ちょっと短いですけど、混浴シーンの続きをば。
ロストロギア回収はちょっとネタを仕込みたいので、次回に持ち越しとさせていただきます。
「折角露天風呂があるんだから、ちょっと浸かっていこうよ」
アリシアたちが女湯を後にしてしばらくの時が過ぎた時、そう切り出したのはなのはだった。
もちろん、異性が利用しているところへ突貫を仕掛けられるほど羞恥心を失ってはいなかったので、入念に他の利用客がいないか確認した上で、だ。
だがしかし、彼女たちにとって予想外かつ運の悪いことに、風呂へと通じる扉を開けてみると……
ひとつ目の扉をOPEN!
――カウンター罠『そっくりさんのラヴシーン♡』 発動!
男の娘とヘタレな王様が『ちゅっちゅ』どころか『ぬっちゅぬっちゅ』的な行為の真っただ中な光景が視界一杯に広がった!
純情乙女~ズは、顔が真っ赤に染まった!
鼻孔から溢れ出す真っ赤な想いを堪えつつ、どうにか気を取り直してふたつ目の扉をOPEN !
――再び罠発動! 『若さってなんだ!? 二人だけの世界に溺れることサ♪』
個性的な部下たちによる、エロアニメもびっくりな『エロ~ス』な水中プロレスごっこが繰り広げられていた!
悦を感じさせる生々しい少女の声に、純情乙女~ズはもうタジタジだ!
あまりにもショッキングな光景を目の当たりにしてしまった彼女たちは、ぐるぐると渦を巻く瞳を揺らしながら逃げる様に三番目の扉を開き……そういう行為的な物が行われていないことを確認すると、ほぅ、と息を吐いて扉を潜ってしまう。
頭が茹っていたので、ちゃんと確認していなかったのだ。
もう少し冷静になっていれば、湯気の向こうから聞こえてくる複数人の声にも気づけていたというのに。
――で、現在。
無言で一つの湯船に浸かっているのは男女合わせて八人。
片や、ダークネスを中心に、彼の右側をキープしたシュテル、左側にアリシア。
ヴィヴィオは胡坐をかいたダークネスの膝の上にちょこんと腰を下ろしている。
向かい合うよう対面で湯船につかっているのは管理局勢だ。
花梨、なのは、フェイト、はやての順に肩を並べ、タオルで身体を隠しながら身を縮こませている。
なぜ未だに彼女たちがここに居るのかと言えば、悲鳴を上げながら逃げ出そうとしたところにヴィヴィオからお願いされてしまったからだ。
「あの、お姉さん。ヴィヴィオとお話してくれませんか?」
彼女の事で聴きたい事もあったが、何よりも幼い少女のお願いを反故にする訳にもいかず、仕方なく残る羽目に。
この場唯一の男の処遇は家族であるアリシアとシュテルが、がっしと捕縛しておくことで一様の合意を果たしていた。
「……えっと、さ。いちおー聞いときたいんだけど」
何とも気まずい沈黙を破ったのは身体にタオルを巻き付けた花梨だった。
バスタオルほどの大きさが無い白い布地で大切なところをどうにか隠しながら、ダークネスの膝の上で楽しげに笑っている少女へと視線を向ける。
「何でアンタたちがヴィヴィオちゃんを保護してんの?」
「おや、ちゃんと説明は済ませていた筈ですが?」
「そう言う意味じゃないのよ。ダーク、アンタなら解っているでしょう? その娘の中にある可能性……災厄の火種となりうる資質を」
「“聖王の器”、……か?」
「なんやて!?」
“聖王の器”
その単語に、真っ先に反応したのは聖王教会とも繋がりがある古代ベルカ魔法の使い手たるはやてだった。
ダークネスの言葉通り、ヴィヴィオという少女の正体は、古代のベルカ戦乱時代において最強と称された英傑……現在では神格化されるまでに至った偉大なる王の一人“聖王”のクローン体だ。
聖王教会大聖堂にて厳重に保管されている聖骸布より採取されたDNAデータを基に、『とある古代兵器』を起動させるための鍵として人造魔導師研究所で生み出された存在。史実においては、高町 なのはに保護、六課預かりとなった非戦闘員でありながら、ミッドチルダを恐怖に陥れるほどの兵器のコアとして利用されてしまう。
悲しき運命を打ち破らんと行動していた花梨たちは、彼女が史実において登場する時期以前に保護することができないかと秘密裏に調査を行っていた。
しかし、彼女が生み出された研究所の居場所が“知識”に含まれていない事もあって調査は難航していた。
