Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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更新、できちゃいました。誤解を招くような事言って、申し訳ありませんでした。
今回、自分で書いといてなんだかなぁって感じです。
頭ではわかるのに、言葉で表現できないというか・・・
兎も角、お楽しみいただけたら幸いです。
あと、もしかしたら弐型好きの方にはちょっと頭に来るところがあるかもしれません。ご注意ください。




episode3-3 戦い

― 11月23日午後2時 A01戦術機ハンガー ―

 

 

 

様々な機械音や、工具を用いての作業音、時折混じる大きな声が広いハンガー内部に響き渡る中、武は自身の機体を目指して歩いていた。その途中にふと辺りを見渡せば、今日もベージュ色の汚れた帽子を被り、作業服を上下共に油まみれにして作業に勤しむ整備兵達の姿がある。

 

 

整備兵ともなれば、階級は決して高いとは言えないのが今の軍の状態だ。それでも熟練の整備兵ともなれば、言葉に言い知れぬ威圧感や貫禄を放つもので、そこら辺の左官等相手にならない位の雰囲気を感じるものだ。

 

 

特に、A01部隊専属の整備班長である飯田綱五郎曹長は、横浜基地では鬼兵と名高い職人気質の整備兵だ。その迫力たるや、新任の少尉程度ならば睨みもせず見ただけで怯み上がらせる程だ。その原因の一つであろう、片方しか存在しない鷹の様に鋭い目や深々と顔に残された傷跡等は、ベテランの兵士であっても相当な威圧感を感じさせるものだ。

 

 

伊隅ヴァルキリーズの、おふざけ要因である速瀬や宗像さえ、彼の目の前では普段の態度は微塵も感じさせず、緊張に身を強ばらせるといえば、その脅威は伝わるのだろうか。

 

 

そんな整備兵の彼だが、何でもBETA大戦初期の頃は前線で戦っていた経験を持つベテランの兵士だったらしい。碌な武装も与えられず、ほぼ一方的に殺られるのが常だった頃の生き残り。今は整備兵としてやっているが、その肩書きを聞けば誰でも畏敬の念を感じずにはいられないだろう。

 

 

彼とはよく話すようになった武でさえ、その畏敬の念は絶えず抱いている程なのだから。今も部下に怒鳴り散らしている飯田の姿を見た武は、自分の方に気付いた飯田に軽く会釈をすると真っ直ぐ自身の不知火に向かって歩いていく。

 

 

すると、後ろの方から飯田が追いかけてきて、それに気付いた武はピタリと足を止める。そして、武の背中を伝う冷や汗。何気なく飯田の凶相を見てみるが、恐ろしい表情は常であり普段との違いを感じられない。

 

 

これは説教コースだろうかと、武が知らずと大きな唾を音を立てて飲み込んだ直後、飯田が力強く肩を叩いて口を開いた。

 

 

「丁度良かったよ、黒鉄大尉。大尉にはワシから話があった所だ。ちょっと時間いいか? 」

 

「・・・はい。別に問題ないですよ」

 

「それは上々。そこの新米! ちゃんとワシの代わりに作業終わらせとけよ!! 大尉殿との話が終わった時に終わってなかったら、ラチェット持って追い回すぞ!! 」

 

「りょ、了解であります!! 」

 

 

ヒィと、全身を震わせて敬礼する新米と呼ばれた整備兵は、返事をするなり物凄い速さで作業を再開させた。その必死の形相たるや見るも無残で、傍にいる先任の整備兵達が同情の念を込めて暖かい目線を送っていた。武も飯田の目の前にいなければ、同じ事をしていただろうが残念ながら今は無理だった。

 

 

後でコーヒーでも奢ってやろうと、そんな小さな優しさを決意する。そんな事を考えていると、飯田が大きな咳払いを一つしてニヤリと口の端を大きく釣り上げた。

 

 

「副司令から伝令があったぞ。明日、大尉の新しい機体が運ばれてくるらしいな」

 

