ネコネココネコ   作:ぴぴるぴる

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第01話 『練』ってオーラを体に留めてないよね?

 あの謁見の後挨拶もそこそこにして退室し師団長との顔合わせを済ませてからタドゥに護衛軍専用のフロアまで案内された。

 道中タドゥにはいろいろ話しかけられていた気がするけれど、話の内容なんてほとんど覚えていなかった。

 僕は適当に相槌打ちながら嫌な焦燥感を必死に誤魔化していた。

 専用フロアに着いたら早速自分の顔を確認するため水をもらえるように頼んで持ってきてもらう。

 

 蟻、女王、護衛軍、師団長、ネフェルピトー。

 これらのキーワードを符合すると一つしか思い浮かばない。

 ハンター×ハンターのキメラ=アントのことだ。

 

 ハンター×ハンターとは熱血系少年週刊誌に掲載されていた漫画の一つ。

 主人公ゴン=フリークスが父親ジンに会うためにジンの職業であるハンターになり、仲間達との絆を深める様を描いた冒険活劇。

 しかし主人公とその仲間以外の登場人物がお手軽にポンポン死んでいくので本当に少年誌に載ってていいのかちょっと疑問だ。グロ表現は当たり前に規制されるので青年雑誌のほうがいいように思う。

 

 キメラ=アントとは摂食交配という極めて珍しい繁殖の仕方をする蟻のことである。

 繁殖を許された女王もしくは王が食した生物の特徴を次世代に反映させることで著しい進化を遂げていく隔離指定の超危険生物。一世代違うだけで体の仕組みが全く違ってしまうほどだ。群れを率いる女王もしくは王は個体ごとに好き嫌いに違いがあり別名『美食の蟻(グルメアント)』。

 作中では自然保護を掲げるNGL奥地に2m程のキメラ=アントの女王が暗黒大陸から漂流してきてしまったことから物語が展開していく。外へ向けての連絡手段がほとんどないNGLで猛威を振るうキメラ=アントにより未曾有の生物災害が発生。ハンター協会ネテロ会長含むキメラ=アント討伐隊が女王が王を生む前にハントしようとしたが間に合わずに生まれてきてしまう。最終的にはネテロ会長が王の相手をし自爆することによって爆弾の猛毒を王に感染させ仕留めることができた。

 

 ネフェルピトーとは女王から生まれた(メルエム)直属の3人護衛軍の1人。

 猫の特徴を強く引き継ぎ猫耳尻尾を装備したちょっとお茶目な蟻である。

 護衛軍ということもあり初戦でプロハンターのカイトをお茶目に討ち取るほど戦闘力も高い。

 だがしかし、キメラ=アント編の最終局面では主人公ゴンがハンターも憧れる切欠になったカイトを殺したことによりゴンに恨まれ殺されてしまう。

 

 なにかの悪い夢だと思いたい。思いたいが僕の頭の中で警鐘が鳴り響いている。

 これが現実だと仮定してみよう。

 原作のキメラ=アント編は確か3ヶ月ちょっとで解決してしまったと記憶している。

 これが現実だった場合すぐさま何かしら行動に移さないと事態に流されているだけでお陀仏になってしまう可能性もある。とりあえず今はこれが現実だということにしておいたほうがよさそうだ。

 

 でも僕って本当にネフェルピトーなの?

 もしかしたらただの偶然の一致という可能性が微粒子レベルで存在していたりとか……。

 恐る恐る桶に入った水を覗き込んでみるとお目々パッチリの銀髪猫耳少女が水面に映っていた。

 どこをどう見てもネフェルピトーだった。

 ……終わった。

 ゴンさんに()られる。しかも余命3カ月もないじゃん。

 ミミズですら半年は生きるというのに僕の寿命はミミズ以下かぁ。

 

 あ!でもカイトを殺さなければ()られることは回避できるじゃん!

 というか僕がカイトと戦っても逆にこちらの首と胴体が泣き別れすることになりそうだ。

 とりあえずカイト含む主人公たちが来ても戦闘を回避すれば生き残れるね!

 僕が引きこもっていれば誰かが追い払ってくれるか敵情視察を終えて勝手に帰ってくれるだろう。

 

 

 でも、このままキメラ=アント側にいてもいいのだろうか。

 僕の立場は護衛軍だ。女王が(メルエム)を生めば僕は彼に着いていかなくちゃいけなくなる。ついていかなきゃ尻尾ビンタは確実だし、ついていったらいったで討伐隊との戦闘は必須。

 中身は一般人だよ!尻尾ビンタなんてされたら跡形もなく頭がパーンされちゃう!

