他にも数人いますが、顔出しできるのはとりあえずここまで。
ミッドチルダ臨界第八空港付近の廃棄都市街。
天気は快晴。眩い太陽の光が、まるで俺たちの未来を照らしているかのようだ!
ふっふっふっ……、そう! 今日からこの俺の肉欲溢れるハーレムライフが展開されるのだ!
あ、皆さん初めまして。俺の名は『カエデ・リンドウ』。今日は陸士訓練校からチームを組んでる仲間二人と一緒にBランク昇級試験にチャレンジしています。
本当ならもう一人、切名っていうリア充野郎を加えた最後のメンバーがいるはずだったんだけど……あんにゃろ、訓練校でやらかした事件が原因で、一人だけ特例処置の昇級されやがったんだ。
おかしいだろ!? なんで一足飛びにAランクになってやがんだよ、あのヤロー!?
――、あ。まあそれは置いとくとして……せっかくビルの屋上にいるんだから、ここは伝統のあのセリフを言う絶好の機会!
せ~の、
「見ろ……人間がゴミのようだ」
決まった……! 今の俺、多分世界で一番光り輝いてるぜ!
「――そこの馬鹿。デバイスのチェックは済んでるんでしょうね?」
「ふはははは――あ、はい」
「そ。……スバル、アンタも程々にしときなさい。試験中にアンタ自慢のオンボロブーツがぶっ壊れても知らないわよ」
「ちょっ、ティア! 不吉なこと言わないでよ。ちゃんと油も注してきたもん!」
気合の籠った声と共に拳と振り抜ぬいていた青髪の少女『スバル・ナカジマ』が、拗ねるように頬を膨らませながら振り向いた。
と、同時に横揺れする素晴らしきおっぱい! ぷるん♪ じゃなねぇ、ブルン! だぜ!?
まったく、おっぱいソムリエである俺の心まで震わせるなんて――なんというナイスなおっぱいなんだ!
「……」
――ごすっ!
「ごはっ!?」
ほ、星が!? 目から星が飛び出しただとう!?
咄嗟に振り向いた先には、愛用のアンカーガンを逆手に持ち、グリップ部分を俺の後頭部に叩き付けたオレンジの髪をツインテールにした『ツンデレ スタンダードタイプ』な美少女『ティアナ・ランスター』のお姿が。……くっ! 何故彼女は訓練着なんだ……、これでは頭を痛がる振りをしつつ、パンツを覗くことが出来ないではないか!?
――ハッ!? ま、まさか、俺の行動を予測して、あえてズボンに袖を捲ったシャツなんてやぼったい恰好をしているのか!? お、恐ろしい……、なんという智将なんだ! 流石は風の――
「ふん!」
「あべしっ!?」
が、顔面にストレートだとぅ!? 背中を預け合う仲間に向けて、微塵も躊躇なく拳を振り抜きやがった!?
「何すんだよ、
「なんか無性にイラっとしたのよ。――てか、アンタ。今の発音、可笑しくなかった?」
ぎくっ!? な、何と言う鋭さ!? 流石は陸士訓練校で同じチームを組んでいただけのことはあるっていうことか。だが落ち着くんだ俺。もし動揺したり、妙な事を言ってしまえば最後、
よし……、ここは一つ俺が肌を脱ぐしかあるまいて! 文字通りの意味でな!
「きゃ~すとぉ~……オゥフ!?」
わ、脇腹に……!? 脇腹に膝が叩き込まれたかのごとき激しい痛みがっ!?
「す、スバルさん、何故に僕の肋骨を砕かれに掛かられているのですか?」
「うん。なんてゆーかさ……イラッとしたんだ♪」
素敵な笑顔で言い切って下さりました。くそう、なんて乱暴な!
そんな乱暴な
「スバル!」
「OK!」
スバルが踏みしめた左足を軸に腰、腕、掌へと運動エネルギーを集束させつつ、魔力の繊細な制御によるなめらかな身体強化を実現し――拳を一気に振り抜く!
ティアナがその場で軽くステップして宙に浮かんだと同時に身体を捻り、後方へと流した足の裏に魔力を集束させ……爆発。生身時のそれよりも加速と破壊力を増幅させた――必殺の蹴りを叩き込む!
メメタァ!!
