正ヒロイン(?) らしく、かなりのぶっ飛び性能ですが。
万が一に備えて用意していた簡易版転移装置で戦場となっているクラナガンへ帰還を果たしたはやて一行。
戦闘の真っ最中ではあるものの、取り返しのつかない事態が引き起こされていないことに安堵の息を零す。
「よっしゃ、間に合ったようやな」
「ふむ……状況を見るに、ややこちら側が不利といった所でしょうか。高町やテスタロッサ、ヴィータはまだ【ゆりかご】に取り付けていないのか……?」
「焦ったらあかんよシグナム。とりあえず私等はロングアーチと合流を――」
「悪い部隊長。こっからは別行動させてくれ」
部隊指揮所として現役復帰を果たしたアースラで戦っているであろう仲間たちの元へ駆けつけようとしたはやてに、鋭い視線を遥か上空へと投げつける雪菜が願いでた。
背中に収めていた双剣を抜刀し、臨戦態勢を整えた雪菜の姿に驚くも一瞬、彼の視線の先に『誰』がいるのかを見抜き、はやてが疲れたように額を抑えた。
どうやら頭の痛い問題もこっちに来てしまったようだ。
それでもわずかな希望を胸に問いかけてみる。
「念のため聞いとくけど……なにがあるん?」
「見た方が早いですよ」
ほら、と天を指さす雪菜。
内心げんなりしつつ、表面上は冷静な仮面を被ったまま視線を上方へと向け――
「うわぁお」
思わずそんなセリフが飛び出してしまった。だが、それもしょうがないことだとはやては思う。
なぜなら、彼女と似通った表情を雪菜を除く全員が見せているのだから。
彼女らが見上げるクラナガンの上空。魔導師と騎士、ガジェットの軍勢が空中戦を繰り広げている戦場よりも遥か上方、雲よりも高い領域を埋め尽くしていたのは数えるのもおっくうになりそうなほどの大群を形成したガジェットたち。
空を塗りつぶすように編隊を組み、地上を見下ろすかのようなその姿は、こちら側の戦意を削ぐ意味も兼ねているのだろうか。頭上を抑えられているという圧迫感は、ジワジワと精神に負荷をかけてくるのだから。
……だが、それよりも重要なことがある。
「こーゆー時にこそ、あのセリフの出番だな。リヒト、ルシア、行くぜ」
「え? あ、はい」
「開き直ったわね……いや、気持ちはわかるけどさ。――コホン。それじゃあ、せーの」
「「「
緊張感のないやり取りを交わすお子様トリオにツッコむ余裕は残されていなかった。
何せ、天蓋を覆うかのごとく
いや、あれはもう撃墜というよりは蹂躙と呼ぶべきか。
漆黒の天蓋を切り裂く金色の閃光。演じられるのは、輝く装甲に覆われた機械の龍を駆る最強とうたわれる龍神の無双劇。
腕をひと薙ぎすれば一個大隊がスクラップと化し、飛龍の咢から閃光が撃ち放たれれば鋼の騎兵は欠片も残さず消滅していく。
足止めどころか経験値稼ぎにもなっていない。一切速度を落とさずに空を駆ける黄金の龍神が【ゆりかご】に達するのも時間の問題だろう。
いや、あれだけの敵兵力を排除してくれたのは感謝すべきなのだろうが……、
「まずいですよ主。このままでは突入部隊を務めるテスタロッサたちが奴と接敵してしまいますっ」
接敵出来ればまだ救いはある。
だが、あの勢いを見る限り、わざわざ内部へ侵入を試みるよりも、外部から物理的に【ゆりかご】を破壊してしまいかねない。そうなれば、突入部隊の生死は……!
「わかっとる! わかっとるけど……いったい誰があの人を止められるっちゅうねん。――あ、雪菜。まさか君」
「そーゆーことです。奴を止められるのは全力解放状態の俺か花梨の姉御くらいですからね。てなわけで、足止めに行ってきますよ」
この程度なんでもないと言わんばかりの軽いノリで飛び上がり、魔力を空間固定することで足場を形成。
それを足場にさらに高く跳躍し、再び形成した足場を蹴って上へ、上へと跳び上がっていく。
そのままダークネスの元へ向かうのか……と思いきや、唐突に足を止めて地上にいるはやてたちへ振り返り、
「でも、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」
「いらん死亡フラグ立てとらんで、はよいかんかい!」
「了解~」
ひらひらと手を振りながら今度こそダークネスの元へ駆け出していく雪菜。
不安を隠せない彼女たちを気遣ったジョークなのか、それとも単なる天然か。
締まるようで締まらないビミョーな空気の中に取り残されたはやての「とりあえず皆と合流しよか……」と言う提案に速攻で全員が頷いたのは、シリアスな空気に戻したかったから……なのかもしれない。
――◇◆◇――
「ったくもう! めんどくさいったらないわね――っと! 【ルミナスキャノン】ッ!」
「グダグダ文句言う暇あるなら手を動かしなさい。――【ブラスターヒート】!」