 それに討伐隊の誰に当たろうが僕が負けると胸張って言えるよ!

 

 いや、待て待て。

 その前にメルエムに殺されることも考えられない?

 生まれた当初メルエムは力で解決する傾向が強かったはず。ちょっとした失敗で殴られてそのまま昇天してしまいそうだ。それに誠心誠意彼に仕える自信がない。

 忠誠心?会ったこともない蟻にどうやって忠誠を誓えというのだろうか。

 滅私?煩悩ですら消せない自信があるから無理!

 

 それ以前に下手すると同じ護衛軍のプフに殺されてしまう可能性もあるじゃん。

 プフには念が使えずとも相手の感情をある程度読めたはずだ。メルエルに対して忠誠心がないことなんて一緒にいればすぐにプフにバレてしまうだろう。あの狂信的なまでにメルエルに忠誠を捧げているプフが忠誠心ゼロの僕を護衛軍と認めるとは思えない。

 何か不手際を起こせば容赦なく僕の命を狙ってきそうだ。もしくは操られる可能性もあるけれど、どちらにしてもお断りだ。

 

 考えれば考えるほどここにいること自体が死亡フラグにしか思えない。

 こうなったら逃げよう!無理ゲーにもほどがある。

 

 

 

 

 

 

 

 逃げるにしても今の僕はどれだけ自由に動けるのだろうか。

 タドゥが言うには王が生まれるまで基本待機らしい。が、どこまで好き勝手できるのか現状ではわからない。もっと詳しく聞いておけばよかった。タドゥを探して詳しく聞いてみよう。ついでに本でも探してみようかな。

 

 

 さて今の僕は護衛軍専用のフロアを一人で貸切で使っている。護衛軍の中で僕が一番早くに生まれたしね。

 他の蟻達の自室はどうなっているのかというと師団長毎にフロアが与えられていて部隊ごとに定められた任務が終わったときに思い思いに休憩しているようだ。

 ほかにも本で知識を得るためや他の部隊との情報交換のために共有フロアもある。共有フロアは言語を話せる兵隊長以上の蟻達がよく利用しているとかタドゥが言ってた気がする。

 

 タドゥを探してみたが専用フロアにはいなかったので共有フロアに来てみた。

 そこまで利用者は多くないなぁ。狩りにでも出かけているのだろうか。

 外見が草食動物に似ている蟻達が多いことが目に付く。見回していると他の師団長と話しているタドゥを見つけた。

 

「タドゥ、ちょっといい?」

 

「おぉ、ネフェルピトー殿。

 なにかお困りごとでも?」

 

「体を動かしたいから外に行きたいんだけど一人で行動してもいいの?」

 

「ホッホッホ、大丈夫ですよ。

 ですが外出の際には門番に出かける旨を伝えてくださいませ。

 それから女王様からの命令があるかもしれませんので長くても2日ほどで巣にお戻りに

 なったほうがいいです。」

 

「気をつけるよ。

 ここに地図って置いてないのかな?」

 

「あちらの壁に貼り付けてあるのがそうです。」

 

「あぁ、あれね。

 ありがとねー。」

 

 壁に貼り付けてある地図の前まで移動して現在地を確認してみるとカナ文字の『ク』を上下逆様にしたような島が地図に描かれていた。

 確か左端だったと思うんだけど……字が読めない。

 これじゃ本も読めないじゃん!はぁ、仕方ない。本は諦めよう。

 この世界じゃ僕は文盲かぁ。ちょっとショック。

 それより僕が今いる現在地はどこだろうか。誰かに聞いてみよう。

 

「ちょっといいかな?」

 

「何か御用でしょうか?」

 

 僕が呼び止めたのは近くを通りかかったペンギンっぽい参謀役。確かペギーって名前だった気がする。ちっこくてかわいい。

 このペギーとタドゥは師団長補佐の参謀役だ。参謀役はちょっと特殊で外に出ることは少ない。部隊間の連絡や師団の運用効率を見直したりと頭脳方面の仕事が多いからだ。

 必要に応じて師団長から兵隊長達を借り、独自で指揮することもあるらしい。

 所属している部隊の専用フロアはあるが、情報交換のために共有フロアいることが多い。参謀役はもっぱら共有フロアが彼らの専用フロアといったところ。

 

