魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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原作 & ”神造遊戯(ゲーム)”開始!


『無印』編
運命の刻


そして、ついに訪れる始まりの日。

 

原作の仲良し三人組に花梨を加えた四人で塾に行く途中、近道をしようと通りかかった公園。

物々しい警察官たちが不自然な壊され方をしている公園の遊具の調査をしている傍で、なのはと花梨の脳裏に一人の少年のものらしき弱弱しい声が響いた。

アリサとすずかは聞こえなかったようで怪訝そうに首を傾けてはいたが、それの正体を知っている花梨は下手にアクションを起こさず傍観に徹していた。そんな最中、突如なのはが『声が聞こえる!』と公園の中にある森の中へと駆け出していった。

慌てて後を追う花梨たちが追いついたときには、なのはは地面にしゃがみこみ、その両腕の中に一匹の生物――フェレットを抱えていた。

 

首元に赤い宝石を身に付けた、身体中に怪我をして弱弱しいフェレットの様子に、慌てだすなのはとアリサ。そして冷静に『動物病院へ行けばよいのでは?』と発言したすずかの進言に従い、すぐさま四人は動物病院へ。

その後、ひとまず動物病院の先生に一晩預けるという形になった。

そして現在、再びユーノの念話らしきものが聞こえてきた直後、慌てた様子でなのはが家を飛び出していくのを、二階にある自室の窓から花梨は眺めていた。

「さーって、念のために私も行きますか」

机の引き出しの中に保管しておいた青い宝石――神さまから貰った専用のデバイス『ルミナスハート』を取り出し、首にかける。

いざ! と意気込み、ドアノブに手をかけた瞬間、

 

《さあ、“神造遊戯(ゲーム)”を始めるとしようか》

 

脳裏に嘗て聞いた覚えのあるような、それでいて、どこか軽薄そうな声が響き渡ると同時に、花梨の視界は閃光で埋め尽くされた。

 

 

まるで己という存在が世界から切り離されるような浮遊感に包まれたかと思うと、一瞬にして視界に捕えていた景色が全く異なるものへと姿を変える。

 

「……ここ、どこ?」

 

花梨の口から最初に呟かれたのは、そんなありきたりな台詞だった。

動揺を隠せぬ花梨の視界一面に広がるのは、どこか見覚えのある遥か地平線すら見えぬ真っ白な空間。

此処はさっきまで自分がいたはずの住み慣れた生家とは何もかもが違う世界だということを、花梨の魂が理解する。

そこは嘗て、彼女が一度死に、今の人生を始めるきっかけになった場所、神を名乗る存在と邂逅した筈の場所に、再び花梨は降り立っていた。

ただし、以前とは何点かは異なっていた。

先ず目に入るのは、目の前に悠然と聳え立つ巨大な壁……否、天をも穿つほどに雄大な巨木。

しかもよく見てみると、一本の木ではなく、無数の其れこそ数えることも億劫になりそうな数の細い木(それでも、そこらの木々よりかは遥かに巨大な訳だが)が絡み合い、寄り集まって、一本の巨木に見えているようだ。その威容たるや、まさに天を衝くかの如し。

これほどの巨木であるというのに、目に見える範囲の幹に皹の類は一切見受けられない。それがまた、この巨木が現実の存在ではないことを言外に告げているように花梨には感じられた。

視線を下にやると、遥か下方で、巨大な大地と錯覚するほどに広がった夥しい数の根が犇いている。

さらによく見てみると、根の少し上くらいから透明に近い水に浸かっている様にも見える。まるで昨日TVで見たマングローブ林のようだ。

花梨はそんなどこかずれた感想を抱きながら次に視線を上へと向けてみる。

すると、こちらもご多望に漏れず空を覆いつくすほどに鬱蒼と茂り、枝葉の隙間からキラキラとした輝きが零れ落ちてくる。

世界を覆いつくすほどに巨大な大樹の幹、その中ほどを光のリングが覆っている。

大樹に触れない一定の距離で宙に浮かぶそのリング上には、さらにいくつもの円形の形状をした祭壇が備え付けられている。

先ほどから花梨がいる場所もまた、複数見て取れる祭壇の一つであった。

 

何故私はこんなところにいるのだろう?

