「う、うう……どうして、こんな事を……」
砕けたガラスの破片が散乱するビルの床の上で瓦礫に背を預けながら、なのはは目の前の襲撃者に問いかけた。
特に何か変わった事があったわけでもない。ごくごく普通の一日を過ごし、「さあ寝ようか」とした時に突如発生した封鎖結界に囚われてしまったなのはが慌てて屋外へ飛び出したとき、その人物は現れた。
口元をマントで隠し、片手に剣型デバイスを手にした魔導師らしき人物が。
その謎の人物は無言でなのはに襲い掛かった。無論、なのはも反撃したものの、その総てを避わされ、捌かれて、何も出来ずに追い込まれ、ビルへと叩き込まれてしまった。
鋭い斬撃でバリアジャケットの一部が切り裂かれ、まさに満身創痍のなのはの前に、襲撃者が無言で降り立つ。
「…………」
震える手で皹の入ったレイジングハートを構えるなのはの問いかけに、しかし返答が返ってくることは無く、襲撃者は無言で片手に持つ西洋剣型のデバイスを振り上げる。
非殺傷設定とはいえ、デバイスそのものによる打撃や斬撃、魔法により引き起こされた炎や雷といった現象は普通に物理破壊能力が有されている。
つまりぼろぼろである今のなのはからしてみれば、彼女の脳天を断ち切らんと振り下ろされた剣は、間違いなく彼女の命を奪いかねないシロモノであるというわけで――
ガキィイイン!!
「「ッ!?」」
声なき悲鳴を上げるなのはの眼前で、振り下ろされた刀身が黒い斧によって受け止められる。
それを見るや、襲撃者はバッ! とステップで距離をとり、乱入者を睨みつける。
なのはの目の前で金糸の如き長髪が宙を舞い、黒い外装がヒラリと翻る。
その姿に、なのはは無意識にポツリと呟く。
「フェイトちゃん……?」
「君は……誰だい?」
襲撃者が口を開く。声色からどうもなのはたちとそう変わらない少年と思われた。
どこか無理やり感情を押し殺しているかのような相手に内心小さな疑問を抱きながら、フェイトははっきりと告げる。彼女がここに来た意味を。
「この子の……なのはの――友達だ」
白と金の魔力光が夜の帳が降りた夜空で交差する。その光景を視界に写しながら、高町花梨はあせりにその表情を歪ませていた。
――まさか向こうに呼び出されている時に、なのはが襲撃されるなんて!
なのはが襲撃される少し前、そろそろ『A’s』の開始かな? と身構えていた花梨は、嘗て赴いた神の祭壇へと再度召喚されてしまった。
ただ、前回と全く同じと言うわけではなく、いくつか違っていた点もあった。
まずは目の前に聳え立つ大樹だ。前回は自分が立つ祭壇がこの巨木の中ほどに位置していたはずだが、今日の祭壇の位置は以前より上昇していたのだ。かつては上空に仰ぎ見ていた雲が祭壇の少し下にある位の高さと言えばわかりやすいだろうか。
見上げれば、視界を埋め尽くさんばかりに広がる、大樹の枝々の描く深緑。
今日会話した神(前回の老人っぽいヒトとは別人らしく、若い女性の声だった)曰く、私たちが順調に神への階段を上っているからだとの事。要するに、この大樹の天辺に昇りつめた唯一人が、“
「そんな演出なんか要らないのだけれど?」と皮肉を飛ばしてみたものの、女神らしき声の主には軽く流された上に、《嫌なら、リタイアしても良いのよ?》とカウンターを喰らってしまった。リタイア = 死亡なのだから、様は自殺するなりすれば良いと毒を吐かれてしまった訳だ。
《うふふ……》と楽しげな笑い声が、耳の奥に残っているようで非常にイラつく。
まあそれは置いておくとして、もう一つの相違点は、集められた人数がまたもや数が合わなかった点だ。
今回、姿が確認できたのは自分も入れて、“Ⅱ”(?) 、“Ⅲ”(アルク) 、“Ⅶ”(葉月) 、“Ⅷ”(?) の計五人。
相変わらず他の参加者の姿はぼやけていたので、いまだ正体不明な“Ⅱ”と“Ⅷ”の素顔を確認することは出来なかったが、『A’s』から参入する筈の“Ⅸ”と“Ⅹ”の姿もないことはどういう事なのか? そして何より、姿を見せぬ“Ⅰ”はどうしたと言うのだろうか?