表立った大規模な調査を行ってしまえば、最悪の場合ルビーに感づかれてしまう危険性があったために、調査が芳しくなかったのだ。
だというのに、この男は棚ボタ的なイベントによってキーマンである彼女を手中に納めたのだという。
偶然にしては出来過ぎているとしか言いようがない。
しかも――
「この時期だと、彼女の身体は未調整段階だったはずでしょ。こんなに元気いっぱいなのは信じられないんだけど?」
「むっ! その言い方はしつれーなんだよ! 私が誰か言ってみてほしいんだよ!」
「誰って……あなたは天然魔女なアリシア・テスタロッサじゃないの?」
「ちょっと引っ掛かるものがあった気がしないでもないけど……まあ、その通りなんだよ! 私は大魔導師プレシア・テスタロッサの娘、アリシア! 魔導師としての才能だけじゃなく、次元世界にその名を轟かせる魔女の叡智すら受け継いだ存在なんだよ!」
「魔女の、叡智? ――っ!? それじゃあ、あなたは!?」
「ふふん、気づいたようだね? そう、私の頭の中にはお母さんから受け継いだ莫大な知識……『魔女の竈』とも呼ぶべき叡智が宿っているんだよ! 元々、今の人造魔導師研究はお母さんのお蔭で形になったと言っても過言じゃないんんだよ。それほどの知識を受け継いだ私にとって、未調整な人造魔導師の女の子を再調整する事なんて、おちゃのこさいさいなんだよ!」
「嘘でしょ!? で、でも、研究施設は!? いくら知識があったとしても、実行できる機材が無いと宝の持ち腐れじゃない!?」
「あ、その辺は抜かりありませんからご心配なく。こんな事もあろうかと、各地にアジトを兼ねた秘密の研究所を用意していますから」
「ちょっ、そんなの用意する資金、どうやって手に入れたのかな!? ま、まさか……」
「タカマチ ナノハ、その心配は見当違いというものですよ? 何故なら、私たちのアジトは元々違法研究がおこなわれていた非合法の施設を奪い取った物なのですから。管理局が犯罪と定めた研究を自ら望んで行っていた悪党を減らしたのです、喜んでいただいて構わないのですよ?」
得意気に鼻を鳴らすシュテルの呟きに、なのはは眩暈を覚えた。
彼らの性格を鑑みると、まず間違いなく武力で制圧したに違いない。
悪人だから命を奪っても構わないなどという考えをごく当たり前の様に持っているらしい彼らの態度を認めることなど、なのはたちには出来なかった。
「喜べるわけないでしょう!? 貴方、自分が何を言っているのか分かっているの!? 人の命はね……軽々しく奪っていい物じゃあ無いんだよ!?」
罪を犯した者には、未来を奪うのではなく償いをさせる。それが管理局の掲げる基本方針だ。
いくら犯罪行為に手を染めていたとしても、命を奪うという行為は決して褒められるものではない。
特に、ダークネスたちは自らの私利私欲――アジトになる研究設備の入手――のために、彼らの命を理不尽に奪っているのだ。
結局のところ、犯罪者同士の潰し合いでしかない。
取り締まる犯罪者が減った……などと諸手を上げて歓迎できる要素など、最初からありはしないのだ。
「はぁ……そう言えば、あなた方管理局の方針は”犯罪者は捕えて、取り込んで、利用して、使い潰す”んでしたっけね。万年人材不足の正義の味方さんにとって、貴重な戦力となりうる彼らを失うのは得策ではない、と」
「……確かに、人格や魔法資質によっては保護観察制度を利用して罪を軽減しとるのは事実や。余所から見れば、どんなふうに思われ取るのかも理解しとる。――けどな、私らは魔導師っちゅう『戦力』を欲しとるんやない。罪を償い、もう一度やり直そうっちゅう人たちの『未来』を求めとるんや! 誤解すんやないわ!」
怒りに燃えるはやての鋭い眼光が、シュテルを射抜く。
自らも”闇の書”の主という過去を背負いながら、光に照らされた道を歩いていく選択をした少女の強い意志に感じいる物があったのだろう、シュテルの表情が徐々に変化していく。
どこか相手を小馬鹿にしたようなものではなく、厄介な敵だと認識したかのような表情だった。
「抑えろシュテル。折角の温泉を血の色にするつもりか?」
「――っ! わ、分かりました」
