魔法少女リリカルなのは 『神造遊戯』   作:カゲロー

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残酷な表現ありにつき、ご注意を。

――二話目にしてグロ展開とは、我ながら何というか……


フライング

転生者って知ってるかい?

 

よく二次小説とかである、神様のミスで死んでしまって、お詫びと称してアニメの世界に能力持ちで転生する奴の事さ。

 

そして、何を隠そう、この俺! 『クロード・S・ケーニッヒ』は転生者だったのさ!

いやー、最初はそりゃ驚いたもんだよ。何しろ、いきなり白い空間に穂織り出されたと思ったら、これまた急に現れた偉そうな幼女が目の前に現れるなり、

 

《おぬしは死んでしまったのだ。よって、私の権限で転生させてやろう。ちなみに、転生先は『リリカルなのは』の世界じゃ》

 

なんて言うんだぜ?

もう、俺のテンションはうなぎ昇り! 昇りすぎて、もうなんつ-の? オリ主っていう名の龍になっちゃった! みたいな?

元々、平凡でオタクな高校生だった俺は、友達も無く、毎日学校と自宅を行ったりきたりするだけの面白みの無い生活に飽き飽きしていたんだ。

家族とも最近はまともに話さない様になっていたし、心残りなんてある訳ない。

早速俺は、俺TUEEEEEE! が出来るように頼んだんだけど、突っぱねられちまった。

何でも、転生者に与えられる能力には容量とかいう制限があって、あれもこれもって訳にはいかないんだと。

なんだそりゃ! ふざけんなよ! それでも神かよ!

一通りの説明を受けて、夢だった俺TUEEEEEE! が出来ないとあって、そう叫んだんだけれど、そこで神の奴、逆切れしやがって、

 

《ごちゃごちゃ言うなら、転生させてやらんぞ?》

 

なんて脅しやがったんだ! まったく、テメエのせいで誰が死んだのか忘れてんじゃねえのか?

そこは、誠心誠意俺に謝罪として、こっちの願いをかなえるのが筋ってもんだろうがよ!

だがまあ、そこでグチグチ続けるのは主人公としていただけない。

ひとまずその場は俺が妥協することにしてやった。

こうして俺は“リリなの”の世界に転生した。

俺の両親は共にミッドチルダに住む管理局員で、魔力ランクは父親がAAAランクで母親がAA+。

まだ計測はしていないが、俺の保有魔力量もAAAランクは固いだろう。

転生するときの特典で、銀髪オッドアイのイケメンな容姿を望んだ。なんで容姿が“出自”になるんだろうと不思議に思ったが、なんでも木の根から生まれる訳じゃないから、俺の希望する容姿で生まれてくるようにするには必然的に似通った血筋の両親から生まれなければならないらしい。

確かに、純潔の日本人の両親から銀髪の子供が生まれる訳無いよな。隔世遺伝なんてそうそうないし。

そんな訳で、俺は希望の容姿通りに生まれるため、そういう容姿の人間が普通に生活しているであろうミッドチルダに生まれる事となった訳だ。

そして希少能力扱いになる時間操作の“能力”を貰った。

“武器”……この場合はデバイスになるけれど、俺はあえて選ばなかった。

特典の容量が足りなかったってのもあるけど、両親が管理局員なら専用のデバイスを手に入れる機会はあると踏んだからだ。

だから俺は“武器”に充てる容量を総て使い、ニコポの能力も手に入れることが出来た。

この能力は、俺に会いに来た親戚連中に試してみて、その効果は確認済みだ。

赤ん坊にニコッと微笑まれると、目を合わせていた女連中が全員頬を紅く染めて、俺に見蕩れていやがったからな。

まあもっとも、そんなモブキャラになど興味は無いんだがな!

俺の嫁になるなら原作主人公件ヒロインの高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて位の容姿じゃないとな!