その疑問はこの場にいた全員が感じていたのだろう。神らしき女性は、鈴の鳴る様な、しかし妖絶さを感じさせる声で嗤う。
《その三人は、今まさに
その言葉を聴くなり、怒鳴り声を上げようとした私の身体は瞬時に元の場所、自分の部屋へと戻された。
引き戻されるような感覚に身を囚われながら、神が“ゲーム”の再開を告げる声が遠ざかってゆくとき感じた怒り、結局おちょくられただけの様な脱力感とそれを上回る彼らへの憤りを沸きあがらせながら、花梨は既に展開されていた結界へ向かって駆け出し――
「おい、そこのお前。ちっとだけ、おとなしくしちゃくんね~かな」
宙に浮かぶ真紅の衣装に身を包み、片手に古びた書物を抱えた少女――ヴィータに遭遇した。
「っ!?」
――ッ、ウソ!? なんでここにヴィータが!? じゃあ、あそこでなのはが戦っているのは一体誰なの!?
予想だにしていなかった人物との接敵に、花梨は目を見開き、足を止めてしまう。それでも胸元にある待機状態のデバイスへと片手をかけるのは流石と言うべきだろうか。
「この感じ……魔導師、か? マジかよ……『コウタ』の言った通りじゃねえか」
(『コウタ』……? 知らない名前ね。って事は十中八九、向こう側の転生者ね)
ヴィータの呟きから『コウタ』なる人物の存在を感じ取った花梨は更なる情報を引き出そうとあえて軽口を投げかける。
「あらあら? こんな夜遅くにブラブラするのはお姉さん感心しないわよ? 早く、お姉ちゃんの待ってるお家にお帰りなさいな?」
「んだと!? テメェだってガキじゃねえかよ!! それにこう見えても、アタシのほうが年上なんだぞ!!」
「(掛かった!) あら、そうなの? それにしては子供っぽい服を着ているみたいだけど? おまけに、帽子にウサちゃんなんかつけちゃって……どう見ても、お子様よね~?」
「てっ、テンメぇええ!! この騎士甲冑は『はやて』の! そんでもって、この呪いウサギは『コウタ』からの贈り物なんだぞ!? それをよくも……っ!! 絶対にゆるさねぇ!! アイゼン!!」
【Ja!】
琴線に触れられたことで一瞬で激怒したヴィータの叫びに呼応し、彼女の手にあるハンマー型デバイス『グラーフアイゼン』が唸りを上げて薬莢を吐き出す。瞬間、彼女の身体から吹き上がる魔力余波に煽られ、花梨のポニーテールが宙をはためく。
――よし、ビンゴ!
間違いなく『コウタ』って人は闇の書側の協力者! おまけにぬいぐるみをプレゼントされるくらい親しい関係って事は……多分、私と同じで
自身もデバイスを起動させながら、花梨は手に入れた情報を纏め上げてゆく。今後の戦略を決める上で、新鮮な情報は出来るだけ回収しておきたい。
「おおおおおらぁあああ!!」
「いきなり!? るっ、ルミナスハートッ!!」
【Protection】
ヴィータの目的が花梨の魔力だと言うことは知識として知ってはいるものの、まさかいきなり攻撃してくるとは思っていなかった花梨の反応が一歩遅れてしまう。
しかし、その隙をカバーするのが相棒たるルミナスハートの役目だ。
咄嗟に前面に回された杖身から全身を覆うほどの防御魔法を展開する。
カートリッジこそ内蔵されていないものの、ルミナスハートは神さまお手製のチートデバイス。その性能は歴戦の勇士たるヴォルケンリッターのそれに全く引けを取らなかった。
ガキンッ!!
「なっ!? か、硬え!?」
甲高い音を立てながら障壁に叩きつけられたグラーフアイゼンは、それを砕くどころか皹一つ入れることが出来ずに押しとめられてしまう。その事実にヴィータは驚愕を隠せない。
(いくらハンマーフォルムのままだって言っても、カートリッジもついてないミッド式の防御が砕けない!?)