不服そうではあったものの、ダークネスの言葉に思うものがあったらしく、実にあっさりと引き下がる。
肩透かしを食らったようなはやてに、彼から意地の悪そうな視線が向けられた。
激昂のあまり、つい
「見えるぞ」
「はっ!?」
ダークネスの視線が顔のやや下あたりに向けられていることに気づき、慌てて水しぶきを撒き散らしながらしゃがみ込んだ。
「……見たんか?」
「見せたんだろう?」
「人を痴女みたいな言い方すんなや!」
「安心しろ。まだ可能性はあるから」
「それ、どういう意味や!?」
「言って欲しいのか? ヴィヴィオを除けば、この場で最下位な八神 はやて部隊長殿?」
ニヤニヤといじめっ子オーラを全開にしたダークネスに、上から下まで万遍なく視姦されてしまったはやて嬢の堪忍袋の緒が危険な音を立てながら引き千切られていく。口元まで湯船に沈んだはやての身体が、ぷるぷると震え始める。
そして、程なくして臨界点を突破してしまう。要するに熱暴走だった。
「やったら……!」
勢いよく湯ぶねから飛び出し――
「アンタの両脇を固めるボイン共のスタイルの良さについて、詳しく説明せいや! 同情するなら、乳をくれ!」
「は、はやてちゃん落ち着いて!? それは流石にどうかと思うよ!? 主に、女の子のプライド的な意味でっ!」
「そうだよ!」
「あー、もう暴れんなっ!」
「うっさいわ! 何やねん、あのお湯に浮かぶ『ぽよぽよ』はっ!? 何食ったらあんだけ育つねん! つか、明らかになのはちゃんやフェイトちゃんよか上とちゃうの!?」
はやてがズビシッ! と指し示す柔らかな膨らみは、確かに同じ顔のなのはやフェイトに比べて、それぞれ一回りほど大きいように見える。
ついつい、自分の胸元に手を当ててしまうなのは&フェイト。
何気に妹よりも発育豊かな花梨だけは、巻き込まれないようにと距離を取っている。
「何でって言われてもねぇ……」
「ですよねぇ……」
「「やっぱり揉まれているからじゃない?」」
ある意味予想通りの答えが返ってきた。
乙女の視線は、自然と原因(元凶?) である青年の元へと向けられる。
「……なんだよ?」
「――スケベ」
「――鬼畜」
「――エロスの権化」
「やかましい」
理不尽――とも言えない罵倒に言い返しながら、ダークネスの顔が横にそれる。
反射的に視線を追ってしまったなのはたちの視界に、音も立てずに逃げ出そうとしている花梨の後姿が映る。
――足音を立てないように四つん這いになっているせいか、美しい曲線を描く桃のような尻肉がふりふりと揺れていた。
「「……むか」」
――ゴキュッ!
「っだ!?」
「えっ!?」
目を奪われていたダークネスの頭部を、頬を膨らませたアリシアとシュテルがロック。
顎のあたりをアリシアが、額辺りをシュテルの腕が固めると、勢いよく逆方向へと捻る。
すると、まるで雑巾が絞られるかのごとき拷問に、かつてない激痛が浮気者を襲う。
予想外すぎる事態に逃げる事も出来ず、ぎりぎりと締め上げられる痛みに耐え続けるしか出来ないダークネス。
一方の花梨はと言えば、湯ぶねから出たせいで顕わになってしまった裸体を慌てて隠そうとするものの、素早い動きで近づいてきた妹たちによって捕獲されてしまう。
両脇をなのはとフェイトに固められると、間髪入れずに、指先をわきわきとさせたはやての魔手が襲いかかる。
――ふにょん♪
「ふあっ!? ちょ、バカ、やめなさいよぉ!」
「こっ、これはっ!?」
戦慄を露わにしたはやては躊躇することも無く、花梨の乳房をぐにぐにと揉みしだいていく。
普段からスキンシップと称して六課の隊長・副隊長陣にセクハラをかましている彼女ですら、思わず虜になってしまうほどの感触であった。
大きさはフェイトに迫るものがあり、それでいて瑞々しい張りとマシュマロみたいな柔らかさを共存させている。
これは、はやてが日課としているバストアップ体操なんかチャチなシロモノでは、到底実現不可能な至宝レベル。
オマケに、彼女の指先が乳房へ沈みこむたびに零れ落ちる熱い吐息。
明らかに第三者の介入を受けた形跡が見て取れると、若くして部隊長を務める才女の頭脳が結論付けた。
そしてこの場には……第三者となりうる可能性を秘めた男が存在している!
