お前本当に強化系か!?変化系じゃねーのか!」

 

 ハンバーグを指したフォークをこちらに向けて聞いてくるキルア。

 何?僕にお肉を差し出しても食べないよ?サラダ、おいしいです。

 

「んふふ、強化系だけど変化系よりなのかもねー。」

 

「ゴホッ!ゴホッ!ん゛ん゛っ!

 はぁ~、0歳児にすら負けたのかと思ったわ。」

 

 みんなの様子を見て少しだけ気を緩める。

 いける?これなら煙に巻けた?

 

「全く……。

 (言いたくないなら無理やり聞き出さしたりなんてしないわよ。)」

 

 ビスケが少し呆れを含みながら僕だけ聞こえるように言ってきた。

 そうは問屋がおろさなかった。どうやら僕は煙に巻けたのではなく、ビスケに負けたみたいだ。

 

「う~ん、白状すると女王の食事を見てから、ちょっと苦手意識が出ちゃってね。」

 

―――違う。本当は肉を食べるのが怖いんだ。

 

 

 

 女王の食事は生き物(にんげん)の肉団子だ。

 肉団子の作り方は決して調理なんて呼べるものじゃなかった。ただ適当に骨を砕いて叩きにして丸めるだけだ。

 動脈が垂れ下がったままの心臓、少しつぶれた眼球、爪が割れた誰かの指、ひしゃげた肺…。

 そんな原形を留めてしまったものが稀に肉団子の表面についていた。

 そういう肉団子は雑務兵や参謀役などの外に出ない蟻達の食事として出される。

 

 当然僕はそれを見た。雑務兵やタドゥが肉団子(にんげんだったもの)を貪り食っている様を。

普通の人なら胃の中身を全てその場でぶちまけていても何らおかしくない。

なのに僕はその様子をまるで道端に落ちた吸殻でも見たかのように平然と受け入れた。

この体(キメラ=アント)になったからだと簡単に納得したんだ。

 

 誰かが食べる姿を目にする度に、僕が(にんげん)を食べる姿を幻視する。

だからこそ僕は肉を食べることを忌避してる。ただの一度でも何かの肉を口に入れてしまったら…。

肉の味を知ってしまったら僕は目の前の人たちを友人として見ることができるかわからない。

友人が違うもの(たべもの)に見えてしまうんじゃないかと自分自身を恐れてる。

 

 

 

 

 うっ、キルアとビスケのジト目が痛い。

 嘘をつくことにかけてはキルアもビスケも僕よりは数段上だ。

 僕の答えに嘘が紛れ込んでるとどこかで気づいたんだろう。

 

「それにしても、ゴンが将来騙されたりしないか心配になるねー。」

 

 苦し紛れに話の矛先をゴンに向ける。

 それとゴンさんにならないかいつも心配してます。

 

「あたしもたまに心配になるのよねー。」

 

 無理には触れないでおいてくれるようだ。

 

「えー?そんなことないよ。」

 

「今さっきピトーに騙されたばっかりだろうが!」

 

 傍から見ればくだらないものかもしれない。それでもこんな何気ないふれあいが愛おしい。

 僕はいつか彼らの友達だと胸を張っていえる日がくるのだろうか。


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