「二人とも喧嘩はやめといた方がいいよ。死んじゃうからさ――【テスラスマッシャー】!」
戦場と化したクラナガン中心部。
雲一つない蒼天の大空を切り裂いて飛翔する三人の天使が、彩り鮮やかな閃光を撃ち放つ。
真紅の魔力が生み出した魔導砲と朱色に燃え上がる輝焔の奔流が大地へと突き刺さり、荒れ狂う破壊の暴風となって高層ビルの窓ガラスを粉微塵へと粉砕していく。
修繕にどれほどの費用がかかるのか計算するのも恐ろしいほどの惨状を生み出した女性たち……高町 花梨とシュテル・スペリオルは相も変わらず通常運転の口喧嘩を交わしている。
それでも、視線は眼下のコンクリートジャングルを蹂躙するかのように暴れ回る標的から逸らさない。
常人ならば容易く撃墜できるオーバーSランクの魔導砲を同時に叩き込んだのだ。
常識的に考えてみれば、いかに強大な生物であろうと、いくらかのダメージを負ってるハズと考える。
だが、残念な事に彼女たちが相対している
濛々と立ち昇る黒煙の向こうに動く影を認め、金の髪を靡かせたアリシアが狙撃銃形態へ変形した【デバイス】の銃口を向け、躊躇なく引き金を引く。
瞬間、稲光をほとばらせる雷光が打ち放たれ、身をもたげようとしていた標的へ突き刺さる。
再度の爆発。先ほどのものに負けず劣らずの爆風を頬で感じながら、やや離れた位置にある高層ビルの屋上へ降り立ったアリシアがリボルバー式のカートリッジの交換を行う。排熱の蒸気と共に排出されて宙を舞い、足元へ落下していく空薬莢に一瞬だけ視線を落とし、カートリッジの残弾を確認する。
――ん~、ちょっと消耗激しいかな。残弾に余裕はあるけど、先にゆりかごへ突っ込んじゃったヴィヴィオを追いかけなきゃだしね。
小さな溜息が零れてしまう。
娘が自分の意志で決着を望む相手があそこにいるという理由こそわかる。
だが、戦況を一切考慮せず、独断専行に走ってしまうのは彼女がまだまだ幼い子どもであるが故か。
確かに個人としての戦闘力は有象無象の魔導師ごときが束になっても叶わないレベルに仕上げてある。
自分が生み出した【
突撃を敢行するヴィヴィオを見て、慌てて突入していったなのはもいることだし、考えすぎと思わなくも無い。
だが、
「あっちには紫天の一派さんたちが残ってるんだよね~。戦場に出てきてないっぽいし、きっと中で待ち構えてるんだろうな~」
アリシアは、ヴィヴィオを奪い取ろうと仕掛けてきたときの情報から、彼我の実力差をある程度見抜いていた。
母譲りの魔女の叡智をもって導き出した答え。それは『
ヴィヴィオの相手をしたユーリは明らかに手加減をしていたのでデータとして不十分だが、“あの”ルビーのパートナーを務めている時点で、十年前の戦闘能力より数段上方修正しておくべきだ。ディアーチェとレヴィも隠し玉がある可能性は否定できないが、通常形態の自分とシュテルで優位に戦局を進められていたことを鑑みて、こちらに分があると見ていいだろう。
以上のデータを統合すると、個々の戦闘能力ではユーリが一つ抜け出しており、時点でアリシュコンビが同列、次いでディアーチェとレヴィがどっこいといったところか。
奥の手である『鎧闘神』を発動すればとも思うが、発動限界時間がある以上、軽はずみに使用することは避けたい。
出来る事なら、このまま花梨を引き込んで三対三の状態を作れれば言うこと無いのだが……。
「ま、そーゆーのはコッチを片付けてからのお話だよね」
産毛が逆立つ程濃厚な殺意の高まりを感じとり、アリシアがライフルのスコープを覗き込む。
刹那、崩壊寸前の、瓦礫一歩手前だったビル群を粉砕するほどの咆哮が響き渡った。
『グゥルォォオオオオオオオオオオオオオ!!』
大気を震わす轟音がクラナガンに木霊した。
鉄の杭で全身を貫かれたかのような衝撃に襲われ、口論を続けていた花梨とシュテルの目が雄叫びの主へと向けられる。
アリシアもスコープのレンズ越しに目を移すと、粉塵を振り払いながら巨大な翼が羽ばたくのが見えた。
それはゆっくりと大地を踏みしめながら前進し、ついに己が異形なる“無傷の”姿を白日の下に曝け出した。
頭がい骨を思わせる頭部、肩口まで裂けた咢、アスファルトの舗装を容易く踏み砕く後脚、翼竜を彷彿させる巨大な翼。
かつて、花梨の親友である
『死竜王 デス=レックス完全体』
かつて、黄金の龍神を葬るために呼び出され制御を離れた怪物が、クラナガンの市街地で完全なる顕現を果たしていた。
「うげ……。あんだけやってノーダメージってどうなの? ねえ、シュテル。私たち、何発くらい砲撃叩き込んだっけ?」
「さあ? 少なくとも二、三十発はくだらないはずですね。……あ、もしかしたら戦闘の最中に合体した際、ダメージも回復したとか?」
「いやいやいや、そんなゲームじゃないんだから……」