花梨を拘束した状態のまま、一同の視線がお仕置きを受けているダークネスへと注がれる。
「ダークさん、ちょ~っとばっかし訊きたいんやけど。アンタ……いつから花梨ちゃんのこと名前で呼ぶようになったん?」
ダークネスは近しい相手しか自発的に名前で呼ぶことはない。
これは彼女たちの共通認識だ。
アリシアやシュテル、ヴィヴィオを除くと、参加者はNo.で、その他の者はフルネームで呼んでいる。
ルビーだけはシュテルたちを救うための交換条件として名前で呼んでいるものの、それは数少ない例外だと言ってもいい。
だというのに、彼は会話の中で花梨のことを名前で呼んでいた。
以前に名前で呼ぶことを拒否した挙句、一緒にいたなのはたちがフルネーム呼びだったにも関わらずに、だ。
これは、何かあったと言っているようなものだ。
事実、アリシアたちが不機嫌そうにダークネスと花梨を交互に見やっているし、当人たちもどことなく気まずげに顔を反らしていたりする。
「説明する必要性を感じないな」
「ううん、そんな事は無いでしょ? だって……私はお姉ちゃんの家族なんだから」
「ちょっ、何言ってんのなのはっ!? 家族だからって言っていい事と悪いことがあるでしょうがっ!」
「ほほ~う? つまり、花梨ちゃんはダークさんと家族に言えないような事をしくさった、と?」
「あっ!? ~~っ!?」
今更失言に気づいてももう遅い。
混乱に思考を叩き落されてしまった花梨があわあわしている内に、矛先はこちらも逃げられないように拘束されたダークネスへと向けられる。
どうやら、今まで有耶無耶にしてきた真実を説明しなければ逃がしてはくれなさそうだ。
両脇から突き刺さる物言いたげな視線に疲れたような溜息を吐くと、意を決して口を開く。
「ああ、その、なんだ……俺が名前を呼ぶ相手というのは、実力を認めた云々ではなくて心を許した者ということだ。もちろん、俺と花梨が敵対関係にあるのは揺るぎ様も無い事実なんだが……まあ、つまりはアレだ」
ふうっ、とひと息ついてから、
「一度だけとは言え男女の関係になった相手を無下に出来るほど器用じゃないんだよ、俺は」
とんでもない爆弾発言をかましてくださいました。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「はにゃ? えっとお……どーゆー意味?」
首を傾げる少女の穢れ無き視線を向けられた花梨嬢の思考が真っ赤に茹で上がる。
「――っ!? ば、ばかぁあああっ!? ナンテコト言っちゃってくれてんのよ、アンタはぁ!?」
「仕方ないだろ……事実なんだから」
「そう言う問題じゃないでしょ!? なんで平然としているの!」
「まあ、うすうす感づかれていたみたいだしな……。それに聞いておきたい事もあったからちょうどいいかな、と」
「どこがっ!? 大体、アンタは――」
「お、おおお姉ちゃんっ!」
ぐわしっ! と両肩を掴まれてしまった花梨嬢。
彼女の目の前には、驚愕と混乱で思考を激しく揺さぶられている妹のお姿が。
その後ろには、好奇心をありありと宿す瞳を向けてくるはやてと、ふくれっ面のフェイトが控えていた。
約一名の反応が気になりつつも、それを問いただす余裕は花梨に存在しなかった。
「どういう事!? 聞いてないよ!
