ネコネココネコ   作:ぴぴるぴる

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第02話 念能力に意思を持たせるってどうなの?

「たった今あのレアモノが逃げ出したようです。」

 

 やっとかー。もう深夜を回って明け方近いよ。

 巣の頂上でペギーを側に置き『絶』をしながらポックルが動くのを待っているとようやく逃げ出してくれたようだ。肉眼で確認してみると簡単な布を体に巻きつけたポックルが巣から忍び出て北東に駆けていく姿が見える。

 

「それじゃあ行ってくるね。

 他の誰かが勝手についてきたりしないように釘を刺しておいてね。」

 

「承知しております。いってらっしゃいませ。」

 

「じゃーねー。」

 

 それじゃあ逃げますか。 

 あまり離されすぎないようにさっさと行こう。ポックルに『絶』をされると想定して臭いは覚えておいた。臭いを追って尾行できることも検証済み。

 

 最初は100mくらい距離を開けて尾行するとしよう。尾行に慣れていけばどんどん距離を離していくつもり。最終的には1kmは距離をあけての尾行ができるのがベスト。

 2kmくらい離れてても肉眼でも確認できるし、高所に移動していけば大丈夫なはずだ。できれば狩猟部隊の縄張りを過ぎるまでは姿を隠しておきたい。

 

 

 

 

 太陽が真上まで昇った。少なくとも6時間以上はポックルをつけている。僕の足が速いのかすぐにポックルとの距離が詰まってしまうので気持ち遅めに尾行中。

 巣からはもう随分離れたと思う。巣の周りにあった森はとうに抜けて高低差の激しい荒野を進んでいる。本来ならここらも狩猟部隊の領域だが、今は巣に戻っている頃だろう。

 

 ペギー達参謀役にはポックルが逃げ出したら狩猟部隊を一度全て巣に呼び寄せるように命令してある。

 ポックルにはさっさと蟻の領域から逃げ出したと思わせてオーラで強化して逃げてもらうためだ。それと僕が逃亡しやすくするためでもある。

 

 

 

 

 

 そろそろ山岳地帯が見えてくるはずだ。

 あれから距離を置くのは断念して、今は300mほどの距離を目安にして離れている。

 ポックルのほうが傍から見ても疲労困憊でいつ倒れても可笑しくないように見え始めたからだ。

 倒れる前にそろそろポックルに接触したほうがいいのかな?

 

―――おっと!?

 

 ポックルが急に進行方向を変え走り出してしまった。

 もしかして尾行してるのに気づかれちゃった!?

 

 

 

 しばらく様子を見てみたがこちらを振り切ろうという感じではないからバレてはいないと思うんだけど確証が持てない。う~ん、ただ方向修正をしただけなのかな。

 

 ん?あれは………主人公組!?

 あちゃー、合流しちゃったよ。ポックルが方向を変えたのは彼らが近くにいるのを捕捉したのか。

 

 ポックルは女王の出産時期や蟻達の戦力の情報を持っている。というか意図的に与えた。うまく騙されてくれているなら偵察する意味なんてほとんど終わってることになる。

 固まって帰る可能性大だ。3人の誰かにポックルがおぶられたりしたら追いつけるかはわからない。

 

 しばらく眺めていると、予想通りに固まって移動してしまった。

 ならもう素直に接触してしまおう。

 最悪向こうが逃げて追いつくことができなくても逃げた方向くらいはわかるはずだ。

 

 ということで全力で『円』を展開しながら距離をつめている。

 向こうはこちらに気づいて山岳地帯に向けて逃走中。幸い『円』で他の尾行者は感知しなかった。

 もう少し進めば森に入る。『円』をやめてしまうと見失っちゃいそうだ。

 向こうもそれが狙いで何かしらのアクションを起こしてくると思うんだけど……。

 全員で迎え撃つ?それとも誰かが囮になるかな?僕としては戦闘なんてしたくないんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 山岳地帯に入ると穴だらけの岩肌ばかりだ。

 この光景は原作の中で見覚えがある。たしかNGLの麻薬工場だったような…。

 

 山に囲まれた盆地でカイトがこちらを待っていた。

 他の3人はもうすでに僕の『円』の範囲外だ。カイトが足止めなのだろう。

 よりにもよって一番強い人が…。

 まあ、あの中で彼しか足止めとして最適なのはいないんだけどね!

 でも、問答無用で来られたら一溜りもないよ!

 

 彼のオーラが針で突き刺されたようにピリピリ来る。僕にはまだあそこまでの『練』すらできない。

 一目見て分かる。目の前の彼と戦えば負けると僕の体が教えてくれている!

