Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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皆様、あけましておめでとうございます!! 謹賀新年です!!
そして新年1発目です。ですが今回、別に見なくても大丈夫な回です。サブタイトルを見て分かる通り、ギャグ9割シリアス1割位の、下らない回ですので。

それでもよろしければ、どうぞお楽しみください。


Ex.episode3-6 最大の敵とは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―12月1日午前12時 訓練兵用シミュレータルーム―

 

 

「如何でしょうか、黒鉄少佐」

 

「・・・問題ない、と言うのは過小評価か。よくこれ程までのレベルに仕上がったと、そう言うべきだろうな神宮司軍曹」

 

「やはりそう思われますか? 私も、客観的に見てここまでとは正直驚いていますから。言わせてもらうと、これは私の力ではなく、本人達の力によるものだと私は思います」

 

「それを言うなら、自分と軍曹の力では無いと言うべきだろう。訓練中は付きっきりだった為か、こうして外から見るのは新鮮だが、それを差し引いても正直驚きを隠せない」

 

 

そう言って、武は目の前のモニターの映像を食い入る様に見つめた。その眼差しは厳しく、僅かな隙も見逃さない狩人の様である。そんな目をしているからには武が告げた評価には世辞は一切含まれないだろう。即ち、教官としての立場としてのみで考え、見たままの感想を言っている。それを知ってか、まりもはほんの少しだけ頬を緩ませ、誇らしげに自身もまたモニターに目を向ける。

 

映像の上では、榊が指揮官として指示を出し、他の4人がそれに従って敵機を危うげなく撃墜していく姿が現れている。XM3の特性を、今出せる限り最大限活用して行っている機動は、実戦など一度もこなしていないのに不思議と様になっていた。

 

古いOSの概念が無い分、XM3に親しみやすいと予測されてはいたが、それでも殆ど違和感を感じさせない機体制御や、キャンセルを用いての瞬間的機体制御。相手の攻撃のパターンを正確に読み切り、コンボ機能で比較的楽に敵を狩る様は武やまりもをもってしても圧巻するの一言だった。

 

映像上の敵機は残り3機だが、今の様子を見るにあっという間に殲滅されるだろうと武は判断する。敵機の設定レベルはそれなりとはいえ、現在の207Bの敵ではないといえよう。そしてその判断は見事的中する。

 

数秒後、演習の終了を知らせるブザーと音声が流れ、シミュレータ演習が終了する。結果は勿論の事、207Bの圧勝と言う形だ。それを確認後、まりもが厳しさを感じさせる声で連絡事項を伝え、伝え終えると通信を切って武に振り返る。

 

 

「それではこれより、私は今の訓練の評価に移りたいと思いますが、少佐は参加なされますか? 午後からは、少佐は別の任務で外されるのでしょう? 時間が無いのであれば、私1人に任せてもらっても構いませんが」

 

「・・・そうだな。軍曹さえよければ、そうして貰えると助かる」

 

「了解しました。少佐は少佐の任に就いて貰って構いません。ここ最近は、どうも少佐に任せっきりだった為、私としても任せて貰えるとありがたいと思っていましたから」

 

 

まりもはニッと笑って、武に敬礼する。その表情を見るに、鬼教官としての腕を奮る気満々のようだ。演習の評価に驚いたとは言え、未だ完全に不満が無いとは言えないのだから当然と言えば当然だ。頼もしいと思いつつ、ほんの少しばかり武は207Bの5人に同情してしまう。

 

だが、これもまりもなりの優しさだと思えば、口を挟む余地など無い。武に出来る事といえば、彼女の叱責に堪えるのではなく応えて貰う事を祈る事ぐらいだ。

 

 

「それでは、軍曹の敏腕に期待するとしよう。それと、訓練メニューについては、このまま対人戦闘を重きにおいて訓練を行って欲しい」

 

「了解しました。ですが、その事について少々質問があります」

 

「分かっているさ。何故、そこまでして対人戦闘をメインに訓練をさせるか、だろう? 」

 

「慧眼、恐れ入ります」

 