「なってないわよ!? 誤解も大概にしなさい!」
「何が誤解なの!? お話聞かせて! 大丈夫、ちゃんと訊くから! 一語一句間違えることなく、お父さんたちに伝えてあげるから!」
「お願いだからそれだけはヤメテっ!?」
家族会議と銘打たれた取り締まりの光景を思い出し、花梨の背筋に冷たい物が流れ落ちる。
湯ぶねの中でも、この浮気者! と妻と嫁から抓られている彼氏(?) のお姿があったりしていた。
「ほーら、ダークちゃん? キリキリ吐けばいいんだよ!」
「大丈夫ですよ、優しくしてあげますから。――
「や、頼むから良い訳ぐらいさせてもらえないか? あれにはちゃんとした理由があるんだ」
「どんな理由があったとしても、彼女をどうとも思っていなければ態度を変える様な真似はされないですよ。それが私たちの知る
「でも、実際は花梨ちゃんを名前で呼んてるでしょー? それはつまりぃ……ダークちゃんが花梨ちゃんを憎からず想っている事に他ならないんだよ! やましい気持ちが無かったら、私たちに隠しておく必要もないしね!」
「ぐ……!」
実のところ、ダークネス自身にもあの夜の出来事は消化しきれない記憶として彼の心に刻み込まれている。
何があったかと言えば、単にタイミングが悪かったというべきなのだが……これだけは言っておくと、決してダークネスが彼女の色気に欲情したとか、花梨が情欲を持て余したから――なんて理由などではない。
事が起こったのは花梨の居城たる翠屋 ミッド支店がオープンした日に遡る。
あの日、なのはたちを呼んで夜遅くまで開店パーティーが繰り広げられていた。
翌日が平日であったので、仕事があるからと後片付けを一人で請け負った花梨が皆が帰宅して静寂に包まれた翠屋の奥で洗い物をしていた時の事。
まさかの来店をかましたのが、他の誰でも無いダークネスその人だった。
彼は元祖翠屋マスターたる士郎直伝のコーヒーがどの程度のレベルなのか確かめるために、アリシアたちに黙り、お忍びで来店したのだった。
あの日はまだ”
――それ以前に、どんちゃん騒ぎで披露しているであろう仲間たちを呼ぶのは気が引けたというのもある。
結局、コーヒーを飲んだらすぐに帰るし戦うつもりも無いという彼の提案を受け入れた花梨は、せっかくだからとパーティーの残り物であるブランデーケーキを添えてコーヒーを淹れてあげた。
じっくりと味わうようにカップを傾ける彼の様子をカウンター越しに眺めながら、つい自分用に切り分けていたケーキへとフォークを伸ばしてしまった。
――それが過ちの始まりだった。
そのケーキは誰かがお祝いの品として持ってきたお土産の一つだったのだが……一口食べただけで、彼女を昏倒させるほどの破壊力を秘めていた。
何事!? と驚くダークネスもまた、ケーキを食べてしまっていた後だった。
気づいた時にはもう遅い。
一服盛られたことに気づき、慌ててケーキを吐きだそうとするよりも早く、彼の身体を何とも言えぬ感覚が駆け巡った。
身体の芯が燃え盛るように熱くなり、視界がぐらぐらと揺れる。
何もしていないというのに加速的に息が荒くなっていき、揺れる視線が床に倒れ込んだ花梨を捉えて離さない。
一方の彼女もまた、熱に侵されたかのような潤んだ瞳でダークネスを見つめていた。
戦いの痛みへの耐性は両者ともにかなりのレベルでそなわっているが、本能を刺激する類の衝撃の経験など、ほとんど無きに等しかった。
隙を見て花梨とそういうオイタをかまそうという葉月の仕込みか、はたまた、ルビーの悪意しかない悪戯だったのか……。
理由はさて置いて、次元世界最高レベルの媚薬効果のある酒『スーパーゴッドブレイカ―』を材料としたブランデーケーキを食べてしまった男女が狭い店内で二人きり。
――後の展開は、語るまでも無いだろう。
耐性の無かった二人は、惹かれあうようにお互いを求め合い――くんずほぐれずのやんごとない関係になってしまったのだ。
それはもう……”ひにん”って何ですか? 位なレベルで。