そんな輝かしい未来を夢見て、転生してからすでに早一年。

俺は羞恥物のベイビーライフを過ごしながら、クラナガンの一等地に建てられた我が家の一室にて、赤ん坊用のベッドに寝かされながら、早く無印が始まらないかワクワクしていた。

 

(無印が始まったらどう立ち回ろうか? やっぱりクロノみたいに管理局員としてアースラに搭乗するのが一番か……? クソッ! 地球に転生できたらもっと早く介入できたのに! あ、でも、他の転生者連中がどう動くか……)

 

神が言うには、この世界にはオリ主であるこの俺以外にも転生者がいるらしい。

そして転生者達は最後の一人になるまで戦うバトルロワイヤルに強制的に参加させられるらしい。

まあ、オリ主である俺が勝ち残るのは当然だが、ほかの雑魚転生者どもに、俺のなのはやフェイトたちが汚されるのは見過ごせないな。

きっと俺以外にもニコポの能力を望んだ奴は居るはずだ。

神曰く、こういった魅力系の能力は同じ人物で重複はしない上に、同じ転生者相手には効果が無いらしい。

前者は、俺がなのはをニコポの能力で虜にしたとする。その後で、同じ力をもつ他の転生者がなのはを虜にしようとしても効果は無いらしい。

人の心は繊細で、恋愛とか友情といった精神的な支柱になりそうなものが、能力で頻繁に変えられるといろいろと都合が悪いらしーんだ。

下手をすれば精神崩壊なんてことにもなりかねんしな。

後者の理屈は簡単で、転生者にも有効としてしまったら、戦いにならないんだと。

誰でも目を合わせただけで虜にする魅力チート能力を持った奴が一人居れば、そいつは他の転生者全員を僕に出来るようなものだ。

最も、能力に物を言わせた感情操作が効かないだけであって、純粋に好きあった場合はまた別物らしい。

 

『原作』で舞台になる海鳴市……とまではいかなくても、せめて地球に転生できていれば、誰よりも早く彼女達に接触できていたことだろう。

なんて言ったって、俺には時間操作の希少能力がある。

様は、『ザ・ワールド』だ。

スピード云々のレベルじゃない。誰も俺に触れられないし、俺が勝ち残るのはもう決まっているようなものだ。

けれども、“武器”を選択しなかった人物は、無条件でクラナガンに転生することが決められていた。

これは、地球が管理外世界であることが原因で、なのはみたいなケースは本当に稀で、普通に地球生まれの人間にデバイスを手に入れる機会なんてまず無いだろう。

原作『Strikers』でも、スバルたちが有名人のなのはたちの故郷である地球について詳しく知っていなかった素振りを見せていたし、J・S事件や闇の書事件が起こっていない原作前の時間帯では、どうやってもデバイスを自然に手にするのは無理がある。

だから、特典で“武器”を選んだものが優先的に地球に転生できるというのがルールの一つらしい。

 

(はぁ……まあ、愚痴を言っていてもしょうがないか。今は出来ることからやっていこう。まずは、魔法の練習は五才位になってから始めるとして――)

 

――ガラッ

 

「……見つけた」

 

俺がこれから始まる『俺のオリ主計画』についてあれこれ考察していると、突如ベランダに繋がるガラス窓が開かれた。

同時に聞こえてくるのは、聞き覚えの無い男のものらしい声。

俺は驚きながら、第三者の手によって開かれたであろう窓から一メートルほど離れた部屋の中央に置かれたベビーベッドの上で、声のした方向へと首を向ける。

窓とベッドは平行方向に置かれていたため、首を横に傾けるだけで、開かれたガラス窓、そしてそこに佇む子供らしき人影を捉えることができた。だが――

 

(――なっ!? 何なんだよ、アイツは!?)