 『円』を止め『纏』もせずに自然体でいると嫌な汗が止まることなく流れてくる。

 先ほどとは比べ物にならないくらいに肌が粟立つ。これが明確な敵意をもったオーラの威圧感か。

 過呼吸起こしそうなくらいの張り詰めた緊張感に逃げ出したくなる。

 うぅ、頼むから襲ってこないでよぉ~。

 

「り、臨戦状態のところ悪いんだけど、僕に戦う意志はない。」

 

「ハッ!何言ってんだこいつ!」

 

 油断なく無言でこちらを見つめてくるカイト。すでに鎌状態の《気狂いピエロ(クレイジースロット)》が彼の手にある。

 

 彼の能力はピエロを具現化しピエロにスロットを回させて出た数字によってそれぞれの数字に対応した武器が具現化される。がしかし必ず使わないと武器が消えない。そしてうるさい。能力に意思を持たせるのが必ずしもいいとは限らないといういい例だろう。念の師にあたるジンにアドバイスされて能力を作ったらしい。

 

「こっちの情報を提供するよ。

 その代わりにハンター協会に保護してほしい。」

 

「後ろを向いて両手をこちらに向けろ。

 変な真似をすればその場で殺す。

 他に仲間が現れてもだ。」

 

「は、はい。

 これでいい?」

 

 カイトに言われた通りに後ろを向いて両手を後ろに向ける。

 

「理由を言え。」

 

 彼の鎌が僕の首筋に触れる。

 あ、これ本当に下手なことすれば本気で殺す気だ。

 今更ながらに命のやり取りをしてるんだと実感しちゃったよ。

 それでも恐怖心を我慢できるのはこの体になったからなのかな。

 

「おいおい!

 オレを回したからにはちゃんと使え!」

 

「お前は黙ってろ。」

 

 《気狂いピエロ(クレイジースロット)》はすでに()る気満々のようだ。

 

「人間が一番栄養価が高いから人殺しが向こうでは義務なんだ。

 あそこにいれば僕もいつかやらなくちゃいけなくなる。それが嫌で逃げ出してきた。

 君が救援した仲間を逃がすようにしたのは僕だよ。」

 

「拷問されるところだったと聞いたが?

 彼女が持ち帰った情報は偽情報か?」

 

「彼女?彼の間違いじゃない?男だったでしょ?

 少しだけ情報を流して君のお仲間を泳がせて情報を得るってのが表向きの作戦。

 僕が提案したんだ。逃げ出すためにね。

 情報については頭脳労働専門が考えて流した情報だから間違ったのもあるかも。」

 

 警戒を少し解いてくれたのかカイトが鎌を少しだけ下ろしてくれた。

 

「……今はとりあえず信じよう。

 その様子だと念を知っているな?」

 

「念は元々知識として覚えてたからだよ。

 人だった頃の記憶がおぼろげながらあるんだ。

 名前は……あれ?」

 

 両親の顔は思い出せるけど名前が出てこない。……他にも兄弟が……兄がいた気がする。

 ダメだ、こっちは顔すら思い出せない!生まれたときは覚えてたはずだ!

 ……なんで?

 

 何県に住んでた?年齢は?いつ死んだ?学校はどこを卒業した?職業は何だった?友達は?楽しい思い出は何だ?好きな食べ物は?苦手だった人はいたか?恩師は?

 

「どうした?」

 

「……思い出せ……ない。」

 

 

 

 

 

 

 忘れただけ?

―――たった一日ほどで漠然と生きていたという記憶しか今はないのに?

 

 

 

 記憶を改竄された?

―――ありえない。蟻達は『纏』すらしていなかった。触られた覚えもない。

 

 

 

 なら記憶の欠落の可能性は?

―――わからない。仮にそうだったとしても思い出せるという確証なんてない。

 

 

 

 今更戻る?

―――ダメだ。あそこに戻れば嫌でも人を殺すことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                             ナラ、僕ハ誰?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――パチンッ!

 

 目の前でフィンガースナップをされ驚いて周りを見まわして見ると、いつの間にか麻薬工場に入り木箱に座っていた。目の前に同じく木箱を椅子代わりにして座っているカイトがいる。

 

「やっと気づいたか。

 ここに入ったときのことを覚えているか?」

 

「ごめん、覚えてない。」

 

 いつ《気狂いピエロ(クレイジースロット)》を消したのかすら分からなかった。

 その事実が余計に僕を落ち込ませる。

 

「……では、他にお前のような念能力者はいたか?