げんなりと表情を曇らせる花梨にあっけらかんと答えるシュテルの顔にも僅かな疲労の色が見て取れる。
あまりにも規格外なタフネスさに、流石の彼女も焦りを感じずにいられない。
『無駄な足掻きを続けるな。おとなしく我に喰われるがいい!』
おぞましき口から吐き出された声は、瞳に宿す漆黒の虚無と同じおぞましさを聞くものに与えてくる。
遡る事一時間前、ゆりかごを目指す花梨を阻もうと現れたキャロの愛竜
既に『神成るモノ』へと進化を果たしていた花梨へと襲い掛かってきた当初こそ、不完全体でもある“死竜王”デス=レックス=ヘッドの状態だった。
しかし、『消滅』という同系統の能力を有する花梨を倒しきることは難しく、それどころか戦いの途中で参戦してきたアリシアとシュテルの助力もあって花梨が死竜王をあと一歩まで追い込むほどの戦局を描いていた。
しかし、自らの不利を悟った死竜王は彼女たちを倒すべく、奥の手を発動させたのだ。
それこそが、完全体としての復活。普段はあまりの強大さ故に、キャロによって五つのパーツ……『頭』『手足』『体』『翼』『尾』に分断し、個別に使役されている“他の自分”を呼び寄せ、強引に完全竜魂召喚を発動させたのだ。
キャロから魔力と理性を喰らったからこそ可能な裏ワザのようなものであったが、結果、死竜王は四肢を取り戻し、完全な死を告げる竜の王として復活を果たしたのだ。
高層ビルすら凌駕する巨躯、ワイバーンのような骨格は強固な筋肉と鎧を思わせる分厚い外皮で覆われている。
全体的な形状は、死竜王の腕を翼竜を思わせる翼へ変化させ、足を取り付けた様なものと言えば良いだろう。
大地を隆起させるほどの超重量の体躯を揺らして迫り来る死竜王から逃れるため、さらに上空へと飛翔しようとする花梨。
しかし、唐突に足を引かれる感覚に襲われ、困惑に目を剥く。見れば、足首に渦巻く水流で構築された紐のようなものが組みついているではないか。
辿ってみると、死竜王の竜尾の先端に備わっている鋏状の器官から射出された水を操作したものだった。
それ自体が意志を持つ触手のようになめらかな動きを見せるソレは凄まじい強力をもって天上を飛ぶ魔導師を引きずり落とし、地べたへと叩き付けた。
咄嗟に防御フィールドを展開したお蔭でダメージこそ最小限で留められた花梨であったが、数百メートルもの距離を一瞬でゼロにされた衝撃までは殺しきれなかったらしく、側頭を抑えて苦痛を堪える素振りを見せる。
どうやら頭に衝撃を受けて軽い脳震盪を起こしてしまったようだ。
視界がぼやけ、平衡感覚が定まらない。
立ち上がろうと身体を起こすものの、ガクガクと膝が震え、魔力を練り上げることもままならない。
気絶しないよう意識を繋ぎ止めるので精一杯な状態に陥ってしまった花梨を睥睨し、死竜王の空虚な瞳に狂気の色が輝く。
『ゴゥオラァァアアアアアア!!』
翼の付け根まで裂けた大咢を限界まで開き、周囲の建築物を噛み砕きながら身動きの取れなくなった獲物へ襲いかかる。
巨体からは想像もつかない加速で瞬く間に花梨へ迫ると、周囲の大地ごと彼女の存在全てを喰らうべく、兇牙の立ち並ぶ大咢を勢いよく閉じた。
ボッ! と大気の炸裂音を彷彿させる残音と共に、数十メートルにも及ぶクレータが生まれ出た。
咀嚼することも無く上体を起こした死竜王は、次は貴様らの番だとアリシアとシュテルへと顔を向ける。
『さあ、次はどちらが喰われるのだ?』
「はあ? 理性がカラッポなバケモノは知性もカラッポなのかな?」
『ナニ?』
戦友の死に動揺するどころか、肩をすくめて残念なものを見るかのような表情のアリシアの態度に、死竜王が疑問を抱く。
万物を喰らう己が大咢の前では、如何なる存在であろうと等しく獲物でしかない。それが当然のことだと、揺るぎ無い事実なのだと言う強すぎる自負が死竜王の致命的な油断を産み出している事に、当人だけが気づけていなかった。
「足元がお留守ですよ?」
『!?』
驚愕の声はない。いや――出せなかった。
死竜王の足元、巨大すぎる体躯故の死角にまわりこんだシュテルはすでに
カートリッジのロードと共に爆発的に高まった魔力が灼熱の炎と化し、渦巻く。杖先に束ねられた紅蓮のエネルギーが爆炎となって死竜王へと襲い掛かった。
「【ブラスターヒート……
灼熱の魔道砲撃五連弾が顎に当たる部分に直撃、巨竜を仰け反らせるほどの大爆発を起こすとともに解放された炎がマグマの如き粘度を以て死竜王の全身を縛り上げ、焼き焦がしていく。
響き渡る絶叫。翼を振り回し、どうにか振り払おうともがく死竜王をあざ笑うかのように、燃え続ける劫火は意志を持つかのようにバケモノの全身を蹂躙し、燃やし尽くしていく。
炭化した鱗がパラパラと舞い落ち、死竜王と接触したビルの欠片と混ざり合いながら地面へ落ちていった。
