魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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誤更新に混乱させて申し訳ありませんでした。
代わりと言ってはなんですが、次回投稿分を前倒しで投稿させていただきます。


衝撃

機動六課 訓練場にて。

 

問題だらけの初任務から三日後。

Sランクオーバー魔導師と交戦して負傷していたなのはたちが治療中の間も、前線部隊の訓練はいつも通りに行われていた。

この三日間は基礎訓練の繰り返しを行いながら、代理教導官に名乗りを上げた副隊長のヴィータによる近接戦闘を中心とした戦闘訓練を行っていた。

「よーし、そこまで! 野郎共、集合!」

『ハイッ!』

 

一部女子から野郎じゃないんですけど……とでも言いたげな視線が投げかけられているが、その辺は華麗にスルー。

 

「今日は特別ゲストをお招きしてるからな」

「特」

「別」

「ゲ」

「ス」

「ト?」

「お前ら、練習でもしてやがったのか? 息ピッタリじゃねえかバカ野郎共」

「あははっ! なんて言うか、面白い子たちだねぇ」

 

無駄なチームワークを見せる部下たちにこめかみを揉みほぐしていたヴィータの後ろから現れたのは、彼らが良く知る上司にして教官である……

 

「あれ、なのはさん!? ちょっ、何やってるんですか! 大事を取って、明日まで休むように部隊長から言われてたじゃないですか!」

 

いてはいけない、というか(組織の人間として命令違反をしてまで)ここにいる方が問題な人物の登場にまず驚き。

彼女が普段身に付けている青と白を基準とした教導隊の制服ではなく、サマースーツにロングスカートという私服姿である事に首を傾げ。

普段のサイドテールに纏めている髪型を、ポニーテイルに変えているせいなのか、何時もと感じが違うように思えることに疑問を感じ。

フォワードの中でたった一人、おバカさん(カエデ)だけが、彼女はなのはとは全く異なる別人である、特徴に気づく。

 

「ちっ、違う! この人は高町隊長じゃねぇ!」

『なっ、なんだってぇ!?』

 

「へえ……やるね?」 という顔のなのはと瓜二つの女性と、なんだかとんでもなく嫌な予感がひしひしと感じられるお蔭でお胃袋辺りを抑えるヴィータ。

「まさか!?」 という表情になる仲間たちに真実を知らしめるために、探偵ドラマの主人公を彷彿させる鋭い眼光が真実を暴き出す!

 

「この人には高町隊長と明らかに異なる真実が存在している! そう、それは――」

 

トリックを暴いた名探偵の様に不敵な笑みを浮かべつつ、なのは(偽)へゆっくりとした足取りで近づいていく。

それはまさに、虚言を暴かれた犯人を心理的にも追い詰めていくかのようだった。

なのは(偽)の目の前まで移動したカエデは、ふぅっと息を吐いてから、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。

相手の心情すら暴き、真実を顕わにせんとする使命を背負った男を彷彿させる威圧感に、普段のおふざけが過ぎる彼しか見ていなかったヴィータやエリオが、驚きで目を見開く。

 

――まさか。本当はアイツ、実はすっげー力を隠し持っていがるのか?

――か、カッコイイ……! まるで、映画の主人公みたいだ!

 

だが、訓練校時代から続く彼の行動や性格を熟知している残りの三人は、物凄くうさん臭そうな物を見た様な顔だった。

温度差が極端な視線を一身に浴びて、人差し指を伸ばした腕が上がっていく。

火曜サスペンスなら、この後に控えているのは探偵役or警察官である主人公が犯人の真実と罪を暴き出し、追いつめると言う最高潮なシーン……なのだが。

 

――ぷにゅん♡

 