「理由としては単純な物だ。これはまだ日については未定だが、軍曹と訓練兵が使用しているXM3のトライアルが近々予定されている。XM3の実験部隊として訓練を行っている訓練兵には、その時に無様な評価を出すなど許される事ではない。それを、自分と香月副司令が考慮した結果が今の訓練だ」

 

「成る程、そうでしたか。わざわざお手間をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。それではどうぞ、ここは私に任せて少佐はお行き下さい」

 

 

深く頭を下げて謝罪したまりもは、再び敬礼をして駆け足で訓練兵5人の下に向かった。どんな時でも生真面目な所と、厳しさに含まれたそれ以上の優しさという面は、本当にどの世界でも変わらない。武はそんなまりもの後ろ姿に、何か輝かしいものでも見るかのような視線を送り、直ぐ様その考えを忘れるように頭を振ると自身の任務をこなすべく場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

―A01専用戦術機ハンガー―

 

 

「黒鉄少佐、早かったな」

 

「そうでもありませんよ。と言うより、予定時刻より大分早いのにそんなに忙しそうにしている飯田さんがいいますか? 」

 

「はっ、生憎とワシは1時間前に行動するのが性分なのさ。整備兵としてやっている以上、早く仕事をこなすに越した事はない。戦場じゃ、敵は待ってくれんからな。その相手が人間にしろ、BETAにせよだ」

 

「飯田さんが言うと、言葉の重みが全然違いますね」

 

 

喋りながら、工具を操る飯田を見て武は口元を綻ばせた。上を見上げれば、他の整備兵達が極光の各部に取り付いてそれぞれ仕事を分担して行っている。新型の機体ということで、熟練の者達でもどこかぎこちなさが抜けない様子だが、それでも不安を感じさせないあたりは流石だ。任せっきりでいても、何も言うことが見つからない。飯田をはじめとして、それぞれがベストを尽くして職務に尽くしていた。

 

 

「どうかしたかい? 黒鉄少佐」

 

「いえ。ただ、この前の飯田さんの言葉を改めて思い知っただけです。ここが飯田さん達にとっての戦場なんだと、深く感心した次第ですよ」

 

「そりゃ、光栄だなっと!! 」

 

武の言葉に、嬉しそうに笑みを浮かべた飯田は力強くボルトを締め切った。そして何度か触り、動く事がないのを入念に確認して、次の作業に移る。その合間に、飯田は再び武に言葉を投げかける。

 

 

「で、どうだい? 黒鉄少佐から見て、この機体の性能は」

 

「・・・正直に言って、とんでもないものを回してくれたなと思ってますよ。新OSを積んだコイツなら、性能的には従来のOSを搭載した武御雷にも勝るでしょう。ただ・・・」

 

「少佐の得意とする、長刀での近接戦闘においては改良の余地があると? 全く、とんでもない言い草だな。ワシから見ても、今のままで十分だと思ってはいるが」

 

「まぁ、俺個人の意見が多いというのは確かにありますが、極光を帝国側で正式採用するとなると、やはり問題は出てくると思いますよ。元々、米国と日本の共同作ですからね。機体を作り上げたのが向こうである以上、近接戦闘能力を日本人のように深く理解していなければ、どうしても不満点は生まれます。それでも、ここまで機体を仕上げてきたのは流石だと賞賛しますが、日本人、特に帝国側の人間は近接戦闘能力を重視しますから」

 

「確かに・・・な。そうなると、問題となってくるのは腕周りの関節の強化や、機動性の向上と言った所か。現状では、最高の技術の粋を極めた機体と言っても過言じゃないんだろうがな」

 

 

ふぅむと、顎に手を置いて唸る飯田。武も、彼の言いたい事は痛いほどわかった。これ以上となると、現状では更にコスト面と技術面で問題が出てくる事は間違いない。武の言う問題点と言うのも、個人の意見が少しばかり多く出ているというのも間違いではないだろう。

 

だが、G弾を使用しないでのハイヴ攻略という点を考えると、決して個人意見だけではないとも真理だろう。今現在、日本で最も強力な機体を上げるならば、言わずと知れたTYPE-00の武御雷だろう。つい数年前に正式採用されたかの機体は、成長した近代技術をそれこそ嫌になるほどつぎ込み完成された物だ。