「文字が読めないんだけど、今の僕たちのいる現在地ってどこ?」

 

「この左端の赤い点が私達のいる場所を指しております。」

 

「へぇ。国境を越えての狩りはしているの?」

 

「国境を越えずとも餌は十分にありますので国境を越えての狩りはしておりません。

 それに何分距離がありますし、そこまで移動力の高い部隊はまだ編成されておりませんな。」

 

 残念。なら偵察として隣国に行くって名目で巣から離れることは無理そうだ。

 他に何か適当な理由はないかな。レアモノ関係で攻めてみますか。

 

「人間の中にやけに生命力にあふれたのがいるらしいね。」

 

「はい、おりますな。私どもはレアモノと呼んでおります。

 私どもの師団中でそのレアモノと遭遇し戦闘になった者がいます。

 しかしその場で返り討ちにされ、今もそのときのダメージから回復しておりません。」

 

 あ~、コルト隊ならラモットかな。もうゴンたちと戦ったのか。

 回復したら念が使えるようになってるはずだ。

 念を使えるようになってしまうと面倒だなぁ。

 いつかは念について詳しく知られてしまう可能性もあるができるだけ引き伸ばしておきたい。

 原作だとこれからどうなったっけ?

 あ!ポックル忘れてた!もしかしたら調理場にいるかもしれない。

 

「そのレアモノってさ、まだ生きてるサンプルはいるのかな?

 できれば確保して調べてみたいなぁ。」

 

「ならば探してみますか?確かザザン隊が1人生け捕りにしたはずです。

 運がよければ調理場にあるかもしれませんな。」

 

「よかったら案内してもらえる?

 まだどこにどんな部屋があるかわかんないんだよね。」

 

「わかりました。

 ご案内いたします。」

 

 ザザン隊ってことは間違いなくプロハンターになりたてのポックルだよね。

 ん~、今の僕で彼を助けることができるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つかってよかったよ。」

 

「そうですな。

 女王様より許可も得られましたし、うまくいけばレアモノの情報も得られるでしょう。」

 

 原作通りにポックルが調理場兼食料庫にいた。

 まだ毒を打たれたばかりで全く身動きが取れなかったようですぐに確保することができた。ついでにポックルを実験用の共有フロアに移させてもらった。

 ペギーが言うように女王には許可を取った。レアモノを効率よく仕留める為とか適当な理由でね。会話を聞こうとしたんだけど、僕にはよくわからなかったや。

 さっきからポックルの様子を調べているんだけど意識ははっきりしているようだが、まともに喋ることもできない様子だ。

 

「毒が抜けきってないみたいだね。」

 

「本来ならば後1週間は意識不明のままです。なのにコレはもうすでに意識が回復しています。

 驚異的ですな。兵隊長が返り討ちにあったのも納得できます。」

 

「解毒ってできるの?」

 

「師団長のザザンが毒を打ち込んだので、本人なら何かしら解毒法を知っているかもしれません。

 他にも人間の拠点を探せば解毒効果のある薬が置いてあるかもしれませんな。」

 

「そっか。なら、そのザザンに聞いてみるのが先だね。

 あるようなら解毒してみよう。喋れるようになったら尋問ってことで。」

 

「わかりました。」

 

 ポックルを軽く縛り雑務兵に死なないように最低限の世話を言いつけてから実験用の共有フロアを出た。他の蟻達には手を出さないように護衛軍の肩書を使ってペギー経由で厳命しておいてもらった。さて、ザザンは解毒薬をもっているかな?

 

 

 

 

 

 

 

 結果からいうとザザンは解毒薬を持っていたのでもらってきた。

 ジッとしているとソワソワしてくるので、ベギーについていってザザンに会ってみたのだ。僕が護衛軍ということもあってか原作と違って従順で少し面食らってしまった。

 実際に会ってみるとカッコいい系のお姉さまで美形だった。美人は目の保養になるよね。しかしあれが尻尾を抜くとムキムキに変身するのかと思い出すと途端に何とも言えない気持ちになっちゃった。思い出すんじゃなかった…。

 解毒薬を投与すれば3日くらいで完全に解毒できるそうだ。ポックルなら今夜にでも解毒が完了しそうだ。今はポックルに投与するためにペギーを連れて移動中である。それにしても巣の中が広すぎじゃないかな。30階建てのビルと同じくらい広そうだ。