 記憶を改竄された心当たりは?」

 

「僕が生まれてから誰かに触られた覚えはない……と思う。

 体に何か打ち込まれたりつけられたりもしてないはずだよ。

 蟻達は念については全員素人同然なのは間違いない。

 オーラを見ることはできても垂れ流しにしてる蟻ばかりだった。

 一応脱いでみるね。」

 

 念のために彼の前でゆっくり立ち上がりジャケットを脱いで地面に置いてみるが、やはり僕の体や服には何もつけられてはいなかった。

 

「もういい、着てくれ。

 考えられるとすれば記憶の劣化……か?」

 

 カイトが立ち上がって僕のジャケットをこちらに寄こす。

 のろのろと羽織っているとカイトが後ろを向きながら話しかけてくる。

 

「まあいい、さっさとこの自然保護区から出るぞ。

 早く気持ちの整理をつけろ。」

 

「そう言われても……ね。

 そう簡単に割り切れないよ。

 これからどうすればいいのかな?」

 

「いいから今は割り切れ。無理やりにでもいい。

 何をそんなに落ち込むことがある?」

 

 カイトの言ってることが本当かなんてわからない。

 

「自分の名前さえ思い出せなくなってるのにどうやったら落ち込まないっていうのさ。

 ……これからどうしよう。生きる目的すら見失ったよ。」

 

「オレの目を見ろ。」

 

 下を向いてた僕の顔に彼カイトが両手を添えて上を向かせる。

 

「オレが保障する。

 生きる目的ならいつか必ず見つかる。

 もし見つけられないというのなら、オレと来い。

 一緒に探してやる。」

 

 すぐに前向きにできるなら思い悩んだりしない。

 そんな簡単に見つかるもんじゃないって僕でも分かる。

 それでもカイトの腕が、瞳が少しだけ僕を元気付けてくれている気がする。

 なんだか信じてしまいたくなるような不思議な力の篭った言葉だった。

 

「んふふ、何それ?

 そんな簡単に言っていいの?」

 

「ああ。ただし、この件が全て終わったらな。

 仲間が先行している。検問所に着けば待ってくれているはずだ。

 急いで合流しなくてはいけない。ついてこれるな?」

 

「そっちこそ!僕についてこれるかな?

 あ、僕の名前はネフェルピトーってことにしておくね。」

 

「フッ、抜かせ。

 オレはカイト。プロハンターだ。」

 

 原作ではゴンはジンと会うためにハンターになると言ってたけど、一番のきっかけはカイトなのかもしれない。

 もし全部終わったら、ハンターを目指すのもいいかな。

 あ~、ただ会話してるだけなのにちょっとだけ……ほんのちょっとだけ胸が暖かい。

 

 

 

 

 

 遠目に検問所が見える荒野に僕は座り込んでいる。距離で言えば500mもない。

 そんな検問所手前で何をしているかというとカイトからの合図を待っている。

 

「いつまでここで待てばいいんだろう。」

 

 事前にカイトから2人で検問所に行けば仲間達に操られていると疑われてしまうのでカイトが先行し仲間に事情説明をすると言われ待っていた。

 もう30分近く待ってるんだけど、そんなに話し合いに時間かかるもんかな?

 暇だし『堅』の練習でもしてようかな。…ふんっ!

 ん~、カイトと比べてみると粗が目立つ。要練習だね。

 

 

 目をつぶりながら集中してオーラを整えようとしていると誰かが近づいてくるのがわかった。

 お?カイトが来たかな。

 目を開くと目前まで迫った手刀が見えた。

 

「え?」

 

 目の前の光景に呆気に取られて『練』が解除されてしまった。

 

―――ゴチン!

 

「~~~っ!?

 な、なんで?」

 

「こっちが説明してるときに『堅』を使うやつがあるか!

 余計に疑われるだろうが!」

 

 おおぅ、それもそうか。

 巣からかなり離れることができたから気が抜けちゃってるのかな。

 

「ご、ごめんなさい。」

 

「ふむ。聞いた限りではキメラ=アントは好戦的だと聞いていたんじゃが……。

 お主がネフェルピトー君かのぉ?」

 

 え?ネテロ?なんで?……あぁっ!そういえば応援部隊として近くにいたね。すっかり忘れてた。

 原作を読み直したいなぁ。このままだと忘れてることやミスリードしてる場面とかありそうだ。

 カイトの後ろには応援部隊のネテロを含む三人にゴンとキルアが立っていた。

 錚々(そうそう)たるメンバーだね。

 

「そうだけど、どなた?」

 