 

その甲斐あって、出来上がりの程や運用評価は目覚しく、前の世界で使用していた武は身に染みてその性能の凄さを実感している。しかし、そこまでして作り上げられた機体は、帝国が誇る斯衛衛士専用の機体であり、年間に30機しか作れないという大きな問題点がある。

 

その上、製作に掛かるコストにおいても洒落にならない物となっているのだ。その事を考えると、どうしても複雑な感情を抱かずにはいられず、武は掌をグッと強く握り込んだ。

 

 

「ままならねぇな、どうも」

 

「戦争である以上、国家の思想が絡んでくるのは仕方ないとは思いますがね。それでも、一衛士としてはあの爆弾を使わない戦略を築いて欲しいと切に思ってますよ」

 

「ここ横浜にいる連中にとっては、尚更そうだろうさ。だが、焦っても結果はついてこない。お前さんはお前さんのやるべき事を、真っ直ぐ見つめてやっていくしかないだろうさ。少しでも早く、コイツを正式採用して貰えるようにな」

 

「・・・そうしますよ。いざ採用されるって時に、帝国側の衛士に文句を言われないように、レポートの方もしっかり纏めるとします」

 

「そうしろそうしろ。コイツを危険を冒してまで手配してくれた、巌谷の坊主の期待に答えられるようにな」

 

 

飯田はそう言って、白い歯を見せて笑みを零す。武としては、彼の言い回しに気になる点があったのだが、尋ねる様な真似はしなかった。必要であれば、いずれ話してくれるだろうと思ったからだ。言わないという事は、今は自分のやるべき事に集中しろということだろう。武はそう判断して、再びその名の通りに輝く機体を睨みつけるようにして見つめた。

 

 

「・・・必ず、やってみせるさ。きっと、それも俺がここに戻ってきた理由の一つなんだろうから」

 

 

 

 

 

 

―午後9時30分 A01ブリーフィングルーム―

 

 

「・・・ふぅ、現状ではこんな所か」

 

 

武は一人呟く。独り言だったが、静かになったブリーフィングルーム内にはよく響いた。何となく後ろを振り向けば、先程まで人が居たのを証明するかのように、所々物が動いた形跡が見られる。それもあってか、武以外無人の部屋はやけに寂しさが漂っているような光景だった。

 

一人作業をするにはもってこいの状況ではあるが、ここ最近、A01の雰囲気に慣れてきた武はそれが異様に胸を打つ物に見えてしまう。らしくないなと、凝り固まった肩をコキコキと大きく鳴らし、自分で自分の肩を片方ずつ交互に揉みながら寛いでいると、やがてドアの外から大きなノック音が聞こえてきた。

 

A01のブリーフィングルームを訪れる者は限られている。その中でも、この時間にやって

来る人間といえば容易に想像がつく。

 

 

「入ってきていいですよ」

 

「それでは失礼するぞ、黒鉄少佐」

 

「・・・伊隅大尉、少佐は止めて下さいよ。って、全員来たんですか? 」

 

「そんなに驚くことですか? 黒鉄少佐」

 

 

武の言葉に、わざとらしく宗像が反応すると、その場にいるヴァルキリーズの隊員がプッと吹き出した。その様子を見て、何となく居た堪れない気持ちを抱く武。だが、抱いた気持ちをわざとらしくため息をついて誤魔化すと、若干ジト目で宗像を見つつみちるに対して言葉を投げる。

 

 

「それで、全員揃って何かの用事ですか? この部屋を使うのなら、俺は自分の部屋に引っ込みますが」

 

「用事はあるが、その必要はないさ。何せ、用事というのは黒鉄にあるのだからな」

 

「俺に・・・ですか? 」

 

「何ですか? その意外そうな顔は。あっ、別に告白とかじゃありませんからね」

 

「・・・帰っていいですか」

 

 

珍しく強気な茜の言葉に、武は本心から呆れを見せてため息を吐いた。からかいの言葉である事は理解しているが、実際言われると薄ら寒いものを感じてしまう。それに加え、訓練当初とは変な意味で成長を見せた彼女の違いに、内心若干ながらひいてしまう。最初は何処か絡み辛かった茜だけに、正直奇怪な物を感じ得ない。