一撃の破壊力に確たる自信を持っていたヴィータが予想外の結果に気をとられた一瞬の隙を逃さず、花梨は飛翔魔法を発動させて己のと得意な間合いであるミドルレンジに距離をとる。
アウトレンジを得意とする妹のなのはとは違って、花梨は父から剣術の指南を受けている。無論、兄や姉のように本格的な剣士としての修行を受けている訳ではないが、それでも運動神経の切れていない花梨はそれなりの剣の腕を身に付けることが出来た。無論、まだまだ要修練が必要なレベルだが(父である士郎はあくまで護身用に教えた)。
そんな訳で、武器を使用しての近接戦闘と砲撃魔法の遠距離攻撃を組み合わせたミドルレンジこそ、高町花梨の領域と言う訳だ。
デバイスを隙無く構え、強い意志を瞳に宿す花梨の姿に、冷静になったヴィータもまた、油断無くグラーフアイゼンを構える。
戦士としての勘が、目の前の少女が決して捕食されるだけの獲物などではなく、全力を持って応対すべき強敵であると告げていた。
距離をとり、夜の空の上でにらみ合う二人の少女。
互いに無言のまま、頬を撫でる夜風の泣き声を耳にしていたがやがてじれたように、片方の少女が口火を切る。
「いきなり襲い掛かられる覚えは無いのだけれどもね? 一体どのようなご用件でしょうか?」
「……わりーんだけどよ……テメェの魔力を貰うぜ。下手な抵抗しなけりゃ、痛い思いはしないで済むぞ?」
「ふ~ん? ……で? 私の答えはもうわかってるんでしょ?」
「ああ……おとなしく蒐集されるもりはねーんだろ? ――なら力ずくでぶっ潰させてもらうぜ!!」
咆哮一閃。叫びを置き去りにする程の加速で突っ込んでくる。アイゼンがロードしたカートリッジの空薬莢を吐き出し、先端のハンマー部分がロケットスパイクへと変形する。そして身体を回転させ、遠心力を加算させた一撃を叩きつける!
「ラケーテンハンマー!!」
「くっ!!」
正面から受け止めるのは不味いと判断した花梨はいっきにその場から上昇、飛び越えるようにヴィータの攻撃を回避する。だが、相手は百戦錬磨の騎士、当然この程度では終わらない!
「ぐっ……らぁあああああ!!」
「なあっ!?」
その予想外の動きに障壁の展開は間に合わなかった。何とかルミナスハートで受け止めたものの、十分な加速のついた鉄槌の一撃が容赦なくルミナスハートの杖身を削り、砕いていく。
ひび割れてゆく愛機の名を叫びながら、ルミナスハートを砕くほどの威力が籠められ、完全に振りぬかれた一撃で吹き飛ばされた花梨の身体は住宅街の一軒の屋根に叩きつけられる。その衝撃たるや、屋根を砕き、二階建ての住居の一階床まで叩き落される程であった。
「ぅ、ぁ……」
床に叩きつけられた際に頭を打ち付けたのだろう。床にめり込んだ体を起こすことも、何とか手放さなかったひび割れた杖を構えることも出来ず、花梨は意識が朦朧としたまま床にその四肢を投げ出していた。
そんな花梨の傍らに舞い降りるのは、こちらも肩で呼吸を繰り返し、身体をふらつかせているヴィータだった。
アイゼンを持つ腕が、無茶な機動のせいでプルプル震えている。いくら魔力で強化してるとはいえ、下手をすれば全身の筋肉が断絶してしまってもおかしくない手段だったのだから、この姿もある意味で当然の結果と呼んで良いだろう。
悲鳴を上げる身体に鞭を入れ、左手に持った書物を目の前に掲げる。
ヴィータの呼びかけに応えるように、彼女の手の中から宙に浮かび上がるこの魔道書の名は【闇の書】。葉月のデバイス【グリモワール】よりやや小さい、一般的な書物と同サイズのこの魔道書こそ、第一級危険指定物としてその名を知らしめるロストロギアである。その能力とは――
「――蒐集」
その言葉をトリガーとし、闇の書の頁が独りでに捲れて行く。そして花梨の胸元から彼女の魔力光と同じ、真紅の輝きを放つ光――リンカーコアが露出する。
「うっ……! あ、ああっ!!」
剥き出しにされたリンカーコアから花梨の魔力が引き抜かれ、闇の書の中へと吸い込まれていく。
花梨の悲鳴をBGMに、彼女の魔力を吸い取り、書の頁に文字が刻まれてゆく光景を、ヴィータは若干の焦りを滲ませながら見つめていた。
(ヤベェな、時間が掛かりすぎた……おまけに今のアタシのコンディションじゃ、皆の援護に行こうとしても、かえって足手まといになっちまうんじゃねえのか……? クソッ! せめて、コイツから蒐集できたのが幸いっていや幸いか?)