 

部屋の外はポカポカ陽気の降り注ぐ小春日和の過ごしやすい温かさだというのに、少年らしき人物を前にした俺の身体は、まるで丸裸で札幌雪祭りの会場に放り出されたかのように、ガクガクと震えていた。

脳内で激しい警戒音が鳴り響く。

全身の細胞が、遺伝子が、魂までもが今すぐこの場から逃げろと警笛を鳴らしているように感じた。

だが、俺の身体は未だ一歳児のそれ。

逃げようにも、いまだハイハイすら出来ないこの状況で、俺はあまりにも無力だった。

そんな俺を尻目に、謎の人物は土足で室内に足を踏み入れると、迷い無く俺の寝かされたベッドへと近づいてくる。

今この家に、共働きの両親は不在。ホームヘルパーの人は居るものの、先ほど一階の掃除をしてくるみたいなことを行っていたばかりだ。

この家は防音設備が完備されているので、今すぐ異変に気付いて、ここに駆けつけてくれる可能性は低いだろう。

小さく響く、床を踏みしめる音が近づいてくる。

もはや俺の顔は蒼白と呼ぶに相応しい様態をしていることだろう。

そして程なくして、ついに謎の人物がベッドの脇に辿り着く。

そして頭部を覆っていたパーカーのフードを脱ぎ、ベッドの淵に手をかけると俺を覗き込んできた。

 

「ヒッ……!?」

 

間近でその人物の顔をみた俺は思わず悲鳴を上げてしまう。

落雷に打たれたように痛烈な衝撃が全身を駆け巡る。

それは絶対零度の冷たさを持つ、死の恐怖。

胸元までタオルケットがかけられているというのに、寒気が、悪寒が止まらない。

だが悲鳴を上げられた当の本人は気にした風も無く、逆に口元を緩めて愉悦を漏らす。

 

「ん? ……どうした? 俺が怖いのか? それなりにいい年なんだろう? なあ、転生者さん?」

 

俺を卑下するように見下した人物――見たところ五才位の少年だった――は、まともな方の右目を細め、こちらを観察するような素振りを見せる。

 

「んー……この反応……うん。間違いないな」

 

しばらくするとなにやら納得したように両手の平をポンと併せ、

 

「転生者発見、っと。じゃあ、早速で悪いけど……死んでくれ?」

 

まるで、ちょっとコンビニに行ってくるみたいなノリで死刑宣告を繰り出してきた。

 

(はぁ!? いや待て、何でそうなるんだよ!?)

 

混乱する俺の内心など知ったことではないとばかりに、謎の少年は上着に羽織っているパーカーのポケットから白銀に輝くナニカを取り出す。

所々黒光りする汚れがこびり付いたそれは、刃渡り十五センチほどのサバイバルナイフだった。

少年の手には少々持て余す大きさのナイフの柄を、右腕一本でしっかりと持ち、逆手に構えて俺に向けて振りかぶった。

 

(おっ、おい!? ちょっ、冗談だろ!?)

「――ん? ああ、ひょっとして冗談とか思っているのか? だが、残念だったな。これは間違いなく現実で、お前は俺に殺される。大体、転生者同士の殺し合いってのが“ゲーム”の本題だろ? だから転生者のお前は、同じ転生者の俺に殺される。ま、まだ“ゲーム”は始まってもいないが――始まる前に、殺してもいけないってルールも無かったしな? あ、ちなみにこれはちゃんと、俺を転生させてくれた神さまに確認してるからな。『大丈夫だ。(ルール上は) 問題ない』って奴だ」

 

告げられた絶望に目の前が真っ黒になる。

 

(おっ、おいおい、嘘だろ? 何かの冗談なんだよな!? だってそうだろ!? 俺はオリ主だぞ!? この世界の主人公で、悪党(他の転生者)を退治して、美少女ハーレムを築く予定のこの俺が、こんなにあっさりと終わるのかよ!? ふざけんな! 俺は……!! 俺は……ッ!! 神に選ばれた人間なんだっ!!)

 

何とか助けを呼ぼうと、あらん限りの力で泣きわめく。

頭を振り回した際に、いつの間にか流れ出ていた涙や鼻水が吹き飛ぶが全く構わない。

どんなに惨めだろうとこんなところで死ぬ訳にはいかない。

俺の必死な足掻きを見て、少年は僅かに眉を顰めるも、

 

「うっさい」

 

ヅブリッ!