その内のひとつ、かなりの大きさがある瓦礫が先ほど誕生したクレーターの中心部へ落下して――地面の下から撃ち放たれた真紅の魔力砲で粉砕された。
「げほっ! げほぉ! うあ~、死ぬかと思ったわ……」
髪にこびり付いた土を払い落としながら立ち上がったのは、死竜王に喰われたはずの花梨だった。
死竜王の牙が届く直前、足元を“消滅”させることで地下深くへ潜り込んで攻撃を回避していたのだ。
「さすが、しぶといですね」
「お褒めに預かり光悦至極……なんて言わないわよ――っと!」
言いきる前に飛翔魔法を発動させて離脱。いまだ燃え尽きない劫炎に焼き焦がされる死竜王が怒り狂って放った
「お帰り~」
「ただいま。……で、どんな感じ? 分析は終わったの?」
一歩引いた間合いから敵戦力の分析を行っていたアリシアに、進捗を訪ねる。
彼女に敵の意識が及ばないよう、自分を囮にして注意を集めていたのだ。
労力を考えれば、友好的な弱点を見抜くくらいはして欲しいところだ。
「ん~、まあ七割程度はね。聞きたい?」
「さっさと言いなさい。私たちにアレの相手を押し付けといてもったいぶんなっ」
「ほいほ~い。対象の正規名称は“死竜王”デス=レックス完全体。能力は万物を分解・消滅させるってヤツで、君の『
「あんだけ砲撃ブチ込まれといてピンピンしてるの散々見せつけられてきたからわかってるわ。で?」
「んぅ?」
コテン、と首を傾げるアリシア。
もしこの場にダークネスが居合わせていたら、奥さんのあどけない可愛さに胸を打たれてしまい、R版へ転移してしまっていたかもしれない。
母譲りの扇情的なドレスに包まれた蠱惑的かつ豊潤な四肢と穢れを知らない乙女の如き清純さを併せ持つアリシアは、まさに魔性の女と称するに相応しい!
……などと、アホらしい感想を抱いてしまった己の頭をコツく花梨が疲れたようにコメカミを揉む。どうにも調子が狂う。
理由はよく分からないが、どうにも金ぴかドラゴン一家相手だと妙なノリにばかり思考が泳いでしまう。
常識外れ共の仲間入りしつつある現実から全力で目を反らし、勢いよく頬を叩いて意識を切り替えようとする花梨を眺める【ヴィントブルーム】に腰掛けたアリシアの間にシュテルが割り込む様に降り立った――瞬間、
――ゾクリ!
姦し三人娘の本能が、最上級の危険信号を鳴らす。
空間すら押し潰すほどの重圧からくる圧迫感。
プレッシャーの根本へ三つの視線が向けられるのと、暴食なる狂牙が開かれていくのはほぼ同時のことだった。
『遊びはここまでだ……全員まとめて我が贄となるがいい!』
限界まで開かれた死竜王の咢。喉奥の眼球を模した器官が妖しい輝きを放ち始めた。
死竜王の必殺技、『
親友を屠った技を前に、花梨の心は不思議なほどに落ち着いていた。
冷静に状況を見極め、“消滅”の力を宿した魔力球を生成していく。
その数、およそ――五千!
「そんなにお腹空いてるんなら、これでも喰らっときなさい!」
天へと掲げた杖を振り下ろすと同時、大空を埋め尽くした紅の光弾が死竜王目掛けて殺到する。
不規則な軌道を描いて飛翔する魔力弾は着弾の寸前に分散、全体の約半数が死竜王の頭部を掠る様に急上昇することで視界を遮ると共に敵の意識を
続いて、残りの魔力弾が隙だらけの態を晒す死竜王の足元に着弾、本体ではなく足場である大地そのものを抉り取った。
重心を崩され、大地に呑み込まれていくかのように崩れ落ちる死竜王。
咄嗟に身近な建物へ掴み掛って体勢を保とうと足掻くものの、以前のように人間のモノと同じ形状をした腕ではなく翼としての機能を優先させた翼爪では完全体となった巨体を支えることは出来なかった。
翼爪はビルの表層を削り取るにとどまり、粉塵を巻き上げながら瓦礫の海へと身を鎮めることとなった。
もし、脚部を直接魔力弾で穿っていたとしたら、このような結果になることは無かっただろう。
竜種の強大すぎる生命力は人智を超えており、特に死竜王は不死を思わせる無敵の生命力を秘めた存在なのだから。
『オノレェ……下らぬ小細工オォォオオオオ!』
瓦礫を搔き分けながら憤怒の咆哮を上げる死竜王。王としての傲慢すぎる誇りを汚されたと感じているのか、はたまた獲物如きにしてやられたと言う憤慨か。
どちらにせよ、彼女にとっては関係ない。やることは最初から決まっているのだから。
立ち上がろうとしている敵に杖先を向け、“能力”を発動させる。
集束する魔力に“消滅”の概念を付与し、ただの魔力砲を絶対無比なる必殺の一撃へと昇華させた。
真紅の魔力から放たれる風が栗色の髪を靡かせ、大気中に拡散した残留魔力が頭上で渦巻き、神々しい光輪を彷彿させる輝きを放つ。
背面に広がる透き通るような魔力翼と相まって、その姿は地上へ降臨した戦乙女を彷彿させる。