考え込むヴィータの前で、漸く魔力蒐集と闇の書への書き込みが終わる。
結果、闇の書は凡そ三十頁ほど増やしていた。
予想以上の結果に、ヴィータの頬が歓喜で緩む。
「よっし! 予想以上の結果だな、オイ! この調子なら、はやてを救える日も近いぜ!」
そう言ってあたしが思い返すのはこの世界で目覚めた時の出来事。もう何度目になるのかも判らない目覚めの感覚。
記憶が消耗しちまってるけど、それでも歴代の主がどういう連中なのかは覚えてる。皆、闇の書の力に溺れ、あたしらを道具扱いしてきた。きっと今回の主もそうに決まってる。それでも、闇の書の騎士として主という存在は絶対であり、プログラムでしかない自分たちにはどうすることも出来ない。
闇の書から表へ出る際の一瞬の浮遊感を経て、床――室内か? の上に足をつけると、すぐさま片膝をつき頭を垂れる。
目を閉じても傍らには良く知った仲間たちの気配を感じる。無言の静寂が支配する空間の中、あたしらの将であるシグナムが口火を切って口上を述べる。
ふと、主はどんな奴かと興味を覚え、うっすらと目を開けて、主と思われる人物を見上げてみる。すると――
『……なあ、シグナム?』
『黙っていろ、ヴィータ。主の勅命を頂くまでは黙して待つのが騎士の――』
『いやさ? なんかコイツ……、てかコイツら? 気絶してるっぽいんだけど?』
『『『え?』』』
アタシたち四人の目が向けられた先では、ベッドの上で目を回して気絶している主と思しき一人の少女と何故かその少女の左肘を顔面にめり込ませたまま気絶した少年の姿があった。
これがあたしたちにとっての転機となる、最後の闇の書の主『八神はやて』と、彼女の弟にして、アタシの……その、何だ……かっ! かけ……! かけがいのない人になる少年『八神コウタ』との、なんとも締まらない出会いだった。
今回の主は何かと変だった。何が変って、まずあたしらを人間扱いしたことだ。あたしたち守護騎士は闇の書の付属品であるプログラム生命体でしかなく、食事も睡眠も、生物として必要な行為は基本的に必要無かった。
けど、主であるはやてと彼女の弟であるコウタはあたしらを普通の人間と同じように接してきた。
『家族になってほしい』
そう言った主は人を傷つける行為を是非とせず、戦いを禁じた。
一方で服を買い与えたり、ぬいぐるみをプレゼントしてくれたり、いっしょに食事を取ったりした。
どれもこれも、今までに無かった筈の行為だった。正直、最初の頃は懐疑心とか、物足りなさとかでしょっちゅうイライラしていた気がする。でも、主にそんな事を言えるはずも無く、なんだかんだで新しい生活になじみかけていたシグナムたちに相談するのも気が引けた。そんなこんなでモヤモヤしていたあたしにアイツは……コウタはこう言ってきた。
『そんなに人を傷つけたいのかい?』と。
その瞬間、コウタの胸倉を掴みかかりながらも、あたしの中で「ああ、そうだったんだ……」とどこか納得していた自分がいた。
コウタの言ったとおり、あたしは物足りなかったんだと思う。
今までは目覚めたらすぐに闇の書を完成させるために、魔力を蒐集するために、戦いを繰り返していた。
強敵を打ち倒せた時の、興奮。戦場を駆け巡った時に感じた高揚感
そして書の頁を完成に近づけてゆくときに感じた、満足感。
――ああ、そうか。あたしはどうしようもなく、戦いに飢えていたんだ……。
一度理解してしまったら、納得するのは簡単だった。
結局のところ、今までの自分のすべてを否定されているような気がして、戦いを嫌う主の命令に納得できず、苛立っていたんだ。
全く、何が騎士だ。どこのガキだよ、あたしは……
そんな自己嫌悪に陥ったあたしに手を差し延べてくれたのも、コウタだった。
『ねぇ、ヴィータ?』
『あん? んだよ?』
『僕に戦い方を教えてくれないか?』
『――は?』
昼間っから縁側でボケーっと青空を眺めていたあたしは、唐突にそんな事を言われて大層珍妙な顔をしていたことだろう。
だって、はやてから貰ったビーフジャーキーを齧っていたザフィーラが
『……ヴィータよ。淑女という言葉を知っているか? 彼女らは日常的に鏡と向かい合いながら、己の容姿をより良くしようと切磋琢磨しているのだそうだ』
遠まわしに、淑女たりえない愉快な顔だと言われたことにあたしが気付いたのは、その日の夜、入浴中にシャマルに頭を洗ってもらっていた時だった。