「んなっ!?」

「バストサイズ! そう、バストサイズなのだっ! 俺の眼球は女性のスリーサイズを見抜く超高性能レーザーサイト! 故に断言しよう……この高町隊長のそっくりさんは、ご本人よりもバストサイズが三センチほど上回っていると! 仮に、百合疑惑がひそやかに囁かれているハラオウン隊長と三日三晩医務室でちちくりあっていたことで女性ホルモンが過剰に分泌されていたとして! 短期間でここまで急成長できるとは考えられません! 故にっ! 彼女は高町隊長と全くの別人であると断言できるのだあっ! ――ふっ、決まったぜ。おいおい、見たか聞いたか驚いたか! この俺の華麗なるスーパー推理ショーをっ!」

 

軟らかな双丘に人差し指を埋めながら、これ以上ないドヤ顔を決めてみせる。

 

『……』

 

――スススッ……

 

「あれ? どうして皆、俺から離れるてるの? なんで十字を切ったり合掌しているの? それと切名、どうして君は『惜しい奴を無くしました』みたいな顔で目尻をハンカチで拭っているんだい!?」

 

ポンポン

 

「ん?」

 

肩を叩かれ、思わず振り向く。

 

「……(にっこり)」

 

修羅がいた。覇王拳は至高にして究極! とか言い出しそうな感じの。

人が纏ってはいけないレベルの覇気(オーラ)を振りまきながら、能面の様にピクリとも動かない笑顔を張り付けた修羅王様が。

人を超え、魔導を超え、魔人すら超えてしまった少女は、遂に修羅の頂まで登り詰めてしまったと言うことなのだろうか。

 

「とかやっている間にバインドで磔にされていたでござる。そしてぎゅんぎゅん集まっていく光の流星。なるほどなるほど、これが噂の高町式完全滅殺信念崩壊撃という奴ですね分かります。どんなに強い心の持ち主でも、ぺきっ! って心の支柱がぶっ壊されると言う噂は真実でした、と。……なあ、切名。俺、この任務が終わったら六課女性陣のおっぱいを揉みしだくんだ……」

「そんな状況でも死亡フラグを立てるのを忘れないお前、マジですごいわ」

「アークエンドォオオオオ……!」

 

それは、魔力素ではなく『魔法力(マナ)』を集束することによって発動される最強の集束魔法。

形成される魔力球の周囲を十二の衛星型立体魔法陣が取り囲み、彼女の身体を通して純粋な魔力へと変換された膨大過ぎるエネルギーをさらに増幅させながら、暴風の如き魔力の渦を巻き起こす。チャージを完了させたセクハラの被害者(だんざいしゃ)が、罪を浄化する(まほう)を振り下ろす!

 

「おぉ、脳内が『オワタ』の三文字で埋め尽くされていく……これが悟りという奴なんだね……」

「ブレイカ――!!」

 

次の瞬間、真っ赤な光に包まれて花が散っていった。

命という、儚くも美しい花が……。

 

 

「結局、あの女の人っていったい誰なんだろ?」

「さあ? ――ハッ!? ま、まさか、集束砲撃魔法に対する耐久力強化と銘打って、あのブレイカ―なビームを喰らい続ける訓練、とか……!?」

「「「ちょっ!?」」」

「ん? なんだお前ら、そんなにアレを喰らいたかったのか? そうならそう言えよ。ま、次元世界最強レベルの砲撃がどんなモンか身を以て知っておくのもいい経験になるかもな……。よし、それじゃあいっちょやってみるか?」

『すいませんごめんなさいかんべんしてください』

 

それはそれは、見る者を感嘆させるほどに美しく息が合った『後方三回転ジャンピングD・O・G・E・Z・A!』 であったと言う。

 

 

「つーわけで、今日は特別講師としてなのは隊長の実姉である高町 花梨さんにお越しいただいた。ほら挨拶」

『よろしくお願いします!』

「……(ビクンッビクンッ!)」

「うん、良い返事♪ 今日はよろしくね」

 

ギリギリで人間としての“カタチ”を失わずに済んだおバカ(カエデ)を脇に放りだしながら、見知った上司と瓜二つでありながら、ちょっとだけ雰囲気が違う不思議な女性……花梨とフォワードたちが挨拶を交わす。