 

 

「少佐、何か変なこと考えてませんか? 」

 

「それは気のせいだ。それより、早く用件を告げてくれると助かるのですが、伊隅大尉」

 

「ふっ、すまなかったな黒鉄。ではお言葉に従うとして、単刀直入に言わせてもらおうか」

 

 

みちるはそう言うと、一旦武から視線を逸らして他の隊員達にアイコンタクトを送る。すると、それを受け取った全員は言葉もなくその意味を察し、いつもの自分達の定位置に立ち整列する。それをしっかりとみちるは確認すると、一度大きく頷いてから自身もビシッと屹立すると、武に向かって敬礼した。

 

 

「この度は昇進おめでとうございます、黒鉄武少佐。我らA01一同、少佐の昇進を心から喜び申し上げます」

 

『おめでとうございます、黒鉄少佐殿』

 

「少佐の考案された、新OSであるXM3に対する評価。私だけでなく、この場にいる一同、皆それぞれ同じ気持ちでありますれば、代表してお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」

 

「・・・・・・」

 

 

武はみちるの言葉に、唖然として固まってしまう。普段ならば、そんな表情をすれば即座に絡んでくる速瀬や宗像も、絡んでくる事はなかった。その場にいる全員、これ以上ないくらい真摯な態度で敬礼を武に向けている。その場にいる全員が、心から武に感謝の念を抱き向けていた。

 

武はその光景にこれ以上なく感動しつつも、どこか後ろめたい気持ちもあってそっと目を瞑った。それから数秒程、無言の空気が漂う。しかし、そんな真面目な空気は、音もなく立ち上り敬礼を返した武によって破られる。

 

 

「皆の言葉、ありがたく頂戴する。だが、俺からも礼を言わせて欲しい。今まで散々無茶な要求をしてきたのに、それに文句を言わず従事してくれた皆の尽力があったからこそ、成し得たことも多々ある。特に、先の実戦では誰一人欠員を出すことなく、XM3の有用性を最大限示してくれた。これは、俺一人が幾ら努力しても得られることができなかった結果なのだから」

 

「ありがとうございます、黒鉄少佐。ですが、そのお言葉は不要です。元々、A01は日頃から副司令の無理難題をこなしてきました。それに比べれば、黒鉄少佐の難題は無茶な内に入りませんでしたから」

 

「・・・そうか。それでは、そういう事にしておこう。これからも、どうか皆の力を貸して欲しい」

 

『了解であります!! 』

 

 

ふてぶてしい笑顔を浮かべ、武に向けて敬礼するヴァルキリーズの面々。武はそんな皆の笑顔に頼もしさと、そして僅かな申し訳なさを含めて、初めて目に見えて笑みを浮かべる。それを見て、速瀬と宗像はおやっと顔を僅かに歪めたが、口に出すことはなかった。代わりに、なにか意味ありげな視線を武に送り、示し合わせたように同じタイミングで小さく頷いた。

 

武はそんな2人の様子に嫌な予感を感じつつも、仕方ないとばかりに呆れ混じりのため息を吐いた。これまでの経験から考えるに、あの2人から逃げる事はかなわないのだから。そして武の雰囲気が緩和したのを皮切りに、室内の厳かな雰囲気はあっという間に霧散していつもの暖かな雰囲気へと戻り出す。

 

 

「驚かせてしまったか? 」

 

「ええ。本当、大したサプライズでしたよ。でも、ありがとうございます伊隅大尉」

 

「そう言ってもらえると、私達としても嬉しいな。尤も、こんな時間に集まったのは黒鉄に対するサプライズだけではないがな」

 

「分かってましたよ。それで何です? 」

 

「ああ。ちょっとこっちに来てくれ」

 

 

武が真面目な顔をして言うと、みちるは皆から少し離れて部屋の隅へと移動する。どうやら、おおっぴらには言い出しにくい内容のようだ。それについては、事前に知らされていたのかみちるが移動すると、彼女以外の全員は合図をしたかのように、全員素知らぬ表情をしてさりげなく散る。

 