――ちなみにザフィーラへの怒声を吼えながら、急に立ち上がったあたしの後頭部は、丁度真上にあったシャマルの顎と激しくクラッシュ、二人して痛みで浴槽を転がりまわる羽目になっちまった。
ついでに言っとくと、痛む頭を押さえ、涙を浮かべながらも文句を言ってやろうと、思わずそのまま飛び出しちまったあたしは、顔を洗いにきたコウタと遭遇。裸を見られた恥ずかしさとかいろんなものでグチャグチャになったあたしは思わずアイゼンの一撃をコウタの脳天に叩きつけちまった。そんで、騒ぎを聞きつけたはやてとシグナム二人によるダブルお説教タイムに突入してしまったのは、もはやお約束だろう。
ま、まあそれは置いといて、あたしは当然疑問に思ったことを聞いてみたんだ。「なんでコウタは戦い方を身に付けたいんだ?」ってな。
そうしたらアイツ、真面目くさった顔でこう言いやがったんだ。
『ヴィータたちを守れるような男になりたい』
はっきり言おう。どこのプロポーズだよ、ソレ?
はやては『ひゃーーーー!? お姉ちゃんの知らん内に、コウタったらいつの間にか男の子になっとんたんやねぇ……(ホロリ)』とハンカチで目じりを押さえ、シグナムは『ほう、良い心がけだな』と、うんうん頷き、シャマルは『た、大変! ヴィータちゃんに春が!? おおお、お赤飯炊かなくっちゃ!?』と慌てまくって炊飯器をひっくり返し、ザフィーラは『ZZZ……』――まあ、犬だしな「狼だ!!」うお!? 回想に入って汲んじゃねぇよ!(ゲシゲシ!) ん、んんっ! え、ええと、まあ、なんだ。そんなこんなで盛大に爆弾発言をしたコウタだったんだけど、やっぱりっつ-か、本人にはそこまでの意味は無かったって言うか、
『あ~~……えっと、さ? はやて姉が闇の書の主なのはどうしようもないことだろ? だったらその力を利用しようとする奴が現れると思うんだ。いざその時なって、誰も守れないままの弱い自分でいたくない……僕だって、皆を守りたい! 力になりたいんだ! だからお願いだ、僕に戦い方を教えてください!!』
そう言って頭を上げるコウタに押し切られるように了承しちまったあたしが戦いの師匠みたいな役をする羽目になっちまった。も、もちろんシグナムたちも時々稽古をつけてるんだぞ!? なんでかシラネ~けどデバイスを持ってた(これについて問い詰めても、はぐらかされてばっかだった。いつか聞き出してやる!)コウタはめちゃくちゃ才能があって、短期間でとんでもなく強くなっていった。――時々、やりすぎてボロ雑巾みたいにしちまっては、二人揃ってはやてにオシオキされたけど……。
献立がハンバークだった日に感じた夕飯抜きを告げられた瞬間の世界が崩れ落ちたようなあの絶望。あれはもう味わいたくないとコウタと二人、庭に首だけを出した状態で埋められながらしみじみと感じたモンだ……。
そんな騒がしくも楽しい、まるで本当の魔法のような時間は、ある日、唐突に終わりを迎えることになっちまった。
『身体の麻痺が徐々にですが進行してきています……私どもも手を尽くしておりますが、はっきりともうしますと現段階では難しいということをご理解ください……』
倒れたはやてが担ぎ込まれた病院で医者に言われて初めて気付いた真実。闇の書の侵食による、はやての命の危機。そして、その一端を担っているのが自分たちの存在そのものだという事を。
あまりにも呆気なく終わりを告げた何気ない日常。穏やかで尊いあの日々を取り戻すため、そして自分たちに新しい未来を見せてくれた優しい主を救うために、アタシたちは選択した。
誰かの幸せを、幸福を壊すことになろうとも、どんな罵声を、怒号を掛けられようとも、かならず主を――はやてを救って見せると。
「誰かを傷つけてはいけない」というはやての言葉を反故にし、蒐集活動を始めたアタシらをコウタは批判することもせず、むしろ協力したいと言ってくれた。唯一残された肉親を救いたいというアイツに、最初は反対したものの、最後はその覚悟を汲んで共闘することになった。
でも、それはあくまでコウタが戦闘で使い物になるくらいになってからの話で、まだ未熟だったこの頃のコウタは、蒐集には参加していなかった。
そんな時、とある管理外世界で非常に高い魔力反応を感知したあたしらはアイツらと出会った。出会ってしまったんだ。
あたしたちが撒き散らしてきた過去の怨念が具現化したかのような少年の姿をした『狂人』と、『雷の魔女』を従えた白い魔神……いや、『漆黒の竜神』に。
最初にその姿を見たときは、絶好のカモだと思った。
だって、そうだろう?