 

「これで解毒できますな。」

 

「そうだね。解毒薬があってよかったよ。

 ん~、あのレアモノって組織的に行動してるの?」

 

「そういえばあのレアモノは4人のグループで集落から遠く離れて行動していたと聞いています。

 他のレアモノも集落から離れて行動していた少数名のグループの中に必ず1人はいたとと報告さ

 れていましたので組織で行動していたと見ていいかもしれません。」

 

 お!この会話の流れならいけるかも。

 

「偵察の可能性が高いね。ならあのレアモノを解毒できたらワザと逃がしてみようか。

 ちょうど体を動かしたかったし、僕が後をつけて他のレアモノを探してくるよ。」

 

 そのままとんずらしてしまおう。

 女王に会っても女王自身にも彼女のお腹の中にいたメルエルにも特に何も感じなかった。

 この体になったことによって何かしらの強迫観念や忠義心みたいなものを感じるかと思ったんだけれどもそんなことはなかった。気兼ねなくここから逃げ出せる。

 

「私としては反対です。

 なんでもレアモノは生命エネルギーを自在に操るということ。

 その技術をなんとしても聞き出すべきです。」

 

 この流れはまずい。軌道修正。

 

「毒の耐性も高いのにどうやって?アレが拷問されても話すとは思えないよ。

 それよりも今は敵の戦力の確認のほうが先でしょ。

 他にレアモノがいるようなら弱いやつを捕まえて情報を吐かせればいい。

 他の仲間がいないようなら僕が責任を持って再度捕まえるよ。」

 

「…では、他の部隊も動員させましょう。

 師団長コルト率いる部隊は飛行能力がある兵のみで編成されてますので離れてついて行くことも

 可能です。」

 

 コルトはやばい!何とか回避しなくちゃ!

 

「へ?僕一人でいいよ。

 たくさんいても尾行の邪魔にしかならないよ。」

 

「お一人で大丈夫ですか?せめて師団長のコルトだけでも連れていったほうが得策かと。

 私よりも頭が回りますし、必ず役に立ちます。」

 

 だから嫌なんだよ!コルトについてこられたら、どこかで必ず僕の意図に気づく。

 ここは多少強引にでも一人でやらせてもらわないと!

 

「平気平気。もし取り逃がしたとしても僕だけの責任ってことにするさ。」

 

「……そこまで言うのでしたらお任せします。

 ですが、どうやって逃がすおつもりで?」

 

「今からあのレアモノに解毒薬を投与すれば早くても今夜にはもう動けんじゃないかな。

 縛ったときに軽くしてもらったから動けるようになれば勝手に逃げだしてくれるんじゃない?

 しばらくは巣の警備を少なくしてね。

 レアモノが逃げ出しても極力放置ってことで。他の部隊にも一応伝えておいて。

 それと、できればある程度情報を与えておいたほうがいいかな。

 思い余って自殺されても困るし女王様が後1週間程度で王を生むとか適当に嘘を聞かせておけば

 情報を持ち帰るために逃げ出してくれる可能性が高くなるかもねー。」

 

「こちらから弱みを曝すのですか!?」

 

 さすがに極端な例には反対だったのだろう。ペギーが立ち止まって僕の背に向けて大声で非難してきた。

 

「もう向こうはこちらの情報を知ってると想定しておいたほうがいいよ。

 それに他の大陸に別の群れがいるとか巣を移動させるとかの嘘情報でもいいんだからさ。

 流す情報は他の参謀役と一緒に決めよう。」

 

「……わかりました。」

 

 

 ふぅ、危なかった。コルトにはついてこられたらせっかくの逃亡計画がおしゃかだよ。もしも強引についてこようとしたら追い払おう。

 

 ポックルの他に捕まってる人たちは見捨るしかないか。

 3ケタほどの地元民が捕まってると聞いているが、さすがに今の僕にはポックルだけが限界だよ。

 

 今の最優先事項は逸早くここから逃げ出すことと可能なら蟻達に念の情報を与えないこと。

 できるだけ原作よりも弱体化を謀ったほうが逃亡の難易度も下がるはずだ。

 できればラモットもサクッと暗殺しちゃうのがベストなんだけどなー。

 夜までにラモットが回復して原作通りに少し調子にのったりすると簡単に殺れそうなんだけど…。

 

―――あれ?僕ってこんなにアグレッシブだったっけ?