本人の実力は十分すぎるくらい示したので不満は一切出ていないものの、エースオブエースに比類する実力者でありながら嘱託魔導師を続けている花梨について、いろいろ聞きたい事があるらしい。スバルなどは、ウズウズしっぱなしだった。

ヴィータは、これから訓練だという事も忘れて浮かれている部下たちを睨めつけていたものの、呆れた風にひとつ溜息を漏らすと、申し訳なさそうな顔で花梨に向き直る。

 

「すまねぇ花梨。この調子じゃあ、訓練になりそうもねえからさ。(ワリ)いんだけど……」

「はいはい、気にしないで。元々、私が頼まれたのは戦闘訓練じゃないから。――それじゃあ、今から質問タイムにしましょうか。何か私に聞きたい事がある人は手を上げて~」

 

そう告げた瞬間、フォワード全員がノータイムで手を上げた。

 

「あらら……なんて言うか、息ピッタリな子たちだね。え~っと、それじゃあ青い髪の貴方から順番に聞いていきましょうか。名前は……スバルちゃんで良かった?」

「はっ、はい! ――す、スバルちゃん(・・・)かぁ……! なんか良いね!」

 

憧れの人物と同じ顔で“ちゃん”付けされたことがよっぽど嬉しかったのか、スバルの背後にお花畑が広がって見える。

 

「えっと、嘱託魔導師っておっしゃられていましたけど、管理局員にはなられないんですかっ!?」

 

実力の片鱗を垣間見ただけだが、花梨の魔道師としての才はなのはに比類するレベルだと断言できる。

それほどの実力者が、何故正式な職員になっていないのだろうか? ……と、思ったらしい。

 

「うわ、やっぱり来たわね。その手の質問って、よく訊かれるのよね~~……コホン。それじゃあ、教えてあげる。私が管理局に就職しない理由、それは――これよ!」

 

意気揚々と花梨が掲げるのは、翠屋のロゴがプリントされた梱包箱。

主にケーキ屋さんで使われるアレだ。

 

「私は翠屋っていう喫茶店の店長兼、パティシエを務めているの。こう見えても、クラナガンじゃあちょっとした有名店なんだから」

「あっ、そこ知ってます! 雑誌に掲載されたこともある、ケーキがおいしいって有名なお店ですよね!? えっ、そこの店長さんなんですか!?」

「そ。私やなのはの実家、『地球』って世界に住んでいる両親が経営している喫茶店のミッド支店を任されているの。昔から、お母さんみたいなケーキ職人になるのが夢だったからね。だから、私の場合は魔導師のお仕事の方が副業になるのかな?」

「副業って……」

 

剣呑な表情を浮かべるのはティアナだった。

未来が断たれてしまった兄の意志を継ぎ、家族同然の切名(パートナー)と共に執務官になるのが夢である彼女にとって、いくら才能があったとしても、アルバイト感覚で自分たちの領分に首を突っ込んでほしくないと言うのが本音だった。

怒りまじりの視線を浴びせられ、花梨も当然、ティアナの言いたいことは承知していた。

事実の半分(・・)しか言っていないとはいえ、それでも聴き様によっては管理局員たちに対する侮辱のように取られてしまうことも、全てわかっている。

それでも、これ以上の言葉は持ち合わせていないのだから仕方がない。

残り半分の理由……“神造遊戯(ゲーム)”の事態が進展した際、個人と言う即座に対応できる身軽さを重視した云々の事情を説明するには、時期尚早すぎる。

それを判断すべく、こうして関係者である“ⅩⅠ”(切名)たちの人となりを調べに来たのだから。

 

「はい、それじゃあ次……っと、貴方はティアナちゃんね。どう? まだ何かある?」

「……少々不躾なご質問でもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「では……貴方の魔導師ランクを教えてください。実際、どのくらいの実力があるのか気になります」

 

なるほど、確かに向かい合ってやって良い、目上に対する質問ではない。

思わずヴィータの表情が剣呑な物になりかけた瞬間、彼女を宥める様に手を翳したのは他ならぬ花梨であった。

 