結界に閉じ込められたにも拘らず、デバイスも起動せずに暢気な会話を続けていた二人組み。
真っ黒な服を着た男と、金の髪が映える少女。
男はそれなりに、少女はかなりの魔力を内包していたので、その反応からどちらも相当の強者と判断して気を張り詰めていたアタシは、警戒の“け”の字もない様子の二人に呆れた風な表情を浮かべていた。
シャマルに闇の書を預け、探索のためにみんなと解散した直後に発見した獲物との戦闘に内心高揚していたアタシは、盛大に肩透かしを食らった気がした。だが、ふいに告げられた言葉は決して聞き逃すことが出来ないものだった。
『鉄槌の騎士……なんだ。何かと思えば“闇の傀儡”の一つか』
男の、まるであたしの正体を知っているような口ぶり、そしてあたしを闇の書の守護騎士と知って尚、余裕を崩さないその態度に、背筋が冷たくなったのを今でも覚えている。
疑念と困惑が頭の中でグルグル交じり合い一気に冷静さを失っちまったあたしは、つい反射的に攻撃を仕掛けていた。
だがそれをあの男……いや、あの『化け物』は片手で、それもバリアジャケットすら展開せずに受け止めて見せやがった!
そして、ボケッと突っ立っているだけの筈だった奴の体勢を崩すことも出来なかったあたしの目の前で魔神の体が変化してゆくあの光景は、おそらく一生忘れられないだろう。
通常、バリアジャケットや騎士甲冑と呼ばれる防護服は魔力で構築されており、その名の示すとおりに服や鎧の形状をとっている。
それ自体に相当の防御力を宿している上に、顔などの肌をむき出しにしている部分にも見えない障壁が展開されている。
これらは“服”というカテゴリーに属する以上、あくまで肌の上から纏うというのが普通であって、この魔神のように身体そのものが鎧のように変貌するような代物ではない筈だった。
あの魔神がバリアジャケット? らしきものを展開するとき、あたしは確かに見た。
白い鎧を身体に纏うのじゃなくて、奴の肉体そのものが硬質化していったのを。
(ありゃあ、絶対に普通じゃねえ……あの左目もそうだけど、ありゃあ……まるで奴の身体そのものが人間じゃないナニカに変化していったようだった……!)
おぞましさしか感じられない白い異形の姿、生物独特の温かみを一切感じられない無機質な左目と、あたしの大好きな主とはまるで正反対だと感じた鈍い光を宿す右目。一つでも思い出すと、今でもあの時の恐怖が蘇り、身体が震えてしまう。
そんな化け物と平然と一緒に居られるあの金髪も、相当頭のネジがぶっ飛んでやがるにちがいない。
――そして忘れちゃならないのが、いきなりあの場に乱入してきやがった狂人。
あたしらヴォルケンリッターに尋常でない殺意を向け、問答無用で襲い掛かってきたあの少年。
一体、彼は何者なのだろうか?
(シグナムたちも知らねえって言ってたしな……)
だが大まかな推測はできる。おそらくは過去の闇の書が覚醒した際の被害者、もしくはその肉親なのだろう。
あの少年の見た目から、前回闇の書が覚醒した時が一番可能性が高いだろうか。
前回の主も過去の主と同じように、自分たちを道具としてしか見ていなかった。現在の主であるはやてが例外なのであって、それ以前の主は皆、力に魅せられ、更なる力を求めて闇の書の覚醒を願い、自分たちは書の完成という目的のために、今より激しい蒐集活動を行っていた。
当然、相手の命を奪うことも少なくなく、相当数の被害者と恨み、憎しみを生み出していたのは間違いないだろう。
記憶が消耗しているせいか詳細までは覚えていないけれども、あの少年もまた、大切な人を闇の書に奪われたせいでああなってしまったのだろう。
恨みもしよう、憎みもしよう、彼の怒りを、憎しみを自分たちは受け止める責任があるのはわかっている。だがそれでも今は……
(今だけは……はやてを救うまでには、止まるわけにはいかねぇんだよ!!)