 

 そうだ。ついでに波紋を起こしてみようかな。

 

「あー、そうだ。今のうちに言っておくね。

 これ以上レアモノを女王様の食事に出さないほうがいいよ。」

 

 ペギーの耳に顔を寄せて囁くと彼はその場で意味がわからないという顔をする。

 

「それは…また…どうしてでしょうか?」

 

「今でも十分に王が強いのを僕は感じるけど、これ以上力をつけたら女王様は無事だと思う?」

 

「はい?

 軍団長殿は無事に出産できない可能性があると?」

 

「女王様と対面してよくわかったよ。王に向ける慈愛は狂おしいほどに深いものだよね。

 過保護なまでに王に栄養を与えようとギリギリまで腹の中で育てると思うな。」

 

「いいことではないでしょうか?」

 

「そうだね。母の愛ってすごいよね。愛されてるなーって僕も思うよ。

 ……でもさ、王が大人しく生まれてきてくれるかな?」

 

「っ!?」

 

「王は種の頂点に立つお方。

 お腹の中にいる時点ですでに強いと確信できる。今現時点でもね。

 さて、その王は女王様の(過保護)をどう思うだろう?」

 

「…そ…それは…。」

 

「わからないよねー。わかるわけがない。

 でも絶対ないとは言い切れない。場合によっては強引に出てくるかもね、お腹を突き破ってさ。

 種の頂点として君臨されるお方だから強いほうがいいんだけど、君たちにしたらたまったものじゃ

 ないでしょ?僕個人としても手が付けられないのは困るんだよねー。」

 

 慈悲云々はその場のでっちあげの嘘。でも、原作通りなら女王はメルエルに殺される。

 もう手遅れだろうと思うし、今のうちに教えておくのもよさそうだと判断した。

 

「もしかしたらただの杞憂かもしれないし、もう遅いのかもしれない。

 まぁ、そこの判断は参謀役であるペギーやタドゥ達で相談して決めてね。

 女王様に話せば絶対に王を優先させるから話すのは止めたほうがいいよ。」

 

「こ、これでっ!」

 

「はい、待って待って。

 話はまだ終わってないよ。」

 

 走り出そうとするペギーを抱きかかえて動きを止める。

 うむ、やわこい。そして、もふもふ~。 

 そして、ここまでが建前。

 

「最後に忠告、今の師団長の中で肉食動物に近いやつは自我が強いから気をつけたほうがいいよ。

 コルトは大丈夫そうだけど、ザザンとかは要注意ね。

 小耳にはさんだんだけどさ、最近軍規が乱れてきてるらしいじゃない?

 女王様が亡くなってくれるとありがたいって連中は現状でも結構多いと思うよ。

 参謀同士で話すにしても相手は選んだほうがいいかもね。」

 

 言いたいことは言ったのでペギーを降ろしてあげると、こちらを振り返りもせずにさっさと走り出してしまった。

 

「では失礼します!」

 

「はいは~い。またねー。」

 

 こんな感じかな。疑心暗鬼にかられて頂戴なっと。

 

 

 

 ペギーと別れ、無事にポックルに解毒剤を投与できた。その際ポックルの顔を確認したが尋問うんぬんが聞こえていたのか絶望的な顔をしていらっしゃったよ。

 折角助けようとしているのになー。まぁ、向こうはこっちの事情なんてわからないか。

 教えてあげたいけど雑務兵がいて下手なこと言えなかったし仕方がない。

 あ、もしかしたら僕のオーラが原因の可能性もあるのか。

 

 

 

 

 

 

 ポックルが逃げ出すまで待機なんだけど、ペギーに警備を緩くできるのか確認を終え今のうちに念能力を使えるのか確認することにした。

 理想は円ができるといいんだけどできるかなぁ。他に尾行者がいないかの確認に使いたいんだよね。

 無理だろうけどやらないよりかはいいはず!