 

襲撃者は必死になって生にしがみ付こうとする俺の姿を冷たく一瞥すると、躊躇なく冷酷な刃を振り下ろしてきた。

死神の鎌にも等しいそれは、寸文の狂いも無く俺の額に深々と突き刺さる。

先ず聞こえたのは肉を切り裂くナイフの音。

次いで、頭の奥底から途方も無い熱と激痛が際限なく溢れ出す。

 

「あぎっ……ゔぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ――――……!!」

 

イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! 

イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! 

 

言葉に出来ない激痛にベッドの上をのた打ち回る。

未熟な赤子の手足とは思えない力で枕を、シーツを獣のように掻き毟る。

舌ったらずな愛くるしい声を出していたはずの口からは人のものとは思えない悲鳴が漏れ出し、

両目は完全に白目をむき、まだ歯の生え揃ってすらいない口元からは血の塊が唾液と共に飛び散る。

 

だが頭部は未だ突き刺さったままのナイフを持つ少年によって押さえ込まれていた。

だが程なくして少年は、

 

「はい、終~了~、っと」

 

そう呟きナイフを引き抜く。

その勢いで間欠泉を髣髴させる鮮血が吹き溢れる。

ビチャビチャと不快な耳障り音と共に、汚れ一つ見当たらなかった真新しいベッドを、壁を、絨毯を真紅に染め上げてゆく。

飛び散る血飛沫を身体を逸らすことで避けると、少年はカーテンでナイフの血を拭い、それを再び上着のポケットへと仕舞いこむ。

その動きに、そしてその表情に戸惑いや罪悪感は一切見られない。

これは少年にとって、人殺しが初めてではないことを意味していた。

ピクンピクンと痙攣している赤子――今しがた自分の手でその命を刈り取った同胞――の姿を無表情で眺める少年の姿を見て、世の人々はどう思うのであろうか?

 

稀代の殺人者?

 

それとも、人格破綻者?

 

だが一つだけいえることがあるとするのならば、彼にとってこれは生きるために必要な行為でしかないと言うことだろうか。

なぜなら彼ら転生者は、最後に生き残れるのは一人だけと決まっているのだから。

 

「対象の死亡を確認、っと……さて、それじゃあ撤収、撤収」

 

己の左目から送られてきた対象の死亡という情報を確認すると、少年は身を翻してベランダから外へと出るや、虚空に向けて片手をかざす。

 

「次元境界門開放……転移開始」

 

少年の呟きと同時に、彼の足元に魔方陣が展開される。

複雑怪奇な文様が刻まれた、ミッド式でもベルカ式でも無い、なんとか魔方陣とだけ判断できるであろうそれは、鮮血のような紅と深遠を連想させる黒によって描かれている。

まがまがしさしか感じられない魔方陣が、陽光すら飲み込まんと一際大きく輝いた次の瞬間には、少年の姿はそこから消えていた。

およそ三十分後、屋敷の掃除を終え、クロードの様子を見に来たホームヘルパーの叫びが高級住宅街に響き渡った。

今回のクロード殺害事件は、後にクラナガンの高級住宅街で立て続けに三人の幼児が刺殺された事件の一つとしてマスコミに取り上げられ、突如繰り広げられた惨劇にクラナガン中の人々を振るえ上げさせることとなる。

 

 

住宅街からやや離れた位置にある旧市街地。

人気の無い廃墟に近いこの場所の一角に、小さな影があった。

五才ほどの年であろう小柄な体躯。

所々汚れた長袖のパーカーとズボン。

深く被ったフードの奥から覗かせる片方しかない右の眼は深く、暗い闇色に染まっている。

幼稚園児と呼んでも遜色無い筈の少年の全身からは、あらゆるものを引き込むかのような圧力を伴った魔力が滲み出ていた。

何色にも染め上げられず、逆に何者でも飲み込み、己が色に染め上げ、支配してしまうかのような深遠の闇を連想させる魔力光。

少年は嘗て左目のあった場所に指先を当てながら、何やら考え込んでいるような素振りを見せていたが、しばらくして

 