「噂以上にツンツンしてるのね。……良いわ、教えてあげる。私の魔道師ランクは『SS-』、それと希少能力扱いにされているチカラを持っているわ。そうねぇ……試合形式での模擬戦ならなのはと互角ってトコロかしら?」

「ルール無用だと、アタシら六課の隊長陣総掛かりでも勝てないよな? 多分」

 

最近になってようやく発言した花梨の“能力”。

それを試す意味で、なのはたち全員(機動六課設立前につきリミッター無し)相手に戦闘訓練を行った結果、初見という事もあるものの、ほぼ完全勝利を収めてしまったことがある。

今では、相応の対策も練られているだろうからあそこまで一方的な状況にはならないだろうが、それでも隊長陣を纏めて倒したという事実は変わらない。

 

「ウソ……!?」

「マジか……」

 

驚きの声を上げたのは、ティアナと切名だけ。

スバルとエリオは純粋に尊敬の眼を向けているし、カエデはいまだに消し炭状態の真っただ中。

特に参加者である切名の驚きは筆舌すべき物だった。

 

――オイオイ、どうなってんだこりゃ? “Ⅶ”(高町 花梨)に、そこまでの実力があったってのか……。

 

このセカイに送り出される際、切名は花梨の事を『人間の範疇から逸脱できないレベルの参加者たちによる同盟、その中心人物』だと教えられていた。

人間として積み重ねてきた常識や概念の領域を超えた先に在るのが『神成るモノ』であり、限定的にそこへと至ることが出来てはいたが、そこ止まりのまま成長は出来ていないだろうと言うのが切名の推測だった。

そもそも、六課隊長陣を一人で相手取ることが出来る存在など、『神成るモノ』として覚醒でもしなければ不可能だ(ユーリなどの例外は除く)。

しかし、ひとたび人間としての理を超えてしまった者は、以前の本人とは全く異なる“理”によって行動・判断すると言ってよい。

人を超えるという事は、良くも悪くも人間と言う存在を格下に見てしまう傾向がある。

既に覚醒を果たしているダークネス、ルビー共に、人間を擁護対象、あるいは利用価値のある道具として見ている節があるのも、理論の証明と言えるだろう。

花梨たちが結成している非戦闘推奨派における協力関係は、あくまでも対等であるというもの。

もし花梨が『神成るモノ』として覚醒を果たしていれば、他の参加者たちやなのはたちを見下し、部下の様に扱っているのが普通なのだ。

だからこそ、対等の友人関係を維持出来ている今の彼女は、まだ人間なのだと推測していたのだが……。

 

――人間性を失わないまま覚醒する……そんな、俺の知らない秘密でもあんのか? それとも俺の方が間違っていたのか?

 

だが、どちらにせよ――

 

――そろそろ、接触しても良い頃合いかもしれねぇな。

 

『儀式の破壊&儀式に否定的な参加者たちの救助』を命じられた当初、非戦闘推奨派には例の結界に捕らわれない様に気を張りながら姿を隠してもらい、その間にダークネスやルビーを切名が倒す……という計画を立てていた。

単独での戦闘しか行ったことが無かったこと、【真名】を解放すれば誰にも負けるはずが無いという自負故に思い描いてしまった独善的な思考だったと、いまでははっきりと分かる。

もし過去の自分と向き合える機会があれば、間違いなく殴り飛ばしていただろう。

過ぎた驕りは寿命を縮める毒にしかならない。

擁護対象と思い込んでいた花梨の実力や、初任務で遭遇・交戦したライダースーツの女……自身も弱体化していたとはいえ、手加減していた相手を倒し切れなかったと言う事実が、彼の中にあった驕りを完膚無きまでに粉砕してしまったのだ。