幻想的でありながらも絶対なる死を告げる恐るべき使者と化した花梨の眼が、ようやく瓦礫から抜け出した死竜王を射抜く。
「極死・ルミナスキャノンッ!」
【デバイス】のグリップに備え付けられた
眩いばかりの閃光は一条の流星となって死竜王へと突き刺さり、片翼を根元から抉り取る様に消滅して見せた。
血肉を焼き焦がす際に発生する異臭も、骨を砕く破砕音も聞こえない。
しかし、単なる結果として片翼を空間ごと消失したかのように抉り取られ、困惑と悲鳴まじりの雄叫びを上げる死竜王がいた。
まるで、貴様の姿こそが揺るぎ無い真理であるのだと宣言しているかのように悠然と空に座す戦乙女を睨み上げ、龍の王の意識が怒りで塗り潰されて行。
伽藍堂であった双眸はどす黒い血を彷彿させる闇色に染まり、全身を覆う竜鱗が逆立つ。
血管が浮き出るほどに肥大化した両足が無数のクレーターで埋め尽くされた大地を踏みしめ、ユラリユラリと身体を起こしていく。
強すぎる怒りによって削り取られた傷の痛みも感じていないのだろう。
剥き出しにされた生々しい筋肉から吹き出す鮮血を抑えることもせず、長く強靭な尾部を振り上げ、自身の足元へ勢いよく叩き付けた。
錯乱したか? と疑問符を浮かべる花梨。だが、刹那の間を開けて脳裏にけたたましい警報が鳴り響いた。
直感に従い、その場から緊急離脱。見れば、アリシアとシュテルも後方へ避難している様子が見て取れた。
その僅か数秒後、四方の空間から彼女らの残像を串刺しにする漆黒の槍が具現化した。
僅かでも離脱が遅れていたらむごたらしいオブジェになり果てていたことだろう。
前兆も無く空間を突き破り、襲い掛かってきた謎の攻撃を垣間見て、花梨の背筋に冷たいものが奔る。
「何よアレ……空間転移? 召喚魔法?」
【うーん、見た感じ別物っぽいですね~】
困惑を隠せない花梨に代わって先ほどの攻撃の仕掛けを見抜いたのは、敵戦力の分析に努めていた【ルミナスハート】だった。
【槍みたいなのが生えてくる空間を良く見てくださいな。黒い塊みたいなのがあるでしょ?】
「黒い塊? っ、あれってまさか……影?」
【ルミナスハート】が指し示したもの。それは空中で不自然に発生した漆黒の影だった。
先程、死竜王が地面を踏みならした際に舞い上がった瓦礫や粉塵が重なり合い、太陽光を遮って影を作りだしていたのだ。
闇竜王が得意とした影を媒介とする空間跳躍攻撃。死竜王が仕掛けてきた攻撃はまさにソレだったのだ。
「意外と頭が回るようね……っ」
再度の悪寒。進行方向前面の空間に魔力を固定して魔法陣を生成し、足場として着地。両膝のバネの反発を生かして身体に掛かるベクトルを反転、即座に離脱を試みる。
だが、
(しくった!?)
安全圏まで僅かに届かない。
『
表皮を抉り、肉を断つ一撃は掠った程度と言えども、軽いダメージで収まるものではなかった。
激痛と共に吹き出す鮮血。肉体の一部を文字通り抉り取られた感覚に、花梨の表情が苦悶に歪む。
それでも立ち止まることは許されない。紗ならる追撃を仕掛けてくる槍の豪雨を、生成された影の場所、大きさなどから次弾の射出場所を予測し、回避行動を持続させる。しかし、受けたダメージは深刻だ。止血も出来ない状態での連続回避は肉体に多大な負荷を与え、その度に傷口から真新しい鮮血が溢れ出す。痛みは枷となって思考速度を低下させ、ソレが新たな傷を生む原因となる悪循環。
相手には空間ごと対象を喰らう範囲攻撃が存在している以上、転移攻撃のみならず本体の挙動にも意識を裂かなければならない。
結果的にそれが思考演算に意識を取られてしまうこととなり、身体の動きを悪くしてしまってる。頭では理解できているのに打開策が見当たらない。
アリシアとシュテルのほうも攻撃は及んでいるらしく、援軍は望めそうにない。
明らかに劣勢な状況に立たされていることを理解し、花梨が下唇を噛む。
(このままだとなぶり殺しにされる! 必要なのは打開策……奴の攻撃を防ぐ何か! 考えろ、考えろ私!)
敵の攻撃は空中に投影した影を利用した転移攻撃。
物理現象であるために対魔力障壁は意味を成さない。
なら魔力の流れを阻害するジャミングを仕掛けるか?
――却下。敵固有の能力によるものだから魔法ではない。
空間設置型のバインドをばら撒いて牽制するか?
――体格差がありすぎる。複数の術式を重ね掛けしなければ止められるシロモノじゃあない。これだけの数に対処しようとしても術式構築が間に合わない。
――考えろ。考えろ! 考えろッ!!
自分の手札は何がある?
高速演算を可能とする並列思考に万物を消滅させる異能。
そしてこの世界には存在しないはずの知識。これらを組み合わせて新たな戦術を、魔導術式を構築する以外に打開策は無い。
(必要なのは攻撃の先読み? それとも攻撃に対する自立迎撃機能?)