「これで三人目……さて、次は――」

《――やあ、久しぶり。少し良いかい?》

 

少年の呟きに突如割り込んできたのは重々しい威圧感を伴った遠雷を思わせる声。

転移によってクラナガンの外れにあるここまで転移してきた少年は、脳裏に響き渡る懐かしい声に顔を上げる。

 

「あれ? 神サマですか? お久しぶりですね」

《うん。君も元気そうで何よりだね。まあ、君の息災ぶりは神界で逐次見せてもらっていた訳だけれどね?》

 

まるで往年の友人同士のように語り、笑いあう。

 

《さて、私としては君との会話は実に有意義な時間なのだが……今回は別件があってね?》

「別件?」

 

はて? と首を傾げる少年に、彼を転生させた神が大気に遠雷の如き声を響かせながら告げる。

 

《現在、君の行っている“転生者殺し”についてなんだが、“神造遊戯(ゲーム)”の管理担当から苦情が来てね……。何でも『いつまでたっても参加者(転生者) の数が揃わないから止めさせろ』と言われてしまったよ》

 

やたらと上機嫌に語る神に、僅かに呆然としてしまった少年だったが、すぐさまハッ、として、声を荒げながら問い返した。

 

「え? いや、ちょっと待ってくれません……? えと、その条件て、俺にしたら笑い事じゃすまないと思うんですけど」

 

躊躇なく人殺しに手を染めた少年とは思えないほどに、彼の表情には驚愕と困惑の色がありありと浮かんでいた。

少年――転生者No.”Ⅰ”は別に殺しを趣味にする快楽殺人者でも、精神異常者でもない。

彼が人を、正確には未だ幼い転生者たちを始末していたのは、彼が覚醒した“能力”に所以している。

 

 

 

―――『超戦略級広域解析瞳(フリズスキャルヴ)』―――

 

この世に無限に等しい数が存在すると言われ、決して交わることのない隣り合う世界群――遍く並行世界の総てを見通し、そこに在る転生者たちの所在を感知、さらに内包する能力を解析するという”能力”。

対象(この場合は“ゲーム”に参加する参加者たち) が、たとえ別次元に存在していたとしてもこの能力を防ぐ手立てはなく、一切の防御手段が存在しない。

神代の時代に、大神たるオーディンが座して世界のすべてを見通したとされる神具と同じ名を冠するこの“能力”に目覚めたことによって、“Ⅰ”は“神造遊戯(ゲーム)”参加者の誰よりも優れた情報収集能力を手にすることができたのだ。

あくまでも情報収集専用のチカラではあるが、逆に考えれば転生直後……即ち、無力な赤子の状態の転生者探し出すことができる可能性があるということでもある。

 

 

“Ⅰ”は自分以外の転生者たちも自分と同じ『特典の容量』という制限に縛られることに気付き、如何に生き延びるかを考え抜いた。

一般的に考えて転生者と呼ばれる物語への介入者の行動パターンは大きく二つに分けられる。

 

一つ目は『原作介入派』

物語、つまり原作に登場人物の一人として介入し、主人公や好きな人物に助力したり、悲しい運命を迎える人物を救ったりする事を目的にするものたち。

 

二つ目は『傍観派』

彼らは下手に原作に介入した結果、事態が悪化する事を恐れ、傍観者としてのスタンスをとるものたち。

しかし、こういった者は大半の場合、原作キャラと親しくなってしまったり、『原作介入派』の転生者達に敵視されたりして、結局物語の一部となってしまうケースが多い。

 

だが“Ⅰ”の歩もうとする道筋はこのどちらとも違っていた。

この世界が“リリカルなのは”の世界に酷似した世界であることは転生前に説明を受けた。

ではその世界に生きる人々は、そしてそんな世界で新たな人生を歩む自分は、物語の登場人物という空想の産物などではなく、この世界に生きる確固たる一人の人間という、今を生きているたしかな存在だということに他ならない。