「ぐぽっ!?」
俺を挟んで繰り出されたパンチとキックのデス・サンドイッチ。
左右のこめかみを寸分の狂いも無く撃ち抜いてくれやがったお蔭で、衝撃が身体中を駆け巡っていやがる……!?
老朽化の激しい屋上に顔面から突っ伏した俺の背中を踏みつけながら、二人がハイタッチしているのが手に取る様にわかるぜ……。
さ、流石は陸上警備隊所属の若手ナンバーワンの呼び声も名高い“並みデカ”コンビ。
動く度に柔らかくも弾力に満ちたおっぱいの震えによって、男心を擽り油断を誘う……まさしく、天然の女王気質であると言えよう! 何故ならば、俺は知っているからだ!
現在進行形で俺の背中をふみふみしてくださっているお二方……彼女たちの顔に光悦が浮かんでいることを!
「「失礼な事言わないでよ!」」
「あひぃ!?」
つ、爪先を脇腹に突き刺すのは危険だと思うんですけど!?
君たち救助隊員だよね? 怪我人に鞭打っちゃあダメでしょ!
「あら、何を言っているのかわからないわね。私の目の前には、相棒と変質者しかいない筈だけど?」
「そうだね。私の目にも、相方と犯罪者予備軍しか見当たらないよ?」
「ふ、二人の愛が痛い……! くっそう! ――感じちゃうじゃないか♪」
おいおい、マイサン。おっきしちゃダメでしょ?
試験が終わったら存分に可愛がってあげるから、今は落ち着くんだ。
「ティア、ティア! こんなトコロに本物の変態がいるよっ!?」
「駄目よスバル! 今私たちが拘束を緩めてしまったら最後、近隣の婦女子の方々の悲鳴と悲しみがクラナガンを覆い尽くしてしまうわ!」
「くっ……! そう、だよね……私たちが踏ん張らないといけないんだよね! ――わかったよ、ティア!!」
強大な悪に立ち向かう勇者の如き覚悟を決めた表情をしている二人。――ハッ!? こ、この状況なら、俺が夜なべして作り上げた至高にして究極なるぼでーアーマー『エッチな下着』を装備してくれるに違いない! 女勇者の服がエロいのはデフォだもんね! そしてスライムや触手に囚われ、弄ばれた果てに――……OH。なんとも、けしからんおっぱいが『ぷるる~ん』としちゃうに違いない!
「あ・ん・た・はぁあああああっ!!」
「あっはっは~~……ふぅ。――シネ」
「え、もしかして口に出てぎゃぁあああああっ!? 出る出る出る!? 内臓その他諸々が口からでちゃうぅうううっ!?」
「おらおらおらっ! 余すところなく臓物をブチ撒けなさい!」
「大丈夫だよ~? 後で~、中に~、何も入ってないか見てあげるからさぁ~♪」
や、ヤバい!?
『あ、あの~~……? 皆さん、何をやっているんですか……?』
「「「ん?」」」
いつの間にかホログラムの通信モニターがスタンバイされており、今から俺たちが受ける魔導師ランクB昇級試験の試験官らしい人物の顔が映り込んでいた。
モニターに映るのは、銀色の髪と見た目通りの少女……否、幼女な容姿に実にマッチしたロリボイスが特徴の美幼女! ← (ここ重要)
おおぅ、“知識”で知っているってのと、モニター越しとは言っても実物を見るのとはやっぱり別物だなあ。
くりくりとしたおめめに、若干の怯えを滲ませた幼女は、コホンとわざとらしい咳払いをしつつ、こんなことを聞いてきた。
『そ、それで、ですね~~……御三方は一体何をされているのですか?』
ふむ、頬っぺたを真っかっかにしながらもお年頃な女の子らしく興味深々なご様子……よろしい。
ならば答えなければなるまいて!