あの優しい主を救うためには、どうしても闇の書を完成させる必要がある。たとえそれがみんなを不幸にすることでしかないとしても。だがそれでもはやてには生きていて欲しい。
だから――――!!
(だから止まるわけにはいかねぇんだ……ワリィな)
もはや瓦礫となった住宅に倒れ込む花梨を一瞥すると、蒐集を終了し、頁の閉じられた闇の書を脇に抱える。
ヴィータは踵を返し、意識を失っている花梨を見やることもせずに夜の闇へと身を浮かべる。
大切な仲間が戦っている方向へと顔を向け、先ほどまで浮かべていた歓喜を顰め、再び戦闘時のそれへと切り替えると、やや頼りない仲間の救援へ向かわんと、その場から飛び去っていった。
「――……ぅぅ」
「あっはっは~♪ な~んて無様なんだろね~~♪」
意識が戻らず、小さくうめき声を上げる花梨の傍らに、いつの間に現れたのか一人の少女の姿があった。
紫の長髪を夜風にたなびかせ、どこかの御伽噺の主人公のような服の上から白衣を羽織ったその少女は、支配権を奪い取った封時結界を維持しながら実に愉快そうに、おかしそうに笑う……否、《嗤って》いた。
嘲りが多分に含まれる言葉を投げかけられても、現在進行形で気絶している花梨に言い返すことは出来ない。
やや間を置いて、花梨からの反応が無いことに興が冷めたのか、少女は先ほどまでとは一転して詰まらない物を見るような冷めた視線を叩きつける。
「なんかさ~~……キミら馬鹿なの? 脳みそ沸いてんの? あ、それとも、もう腐っちゃってるのかなかな~~? ――ていうかさ、なんでそこまでしてあいつらに肩入れすんの? ボクたちは知識としてしかあいつらを知んないし、あいつらの方は全くの見ず知らずな他人て訳じゃん? それなのにどうして? ねえ、どうして? なんで赤の他人のために、痛い思いしてまでそんな無駄な努力をしてんの?」
少女は心底わからないといった風に、疑問を投げかける。
身内以外では例外の一人にしか興味を抱けない彼女からしてみると、見ず知らずの他人のために費やす努力を重ねる花梨たちの生き方はすべからく無駄な行為だとしか映らないのだ。
靴先で花梨の脇腹をゲシゲシ蹴りながら返答を促していた少女だったが、花梨がうめき声しか上げないのを見て、一気に興味が失せたように鼻を鳴らす。
「ちぇ、つまんないの~~……。あ~あ、こんな事ならおにぃをいじってた方がまだ楽し――ッ!?」
両手を首の後ろで組み、ボケーっとヴィータが飛び去っていった方向を眺めていた少女だったが、唐突に何かに感づいたようにバッ! とある方向……およそ1キロほど先の夜空に浮かぶ、ただ一点へと目を向ける。
直後、少女の表情が一変した。
眠たげに細められていた双眼が見開かんばかりに開かれ、脱力していた身体は流れるような動きで戦闘時の構えを取る。
全身に魔力を流し、身体能力を高めつつ、油断無く身構えた少女の視線の先にあるのは、太陽を思わせる黄金の“光”と夜空よりも暗い“闇”を連想させる二色が交じり合ったかのような奇妙極まりない“
火の粉のように魔力を溢れさせながら宙に描かれたのは、残存の魔法体型のどれとも異なる幾何学模様の魔法陣。
久しく感じていなかった旨の高鳴りを感じる少女の見つめる先で、ソレは現れた。
魔法陣の中心から滲み出るように姿を現したのは、夜闇に在って尚、一際栄える黒き鎧甲を身に纏う異形。
だがその姿は少女が映像で知る彼の姿とは細微が異なっていた。
両肩には咢を開いた禍々しい獣を思わせるものへと変容しており、背中には漆黒の燐光を散らせる翼。
両足先が猛禽類を思わせる嗅ぎ爪へと変貌し、刺々しい尾まで見て取れる。
人の形こそしていれど、悪魔のようでもあり邪悪な竜のようでもあるかの姿を見た誰もが息を呑み、気圧されるであろう圧倒的な存在感とおぞましさを振りまく魔神。
その左目は総てを見通さんばかりに輝きを放ち、周囲の空気すら怯え、震えているかのようだと、遠く離れている筈の少女は感じた。彼こそ管理局に『魔神』というコードネームで呼ばれる、危険極まりない次元犯罪者。