自分は空想の産物の中に行くのではなく、それに近い確固たる現実の世界に新たな命を与えられて生れ落ちているのだと確信している。

なればこそ、原作だの、主人公だのに拘るのは無意味でしかなく、そんなものに縛られる必要もない。

自分の望み、自分のやりたい事、成し遂げたい未来、それを成すための力を与えられるというのなら、己が心の思うまま生き抜いて見せよう。やり遂げて見せよう。敵を打ち倒し、神々の思惑の中で踊り、足掻き、その先にある未来を掴むために、ただ真っ直ぐに突き進んでみせる。

原作? 登場人物? それがどうした?

そんなものは知ったことか。たとえ己の知る原作知識の通りに未来が続いていくのだとしても、登場人物たちと共に転生者と戦うことになったならば、原作という名の『運命』ごと突き破ってみせる。

 

それは『介入』でもなく、『傍観』でもなく、『運命』に相反する事も厭わぬ『闘争』の道。

転生者(どうほう)達と手を取り合うことをせず、“ゲーム”と称されたこの戦いを勝ち抜き、ただ己が未来(しょうり)を狙い、目指す。

それが“Ⅰ”の選んだ道。彼の『選択』。

それを成すためには、より効率よく敵を排除する必要があった。誇り? 矜持? そんなものなど、知ったことか。他人がどうなろうと自分には関係ない。

そう決断したが故に、この世界で一番最初に生れ落ちる――すなわち、一番年上であり誰よりも早く行動を起こすことができる――というアドバンテージを生かすために望んだ”能力”こそ探知能力の極みたる『超戦略級広域解析瞳(フリズスキャルヴ)』。

誰よりも迅速に行動に移れると言う事は、他の転生者が生まれた直後、あるいはまだ能力も使えない幼い子供のうちに自分はある程度の年齢に成長出来ていると言う事。

無論、赤子の時点でもある程度の能力を使える可能性も無きにしも非ずなので警戒を怠っていなかったが、結果として僅か一日で三人もの転生者を始末することが出来た。

無力な一般人と同じレベルの敵を“神造遊戯(ゲーム)”開始前に労せずに始末でき、あまつさえ自分の情報は誰も知ることができない。

神造遊戯(ゲーム)”が開始された後は、敵の動きを監視し続けながら、機に乗じて介入し、殲滅すればよい。

卑怯だと罵られようとも、臆病者だと蔑まれようとも、地べたを這いずり泥水を啜りそれでも全力で今を生き続けてみせるという、彼の決断であった。

 

《君の言いたいことはわかる。何しろ君がその“能力”に目覚めるきっかけを与えたのは他ならぬこの私なのだから。だが……》

 

神は告げる。転生者同士の戦いはあくまで“神造遊戯(ゲーム)”開催期間内で行う事に意味があるのだと。

そしてそもそもの“神造遊戯(ゲーム)”の前提条件として、異なる神々から与えられた“能力”や“武器”を駆使して、時に力で、時に知略で戦いを制し、勝利する。それこそがこの儀式の本質なのだと。

力の使えない頃に、こんな暗殺まがいの方法を続けることは、あまりにも“神造遊戯(ゲーム)”のバランスを崩しかねないと、運営を司る上位神が判断したのだと。

 

《すまないがそういう訳なんだ……もしこの警告を無視すれば、最悪、君の存在が消されかねない。だから今後は、“神造遊戯(ゲーム)”の期間中に転生者と戦い、勝利した時のみ。幸いと言うべきか、今日仕留めた転生者三名分のチカラは君のモノとしても良いと判断されたからさ? すまないが理解してもらいたい》

 

やや疲れた風に聞こえてきた神の声に、“Ⅰ”は何も言えなかった。

もとより、今の自分がこうして生きていられるのは神のおかげであると捉えているので、彼として強く言えないのも理由だった。

 