「ええ。班長はもう資料の方は? 」

 

「貰ってるさ。というより、大尉の機体の担当班長はワシが務めることになったからな。今回はそれを伝達する為に声を掛けたというわけだ。驚かせてすまなかったな」

 

「そんな事はありませんよ。俺はまた、自分が何かやらかしたんじゃないかと思っただけです」

 

 

言って、腹の底から大きなため息を吐く武。飯田はそんな武を見て豪快に笑い声を上げると、力の篭った手で武の肩をバシバシと叩いた。そう言う所は京塚のおばちゃんと似ているなと、内心笑みを浮かべてしまう。何も知らない人間が見れば、飯田の態度は相当に悪いものに見えることだろうが、横浜基地では普通の光景だ。

 

 

階級が上でも、飯田に対して上に出れる者はそうはいない。大抵の人間は、階級が上でも逆に敬語を使ってしまうのだ。飯田は最初こそそれを気にしていたらしいのだが、周囲の人間に聞くといつの間にか今のようになったとの事だ。周囲が認めているのならば、公式の場でなければ良いと言う事なのだろう。

 

 

武自身、階級には特に拘りを持つ事はないために、このようになったのだ。尤も、武の場合は色々とやらかす人間の代表格として、そのような風になったという印象が強いのだが。それでも、何だかんだ言って整備兵の中で一番交流のある人物が担当であるのは、武としては心強かった。

 

 

「ワシとしては、無闇に機体を苛めてくれなければそれでいい」

 

「・・・すいません」

 

「冗談だ。お前さんはお前さんのやるべき事をやっているだけだ。衛士として、あの忌々しい奴等を殲滅するのがお前さんの戦いだろうが。それなら、ワシ等整備兵の役割は、戦術機が在るここが戦場であり、それをどうこうするのがワシ等の命懸けの戦いって事だ。それを無駄にせんと言うならば、ワシからは言う事はない」

 

 

そう言って、その凶相を一瞬だけ緩ませて白髪ばかりになった髪の毛を豪快に掻き毟る。どうやら、飯田なりに照れているらしい。そんならしくない行動を見た武は小さく口元を緩ませ、それを誤魔化すように自身の目の前に屹立する不知火の機体を見上げた。

 

 

新潟侵攻BETA郡を退けて以来、一度も出撃する事はなく整備されて仕舞われている武の機体。その全身は綺麗に磨き上げられ、整備面においても出撃前と同じ様に完全に仕上げられている事だろう。最近は207Bとまりもに付きっきりだった部分もあって、実機である不知火には触れる時間もない。

 

 

しかしそれでも、武にはその機体の状態がハッキリとわかる気がした。それというのも、飯田達整備兵が心血を注ぎ込んで整備をした結果なのだろう。そんな機体を、録に触りもしない内に新しい機体に乗り換えることは申し訳ない気持ちがあるのだが、任務は任務だ。

 

 

決して、武の個人感情でどうこう出来る事でも無いし、していい事でもないだろう。となればこの不知火はどうするべきだろうかと、そんな事を武は考えていると、ふと名案が湧いてくる。

 

 

「・・・そうだな」

 

「ん? どうかしたのか、大尉? 」

 

「いえ、こっちの話です。自分なりに、少々名案が思いついたもので」

 

「そうか。まぁ、悩みがあるなら言ってくれ。これからは、専属の整備兵になるんだからな。お互いを知るのは、悪い機会ではないだろうし、悩みがあれば言ってみろ。年の数だけは、無駄に喰ってるからな。思わぬ助言をできるかもしれん」

 

 

ニッと、磨き上げられた白い歯を見せて笑う、凶相の老人である飯田。そんな彼に釣られるように、不覚にも武は小さく笑みを浮かべてしまい、それを誤魔化すように敬礼をしてその場を去る。飯田は立ち去る武の姿を見送ると、自身も自分のやるべき事を思い直し、取り敢えずは直ぐ傍の休憩所でで煙草をふかしている青年の尻を蹴り飛ばすと、書類を片手に頭を捻らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―11月23日午後6時15分 香月夕呼執務室―

