ナンバーズ!   作:ホッケ◎

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No.3:【アマタ】

あれから数分後にようやっと開けた場所に出た。進むと先には道が続いておらず、ゴツゴツした岩肌が断崖を造っていた。見下ろせば小さくなった建物が密集しているのがわかる。あれはきっと街だ。

待望の場所まではあと数キロ。いざ進まんと意気込むも、振り返った先にいた小さな生き物の存在が俺の行く手を阻む。

 

「いつまでついてくるの?」

 

生き物は俺に気づかれたのを驚いて草の陰に身を潜めた。いや、バレてますよ。可愛い尻尾が丸見えですよ。

すると、再び生き物が姿を現す。

 

「………ぐるる」

 

近所に住んでいた犬のような唸り声をあげるポケモン、リオル。やはり礼の言葉は『ありがとう』ではなく『ありがとうございましたリオル様』くらい言ったほうが良かったのだろうか。

しかし腕が痛い。辛い。自分が大怪我を負ったという事実を再確認させられた。

 

「あのさ」

「‼︎」

 

物凄いスピードで木の枝に飛び乗るリオル。

「俺様よりも(物理的に)頭が高いなんて許せんから木の上から見下してやる‼︎」 ……なんてのは過剰として、若干気位が高い子なのかもしれない。俺様気質があるのかな。

段々この身体にも慣れてきたので、落ち着いてリオルに話しかける。

 

「そんなに過剰だとお互い疲れちゃうからやめようよ」

 

リオルは俺を助けてくれた恩人……いや恩ポケだが流石にいつまでも平身低頭であり続けるのは辛い。主に俺が。リオルの方も疲れてきたのか滝汗が身体中を伝っている。ロケット団との戦闘もあったのにそういう態度を崩さないのは純粋にすごいと思った。どんだけプライド高いんだ。

 

労いとも請願とも言えない言葉をかけると、リオルは大きな瞳でこちらを凝視した。

流石にこんな言葉遣いは良くなかったか?

俺の推測としては、このリオルは無闇に人やらポケモンやらと戦わないタイプだと思われる。自分の眼鏡にかなった相手としか戦わない武人的な性格。あとは妙に気位の高い自信家な一面もあると見た。よって俺のような矮小でつまらない存在には歯牙をかけることはないはず。

「お前みたいな貧弱者に言われる筋合いなどないわ‼︎」……なんてのはやはり過剰として、激昂されてしまったらどうしようなどと考えられる程俺の脳は元気ではなかった。

 

 

***

 

 

ーーーこいつは一体『何』だ?

 

リオルが少年に抱いたのは疑念であった。

先程黒ずくめの男達の件。いとも簡単に首輪を破壊して見せたり、自分が出せる技を瞬時に把握し的確な指示を下したり。

極めつけは少年が持つ波紋だ。

 

リオル系統が感じ取る『波紋』というのは、この世に存在する全てが生まれながらにして保持している『オーラ』を指す。波紋は対象者の感情・年齢などを、その揺れ動き方で理解することができる代物である。

例えば憤怒であれば通常より揺れ動きが大きい。また、対象者が幼ければ幼い程、通常時と憤怒時の揺れ動き方の差が大きく開く。

 

少年は目測10歳程。

だのに、無い。

殆ど揺れ動きに差がないのだ。黒ずくめの男達と対峙した時でも、微風に吹かれた水程度しか揺れ動かず。

それは様々な波紋に触れてきたリオルだからこそわかる異常。いつ荒波に変わるやも知れぬ、深い闇に覆われた異常だ。

逆らうことすら許さない恐怖の波紋を察知したあのときのリオルは、従う他に道がなかった。

 

今も波紋に動きは無い。

ただ地を踏みしめる足は緩やかに森の出口へ向かう。

ひょっとすると少年は化け物で、森の最奥で繋ぎとめられていたが、何かの拍子に解き放たれたのかもしれない。あながち間違いではないような波紋を持つ少年。いや、少年の姿をした『何か』。

 

「いつまでついてくるの?」

 

ザワリ。

 

リオルは幼さゆえの好奇心に負け、少年の後をつけてきたことを悔やんだ。

 

たった今、初めて少年の波紋が大きく不気味に揺れ動いたのだ。

間違いなく、奴は自分を殺す気だ‼︎

 

本能のまま草の陰に身を潜めた。隠れているのではない。自らの動揺を悟られまいとしたからだった。

全身からブワッと汗が吹き出した。しかし身体に火照りはなく、気味の悪い、ねっとりとした悪寒が爪先から頭頂を這いずり回る。少しばかり荒くなった息を整えてから、草陰を抜け出た。

 

「………ぐるる」

 

牽制といわんばかりに唸り声をあげた。リオルの傲岸不遜な性格が少年相手に二度も屈服することなど許さない。

姿勢を低く、できるならば一度で心臓を貫けるように。脚の筋肉がギリギリと音を立てる。

彼の波紋が再び揺れ動いた時が、闘いの合図だ。

 

風が通り抜けた。

草木が揺れる。

リオルはその中で、少年の波紋がかすかに揺れたのを見逃さなかった。普通のリオルでは無理な芸当だった。

誰よりも波紋を読み取る力に長けている所為で、いつも群れでは孤立していた。その忌まわしい力がリオルに初めて功をなしたのだ!