前者なら『
けれど、ソレを実行するためには情報分析の時間が必要。ならば、時間稼ぎも含めた迎撃システムの構築こそが対策として相応しい。
イメージするのは記憶にある自立機動兵器。形状は“盾”として、“能力”を付与させることでいかなる攻撃おも“消滅”し、防ぎきる鉄壁の守り手。
――違う。そうではない。そんなもの、
彼女の本能が、人ならざる者としての本質が正しくあるべき
光を映し出して輝くモノ。
闇を払い、真実を暴くモノ。
かの者の名は――
「『
――キィンッ!
甲高い音が鳴る。
花梨の求めに応じて『起源』から舞い降りた『
ユラリユラリと輝く靄のように放出された形無き『
花梨の掲げた杖に追随するかのようにうねり、渦巻き、紡がれて――輝く円盤状の物体として顕現する。
金色の縁取りと銀色の鏡面で構成されたソレは美しいまでの――銅鏡。
陽光に照らされて残光を煌めかすソレは、くるくると回転しながら花梨の周囲を旋回し……迫り来る黒槍に向けて鏡面をつきつける。
たかが鏡、盾にもならないと捉えたのだろう。死竜王の大咢が侮蔑に歪んだ気がした。
だが――
巨大な槍が鏡面に触れた瞬間、まるで最初から存在していなかったかのように槍先から消えていく。まさに存在の消滅。
しかもそれだけに留まらない。くるくると宙を舞っていた鏡の姿がぶれたかと思いきや、まるで手品のように二つ、四つと次々に倍化していく。
総数十六の宙を舞う銅鏡が、花梨を守る守護者のように死竜王と相対する。
「触れた物を“消滅”させる
勝利を確信し、花梨の声に不敵さが宿る。憎々しげに唸り声を零す死竜王を見下ろしながら、無造作に杖を振るう。
瞬間、我先にと死竜王へ殺到する銅鏡軍団。円盤のように不規則な軌道を描いて殺到。標的である死竜王を囲うように周回し、鏡面に輝く光を集束させていく。
銅鏡の動きを訝しみ、ダメージを感じさせない荒々しい動きで振り払おうと暴れる死竜王だが、彼の攻撃を鮮やかに回避しつつ一定の距離を保つ銅鏡の輝きが臨界に達した――瞬間。
『グゥロォォォオオオオオ!?』
巨獣の悲鳴が都市部に響き渡った。
鏡面に集束された光……それは花梨の“能力”の恩恵を受けた万物を消滅させる
巨大なキャンバスに筆を泳がせるかのように、破壊の閃光が死竜王の全身を蹂躙する。
雨霰と降り注ぐ閃光から逃れようとすることも叶わない。
ありとあらゆる方向から降り注ぐ閃光が牢獄となって竜の王を捉え、身動きすら許さずに破壊しつくす。
いかなる防御も意味を成さない絶対消滅の力。鏡面表層を薄い膜状にして覆うことで無敵の楯とし、ソレを攻撃に転じることで万物を撃ち抜く破壊の射手ともなる。
攻防一体の自立魔導兵装。
それこそが『
「これで終わりよ死竜王。あの娘の敵……とらせて貰うわ」
傷の無い箇所を探す方が困難に思えるほど蹂躙され――それでも王としての誇りゆえか倒れることを許さずに己を睨み付けてくる死竜王を見据え、花梨が宣告する。
ここで、お前は終わるのだと。
フルドライブモードへ変形済みの【ルミナスハート】を構え、魔力を練り上げていく。
杖先に集束していく真紅の魔力。それを囲うのは舞い戻ってきた銅鏡たちだ。
直径一メートルほどに魔力球が巨大化したところで、突如、ソレから全方位に向けて無数の閃光が打ち放たれた。
レーザーのように細い【ルミナスキャノン】にも見えるそれは『
『ヌゥ……小癪な! そのような物を大人しく喰らう我ではな――グア!?』
花梨が生成した『神代魔法』の脅威を肌で感じたのだろう。死竜王が回避行動に移ろうとした――瞬間、彼の横腹に蒼く燃える炎が突き刺さった。
予想だに出来なかった衝撃に体勢を崩され、傍らのビルを巻き込みながら倒れ込む死竜王。
突然の事態に花梨が、転移攻撃が止んだので援軍に駆けつけようとしたシュテルまでもが戸惑いを顕わにする。
しかし、三人の中で最も安全圏に近いところにいたアリシアだけは周囲の状況を把握し、目の前で起こった現象の答えを導き出すことに成功していた。
にんまり、と語尾に♪マークが付属しそうなくらいイイ笑顔を浮かべている。
ま、要するに、だ。
「おお~、ダークちゃんもコッチ来たんだね」
呑気に手を振るアリシアの視線の先には、上空を埋め尽くすほど展開されていた筈のガジェットの軍勢を切り裂く黄金の輝きが存在した。
雷のオーラを纏い、古代遺産による空間転移を連続発動させることで光速をも超えた超神速の機動。
拳一つで星を砕き、放たれた狂蛇は銀河をも喰らう。
重厚さを増した金色の鎧を纏った超越者が、アスファルトを粉砕しながら戦場へ進撃しようとしていた。
ダークネスの現在位置がが目視では見えない遠方である事も相まって、周囲に戸惑いが渦巻く。
が、そんな空気を完全に無視して、蒼い輝きを放つ炎の塊が上体を起こした。
燃え盛る蒼炎が舞い散ち、飛来物の正体がようやく露わとなる。
「いっつつ……あの野郎、さすがに
「雪菜!? なんでアンタがここに?」
「あん? 姉御か? よっ、偶然だな」
「いや、そーゆーこと聞いてんじゃな――」
――ドゴン!