武はその意図を直ぐに悟ると、みちるの後を追って部屋の隅へと移動しみちるの言葉を待った。それを確認すると、一拍おいてから声を潜めて初めから準備していた疑問を、武に訊ねた。

 

 

「ここ最近の訓練メニューだが、やけに対人戦闘が多いが何かあるのか? 完成したXM3のトライアル試験が、近々行われるというのは私も副司令に聞いている。だが、あれには私達A01部隊のメンバーは事前に参加しないと聞いていた。そうなると、ここ最近の対人戦重視の訓練の意図が読めない」

 

「・・・その件については、俺からは詳しくは言えません。俺は副司令から知らされているとは言え、機密扱いの内容ですので」

 

「そうか。それでは、私も迂闊に詳しく訊ねる様な真似はできないな」

 

「ただ、何処とは言いませんが最近きな臭い動きがあるらしいです。そして、最悪の場合その解決にA01が戦力として投入されることになるかもしれないと」

 

「成程な」

 

 

みちるは短く言うと、言葉を切った。それから、何かを考える様にして目を瞑ると、一度間を置く。そして、自身の考えを数秒で纏めると再び口を開いた。

 

 

「よし、それならば私は何も聞かなかったという事にしておこう。黒鉄の言った事の可能性を、頭から捨て去る事はできんが、少なくとも一軍人である私が、今考えても詮無い事だ。私は只、そうならないように祈っておくとしようか」

 

「ありがとうございます、伊隅大尉」

 

「気にするな。それが、私達A01という部隊だ。今までも、これからも、な」

 

 

みちるはそこまで言うと、いつものニヒルな笑みを浮かべて口を閉ざす。武はそれに対して、申し訳なさそうに目を伏せる事で謝罪の意を表し、会話を切る。それ以上は、話は無い様なのでそっとその場から離れる。すると、その時を待ち構えていましたとばかりに、速瀬と宗像がニマニマしながら声をかけてきた。

 

 

「黒鉄少佐~、何を伊隅大尉と話していたんですか~? 」

 

「秘密ですよ。それに、速瀬中尉達が気にする事ではありません」

 

「ふむ、秘密か。成程、私達が気にする事ではないとすると、もしや個人的な事ですかな? もしかして、少佐殿は伊隅大尉目当てで? 」

 

「・・・言い間違えましたよ。秘密ではなく、機密でした。それと、伊隅大尉が目当て等と言う事は有り得ません」

 

「ほぉ、それは知らなかったな黒鉄」

 

 

ゲッと、最後に聞こえてきたその言葉に武は内心動揺する。後ろを見なくとも、その呼び方で本人特定は余裕だった。言うまでもなく、つい先程まで真面目な話をしていた相手であり、会話の内容に出てきた伊隅みちる当人であった。顔を見れば、ニヤニヤと笑ってはいるが何処か不穏な空気を感じる。

 

武本人からすれば、別に悪意があったわけではないのだが、どうやらその言い回しに問題があったらしい。如何に双方にその気がなくても、女性に対して有り得ない等という言葉は禁句である。武は前の世界でも言われた言葉を、今この瞬間思い出していた。

 

 

「・・・大尉、今のは別に他意が合った訳では」

 

「分かっているとも。黒鉄程の存在ともなれば、私程度の存在が気に掛かる事は無いだろうからな。ああ、十分理解しているとも」

 

「た、大尉」

 

「ん? 何だ、言い分が有るなら是非とも聞かせてもらうとも。此処にいる全員でな。なぁ、貴様達」

 

 

みちるはそう言って、悪びれもせずその場にいる皆を見渡して、大きな声で呼びかける。気が付くと、いつの間にかその場の全員が武に注目していた。勿論、その中の全てがみちるや速瀬の言葉通りの意図を察して注目しているわけではないだろう。

 

中には、その意図を正しく察したわけではなく、年齢通りかそれ以下の反応を示して、端正な顔を真っ赤に染めてワナワナと震わせる者もいる。初心な者を除けば、真面目に捉えている者は誰一人としていないだろう。しかし、逆に恋愛面に豊富でない面を持つ少女達はそうではなかった。

 