試験官の登場に驚いたのか拘束が緩まった隙を突いた俺は勢いよく立ち上がると、二人が言葉を出す前に、大声で答える。
「趣味です!!」
『趣味なんですか!?』
「Yes! 何を隠そう、こちらの『並みデカ』コンビは男を傅かせ、痛みつけながら踏みつけることに至上の悦楽を感じると言う困ったちゃんな性癖の持ち主なのですッ! つい先ほども、これから試験に挑戦する前の心を落ち着かせる準備として、俺の背中を踏み踏みすることで精神を安定させていたのですよっ!」
『え、えぇえええええええっ!? そそそそれは管理局員として如何なものかと、リインは思ったりしちゃうのですがっ!?』
「それは違います教官! 何故なら――自分も楽しんでいたからですっ!!」
『ふぇええええええええええ!?』
「そう……それが愛しき女性ならば、如何なる性癖を保有していようとも、必ずや全てを受け入れてみせると言う誓いを立てているのです! 彼女たちのためならば……自分は、彼女らの足の指を舐めて、しゃぶって、味わい尽くすことも苦ではありませんっ!!」
『あ、足……舐め……!? はぅうううっ! ダメです! そんな世界はリインにはまだ早すぎますぅうううっ!!』
「大丈夫です! 試験官ならばきっとその恥ずかしさを乗り越えることが出来るはずです! 貴方ならば……、否、貴方だからこそ、新しいステージに昇ることが出来るはずなのです!」
『り、リインが……ですか?』
「そうです! 何たる偶然か、自分には『相手の成長を促進させる』というスペッシャルなレアスキルがあるのですよ! この力を以てして、必ずや試験官を“唯のロリ”から“唯者ではないロリ”へと成長させてご覧に入れましょう!」
『そ、それはすごいです! ――で、実際はどうやるんですか?』
「ふっ、それは……おっぱいを揉む事です!」
『……はい?』
「おっぱいを揉む事です! 具体的には、試験官の控えめなれどささやかな、膨らみかけのおっぱいに指を這わせて、じんわりとほぐす様に揉みしだ――ごはあっ!?」
脇腹の激痛リターン。
一撃でライフをレッドゾーンまで削り取られた俺の両脇を固めるしなやかなおみ足をお持ちの美少女様たち……いわずもがな、『並みデカ』コンビである。
ずごごごごごごご……!!
シャレにならない殺意が渦巻いていやがる、だと!? くっ、このままではマズイ!
ひとまず、戦略的撤退を――
「試験官。申し訳ありませんが五分ほどお時間を頂いてもよろしいでしょうか。――その間につぶしちゃうので♪」
おいおい、何て可愛らしい笑顔を浮かべていやがるんだ、ツンデレツインテール。……は!? もしや、とうとうデレの時期到来の兆しが!?
「ぶれないよねぇ、カエデく~~ん?」
へい、マイフレンド。
空を飛ぶ小鳥が瞬間冷凍されちまいそうなくらい冷たいお声なんて似合わないぜ。
ほ~ら、スマイルスマイル♪
「(にっこり)」
うむうむ。
後は背中にしょった阿修羅像の如き激怒のオーラを控えてくれたら嬉しいなぁ~……なんて。
「む・り♪」
「ですよね~~」
指を鳴らせながら怒りの感情に身を委ねたバーサーカーが、少しずつ俺との距離を狭めていく。
逃げ出したい。でも、俺の肩に置かれた細くしなやかな女の子の指先……が、肩の骨を砕く勢いでめり込んでいる現状、逃げ出すことは不可能なようだ。
「――最後に良いかな?」
無言で頷いてくれたから、せめてこれだけは言い残そうと、俺は口を開く。
「出来ればおっぱいの山に埋もれさせながらイカせてください」
返答は大気を振動させた右拳でしたとさ。まる。
――あ、ちなみに試験は無事合格したんだZE!
ラスボスなメカ団子(キングver)にやられて怪我をした
――肋骨を三本ほどへし折られちゃったけどNA♪
「あ、あの『カエデ・リンドウ』二等陸士……頬っぺた痛くなんですかぁ? おたふく風邪ひいちゃったみたいにパンパンになっちゃってますよ?」
「ふはぃ、らいほぉへふ(はい、大丈夫です)」
心配してくれてありがとうございますロリ試験官様! だから、頬を突っつくのは止めて貰えませんかね?
お手々が小っちゃいから、爪楊枝を突き刺されてるみたいに痛いんですが。
「だが断るですぅ♪」
――ガッデム!