 

そう、信じたかった。

 

「あのさ」

「‼︎」

 

リオルが動くよりも速く、少年は口を開く。リオルが感知しきれない速度だった。

 

ーーー自分の読みは完璧だったはずなのに‼︎

 

足がすくんだ。鋭敏な死の気配がすぐそこまで迫ってきているというのに、リオルはただ呆然と少年を見つめていた。

 

ーーーなんだ?

ーーーこいつは一体『何』だ?

 

「そんなに過剰だとお互い疲れちゃうからやめようよ」

 

ぐらりと揺れる少年の波紋。だがそれは憤怒でも殺意でも、はたまた哀れみでもなく。

とても穏やかな波。

ぬるま湯のような、暖かい波。

リオルは少年を凝視した。今までとは全く別な波紋。未知の感覚に頭がどうかしそうだった。

 

「もうすぐで街につくし、ジュンサーさんに話してみよっか。キミのこと」

 

少年の言う『ジュンサーサン』とは何なのか知らないが、リオルは首を左右に振った。

 

「?」

「ぐる……、うぉんっ」

 

何もかも見限ったかのような目玉。だがその奥に、まだリオルは映っている。リオルは必死に弁解するため波紋をとばしたり、人には理解できぬ言語で話しかけたりした。

 

少年に屈したままなのが非常に気に食わないのだ。

だからせめて少年について行き、行き先で少年を追い抜いてやろう。

このリオル、かなりの傲岸不遜(まけずぎらい)である。

少年から再び発せられる謎の波紋は不思議で、何故か温かな気持ちになれる。

 

『慈愛』という優しい波紋を、孤独なリオルはまだ知らない。

 

 

***

 

 

忘れていたことがある。

俺の現状だ。

結論から言うと、俺は本当にポケモンの世界に来てしまったらしい。

 

実は獣道を歩いている途中に『トランセル』、『オタチ』、『ポッポ』なるポケモンを見つけてしまった。夢から覚めてもリオルやら依然として森林の中にいるやらしていた時点で大方察していたとはいえ衝撃の事実だ。最初に俺がいたのは森林の最奥だったのでポケモンがいなかったと解釈しておく。

となると、恐らくこの見た目も幻覚ではないのだと思う。よくある異世界に飛ばされる話の典型的なタイプのアレにまさか自分がなろうとは。

……その前に。

 

「うぉんっ、うおん! うおんっ!」

 

リオルが俺から離れない。

もしかして食べ物をせがまれているのかと思ったが、その辺に自生していた蜜柑っぽい果物(オレンのみ?)を渡したら弾き飛ばされた(食べたら美味しかったので五つ程戴きました)。

あとは俺についてくる理由として考えられるのは……。

 

「……一緒に行く?」

「うぉんっ!」

 

リオルの元気な返事が木々の間に響いた。正直なところ結構嬉しい。夢にまで見たポケモンとの旅ができるなんて、と。間欠泉のように湧き上がってくる喜びを抑えて、まずは自己紹介を。

 

「おれ、ナユタって言うんだ。キミは……『キミ』、じゃあ可哀想だよね」

 

かと言って『リオル』と呼ぶのも憚られる。自分と行動をともにするのだから、特別な名前で読んであげたい。

 

「んー……。これからおれたちは、たくさんの事を学ぶし、見ていくだろうから……」

 

呼ぶ・呼ばれるのに抵抗がなさそうな名前。

色々思案した結果に生み出された名前とは。

 

「よし。『たくさん』から取って、【アマタ】なんてどうかな?」

「うおんっ! おんっ!」

 

許可をいただきました。

というわけで、リオル改め【アマタ】と共に街へ向かうこととなった。

ポケモン世界(仮称)に来て初めての友達だ!




【アマタ】(リオル)
性別:♂
性格:いじっぱり・まけずぎらい
技:アイアンテール、じしん、はっけい、でんこうせっかetc

アマタは数多からです。
実は遍くからアマネっていうのもあったのですが、主人公がナユタなのでアマタの方が響きが似ているため没に。
アマタの過去は後ほどに。

ナユタの波紋が読み取りづらいのは、こっちの世界の人間じゃないからです。肉体こそこっちの世界のものですが、波紋のもとである魂は向こうの世界のものなので。

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