あまりの事態に思考が停止してしまった花梨の頭に、先ほど聞こえた声とは別の、遠雷の如き重厚を持った声が響き渡る。

 

《フム……全員、揃ったようじゃな。それでは“神造遊戯(ゲーム)”開始に先駆け、ルールの詳細を説明といくとしよう》

 

言われた言葉を脳が理解し、漸く花梨の思考が覚醒する。

慌てて辺りを見渡せば、なるほど、確かに自分以外の誰かの存在を感じられる。

不思議なことに、視界は巨大な大樹で阻まれているというのに、何故か大樹を挟んだ向こう側の台座に誰かがいるのがわかってしまう。

――流石に、姿形を完全に見て取れることは出来なかったが。

 

《其れでは説明を始める―――― “神造遊戯(ゲーム)”とは、言ってしまえば『新たなる神を生み出すための儀式』じゃな。現存する神々から与えられた特典……それ即ち神力を手にした人間の魂は人の枠を超え、神への階段を上る権利を得る。様は神の候補者という訳じゃな。じゃが、今のままでは候補者止まりに過ぎぬ。故にの、試練。この儀式の目的はそういうものじゃ》

 

告げられたあまりの言葉に、誰もが息を呑み、言葉を無くす。

その内心は、大なり小なり驚愕で染め上がっていることだろう。

だって、そうだろう?

転生する当初は転生者同士が繰り広げる殺し合いという『ゲーム』だと言われていた筈だ。

確かに勝利者には副賞が与えられるとか言っていた気がするが、其れがまさか神様の座とは。

一方、転生者サイドの内情など知ったことではないと言わんばかりに、説明は続く。

 

《“ゲーム”期間は”リリカルなのは”の『無印』開始から『A’s』を経て、『Strikers』終了までのおよそ十年間。尚、合間にある空白期と呼ばれる期間は、今までどおり戦闘は禁止とする。模擬戦レベルなら構わんが、生き死にレベルの殺し合いはご法度じゃ。――良いな、“Ⅰ”?》

『――何で、俺にだけ言うんです?』

 

聞こえてきた声は自分よりやや年上くらいであろう青年のものだった。

何故“Ⅰ”と呼ばれた人物だけ、念を押すように注意されるのだろうか?

そんな私たちの抱いた疑問はすぐに解消されることとなった。

 

《前科持ちがよく言うわ……“神造遊戯(ゲーム)”開始前にもかかわらず、先代の“Ⅲ”、“Ⅳ”、“Ⅴ”を殺しおった癖に》

 

さらりと告げられた衝撃の事実に、思わず口元に手を当ててしまう。

他の人達からも少なからず動揺している気配を感じるが、それもしょうがないことだと思う。

転生者を、同胞の筈の人間を容易くその手にかける人物がいたのだから。

転生者同士でも、手を取り合い、分かり合えると思っていた私の考えは、こんなにも容易く粉砕されてしまうものだったのだと、今更に理解した。

 

《とにかく、どうせやるなら“神造遊戯(ゲーム)”内でやるように。 ……話が逸れたの。それでは続けて、細かいルールについて説明するぞ》

 

続けて説明されたルールは纏めるとこのようなものだった。

 

①“ゲーム”について、転生者以外の存在には現時点で説明できない。理由はいまの私たちの年齢は全員未成年であり、事情を話せば親御さんなどが介入してくる可能性が高いということ。

転生者同士での戦いこそがこの儀式の本質であり、他の存在の介入は宜しくない。“神造遊戯(ゲーム)”を進めていけば、いずれは話せるようになるが、少なくとも今は不許可なのだそうだ。ちなみに“神造遊戯(ゲーム)”について誰かに話そうとしても、何故か声が出ず、念話も筆記も駄目だった。

 

②勝敗は転生者自身の死亡が基本。ただし、特典の“武器”として神様印のデバイスを手にしているものに限り、デバイスを破壊されても失格とする。これは、神印のデバイスとあの世界で作り出されたデバイスでは、どうがんばっても性能に差がありすぎるからであり、“武器”の特典を選ばなかった者との不公平さを無くすための処置であるらしい。

 

③舞台となる世界……地球やミッドチルダなどを壊す、あるいは破滅させるような行為は厳禁。

あの世界もまた神様が作り上げた神様たちの所有物であり、それを壊すような真似をする者を、同じ神の末席に加えるつもりは無いとのことだ。

 

④“神造遊戯(ゲーム)”参加者が転生者以外の存在に敗れた場合、その者は己の意思でリタイアしたと判断される。

 

⑤“神造遊戯(ゲーム)”終了時、すなわち機動六課解散時点で転生者が複数生存していた場合、勝者は無しだと判断し、その時点で未だに生き延びている全員が強制的に消去される。

 

⑥神々は“ゲーム”開始以降、如何なる理由があったとしても、新たな参加者を補充することは不可能となる。

 

⑦他の参加者を下した勝者には褒賞として、『魔力総量の上昇』、あるいは『倒した相手の保有していた能力の一つ』を己のモノとすることができる。自分以外に十二組存在する他の候補者たちを屠り、そのチカラを集約させたものこそが、新たなる神となる。