はるか遠方から押し寄せてくる破壊の轟音。
視線の先にある大通りに面した建築物が軒並み粉砕され、それが段々とこちらのほうに近づいてきている。
いったい何が……? と疑問を抱く必要はない。
なぜならば、大地を蹂躙するかのように踏み鳴らし、姿が霞むほどに馬鹿げた速度で大通りを疾走してくる
「今度は何よ、もぉ!?」
それでも叫ばずにいられなかった。
花梨の絶叫が届いたのか、はたまた唇の動きを読み取ったのか。
元凶であるスペリオルダークネスSRが、意地の悪い笑みを彼女に向け、次いで闘争本能をむき出しにした獰猛なケモノの形相で雪菜を睨みつけた。
「貴様から売った喧嘩だろうが。せっかく遊んでやっているのに逃げるなよ……と言う訳で、ペナルティだ。こいつで死んどけ!」
「ハッ! 御免こうむるッ!」
死竜王の肉体に二刀流に構えた双剣をつき差し、切っ先から放出させた蒼炎の噴出力で跳躍する雪菜。
だが、ダークネスの反応速度はさらにその上を行く。避けようとする雪菜の前方へ回り込み、右腕を振り上げる。放たれるのは必殺の体現たる魔剣【クライシス・エンド】。
二刀を交差させて受け止めようとする雪菜をあざ笑うかのように、強大な『
「なーんてな」
「なに!?」
ダークネスから思わずと言った風に困惑の声が上がる。
驚きに目を見開く彼の前で、雪菜が蒼炎で形成された大翼を羽ばたかせて離脱した。
――『
『
しかも、放出される蒼炎が
してやったりと悪ガキの顔で、迫りくるダークネスの真横を擦りぬけて行った雪菜の後姿を横目で睨みつけながら、さらなる隠し玉を秘めていた敵の底しれなさに賞賛すら抱く。
真名解放後の彼と幾度か拳と刃を交えてきたが、飛行能力を有していることにまったく気づけなかった。
己の眼から逃れる意味も兼ねて力を封印していたのは、真名解放後も”
――ただ飛行を可能とするだけの翼であるはずがない。必ず何か秘めたる特殊能力があるはず。
自分と同格者の能力を分析するのはやや時間がかかってしまう。
少なくとも、一瞥した程度ではアレの性能を解析しきることは難しい。
だがまあ、どちらにしても手加減はもうしてやらない。
必殺たる【クライシス・エンド】を躱されたのは腹立たしいが、追撃を仕掛けようとする気質は見られないのでまあ良しとしよう。
ひとまず、繰り出している最中の技を振り抜いてから体勢を立て直してから、仕切り直しだ。
「――ん?」
そこまで考えて、ふと気づく。
今現在、己が手刀を叩き込もうとしている生物らしきものは……なんだ?
雪菜との戦いに気を取られすぎ、注意力が散漫になっていたらしい。即座に視線を動かして周囲の情報を探り……理解する。
これ、花梨にボコられてる死竜王だ。
斬ッ!
「あ」
『ぐぎゃぁあああああっ!?』
ダークネスにしては珍しい呆けた声を塗り潰すほどの大絶叫。
大地を切り裂くほどの一撃をまともに受け、首と胴体が完全両断されかかるほどの深手を負わされた死竜王の眼が、ギョロリと蠢き、元凶であるダークネスを睨みつける。
相手からすれば米粒程度にしか見えないほどの圧倒的体格差。大きいことはわかりやすい力量差を表すというが、山ほどの巨躯を持つ死竜王の眼光に射抜かれても、ダークネスの表情に変化は見受けられなかった。空気が震えるほどの怒気と殺意を露わにする
「声でかすぎだ。やかましい」
悪びれもせず一言で切って捨てた。
まるで、今の貴様など敵として扱う価値すらないとでも言いたげに。
当然、ここまで見下された竜の王が黙って引き下がるわけがない。
明らかな致命傷を負わされているとは思えない機敏な動きで立ち上がると、今度こそ【構成分解《ゲシュタル=グラインド》】を放ってやろうと攻撃態勢へ移行していく。だが、ここにいる
「なんだかゴチャゴチャしてきたけど、とりあえず
状況が目まぐるしく変わる中でもチャージを継続していた花梨が。
「やれやれ、状況がよくわからんが一応始末しとくか」
腰だめに構えた両手に蒼に輝く黄金の魔力を練り上げていくダークネスが。
「
二刀の峰を連結させて一振りの剣へと変形させた相棒の具合を確かめるように軽く振るう雪菜が。
万物を喰らう死竜の咢が解放されるよりも早く、人知を超えた強大なるチカラ……『神代魔法』が解放される!