――◇◆◇――
「ふぅ……」
歴史ある教会内に静かに響く愁いを帯びた溜息を零すのは、日光を写し光り輝く金の髪を靡かせた一人の少女。
数百年続いた古代ベルカ戦乱終結の後、荒廃した大地に人々のありふれた日常を取り戻した功労者にして偉大なる王。
神へと昇華された存在――『聖王』を崇める信仰組織『聖王教会』に所属するシスターであり騎士でもある少女……『カリム・グラシア』は、十代とは思えぬ色香を漂わせながら、人目を引き付ける美貌を歪ませていた。
聖王教会内部でも非常に高い発言力を有するグラシア家のご令嬢であり、彼女自身もとある希少な能力を持って生まれたが故に、同世代のシスターたちからも畏敬の念を以て接しられてしまう。
故に彼女には、心を許せる親しい友人とも呼べる人物が少なく、周囲から向けられる期待の視線によって積み重ねられていくストレスが危険な領域に達しつつあるのだ。
世話係であるシスター・シャッハや、義理の弟であり普段のストレス解消に
清楚な顔の下では、暴発寸前まで膨れ上がったストレスが爆散する時を今か今かと待ちかねている。
「はぁ……」
もう一度ため息。これくらいでは、心を落ち着かせることなど出来ようはずもないと、自分でも分かってはいるのだが――
「おやおや、不景気な顔した小娘がふらついてると思いきや、カリムではありませぬか」
「え、カリムちゃん?」
珍妙な言い回しをする地面まで届いて余りある長さの金髪を惜しげも無く晒す少女……『ローラ・スチュアード』
カリムを“ちゃん”呼ばわりするほんわかとした笑顔が魅力的な少女……『マリア・シュトルム』
共に、カリムと同じ服装をした彼女たちは、年若くして『聖王教会』の騎士の位を与えられるほど優秀なシスターだ。
「え? ――あ、ローラ! それにマリアも!」
「おひさ~、なりけるよカリム」
「お久しぶりですカリムちゃん♪」
「もう、マリアったら! “ちゃん”付けはヤメテって言っているでしょう?」
「――ふぇ」
じわっ……。
「イヤ……なの……!?」
「はぅあ!?」
大きな瞳に涙を浮べ、捨てられた仔犬を思わせるオーラを醸し出すマリアに上目使いに見つめられれば、カリムの良心が罪悪感と言う名の刃でめった刺しにされていく。
胸元を抑え、じりじりと後ずさるという無駄にカッコイイ
時々自分も同じような攻撃を喰らうローラは、『うわぁ……』と同情を多分に含んだ優しげな視線をカリムへと送る。
あの罪悪感は並みじゃあない。
何しろ、協会の最高司祭である教皇なご老人がうっかりマリアを泣かせてしまい、彼女の泣き顔が放つ
――しかも、その場にい合わせたローラは、この話が確かな事実であることを知っていたりする。
魂が抜け出ていた司祭の心肺蘇生を行ったのは、他あらぬ彼女自身なのだから。
「ぐっ……かは……!? じ、冗談! 冗談に決まってるじゃない、もうマリアってば早とちりさんなんだから♪」
脂汗を流しつつ、マリアを安心させるように引きつった笑顔を浮かべてみせる
一方のマリアは、ぱぁあっ! と花が開く様な笑顔へと泣き顔を変化させながら、自分よりも背の高いカリムの胸に飛び込むように抱き着く。
たたらを踏み、何とか転倒を耐えたカリムの豊満な双丘に頬を摺合せながら、マリアは「えへへ~」と邪気の無い純粋な笑顔を浮かべていた。
「きゃっ……! もう、マリアったら」
口では窘めるようなことを言いつつも、カリムの頬は盛大に弛んでしまっており、マリアの無邪気な笑顔に陥落されてしまっているのは明確だ。
そして此処にはもう一人、彼女の笑顔の虜になった少女が存在している。
「マリア~、私の方にも癒しがプリーズなのけりよ~」
「はーい」
マリアはカリムの抱擁からするりと抜けだすと、ぽてぽてとかわいらしい足音を立てながら両手を広げたローラへと愛情いっぱいのハグ♪