具体的には、翌日一日かけることでようやく足腰が立つようになった女の子がいたり、彼女のベッドのシーツやら浴室のタイルやらに、何かが飛び散ったような跡が残されていたらしい。
そんな訳で、流石にここまでヤッておきながら他人行儀のままというのはどうなんだ? と意外と義理堅い(?) ベッドの上でも”さいきょー”だった竜神様は、手籠めにしてしまった彼女を名前で呼ぶようになり、”
後日、お詫びの品とも言えるプレゼント手に来店した時には、真っ赤な彼女に噛みつかれつつも、甘んじて叱咤を受け入れたらしい。
それでも、しっかりプレゼントは受け取って、仕事・プライベート問わない愛用の一品として毎日身に付けているのは、彼女も自分のうっかりが原因の一つだと考えているからか。
実際のところは、贈り物である胸元に羽を刺繍されたエプロンを嬉しそうにつけている彼女にしか分からない。
そんな訳で、ダークネスは花梨を名前で呼ぶようになったのだった。
まあ、見事な朝帰り&他の女の匂いを染みつかせた彼の様子から大体の事情を察した黄金神の妻&嫁さんから、『高町 花梨 = 現地妻』的な存在だと思われてしまったのは仕方がない所だろう。
「……事情は分かりました。確かに、原因が他にあるところを考慮すれば、まだ釈明の余地はあります。――タカマチ カリン、念のために伺いたいのですが……まさかダーク様の子を身籠っていたりはしませんよね?」
「ンなワケないでしょ!? そりゃあ、デキちゃいそうなくらい激しかったけど――ハッ!?」
「ほほ~う?」
「へ、へぇ~」
「は、はわわ……」
「……お前な」
「う、ウッサイ! そんな目で見ないでよぉ!?」
タイルの上に正座させられた
自分に非があると考えているのか、ダークネスも愛しい少女たちからおとなしくお説教を受けている。
そんな中、ヴィヴィオの耳を塞いでいたアリシアが、ふと気づく。
「ひょっとして、一晩の情事があったから花梨ちゃんのチカラが安定してるのかな?」
「情事言うな!?」 という反論は当然の如くスルー。
どういう事だと向けられる視線の中心で、アリシアはしきりに頷きを繰り返している。
「えっとさ、昔の文献によると、神とか精霊とかって呼ばれる神聖な存在と交わった少女には、人智を超えたチカラが宿るって伝承があるんだよ。地球にも似たような伝説とかがあったでしょ? 昨今では、神と称されていたのは古代文明が残した実体を持たないエネルギー状のロストロギアだったんじゃないかって言われているんだよ。だから、もしかすると限りなく神に近づいているダークちゃんと交わることで、花梨ちゃんの”
「”
事実、ダークネスと花梨以外の参加者たちが、深い関係になったことは無い(葉月はいろんな意味でぎりぎりだが……少なくとも、あの夜の時点では花梨に”まく”的な物が残されていた)。
試すつもりは無いものの、異性の参加者たちが協定を結んでいる花梨たちが急にパワーアップする可能性も考慮しておいた方がいいかもしれない。
「ンな事する訳ないでしょーが! アリシア、アンタも妙な仮説立ててんじゃないわよ! 見た目詐欺のおバカっ娘!」
「んなっ!? それどういう意味かな!? 私とフェイトは同じ顔なんだよ! 扱い違くない!?」
「当然でしょーが! 大体アンタは、科学者とかいう頭のいいキャラには見えないのよ!」
「なんだとー!? 見た目で人を判断しちゃダメなんだよ! 私はやれば出来る子なんだからっ! ヴィヴィオの事だってちゃんとやったもん。ダークちゃんから貰った『聖王の聖骸布』を使って、完璧に仕上げたんだから! 今のこの娘は、その辺の人造魔導師とは一線を介する存在なんだよ!」
両手を突き上げて、むきーっ、となったアリシアを宥めるヴィヴィオ。見た目や性格が似ている事もあり、本当に血の通った親子のようだ。
と、そこで、
「ちょっと待って……! 人造魔導師ってどういうこと!?」
会話の中に聞き捨てならない単語が含まれていたことに気づいたフェイトが声を荒げる。
母の研究が礎となっていると言っても過言ではない人造魔導師研究。