「ワシはハンター協会の長をしとるアイザック=ネテロじゃ。よろしくの。

 情報提供者が現れたと聞いて確かめに来たんじゃよ。

 ちょうどこちらに向かうところじゃったからの。

 君には詳しい話を聞かせてもらいたい。」

 

「その前に僕が逃がした人は無事?」

 

 逃げ出したときのポックルの状態を思い出すと検問所までたどり着けたのが不思議なくらいだ。

 

「無事じゃよ。

 ただし消耗が激しいのでもう病院に向かわせたぞい。」

 

「命に別状は!?」

 

「ないと断言しよう。」

 

「ふぅ、よかった~。

 なら話すよ。何から聞きたい?」

 

 

 

 

 巣での女王がいる場所。王が生まれる時期。護衛軍の数。師団長の数。念が見える蟻。

僕が流した欺瞞情報。潜在的女王敵対者。蟻達の念の知識。選別。人だったときの記憶の有無。

 求められるだけ蟻達の情報は話した。そろそろ水が欲しい。

 

「ピトー君、情報感謝する。

 報酬はハンター協会での身柄の保護だったかの?」

 

「それはもういいかな。

 ちょっと探し物ができたんだ。」

 

 視界の隅でカイトが笑いかけてくれているのが見える。

 無性に気恥ずかしくて尻尾が動かないように手に持っていじってしまう。

 他のみんなの目が生暖かい気がするのは被害妄想?

 うぅ、思春期真っ盛りに家族総出で授業参観日に来られてしまったような気分だよ。

 

「……?

 そうか。では、情報料でも払っておくかのぉ。」

 

「それよりもどうやったらグリード・アイランドを入手できるか聞きたい。

 知ってたりする?」

 

「おぉ!あのジンが作ったゲームのぉ!

 よく知っとるな。」

 

「さすがに詳しくは覚えてないんだけど、念能力者育成のためのゲームだってことは覚えてる。

 この先何があるかわからないし、やっておきたいんだ。

 今回の騒動が終わるまでの隠れ蓑にもできるんじゃないかってのもある。」

 

「プロハンターの同行者を連れて行くのなら、こちらが手配しよう。

 ノブ、頼めるか?」

 

「今確認しております。」

 

 ネテロさん、太っ腹!

 ネテロが後ろに控えていたノヴに聞くとどこかへ電話していた。

 ノヴはネテロの応援部隊の一人。念空間という特殊な空間を具現化する念能力を持つ。

 そういえば何でノヴは僕を前にして平気なんだろうか?

 原作では護衛軍の一人であるプフの『円』を見ただけで心が折れたというのに『堅』をしてた僕に近づいていた。大丈夫なのだろうか。

 

「ねね、僕のオーラってどう?」

 

「ん?そうじゃのぉ。

 一度お主の『練』を見せてもらえるか?」

 

「りょ~かい!」

 

 ノヴは電話するために離れてるしこちらに背中を向けてる。

 これなら『練』しても平気そうかな。でも本当に不気味なオーラだったら困るか。

 30%くらいでいってみよう。

 ……むんっ!!

 

「ふむ、破格の質と量じゃのぉ。

 ハンターになってみる気はあるか?」

 

「それは魅力的なんだけど、今はそういうことじゃなくってさ。

 その……僕のオーラって不気味だったり……禍々しかったりしない?」

 

 みんなが顔をつき合わせて首を傾げたりしながら無言の確認をしている。

 僕の質問の意図がわからないっぽい。

 

「僕ってさ、一度死んだようなものじゃない?

 だからオーラが禍々しくなってるんじゃないかなって確認したいんだよ。

 自分自身のはわからないけど、他の護衛軍のオーラは卵の状態でもやばかったからさ。」

 

 グラサン掛けた巨漢が前に出てきた。

 確か名前はモラウ。煙を媒介にした念能力で索敵や情報収集に秀でていた。

 煙のベットとか作ってくれないかな。でも、そんなことしたら臭いがついちゃうか。

 

「オレはモラウってもんだ。あっちで電話してるのがノヴ。

 この中で一番のビビリなノヴが平気なんだ。

 そんなことはないだろうよ。ガキ共はどうだ?」

 

「怖気づくってほどでもねーよ。」「うん、圧倒はされるけど全然平気だよ。」

 

「あ~、よかった~。」

 

 モラウ、キルア、ゴンからお墨付きをもらって胸をなでおろす。

 物理的になでおろすと女性特有の起伏に触れてしまうので、もちろん気持ちだけなでおろす。

 これで常時『絶』生活の可能性はなくなったね!