 

 

《以上でルールの説明を終える。それから“神造遊戯(ゲーム)”の開始時刻は丁度おぬしらをあの世界に戻した時点とする》

 

……なるほど、要するに無理に相手を倒さなくても相手の持つデバイスを破壊するだけでも勝利条件になるのか。

 

《……何か質問は?》

『はいは~い! しっつも~ん』

 

遠目だが、ふざけた話し方をする少女らしき人物が、挙手しているように見える。

 

『“神造遊戯(ゲーム)”の参加者はここにいるのが全員だったりするのかな、かな? 視た感じ、こいつらの顔なんてわっかんないけどさ~? それでも人数は十三に達して無いみたいに見えるんだけど~?』

 

そう言われ、改めて周りを見渡してみると、確かに人影は十も無いように見える。参加者は総勢で十三組だったのでは……?

 

《なぁに、今回は『無印』が舞台な訳じゃが、『A’s』や『Strikers』から介入したいという輩もおるのじゃよ。そやつらを除くと、今の参加者はここに居る八名となる訳じゃ》

『にゃるほど……ういうい~、りょ~かい!』

《……他には無い様じゃな? それでは参加者同士で協力するもよし、個人で行動するもよし。各々、力と知略を駆使して、精々がんばって生き残るのじゃな。ああ、其れと最後にもう一つ、“神造遊戯(ゲーム)”中に時折サプライズを執り行う予定じゃからそのつもりで。なあに、戦力強化のためのボーナスゲームみたいなものと思うように――おっと、大切な事を言い忘れておった。お前たちに与えた“技能”についてじゃが、あの世界の住人にはレアスキルと認識されるように設定してこそおるが……実のところ違う》

 

え? 私の貰ったあのチカラって、レアスキルじゃなかったの?

 

《神のチカラ――“権能”、“神力”……言い表す言葉は多々あれど、お前たちが目覚めた“能力”は人知の外側に在るチカラ。魔導師たちが魔導を行使する際に使用するのは大気中に存在する魔力素じゃが……お主らが“技能”を使用の際に消費するのは“魔法力(マナ)”。まあ、お主らは魔力とはまた別のエネルギーだとでも思っておればよい。唯人には認識すら出来ぬ“魔法力(マナ)”は、それゆえに彼らにとってみれば理解できぬ異能にしか見えぬ。じゃから、各々の“能力”について軽々しく口外せぬことじゃ。無用な疑心を生み出したくなくば、な》

 

魔法力(マナ)”? 聞き覚えのない言葉だけど……なんだろう。この言葉の意味が、とても重要な事のような……なんだかどうしようもなく、そんな気がする。

 

《さて、と……語るべきことは語り終えた……それでは、あらためて“神造遊戯(ゲーム)”の開始をここに宣言する――――ちなみに拒否権などは存在せぬからな。新たな人生という褒賞を受け取っておきながら、今更そんな都合の良い妄言を吐いてくれるなよ? ……戦わねば、死ぬだけじゃ。これは脅しではなく――確たる真実なのじゃから》

 

確かに、この場に居る全員が何らかの選択を経た上で此処にいる以上、戦うという確たる意志を固めている者も当然存在するだろう。

相手は自分と同じ人を超えた“能力”を持つ者である以上、説得、あるいは協力関係を結べなければその先に待っているものは――己の『消滅』だけだろう。

 

『何であろうと、やることは変わらん。――勝つ。そして生き残る。それだけだ』

『――へぇ? あは♪ なんだか興味が沸いてきちゃったよ♪』

『それにしてもボーナスゲームだと……? なんかまた、面倒そうな……』

『へっ! 何だってかまわねぇぜ! 早く始めやがれ!』

『どんな事をしても、あの子だけは……!』

『なんとなくですけれど、なにやら面倒ごとの匂いがいたしますわね……』

『ハァ……いよいよ、か……』

 

自然体を保つ者、戦いに意気込む者、覚悟を決める者……。

多様な想いと信念と欲望が渦巻く、神の遊戯たる“ゲーム”の開始を告げる鐘の音が鳴り響くのを、その時、花梨は確かに感じていた。

 

【中間報告】

“ゲーム”の舞台時間軸:魔法少女リリカルなのは:無印開始

現在の転生者総数:八名

【現地状況】

“Ⅲ”:他世界から現地世界『地球』に到着。

“Ⅵ”:外出した高町なのはの後を追跡中。

“Ⅶ”:海鳴市の探索を開始。

 

 

――Are you ready?

 

『ゲーム』開始(スタート)――――!!

 




2012.11.14 微修正

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