 

 

「以上が、不知火弐型についての大まかな情報よ。細かい所は、書類で確認しなさい」

 

「了解です」

 

 

ふぅと、小さなため息をついて夕呼の説明を大雑把さに呆れる武。飯田と別れた後、諸事情を済ませてから夕呼から不知火弐型についての話を聞いていたのだが、何というべきだろうか。取り敢えず、ここまでの説明を聞いた武は、改めて夕呼は自分の興味が有る物と無い物の差が、明確に表れると言う事を認識した。

 

 

夕呼から弐型の詳しい説明を話すと言われたから、それなりの時間が掛かることを頭の中で計算していた武だったが、その全てが無駄になってしまった。流石の武も、新型である弐型の説明を10分と掛からずに説明するなど予想はできなかったのだ。とはいえ、かけた時間の割には弐型の特徴が纏められていたのも事実。

 

 

説明にかけた時間は短くとも、重要な部分は抜け出ることなく示唆されたのだから、武は文句は言えなかった。細かい部分は、それこそ夕呼の言う通り、衛士である武自身が自分で確認すればいいのだから、時間の節約と言えば間違ってもいない。ただ、効率を考えればいい手段なのだろうが、もう少し言葉を足せば敵も増えないのではと武が思わざるを得ない内容だった。

 

 

呆れ半分、関心半分な武はそんな事を考えながら、夕呼から聞いた内容と書類の内容とを見比べて、その詳細を確認する。その途中、夕呼の説明中にも湧いてきた嫌な感じが書類からでも感じられ、武は徐ろに表情を歪めて口を開く。

 

 

「この不知火弐型、色々と複雑な事情があるようですが、よくもこんなこちらに機体を回してくる気になりましたね。これを決定した人間、相当な無茶をしたと思うんですが」

 

「したでしょうね。さっきも説明したけど、仕上がって直ぐ事件起こしたばかりだったから、色々と面倒事はあったでしょう。私だったら絶対しないわよ、こんな事。それでも、帝国側は今回の事を決定した」

 

「それだけ、XM3に期待していて、それに便乗して不知火弐型の評価を上げておきたいのか。XM3の事を考えれば、搭載すれば弐型は今以上の機体になる事は間違いないでしょうから。というより、XM3の性能が弐型と相性が良いと言うべきでしょうか」

 

「どちらにせよ、先を考えれば向こうが得られる利益は低くないでしょうね。人の成果に便乗するってのは、物凄く気に入らないけど、私にとっても損にはならないでしょうからね」

 

 

先生も同じような事をしてますしね、とは口が裂けても言えない武だった。言えば間違いなく後が恐い。朝起きたら、手術台に拘束されてる何て事を、夕呼なら本気でやらかしそうだ。横浜の魔女、牝狐等の異名は伊達ではないのだから。武はそんな嫌な想像を早々に捨て去り、改めて書類と向き合う。どれ一つとっても、決して楽観的にはできないような事が書かれているのだから、武としても気は抜けなかった。

 

 

「このXFJ計画の現場監督兼主任は、帝国斯衛軍の篁中尉ですか」

 

「一応、そうなってるわね。厳密に言えば、この計画自体を持ち出したのは帝国陸軍所属の巌谷榮二中佐だから、実際には任されたって所でしょう。そうでもなければ、わざわざ斯衛の衛士が国連になんか移籍しないでしょう。っていうか、アンタなら彼女の事知ってるんじゃないの? 前の世界じゃ、アンタも斯衛だったわけだし」

 

「知っていると言えばその通りですが、別段詳しいわけではありませんよ。俺が斯衛だったとは言え、所詮は黒で彼女は山吹。彼女の中隊が名の知れた物だったので知ってこそいますが、関係があったわけではありませんし」

 