認めるしかないだろう。弱者と思い込んでいた参加者たちの実力の高さと、どこかで見下していた敵の脅威を。

それを理解できたのだから、次に切名がすべきことは決まっている。

対等の立場として同盟を結ぶために花梨と言う人物がどのような存在なのかを知る必要がある。

幸いというべきか、今の自分は彼女への質問タイムの真っ只中。これを利用しない手は無い。

ティアナが黙ったことを確認した花梨の視線が彼女の隣にいるエリオへと向けられる。

ちょうどいい、エリオと問答している間に彼女への質問を考えておこう。

考えを纏めつつ、話半分に耳を傾けていると

 

「あっ、あの! 戦場で敵として出会ってしまった子を助けたいって思う事は間違っていると思いますか!?」

 

予想以上にヘヴィな質問をされてしまった。

切名は勿論、ティアナとスバル、ヴィータまで驚いた表情を見せている。

 

「……敵? どういう事か聞かせてもらってもいい?」

「は、はい。実は……」

 

エリオが初任務で出会った桃髪の少女について説明した。

少女がキャロと名乗っていたことに少なからず驚いていたようだが、「あの子を助けたいんです!」 という青臭いエリオの主張を、真剣な表情で受け止めていた。

説明を終えた所で、囁くようなちいさい声で「流石はなのはの教え子ね……」と感傷深げに呟いたのが、妙に心に残った。

瞳を閉じ、顎に手を当てながら考え込んでいた花梨は程なくして瞳を開き、エリオと視線を合わせながら話し始めた。

 

「絶望したような暗い目をした女の子、ねぇ……うん。そっか。それじゃあ君は、そのキャロちゃんを犯罪行為から足を洗って欲しい、助け出してあげたいって思っているわけなんだ」

「はい……。あの、こんな事を思っちゃうのは管理局員としてダメなんでしょうか!?」

「そんなこと無いんじゃない? ていうか、私としたら君の提案に大賛成なんだけど」

「ちょ、おい……」

 

笑みすら浮かべながらそうな事を言う彼女に驚いたような声を上げるエリオ。ヴィータが止めに入ろうとしたのを無視して、花梨は言葉を続ける。

 

「でも、言うほど簡単じゃないわよ? 話を聞く限りだと、昔にキャロちゃんを助けたのはレリックを狙う犯罪者に間違いないわ。騙されているって感じはしないから、多分自分の意志で裏社会(そこ)にいるんだと思う。そう言う子は厄介よ……だって、あちらにしてみれば、貴方たちは自分の居場所を壊そうとする悪者でしかないんだから」

「それは……分かってます。キャロの言うとおり、彼女が泣いているときに助けてあげられなかったのは間違いないんですから。でも……それでも、僕は助けたいんです。どんな理由があったって、キャロの居場所(そこ)に居る限り、一生光ある世界で生きていく事が出来なくなるんですから。眩しい光の輝きを濁った泥の世界から見上げ続けるなんて……悲しすぎるじゃないですか」

 

フェイトという光に護られて、悲しみの闇を振り払えたエリオ・モンディアル(じぶん)だからこそ、もう一人の自分……『フェイトと出会えなかったエリオ』に手を差し伸べてあげたい。

簡単な事ではない事は分かっている。キャロを救うのならば、彼女が家族と呼ぶ人たちすらも助けてみせなければ意味を成さない。

だが、そうだとしても――この想いは、覚悟は折れるつもりは無いと断言できる。

だって――それこそがエリオ(おのれ)が下した『決断』なのだから。

決して揺るがぬ不屈の心は確かに受け継がれていると、姉として鼻が高い。犯罪者として罪を重ねてしまったフェイトや騎士たちのために、最後まで戦い続けた(なのは)を見守り続ける(モノ)として、助力せねばなるまい。

 

「よっし! じゃあ、これからも君の訓練に付き合ってあげる! キャロちゃんを救うにせよ連中をふん捕まえるにせよ、実力が無ければ意味は無いからね! 頑張りなさい、男のコ!」

「――はいっ! ありがとうございますっ!」

 

覚悟を決めた少年の声には、確かなチカラが宿っていた。

 

 

 

 

――なんか、すっげー疎外感……。

 

悪に堕ちたヒロインを救い出す覚悟を決めたヒーローの覚醒シーンを目の当たりにして、切名はそんな感想を思い浮かべてしまった。

いつの間にか回復したカエデが、妙に優しい顔で肩を叩いてくるのがなんかむかつく。

そうこうしている内に、エリオと小声で数言交わした花梨の視線が切名とカエデへと。

視線が何と言うか……きらきらと星が舞って見えるのは、果たして切名の気のせいなのだろうか?