目の前でニコニコと笑みを浮かべているあどけない少女の正体が、基本的に戦闘に耐えうる
「言ったでしょ、この娘は”聖王の器”だって。聖王を現代に蘇らせようという計画で生み出されたんだよ」
当たり前の様に真実を語る
慌ててヴィヴィオの方を見るが、彼女は至って平然とした風のまま。幼い故に話の内容が理解できなかった……訳ではないだろう。
幼いと言えど、彼女に一定の知性がある事は確認済みだ。
つまり彼女は、フェイトがいまだに心の傷として抱え込んでいる人造魔導師という出自を受け入れているということだ。
「君は……」
「ふぇ?」
「君は、気にならないの? 自分が、その……普通の生まれじゃないってことに」
「んー……、別に気になりませんけど? ていうか、ダークパパもアリシアママもシュテルママも、皆普通じゃないですし」
情緒もへったくれも無い返答が戻ってきた。
確かに、神サマ候補者な父親に、母親は死者蘇生を果たした魔女に元魔導生命体。
むしろ、彼らの娘が普通であるほうがおかしい。
「じゃ、じゃあ聖骸布ってのはどういう事や? まさか、聖王教会に盗みに入ったんやないやろな!?」
聖骸布は聖王教会の最重要文化遺産の一つ。おいそれと持ち出せるようなシロモノではない。
――実際は、スカリエッティの配下によってDNAデータを採取されていたりするのだが。
まさか、教皇がハニートラップに掛かっていたとは夢にも思うまい。
「いいや、違う。俺たちが手に入れたブツはとある遺跡から回収された物だ。……
「なんですって……!?」
No.”Ⅲ” アルク・スクライア
ダークネスの手に掛かった仲間の一人にして、例の空間結界最初の被害者。
古代遺跡へトレジャーハントに赴いていたとは訊かされていたが……まさか、聖王の聖骸布を発見していたとは。
「じゃあ、アンタがアイツを狙ったのって――」
「いいや、それは違う。聖骸布はたまたま手に入れただけだ。そんなモノなど関係なく、俺は儀式が再開した直後奴を倒す算段だった」
「……アンタは――ッ!?」
「ほぉ?」
淡々と語るダークネスに、花梨が物申そうとした瞬間、魔法に関わる者たちの脳裏を稲妻が走ったかのような衝撃が駆け抜ける。
「えっ!?」
「これは!?」
「このタイミングでか……!」
なのは、フェイト、はやては
「ロストロギア、ですね」
「やっかましい
「あうう~、くらくらします~」
アリシアとシュテルの細められた双眸が、露天風呂を囲む柵の向こう側、海鳴市の町中で発動したらしいロストロギアの気配を感じる方角へと向けられる。
「なんやこれ……報告にあったのと別物みたいやな……! ちっ、皆行くで! 機動六課出動や!」
「「了解!」」
「はやて、私も協力しましょうか?」
「ううん、ここは私らの役目や。民間人の花梨ちゃんの手を煩わせることも無いわ」
「せやから……」と彼女の耳元に口を寄せながら、悪戯っ子な子猫のような顔でささやく。
「……敵を減らす意味でも、しっかりねっとりしっぽりとNTRっちゃえばええんやない?」
「ななあっ!? ちょ、アンタ――!?」
「にょほほほ~♪ ほんじゃあ、後でしっかりと報告してもらうからなぁ~~!」
はやての台詞が聞こえなかったらしく、首を傾げる竜神様ご一行の中に
「この気配は……ふ、そういう事か。なら、
意地の悪い笑みを口元に浮かべたダークネスの呟きは風に運ばれて、誰の耳にも届くことは無かった。
天上で穏やかな光を映し出す満月に照らされた夜の街中にて真の姿を垣間見せるであろう『炎剣』を思い浮かべながら、愛人(候補)を加えた黄金神一家は引き続き温泉を堪能するのだった。
――自分と娘を余所に、お互い牽制し合う三人の乙女たちから必死に視線を逸らしながら。
翠屋ミッド支店のシーンでたびたび登場していた花梨嬢のエプロン……実はダークさんのプレゼントだったんだよ!
ナ、ナンダッテー!?
……たまにはこんなノリもありですかね?
さて、次回はいよいよ『彼』の本領発揮! ――かも?
そして、残された花梨嬢の命運や如何に(激爆)