「斯衛って、やっぱり面倒くさい組織よね~。聞いてるだけでそれが理解できるんだから、入ったらもっとアレでしょう。想像もしたくないわ」

 

 

大げさに首を振って言う夕呼だが、内容の方は大して間違いがあるわけではない。というより、実際問題正論ではあるのだから。面子と礼儀云々を、何よりも重要視するのが斯衛という所なのだ。一般人からすれば、憧れはしても実際入隊したいと思えるのは一体どれほどいるのだろうかと言った所だ。内心大きなため息を吐きつつ、武は考えを進める。

 

 

「そんな彼女達が目指し完成に導いたのが不知火弐型。日本の純国産主義を破って作り上げた機体だけあって、仕上がりについては申し分無い物ですね。ですが先生、この計画に携わった企業は・・・」

 

「米国企業のボーニングよ。その反応だと、アンタもボーニングがG弾促進派の先端にいるってことは知ってるみたいね」

 

「そんな企業が、わざわざ予算を削ってまでこの計画に参加したって事ですよね。それなら今回の弐型は・・・」

 

「そこについては問題ないでしょう。ボーニングが関わったとは言え、実質的に動いたのは天才と名高いフランク・ハイネマン氏よ。彼の事を考えれば、ボーニングにいるとは言えオルタネイティヴ5賛成派ではないでしょうし、自分が開発した機体で問題を起こす様な事、死んでもしないでしょうから」

 

 

夕呼はそう言って、カップに入ったコーヒーを一気に煽った。見る限り、どこにも動揺は見られず自信満々な態度でいる。そんな夕呼の反応を見る限り、99%その見解は間違っていないという事だろう。だが、残りの1%が無いとは限らない。武はそんな事を考えると、警戒は解かずにいる事を決める。警戒し過ぎかもしれないが、念には念を入れておいて損は無いのだから。

 

 

夕呼も、そんな事は武の表情を見れば理解できることだからか、敢えてソレを言う様な事はしない。どちらにせよ、戦術機の事についてはほぼ専門外。問題があれば、それこそ専門である武の方が対処はし易いのだから、そちらについては任せる事に決めたのだ。お互い、そんな事を黙していても悟ると、次へと話を進める。

 

 

「弐型の開発及び試験はアラスカのユーコン基地で行われ、着々と成果を出した結果、最終形態であるPHASE3に到達して開発を終了した。そして、その不知火弐型の開発衛士に選ばれたのが、日系アメリカ人であるユウヤ・ブリッジス少尉ですか。経歴とここまでの成果を見る限り、衛士としての評価はかなり高い。彼が開発衛士に選ばれたというのは、不知火弐型の事を考えてですかね」

 

「それもあるかもしれないけど、何より数ある候補の中からコイツを開発衛士に指名したのがハイネマン氏だったのよ。変な思いつきで指名するような性格はしてないでしょうし、もしかしたら個人的理由があったのかもしれないわね」

 

「結果として、それは良い方向に転がった様ですね。弐型の試験評価は高いものとなっている」

 

「問題は色々残してるけどね。具体的に言えば、ソ連側の重要人物を連れ出して逃走したりとか」

 

 

面白そうに言う夕呼だったが、その実どう思っているのかは武には理解できなかった。書類に書かれている事が真実であれば、想像の域を出ないが多少なりとも夕呼が関わっているのではないかと思われる部分が在った。連れ出されたソ連側の重要人物、オルタネイティヴ第三計画の落し子だという二人だ。オルタネイティヴ3計画は既に廃止されている計画の筈。

 

 

その事を頭に入れた上で、書類に明記されている2人の存在を考えれば、夕呼が何かを知っているのは確かである。それを言わないという事は、また裏で何かを企んでいるのだろうか。考えればキリが無い為、それ以上深く考えるのは止める武。その代わりとして、今一番疑問が浮かんでいる事を訊ね、気分を解消させる事に決める。

 

 