 

「えっと、貴方たちは、その……そーゆー関係なの?」

「は?」

 

そう言う関係? ……どういう関係?

なんだか、物凄く訊いてはいけない気がひしひしと感じられる。

 

「だって、さ……そんな、男同士で抱き合っていたりとかしてるし」

「なにを言って――はっ!?」

 

言われて気づいた、自分の状況。

肩に手を置いていたはずのカエデの手が、まるで大木に絡みつく毒蛇の様な艶めかしい動きで切名の身体蹂躙し、背中から抱きしめているような体勢へ移行している!

下腹部へと伸ばされた左手はズボンの中に入れていた上着の裾をひっぱり出し、胸元へと伸びる右手は襟首から中へと差し込まれて、訓練で掻いた汗に濡れる胸板へと――……

 

「でぃいいやあああっ!」

「オウフ!?」

 

両刀使い疑惑の馬鹿へと繰り出された肘撃が、吸い込まれるように鳩尾へ叩き込まれた。

膝から崩れ落ちる変態の襟首を掴み挙げ、至近距離から睨みつける。

 

「なんのマネだ、この野郎……!」

「いやー、なんてーの? 珍しくキリやんが隙だらけだったもんだから、こう……ついお茶目なイタズラがしたくなっちゃって♪」

「俺にソッチの趣味はねぇ! そもそも、俺にはティアがいるってーの!」

「はいはい、惚気乙。あ、でもさー、確かめてみたかったのはホントなんだぜ。いや、まじで。俺のスペッシャルな希少能力のこと、知ってんだろ?」

「……あの、セクハラ上等・パワハラだろうとなんだろうとバッチこ~い……的な、最悪な希少能力のことか……」

 

陸士訓練校で能力の詳細を検査した時、担当官を務めた本局の女性研究員を号泣させたトラウマ量産能力について思い返し、急速にSAN値が激減してしまう。

 

「あっ!? なんだよその言い方! 傷ついた! 俺、すっげー傷ついちゃったぜ!」

「喧しいわ!? そもそも、発動の条件が『女性の胸を揉む』って時点でおかしいだろうが、イロイロとよぉ!」

「いや、実はあれから試行錯誤を繰り返してみると、驚くべき真実が明らかになったんだ! なんと! アレにはまだ隠された秘密があったんだ」

 

胸を張って断言するカエデの様子に、まさか……!? という表情を浮かべる切名。

どうせ詰まらないこと言うつもりなんだろうと思いつつも、ちょっぴり良い方向に転がらないかという期待も抱いてしまう。

 

「能力発動の条件が『おんにゃのこ』限定だってのは、俺の思い込みだったみたいなんだ! 相手によるけど、男も発動対象に出来るかもしれないんだよ! どうよコレ、すごくね? マジすごくね!?」

「マジかよ!? それがホントなら確かにスゲェが……」

 

カエデの希少能力、その名も『我は乳神の使徒なり(ナイトオブおぱ~い)』(自称)。

気に入っているのか、支給されたデバイスにすら同じ名前を付けようとしたという経緯がある程の超問題的希少能力だ。

別名『乳神様の祝福』

相手のおっぱいを揉む事で発動し、相手の身体能力の強化や怪我の治療に加えて、肌年齢の若返りなどと言った美容効果すら引き起こすいろいろとオカシイ能力だ。効果時間は揉んだ時間に比例する上に、直接本人に触れなければ発動できないという使い勝手の悪さが目立つものの、その効果は一般的なブースト魔法に比べても優に五倍近い効果を発揮する。