 

「会長、ツテを頼れば60億での買い取りが可能です。

 モラウはちょっと話があるから向こうで話し合おう。」

 

 高っ!そんなに高かったっけ!?

 これは無理だ。素直にお金にしとこう。

 

「プレイし終わったらワシに返すという条件ならば問題はないかのぉ。」

 

 え?いいの?

 さすが一流のプロハンター。買えるだけの金があるのかー。

 

「全然オッケー。

 他に何か条件あったりする?」

 

「では条件を今のうちに決めておこう。

 一つ、用意するグリード・アイランドは一機のみ。

 一つ、使用場所はワシの代理が指定した場所でプレイすること。

 一つ、同行者は認めるがワシの代理も一緒に連れて行くこと。

 一つ、ピトー君がプレイし終わったら同行者も一緒に戻ってくること。

 一つ、プレイし終わればグリード・アイランドをワシに必ず返すこと。

 これくらいかのぉ。」

 

「やった!

 ありがとう、おじいちゃん!」

 

「おじいちゃんか……。」

 

 あれ?なぜだか黄昏てしまった。

 実は微妙なお年頃だったりするのだろうか?そんなバカな。

 そういえば息子さんがいたんだっけ?それ関係のトラウマでも抉っちゃった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前を歩いているゴンが傍から見ても目に角を立てているのがわかる。

 そんなゴンにキルアは少し呆れ気味だ。

 

「まだ怒ってんのかよ。」

 

「だって悔しいじゃん!」

 

 応援部隊とカイトは女王討伐に出発してしまった。

 お預けをくらった時のゴンとキルアは見るからに不満そうだったよ。

 検問所を疾うに過ぎ近くの街に向かってるのだが、未だゴンはそのことを引きずっている。

 

 2人が彼らについていけば、足手まといになるのはわかりきっていた。

 ネテロ達には王が生まれるのは早くても1週間後だと教えている。移動時間も考えるともう余裕なんてほとんどない。当然の結果だった。

 

 ネテロが戻ってくるのは長くても10日後。

 あれだけ情報を渡したんだから戻ってきたときには全て終わっている可能性が高い。

 原作通りなら二人とも紆余曲折はありながらも討伐隊として最終決戦に参加していたのだからスキルアップの機会を僕が失わせたに等しい。

 だからだろうか。今の僕はちょっと居心地が悪く感じてる。

 

「ごめんね。」

 

 気づいた時には謝罪の言葉が口から漏れていた。

 

「違うよ。ピトーさんのせいじゃない。

 オレが弱くてカイトについていけなかったことが悔しいんだ。

 帰ってきたときには絶対に強くなって見返してやる!」

 

「アンタの『堅』見れば、オレ達が足手まといなのはわかるよ。

 あのままオレ達がついていったほうが問題だったんだ。

 アンタが気にする必要はないって。」

 

 2人の励ましに少しだけ心が軽くなった。

 

「そういってくれると気が楽になるよ。

 あ、僕のことはピトーって呼び捨てでいいよ。」

 

「ならオレのこともゴンって呼んでよ。」

 

「キルアでいいぜ。」

 

 ゴンとキルアが後方待機を言い渡されたときに僕の世話係も言いつけられている。

 ネテロは2人がG・Iのクリア経験者だと知っていた。どこまで地獄耳なんだあの人。

 ヒソカじゃあるまいに将来有望だから動向を見守っていたりするのだろうか?

 

 

 

 

 

 街に入ったらまず先に帽子を買ってもらった。

 通行人の目が痛いのだ。しかも、あからさまに写メを撮られた。携帯独特のシャッター音ですぐわかる。

 ピロリロリ~ンじゃないよ!絶対コスプレかなんかだと思われてた。

 

 

 そそくさと逃げるようにネテロが手配したと言っていた宿に向かったのだが―――

 

「で、僕たちに手配してくれた宿ってこれなの?」

 

「そのはずだよ。」

 

「宿って聞いてたんだけどおかしいな。

 ゴン、僕には一軒家に見えるよ。」

 

「だよね。

 キルア、ほんとにここで合ってるの?」

 

「入ってみりゃわかるだろ。」

 

 入ってみるとやはりネテロ会長が手配したものだった。

 ご丁寧に伝言まで残してあるので間違いない。その恰好では他の客がいると面倒だろうということが書いてあった。

 ネテロにはこちらのことなどお見通しのようだ。

 というか、街中で注目されることわかってたなら、先に言ってほしかった。




あれ?チョロ……イン?

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