ローラの小柄でありながらも、実は三人の中で一番大きい母性の象徴の柔らかさとか、甘いミルクのような香りとか、鼓膜を擽る吐息とか……とにかく、彼女の何もかもが愛おしい。
マリアをぎゅぅ~っ、としたまま放す気配の無い友人に、頬を膨らませたカリムから抗議の声が上がる。
「むぅう~っ! ローラ、独り占めはズルいわよ!?」
「へへ~ん。早い者勝ちなのけるよ~~だ」
「くっ! ま、負けないわよ……えいっ!」
「ふぎゅ!」
「えへへ~~、カリムちゃんもぺったりさん~~♪」
人目をはばからず、キャイキャイ黄色い声を上げながら抱き締め合う三人の少女たち。
彼女たちこそ、ゆくゆくは『聖王教会』を背負って立つであろう未来の大司教候補と呼ばれる、若手トップの騎士なのである。
三人の交友は、彼女たちが見習いシスターであったころから始まる。
『聖王教会』では、多種多様な殉教者の方々と接する可能性がある以上、いかなる出自も関係なく平等に接することが出来るようにならねばならないという思想が在った。
見習いシスターたちはこの方針の元、数名で共同生活を送り、互いに切磋琢磨しあい、友愛を深めていた。
彼女たちはその頃に同じ厩舎で侵食を共にした仲間、いや、親友とも呼べる間柄と成った。
孤児であったマリアの世話を、世話焼きのカリムが請け負い、なんだかんだで友人には甘いローラがそのサポートをかって出て……そこからいろいろあって、お互いにありのままの自分を曝け出して話すことのできる間柄へと至ったのだ。
未来予知と言う貴重な希少能力を宿したカリム。
司祭としても騎士としても非凡な才能を見せるローラ。
人望が厚く、数多くの人心が集まる中心部に当たり前のように立つマリア。
各々がそれなりの立場についてからも、誰かが悩んだり困っていると、こうやって他の二人が自然と寄ってきて事態を改善してくれる。
そういう、不思議な繋がりを彼女たち自身は天より授かった『縁』だと考えていた。
それほどまでに、彼女たちの友情は強く、深いシロモノなのだ。
じゃれ合い、昔話を肴にお茶を楽しんだカリムは、胸に溜まっていたもやもやが綺麗さっぱり無くなっていたことに、お茶会が終了した後になって気づいた。
彼女たちのお蔭だということを無意識に理解できたカリムは、先ほどまでの愁いを帯びた顔が夢であったかのように、にこやかな笑みを浮かべる。
――次に彼女たちとお茶を共にする時は、私の手作りクッキーを是非食べて貰わなくては!
最近出来た妹分である八神 はやてから教わったクッキーのレシピを思い返しながら、カリムは用事を済ませて戻ってきたシャッハたちが首を傾げるくらい上機嫌で鼻歌を口遊むのだった。
「ふふっ……可愛い寝顔なりけるね」
ローラは自室のベッドに腰掛けながら、自分の膝の上で寝息を零すマリアを優しく撫でる。
くすぐったいのか、時折形の良い頬がぴくぴく震えるのを見て、ローラの顔に慈愛に満ちた母性を感じさせる笑みが浮かぶ。
カリムと久しぶりに話も出来たし、マリアの可愛い寝顔も拝めることが出来たし、今日は本当にいい一日だ。
ローラはマリアのほっぺを突っつきながら、不意に視線をテーブルの上に残された書類へと移す。
それはカリムが悩んでいた元凶。彼女の希少能力によって予言された未来の出来事。相談された時は口頭であったそれを記憶していたローラが、カリムが退室した後に、予言の内容をそのまま書き記したものだ。
途端、彼女の顔から笑顔が消え、氷の刃の如き冷たさを宿した双眸がそこに記載された文節を一語一句違えずに、己が脳髄に刻み付ける様になぞっていく。
“狂気と欲望が集い交わる儀式の地、闇を伴いし古の王の下、死者を束ねし偉大なる翼が蘇る。
黄昏の世界が総てを呑み込み、なかつ大地の塔は倒れ伏し、数多の海を繋ぐ浮島は砕け散る。
雛鳥たちが舞い踊り、法の僕は崩れ落ち、双翼の加護を受けし新たなる王が眼を開く。
悲しき儀式の果てに、海に浮かぶ星々の煌めきが静寂の闇に包まれる。
虚無なる未来を照らすのは、世界を貫く生命の樹。