 

発動条件にさえ目を瞑れば、非情に強力な戦力として戦術に組み込むことも出来るのだが……。

 

「で、実際どうなんだ?」

「うーん、それがなぁ……」

 

①能力が発動できるのは、基本女性限定。

②ただし、幻覚などで性別を入れ替えた男性にも効果ある(実態がある場合に限る)。

 これは、男の娘もアリだという本人の趣向によるものであると推測される。

 

要するに、巨乳・美乳・貧乳・微乳・豊乳なんでもござれ、みんな大好きですという性欲の権化たるカエデの深層心理が生み出した特殊能力という事に他ならない。

まさしく、真面目に戦いを繰りひろげている人たちに謝るべきだとそうツッコミを受けること請負無しな希少能力(レアスキル)であると言えよう。

 

「だからさー、キリやんみてーに、ゴツイ野郎には三回転半捻りしても発動できそうにないんだわ。試しに、キリやんのやーらかくもねぇモンを揉んでみたけど、発動しなかったしー?」

「つまりはあれか? まったくの無駄骨、セクハラされ損――だと?」

「まーね。――でも、エリオっちんならイケそうな気がするんだよな――……じゅるり」

「ぴぃいいいっ!?」

 

食種の有効範囲が広すぎる変態から熱の籠った眼差しを浴びせられて、エリオの身体中に生えた産毛が総毛立つ。

……どうやら、『男の娘』という危険なジャンルもアリなようだ。

 

「……変態の相方が参加者なワケ? うっわ、どうしよう。仲間に誘いたくないな~~……」

 

皺の寄ったこめかみを揉みほぐしながら、花梨は変態の相棒(という風に見える)“ⅩⅠ”(せつな)を勧誘すべきか、真剣に悩むのだった。

 

 

ちなみに完全に余談となるが、カエデに支給された最新型のデバイスの命名については、デバイスAI自身・フォワードメンバー・隊長陣&ロングアーチスタッフによる総ツッコミを受けたことで、名前はデバイスマイスター・シャーリーが命名した【ドラグノーツ】に決定した。

流石に、セクハラ発言にしかならない名前を街中で叫ばせるわけにもいかないと、はやてが判断したらしい(バリアジャケットのデザインは、スポンサーでもある地上本部の命令によって現状維持が決定済み)。

この英断について、【ドラグノーツ】は号泣せんばかりの勢いで感謝の雄叫びを上げていたらしい。

 

 

――◇◆◇――

 

 

場面はうつろい変わり、都内にある高級ホテルの一室にて。

 

「――と、これが翠屋を盗聴して手に入れた情報の全てです」

「なるほどな……。やはり神狼の騎士(フェンリル・ライダー)は高町 花梨の側に付いたか」

「ダークちゃん大丈夫? 神サマの力を問答無用で無効化できるような犬が相手って」

「狼な。まあ、大丈夫だろう。牙を警戒すれば良いだけなあ、やり様なんていくらでもある」

 

情報収集を終えて合流したダークネス一行は、拠点として借り受けたクラナガンのホテル最上階で情報の内容を分析していた。

機動六課の初任務に何らかの動きを見せると思って見張らせていた花梨たちから、予想以上の情報が引き出せたお蔭で、差し当たっての行動方針はほぼ決定したと言っていい。

何しろ、機動六課を監視しようにも、宿舎を中心とした半径数キロの領域に強力な防御結界が張り巡らせられているので、潜入や盗聴を仕込むことが極めて難しいのだ。

敵意ある存在のみを弾き返し、それ以外の存在には結界の存在すら感知させないという特質な性能を宿したこの結界は、力技でどうこう出来るような容易い“能力”ではない。

流石は、“闇の書”事件の間、八神家へ外敵の侵入を一切許さなかったという“Ⅸ”の“能力”。

核ミサイルを叩き込まれたとしても余裕で耐えきってしまうほどの最高防御力を永続的に展開できるとは、感嘆せずにはいられない。

だが、そちらへの対策はある程度構築済み。今はそれよりも優先すべきことがある。

 