武を除けば、それなりの人数が狭い室内に集まっているのだ。それも、一人を除いて女性ばかりもなれば当然の反応である。

 

 

「く、黒鉄少佐」

 

「・・・ぇ?ぇええええっ!?」

 

「最低・・・不潔です」

 

 

新任の少尉である高原や麻倉を始め、剣術は冥夜とほぼ同等だが性格の方は突撃級の装甲並に硬い鈴谷は何を思ったのか、厳しい目で武を見つつ数歩下がる。その反応に、武は頬を引き攣らせつつ、元凶である3人に視線を送る。しかし、その3人、特にその最大の元凶である速瀬と宗像は悪びれもせずニヤニヤするのみで謝罪もなしだった。

 

 

その表情を見るに、日頃の憂さ晴らしをここで行おうという、あって欲しくない決意の表れ。絶対に、武を公開処刑に陥らせてやるという、完全に無駄な意気込みだった。咄嗟に周囲を見渡すが、ヴァルキリーズの癒し系である遥は乾いた笑みを浮かべて、申し訳なさそうに手を振るのみ。

 

 

その隣にさり気無く立っている柏木は、既に結末を読み切ってかサムズアップを天然スマイルで決めていた。最早、ここに大勢は決した。BETAの群れに襲われようと、軽々と裁断していく衛士の姿はそこには無い。そこにあるのは、今の軍であれば何処にでもいそうな、生贄野郎ただ一人。

 

 

「さて、黒鉄。幸い明日は訓練は休みだ。時間はしっかりあるぞ」

 

「存分に話し合いましょうか♪少・佐・殿」

 

「(ああ、今日は厄日だ)」

 

 

武は文句一つ言う事を許されずに、逃げ場を塞がれ詰め寄られる。しかし、そこには一切の甘ったるい気配など無く、あるのは方向性の違いはあるだろうが悪意の満ちた気配のみ。最早ここまでと、潔く覚悟を決めて自身の失態を恨む事しかできない。後は只、どこの世界でもお馴染みの男が一方的にボコられるのみなのだから。

 

 

そして、武の記憶はそこでプツンとテレビの電源が切れるかのように切れた。翌日、その事を思い出そうとしても頭が痛むのみで何も思い出せない。昼食時に、偶然ヴァルキリーズのメンバーと会った時も、一瞬身構えてしまったが特に何かがあった訳でもなかった。その結果、あれは夢だったのではと武は思い込む事にして、その件は封印される事となる。

 

しかし、その日を境に横浜基地ではある都市伝説じみた噂が流れる事になる。曰く、横浜基地に新種のBETAが出現し、夜な夜な現れては一人を数十人単位で襲い掛かり悲鳴を上げる時間も取らせず貪り尽くすという与太話。勿論、聞いた全員が全員笑い飛ばして酒のネタにするような話だったが、その話を聞く度に飯を喉に詰まらせる若き左官がいた事は、不思議と噂にならなかったそうな。

 

 




番外編でした。

本当であれば、大晦日に番外編、元旦に本編1話投稿したかったのですが、断念しました。本編を期待してくれていた方々、申し訳ありませんでした。別に、武ちゃんに爆発して欲しいとかじゃないので。ホントウデスヨ?

後、最後にちょこっと出てきた鈴谷という少女はオリジナルキャラクターです。とは言っても、それだけでは理解しづらい事は確実なので、後日登場キャラクター紹介編を投稿しようと思います。ですので、それまではオリジナルキャラの一人なんだという認識でお願いします。


さて、今後の展開ですが、いよいよ本編の方が始まってくると思います。これまで207Bとは深く関わってこなかった武が、この出来事を実際に経験してどういう風に行動するのか。歴史は変わらず非情な選択を強いるのか。そしてクーデター中に起こる、彼が予測したまさかの最悪な事態とは!?

「それでも、守りたい世界が(ry←帰れ


と、予告みたいな感じで発表しました。構想を練るのにちょっと時間がかかるので、今まで以上に時間が空いちゃうかもしれません。ですが、どうかお付き合い下さると幸いです。

そして皆様、これからもどうかよろしくお願いします。
どうか良いお年を。

Ps.お汁粉が美味しいです




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