「しかし先生、この書類を見る限り帝国で採用される予定の不知火弐型はPHASE2の物だとありますが、今回搬入されて来るはPHASE3ですよね? これについては一体どういう意図があると? 」

 

「それについては、色々と協議した結果よ。アンタの言う通り、今の所採用される予定があるのは不知火弐型PHASE2よ。でも、最終的には完成体であるPHASE3も世に出す事を、帝国側の巌谷中佐は考えているわ。その際には、不知火と言う名前を"極光"と改めて世に出す予定だから、開発に先駆けてのテストって所かしらね? 回されてきた機体も、便宜上不知火弐型と呼んでいるけど、正式名称は極光って書かれているでしょう? 」

 

「PHASE3のままでは、量産に向かないのは考えれば理解できます。ですが、既に完成されているPHASE3をこれ以上どうしろと? 」

 

「量産するとなれば、今のままではこのPHASE3はダメなのよ。量産の案を採用すると正式に決まれば、本格量産実証機の開発が始まるわけだけど、それにはまず帝国軍の要求仕様と予算に合致する形状に再設計する事に成るわ。XM3という新OSも生まれたわけだし、それも考慮に入れた考えやデータも必要だしね。 それをアンタが務めるってわけよ。何より、この機体には注目すべき性能がある」

 

「"JRSS"と"第二世代アクティヴ・ステルス"ですよね。先の件で問題になった技術ですよ? 持ちかけてきたのは帝国側だとしても、余計な騒乱を呼び込む気がします。ただでさえ、横浜基地は色々注視されているのに、そこまでして何故こんな機体を? 」

 

「理由は一つ。アンタには、私の最強の手駒で居てもらう為よ。今迄採ってきたデータを検証すると、アンタの技量と機体が明らかに見合ってない。今は騙し騙しやってるんだろうけど、いずれその要因は思わぬ結果でアンタを殺す事になるかもしれない。それじゃあ困るの。だから、現状で最も使い勝手が良い機体を回す必要があったし、多少のリスクはあってもそれを被ることにしたのよ。アンタには、それだけの価値があると信じてやった事なんだから、それに応えてみせなさい」

 

 

「・・・了解しました」

 

 

そう呟いて、武は思い切り顔をしかめた。JRSS、統合補給支援機構は兎も角、武としてはステルス機能は好きになれない、否。言葉を隠さずに言えば、ステルス技術というBETA相手に必要のない機能を搭載した戦術機は、どうしても好きには慣れなかった。だからこそ、武としては如何に優れた性能を持つ機体とは言え複雑な思いを禁じえない。

 

 

「パッとしない表情ね。何か気に入らない点でもある訳? 戦術機としては、武御雷と比べても遜色ない物だと思うけど」

 

「性能はそうでしょう。ただ、素直に言えばステルス機能だけは俺からすれば、戦術機に載せるには邪魔な機能だってだけです。戦術機はそもそも、"BETAと戦う為に必要な兵器"という名目で開発された物だった筈です。だというのに、このステルス機能は明らかに対人戦闘を考慮に入れた上で設計された物。人間同士の戦闘が回避できないのは、俺も理解しています。ですがこれは――」

 

「成る程ね。後天的に生まれる理由でなら未だしも、設計当初からそれを盛り込んだ機体は受け入れ難いって事かしら? まるで、初めから人間相手にも牙を剥く兵器であることを示唆しているのが、アンタとしては複雑ってわけね。でも、先の事を考えれば」

 

「解かってますよ。ただ、理屈で感情は抑えられても本能的には忌避するのは避けられないってだけです。米国が関わっている以上、仕方ない事ではあるんでしょうがね」

 

 

そこまで言って、武は湧き上がる激情をこれ以上露出させないように黙り込んだ。ここまで口にしたのも、失敗といえば失敗なんだろうがそれは仕方ない事なのかもしれないと、聞いていた夕呼でさえ思う事実だ。武は最悪な未来を経験して、今再びこの世界に戻ってきていた。

 

 