「しかし、直接対峙してきたとはいえ、やはり納得できないな……何故、()“ⅩⅢ”(サーティーン)なんだ?」

 

超戦略級広域解析瞳(フリズスキャルヴ)』は参加者の情報を読み取ると共に、正体が発覚していない敵の正体を暴き出すことも可能なチカラだ。

いかに正体を隠していようとも、直接対峙できれば参加者か否か程度は正確に見抜くことが出来る。

事実、聖王教会で対峙した三人のシスターの中に、“ⅩⅢ”と思われる敵が確かに存在していたと分析されている。

超戦略級広域解析瞳(フリズスキャルヴ)』の解析力に絶対の信頼を置いているがこそ、今回知り得た真実に間違いはないと言えるはず……なのだが。

 

「こんなことがあり得るのか? 物語の中核を成す人物(・・・・・・・・・・)が参加者であることなどという事が」

 

ダークネス自身も含め、このセカイに転生した者たちは、『原作』の登場人物と極めて近しい者こそいるものの、登場人物自身が転生者(・・・・・・・・・・)という事は一度たりともなかった。

その理由は、『登場人物(かれら)と触れ合う事で、儀式に参加する転生者たちを成長させるため』だと思っていた。

しかし、だからこそこの件はどうぬも納得がいかない。

 

――やはり何か意味があると言うことか? 『カリム(・・・)グラシア(・・・・)』が“ⅩⅢ”であるという事が。

 

そう。

 

あの問答で腑に落ちない発言を繰り出していた髪の長い女も怪しいものの、原作のキーマンにして重要な役割を果たすカリムが儀式の参加者であるという事実の方が重要だ。

そもそも、どうにもしっくりこないのだ。

情報を隠蔽・改ざんする類の“能力”かと勘繰ったが、そんなことは一切なく。

義眼(デバイス)に映し出されている“ⅩⅢ”の情報は、間違いなくカリムが“ⅩⅢ”であることを示している。

だが。

 

「このセカイに完全なモノなど存在しない――か。アリシア、シュテル、聖王教会を監視しつつ、『あの場所』とやらについての調査を続行するぞ。おそらくは、管理局上層部もひと噛みしているのは間違いないだろうが……俺の勘は聖王教会が黒だと言っている」

「ルビーさんやフェイトたちの方はほっといていいの? 六課にいるらしい“ⅩⅠ”(イレブンス)君とかは、一度見といたほうが良いんじゃないかな?」

「いいや、向こうはしばらく放置しておく。俺の推測が正しければ、近いうちにもう一人(・・・・)退場するだろうからな。相手をするのが面倒な奴だから、今回は傍観させて貰うとしよう」

「やれやれ、今度はどんな悪だくみを企んでおられるのですか?」

「人聞きが悪い事を言うな。――行くぞ」

 

暗躍を繰り返し、ダークネスですら概要を掴みきれていない謎の組織とその後ろで糸を引く参加者と思しき敵を炙り出す。

金色の竜神が放つ極光が、影に隠れた者どもを暴かんと動き出した。

 

 

 

 

「――っと、そう言えばもう一つだけご報告があったのでした」

 

いざ出撃せんとドアノブに手を伸ばした瞬間、肩透かしを食らったような虚脱感が部屋を包む。

いったいなんだとジト目で振り返ったダークネスに、満面の笑みが向けられて――

 

 

 

 

「「子どもが出来ました(なんだよ)」」

「……えっ?」

 

情緒もへったくれも無い軽い口調で、神代魔法クラスの爆弾を落としてくれやがりました。

 

 




花梨とフォワードたちの出会い、カリムさんの黒幕説浮上……。
それをぶっ飛ばす、アリシュコンビのトンデモ発言。
サブタイ通りに、驚いて頂けれましたかね?

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