「……わかりました。まあ、しょうがないですよ。それじゃあ今後は“神造遊戯(ゲーム)”が開始されるまで自己鍛錬でもして過ごしておきますよ」

《ウム、頼んだよ。それから”神造遊戯(ゲーム)”について何か訊いておきたいことはあるかい? 今後もこういった事がないようにある程度の情報は教えることができるけれど?》

問われ、やや間を空けて、神の綴った言葉の中に気になった単語があったことに気付き、それを問いかける

「そもそも、こんなトンでも儀式を行う理由って、何なんですか? そもそも、『十三組の転生者同士による殺し合い』って位しか聞いていないはずですけど……?」

《ああ、それについては、私からは何も言えないんだよ。“ゲーム”開始時点になれば自ずとわかる。否応無しに、ね》

 

あっさり“話せない”と告げられた“Ⅰ”は怪訝そうに眉を寄せるが、今問いただしても意味がないか、と意識を切り替える。

その後二、三のやり取りの後、 “Ⅰ”はもう声は聞こえなくなった神に向けてするように、頭を下げてお辞儀を一つとる。

やがてゆっくりと頭を上げてその場から踵を返すと、目の前にあった廃墟となって久しい旧市街地ビルの一つの壁に右手を当て、謡うように呟く。

 

「認識阻害、座標軸偽装、魔力探知妨害術式展開。次元境界門開放……転移先座標――第九十七管理外世界『地球』。転移開始」

 

彼の右手を中心に紅と黒によって描かれた複雑怪奇な文様――彼独自の魔方陣が、所々ひび割れたビルの壁に展開される。

底なし穴を連想させる漆黒の穴の中に身を通した次の瞬間には――当たり一面に真っ白に輝く粒子が降り注ぐ銀世界が広がっていた。

 

「……何処だ、此処?」

 

突然の雪景色に、驚きと純粋な寒さで身を震わせながら、燦然と輝く左目で辺りを見渡せば此処が何処なのかをソレが瞬時に導き出し、脳裏にその情報が送られる。

 

「現在位置……津軽海峡の上空四百メートル地点? やれやれ、転移先の座標を正確に特定できないのが俺の術式の欠点だな……。術式の効率化、戦闘訓練に、情報収集、やることは山積みだよな……。まあまずは――ぶぁっくしょん!! ズズッ! ……まずは暖をとることが最優先、っと」

 

鼻を啜り、両手で身体を抱きしめて二の腕を擦りながら、“Ⅰ”は雪除けのできる小屋かなにか無いか、人気の無い雪の降る空中を進んでいった。

ちなみに余談だが、身寄りの無い捨て子な“Ⅰ”に頼れる人など居るはずも無く、雪の中をさ迷い歩いたことで引いてしまった重度の風邪で、あやうく“神造遊戯(ゲーム)”開始前に脱落する一歩手前になる事となってしまう。

そんな彼を救ったのは、これまた神様の力的な念動力で甲斐甲斐しく看病してくれた彼の担当神だったりする。

この後、一人と一神の間に、奇妙な友情が芽生えたのだが、それはまた別のお話である。

 

「すまないねぇ、神サマ……」

《それは言わないお約束だよ、“Ⅰ”》

 

 

 

【中間報告】

“ゲーム”の舞台時間軸:魔法少女リリカルなのは 原作開始前

 

現在の転生者総数:五名 → 二名

No.”Ⅲ”:クラナガンの自宅内にて、認識阻害魔法を使用して進入してきた“Ⅰ”に喉をナイフで引き裂かれて死亡。

No.”Ⅳ”:同じく、“Ⅰ”にナイフで胸部を切開され死亡。

No.”Ⅴ”:同じく、“Ⅰ”にナイフで額を刺殺されて死亡。

尚、上記三名について、“ゲーム”開始前であったため、同じ神に再度転生者を用意、補充させる。その際、同Noを受け継がせること。さらに今後は“ゲーム”期間外に他の転生者に手を出さないよう“Ⅰ”に警告。今回は厳重注意のみとする。

 

“ゲーム”開始までの残り時間: 九年六ヶ月

 




2012.11.14 微修正

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