 

 

 念能力とは体からあふれ出す生命エネルギー(オーラ)を自在に操る能力のこと。

 オーラを駆使し常人よりも遥かに高い身体能力を得たり超能力染みた力を発揮することができるのだ。誰でも習得可能で危険な技術とされ、一般には秘匿されている。ちなみにプロハンターは全員念能力を使えることが必須になっている。

 

 

 原作では師団長ですら苦もなくオーラを見ることができていたけど僕でも見えるのだろうか。

 もしかしてみんなの体から出ている湯気はオーラだったり?ならばこの体から出ている湯気は僕でも操作できることになる。試してみると……。

 

「おぉ!結構簡単に操作できる!ちょっと面白い!」

 

 簡単にできちゃったよ。

 まだ感覚がなれないけれど、オーラを操作する自体は苦にならない。

 さすがは公式チートの一員。これが護衛軍か。

 

 本来なら瞑想したりオーラで攻撃されたりしなければ体にあるオーラの出口になる精孔が開かないと記憶してるんだけどなー。

 ん~、師団長以上の蟻達は潜在的なオーラが高いために本来の垂れ流し状態でも常人の錬と同等かそれよりも多く体外に纏わせている状態だったりするとか?

 なんとなくこれで合ってる様な気がしてくる。

 それが当たってるのだとしたら、まだ精孔が開ききっていない可能性もあるね。もっと色々試してみよう。

 

 

 

 四大行の『纏』『錬』『絶』の練習をしてみたら特に問題もなくできてしまった。

 『錬』をしたら何かしこりのようなものが少し消えたような気がする。やはりまだ精孔が開ききっていなかったようだ。

 

 30分ほど『練』をしたら垂れ流すオーラ量が一目で分かるほど増えた。体感的に最初の5倍くらい。体外に放出できる顕在オーラ量(AOP)がすこいことになってそう。というか常時『纏』か『絶』をしてないとオーラが全部抜けていってしまうんじゃないかと不安になるオーラ量になっている。

 

 

 

 四大行とはオーラ操作の基本である4つの型の総称である。

 

『纏』・・・普通は垂れ流しにして消費しているオーラを拡散しないように体に纏わせる。通常よ      りも体が頑丈になり常時『纏』をすると若さを保つこともできる。

 

『練』・・・一時的に通常よりも多くのオーラを体内で練り一気に生み出す。垂れ流すだけなので      消費が激しい。

 

『絶』・・・オーラを完全に体外に出さないように精孔を閉じ存在感を消す。隠密に優れるが念攻      撃に無防備になるが治癒が早まる。

 

『発』・・・『練』で生み出したオーラを駆使してオーラによる特殊能力を行使する。

 

 念能力はときにこの特殊能力を指すこともある。

 個人が思い思いに個別の特殊能力を作るので能力の内容は千差万別。僕の場合はまだ能力を作ってないので『発』はやっていない。迂闊に能力を作ってしまうと作り直しができないので慎重にならざるをえない。

 

 

 

 他にも四大行を組み合わせた応用技の一つ『円』も試してみたら原作のピトーのようにアメーバ状の円も可能だった。

 

 しかし、オーラの展開は半径3mほどに抑え最大距離は確かめることはできなかった。他の蟻には念の事は内緒だし、何が切欠で彼らが念に目覚めるか分からない。それなのに、調べられるわけがない。師団長達には円を見られてそれはなんだと聞かれてしまう可能性もあるしね。

 

 もしかしたら『隠』ができるのなら別なのかもしれない。

 それにしても今はこの体のチート具合が助かるのだけど、さすがにここまでくるとちょっと呆れてしまう。

 よく原作で護衛軍を毒なんかで殺せたよね。ピトーだけはゴンさんに頭部を破壊されたんだけどさ。

 

 

 

 応用技は今わかっているだけで7つ。

 

『凝』・・・体の一部分に『練』をしオーラを部分的に集中させ強化する。目に『凝』をすること      で隠されたオーラを見えやすくさせる効果もある。

 

『隠』・・・『絶』の応用技で自身のオーラを相手に見えにくくする。なお『凝』で見えてしまう      こともある。

 

『周』・・・物に『練』をしオーラを纏わせ強化させる。

 

『円』・・・自分を中心にオーラを広げてその場に留め、そのオーラの中に侵入したものを察知で      きる。

 

『堅』・・・『練』の状態で『纏』をすることによって防御を高める。

 

『硬』・・・四大行と『凝』をすべて複合させ一部分のみすべてのオーラを集める。

 

『流』・・・『堅』の状態でオーラを体に振り分け攻防力を変化(移動)させる。

 

 

 

 ん~、夜まで『絶』をしておこうかな。

 この体にどれだけのオーラ量があるのかわからないけど、これ以上はオーラの消費をできるだけ抑えたほうがいいだろう。

 さて、ポックルはいつ動いてくれるのかなー。

 他にも色んな場面を想定して準備しておこなくちゃね。絶対に逃げ出してやる!


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