「『
「『
「『
死竜王を中心にして三方向から撃ち放たれた巨大な閃光は合間にある万物を打ち砕きながら直進し――照らし合わせたかのように標的へと着弾した。
次元をも崩壊させる神の蛇と世界を切り裂く断罪の剣が互いを喰らいあい、拮抗するそれらをまとめて終焉の輝きが無に帰していく。
究極の魔法同士がせめぎ合う余波に煽られそうになったアリシアたちがあわてて建物の陰へ飛び込んだ瞬間、消滅しきれなかった『
荒れ狂う魔力のうねりがようやく収まった時、後に残されたのは大地を抉る巨大なクレーターのみ。眼下に広がる惨状に、下手人である人外三人は標的を仕留めることができたことに喜ぶべきか、
もっとも、『市民の皆さんの平和を守る管理局員と協力者』である自分たちがしでかしたことに今更になって戦慄している花梨と雪菜と違い、そんなの知ったこっちゃねぇダークネスは、背中にひしひしと感じる「可愛い奥さんとお嫁さんも巻き込まれそうになったんですけどー?」 と言いたげなアリシュコンビの機嫌をどう取り繕うべきかと言う一点で悩んでいたのだが。
いつでもどこでも平常運転なさいきょ~一家は、いいかげんミッドチルダそのものが《黄昏の結界》に覆われていることに気づくべきである。
でなければ、この星は確実に木端微塵と化していたのだから。
――◇◆◇――
『神代魔法』のぶつかり合いが世界を震え上げていたまさにその頃、【ゆりかご】の格納庫で、あるモノが出撃準備に移っていた。
心臓炉に炎が灯り、パネルから放たれる光が暗闇を照らし、蠱惑的な色香を感じさせる女人の声が響き渡る。
【核融合路臨界率80%を突破。生体筋肉の反応、異常なし。全兵装安全装置解除……解除を確認。オールウェポン、アクティブ】
制御装置でもある彼女の報告に耳を傾けながら、指先は空間投影型のキーボードを高速でタイピング。
これから起こる神話の再現とも呼べる戦いに胸の高まりが抑えられない。
興奮で震える自分を抱きしめながら、最高傑作の
『ルビー、【ゆりかご】のことは我々に任せておきたまえ。君は思うまま愉しんでくるといい』
「ありがと、おにぃ」
相変わらず自分を理解してくれる遺伝子上の兄に感謝の意を返しつつ、操縦桿を握りしめたルビーの双眸が爛々と光り輝いた。
「さぁ……遊ぼうかダーちゃん。さいっこうの舞台でさァ!」
【核融合炉、出力100%。思考伝達回路正常。全システムオンライン。……創造主。出撃準備完了じゃ】
「おっけ~い。んじゃ……往きますか!」
開かれていくハッチから戦場が一望できた。
センサーが各戦場の状況をモニタニングし、戦局を数値化させていく。六課フォワードの迎撃に向かったチームはほぼ壊滅。
市街地戦の指揮を任せた何人かと【ゆりかご】内部で侵入者と戦闘を繰り広げているメンバーはいまだ健在のようだが……都市部を覆い尽くすように展開させていたガジェットの九割が破壊され尽くしたのは苦笑するしかない。
だが、もはやそんなことはどうでもいい。
「ようやく遊べるね……待ちかねたよ♪」
見惚れる様な微笑みを浮かべる天災が纏った神殺しの鎧の双眸に光が灯る。
背中のブースターが紅蓮の炎を燃え上がらせ、一対のエネルギーウイングを形成させた。
前傾姿勢に機体を倒し、カタパルトに脚部を固定すると、管制室でナビゲーターを務めているウーノがモニター越しに頷き、
『術撃準備完了しました。いつでも発進、どうぞ。……ルビー、どうかご武運を』
「らじゃ~! ルビー・スカリエッティ、『
かつてない高揚に胸を躍らせる少女と共に、兵器の極みが遂に戦場へと飛び立つ。
目指すは市街地の東側、星詠みの守護乙女と蒼炎の英雄騎神に対峙する黄金色の龍神。
恋い焦がれる笑みを浮かべた天災の一手により、戦争は次のステージへと移行していった。
・作中登場した魔法解説
●『
使用者:高町 花梨
『
特筆すべきは破壊力でなく、万物を消し去る魔法の性質そのもの。これの前では、ダークネスや雪菜の『神代魔法』ですら拮抗することも叶わずに撃ち負けてしまう。
●『
使用者:高町 花梨
自立機動によって攻防一体のミラーピットを産み出す“技能”。
なのはの奥の手であるブラスターシステムのビット機能を彼女なりにアレンジした結果誕生した。
特定方向からの物理攻撃を除けば、魔法非魔法問わず、完全に攻撃を防ぐことを可能とする防御能力と、移動砲台としての攻撃機能を併せ持つ。
ただし、予め内包させておける魔力には限界値が存在するため、半永久的に展開し続けることは不可能である。
●『
背中に蒼炎によって形成された翼が具現化。
飛行能力が付加され、すべての攻撃、防御に「変換資質『蒼炎』」が付加される。
※補足の元ネタ集
●『
『第2次スパロボZ』の主人公クロウ・ブルーストの後期搭乗機リ・ブラスタの最大必殺技。
●『
『無限のフロンティア』のネージュ・ハウゼンの鏡ばら撒き反射レーザーと『シンフォギア』正ヒロである小日向未来の神獣鏡。
●『
『灼眼のシャナ』の主人公シャナ(アニメVer.)が愛用する飛行の自在法。