そんな最悪な未来を経験してきたのだから、今言った以上に最悪な光景は見慣れてきた事なのだろう。だが、それ故にその最悪な未来の根底に有る事実。つまり、人間同士の衝突が心の底から許せないのだ。BETA大戦勃発以降、その損耗の激しさばかりに目が行きがちだが、その中には人類の思惑が深く関わっての物も多々存在する。

 

 

臭いものに蓋と言わんばかりに、自分達ではなくBETAに処分してもらおうと無理な作戦を決行したり、情報を意図して伝えず全滅させる。そんな事が、明るみに出ればこれまで何件存在したか。

 

 

国を守るために、世界を取り戻すためにと文字通り命を散らして言った戦士達が、それを知らずに数えるのがバカらしく成る程に存在している。崇高な理念の下、自身の犠牲が明るい未来に繋がるだろうと、一刻も早くこの地獄のような現状が改正される事を祈って、失いたくない命を散らしていった者達。その犠牲を、今の国は全く憂う事なく無闇に増やし続ける。そんな事を、一体いつまで続ければいいのか。

 

 

「だから、無駄な犠牲は懲り懲りです。必要な犠牲だって、本当なら受け入れたくありません。それでも、感情論だけで考えていては物事の正当性は見いだせない。だから俺はやりますよ。相手側の思惑とかそんなのは関係なく、利用できる物なら何でも利用して、先生の言う"未来《あす》"を掴む為に」

 

「・・・そう。じゃあ言葉通り、やって見せてもらおうかしら? こっから先は、どんな些細なミスも許されないわよ」

 

「それを言うなら、ここから先もでしょう? 」

 

「そうだったわね」

 

 

そう言うと、二人して顔を合わせて笑みを浮かべ合う。様々な思惑はあれど、二人の考えている結果はただ一つだ。それを達成する為に、静かに決意と覚悟を改める。お膳立ては帝国がしてくれたのだ。そうなれば、後は武の腕の見せ所。貰ったチャンスと報酬を、無駄にする気など更々なかった。

 

 

「それじゃあ、質疑応答はここら辺で終わりにしましょうか? 後は実際に触りながら確かめた方が、アンタにとっても都合が良いでしょうし」

 

「そうしますよ。近々、空から贈り物が降ってきますから、気を引き締めるとします」

 

「しくじる事の無い様に、しっかり仕込んでおきなさい」

 

「了解です」

 

 

武は返事を返して、そのまま執務室を後にする。向かうべき先は、予定通りに勧めていれば今は休憩時間のA01の下。HSST落下事件発生まで、時間は僅かしかないのだ。その僅かしかない時間で、何ができるかはわからないし、どれほど鍛え上げられるかはわからない。

 

 

しかしそれでも、やるのとやらないのでは雲泥の差だ。武は自分に言い聞かせると、覚悟を決めて久しぶりとなるA01との訓練に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 




終了です。
う~ん、弐型の搬入理由が全然アレでしたね。
当初は、XM3の代金として米国には弐型PHASE3寄越せと、そんな風な考えで書こうかなと思ったんですが、なんというか上手くまとめられなかったので、こんな説得力皆無な文になりました。うん、自分がバカなのを露見していますね。ハッキリ言って、究極のご都合主義でした。いずれ、訂正しようと思います。

それと弐型好きの方、何か本文中で批判意見みたいな事言ってしまい申し訳ありませんでした。本編中では、武だったらこんな事思うんじゃないかなぁと思って書きましたが、捉え方によっては完全な批判意見に見えるかもしれません。

本当に申し訳ありませんでした(土下座)

尚、可笑しい所があると感じられた方、どうぞ感想欄に書いてください。今回の話については、作者でも読んでてアレ?となり、訂正した部分がありますし、まだあると思います。

その点につきましては、感想欄に書いていただいて、それに対する考えを作者が考え、最終的に訂正版の本編に活かしたいと思います。

長くなりましたが、以上です。失礼します。

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