十三の鍵を束ねし神皇の願いが、人々を創世の未来へと導くだろう。”
「――か。まったく、ふざけとるなりねぇ。この世界の未来は、次期神サマ候補共の手に委ねられたっちゅうことなりか? ――馬鹿馬鹿しい。ああ、これは真実許しがたい暴挙なりけるね」
怒りを胸に、静かに眠る
「預言も、“
ローラの感情に呼応するかのように、彼女の胸元に吊り下げられている十字架型のデバイスが妖しく輝いた。
――◇◆◇――
逆巻く暴風が草原を駆け抜ける。蒼と黒の燐光を纏わせた金色の烈風が、大気を、世界を震撼させる。
「ふぅ……」
黄金の輝きを放つ魔力が天へと立ち上り、草原を埋め尽くす草花が、木々の影から顔を覗かせるこの世界特有の生物たちが、そして――キラキラと瞳を輝かせている魔女たちの祝福を受けて、超常にして偉大なる《神》の力が顕現する。
視線の中心にいるのは黄金色の外甲を纏いし竜神。
蒼天の如き蒼き双翼を開き、真紅の竜尾が大地を穿つ。
嘗て、地球と呼ばれる世界で顕現した神の雛――《新世黄金神》。
されども、その姿は以前のものと幾分かの差異が見受けられる。
両肩の竜頭を模した肩甲が一回り大きくなっている。
三対の連翼からなっていた背の双翼は一対の巨大な形状のものへと変化し、その大きさも片翼で彼の身体を覆い尽くせるほど。
身に纏う外甲の各所に備わり、柔らかな輝きを放つのは真紅の紅玉と一体化した『願いを叶える宝石』ジュエルシード、計二十一個。それが胸元などを中心に身体中に装着されていた。
全身から放出される圧倒的な魔力の奔流は、以前の状態よりも数段レベルアップしており、禍々しくも神聖で、恐ろしくも心地良い……、まさに正邪併せ持つと称するに相応しい。
荘厳でありながらも威圧されるような類のものではない、どこか安心感すら感じさせる瞳が魔女たちを見据える。
「おお――! それがダークちゃんのパワーアップモードなのかな!?」
「なんという存在感……けれど、何でしょうか。この胸の内に込み上げてくる暖かさは……」
思い思いの感想を述べながら近づいてくる魔女たちに笑みを返しながら、《新世黄金神》――スペリオルダークネスは、己が進化の切っ掛けとなった一人の少年の姿を思い浮かべる。
「“Ⅹ”……。お前から受け取った“
“闇の書”決戦時に倒れた同胞だった少年……
本来ならばディーノを降した
そして現在、管理外世界の一つであるこの世界にて《新世黄金神》への変身とこの姿でのみ使えるようになった不完全な“権能”の訓練を行っていたダークネスは、遂に新たな“
嘗て、“時の庭園”で屠った
この時は、元々備わっていた
しかし今回は、未だ不安定で完全とは言えない《新世黄金神》の力を安定させるために使用することにしたのだ。だがやはりと言うべきか、言葉で言うほど容易いものではなく、数年にも渡る試行錯誤と修練の末に、ようやく完成の目途が立った。
その
「ふむ。名乗るとすれば……そうだな――《新世黄金神 スペリオルダークネス
ダークネスは光り輝く拳を天へと突き上げた。
その姿はまるで、遥か天上の果てにある輪廻の環に自分と言う存在を――ディーノと言う少年の存在を決して忘れない者が此処に居るのだという事実を伝えるかのように。
一層輝きを増した蒼天の輝きを放つ双翼にそっと指を這わせながら、アリシアとシュテルは愛おしそうに額を擦り付ける。
――例え、彼が人の手が届かぬ高みにまで上り詰めてしまったとしても、決して離れない。
だって、
背中越しに愛おしい魔女たる少女たちの温もりを感じながら、ダークネスは穏やかな風が吹く目の前の景色をいつまでも見つめていた。
次なる戦いの刻は近い――。
一人称の練習も兼ねて試行錯誤中。
それにしても、おバカキャラに汚染されていくまじめな子というものはなんというか……イケナイことをしているようでゾクゾクしますね。
リインⅡも愉快な娘になってくれそうです。