『No.“Ⅰ” ダークネス』
嘗て次元の海に浮かぶ“時の庭園”の中で猛威を振るった怪物が再び海鳴の地へと舞い降りた。
ダークネスの左肩にちょこんと腰を下ろすのは、金の髪を両脇と後ろで纏めた変則的なサイドツインテールにして白いケープにワンピースという深窓のお嬢様然とした姿の少女。さらにもう一人、二人の後に続くように魔法陣の中から現れた軽鎧を纏った少年。
少女は物珍しそうにキョロキョロして眼下に広がる町並みを眺め、少年はどこか定まっていない双瞳を自身の正面へと向けている。
少女が恋焦がれる笑みを向ける先で、ダークネスが少年へと二、三言何かしら告げると、少年の顔が一気に歪んだ笑みへと変わる。その次の瞬間には、少年の姿はもうそこには無く、ヴィータが向かっていった方向へと勢いよく飛び出していった。
ダークネスは幼年の後姿に満足げな笑みを浮かべると、彼もまた、身を翻してその場から離れていった。
後に残されたのは再度の静寂が広がる夜の闇のみ。そんな中、唐突に少女の笑い声が眠りに落ちた街中に響き渡った。
「あ、あは、あはははははははははは!!」
少女は愉快極まりないといった風に上機嫌な表情を浮かべ、身体をくの字に曲げ腹を押さえ、笑い続ける。
その口元が浮かべるのは、先ほどまで花梨に向けていた嘲りの色の濃い嗤いではなく、純粋に、まるで予想だにしていなかったサプライズプレゼントを贈られたかのような、年相応な笑顔のそれであった。
胸の内より際限なく湧き上る歓喜と滾りの感情を抑えることができない――否、抑えるつもりなど毛頭ない。
心を占める恋慕にも似た痛烈な激情は、かの存在を直接感じ取れたことでなお一層、熱く滾る。
「まさか! まさかこんなに早くキミと出会えるなんて思っても見なかったよ! おにぃたちに黙って、地球汲んだりまで来た甲斐があったっていうものだよ!!」
新たに興味対象となった存在と出会えた幸運、そして身を返す際、遠く離れていたはずの自身を一瞥した彼の規格外の力の一端を垣間見て、少女は己の直感が正しかったことを確信する。
――間違いない! 彼こそが、このつまらない“遊び”の中で、ボクを楽しませてくれる唯一人の存在だ!!
現在少女が維持している結界は、すでに術式が彼女のものへと書き換えられており、その性質として通常の封時結界の性能に加えて、外部から結界の存在そのものを探知できないように強力な隠密性を持たせていた。
少女の結界は、たとえオーバーSランクの魔導師であろうとも、管理局最新のレーダーでも捉えられないし、目視もできない性能を誇る。だというのに、彼は結界越しに少女の存在を感知したのみならず、あっさりと見逃したのだ。
まるで、『会いたければお前の方から来い』と言われているように少女には感じられたのだ。だから少女は笑う。自分を特別扱いしない彼の存在がいてくれたことが途方も無く嬉しくて。
今すぐにでも飛び出したい、言葉を交わしたいと叫び続ける本能を必死になって押さえつける。まだだ、まだ早い。自分と彼の道が交差する
「ふふっ……! いいよ! そっちがそうだって言うんなら、ボクから会いに行ってあげよ~じゃん♪」
胸に燻る熱を何とか抑制することに成功した彼女は、もうここには要は無いと言わんばかりに、足元に転がる花梨の身体を道路の方へと蹴り飛ばす。
冷たい道路のアスファルトに幼い花梨の身体が打ち付けられるが、下手人たる少女はそれを見やることもせずに、さっさと結界を解除する。世界に色が戻り、砕け散った町並みが元に戻っていく。
もし花梨があのまま住宅の中にいた状態で結界を解除したら、突然家の中にボロボロの少女が現れたのだと、この家の住人が騒いでいたことだろう。それを見越した少女をはたして褒めるべきかどうか。
結界を解除し終わると、上機嫌に鼻歌を歌いながら、少女もまた夜の闇の中へと身を転じて、その姿を消していった。
「『Ⅰ』……『ダークネス』……ん~~……おっ、そうだ! これからは『ダーちゃん』と呼ぶことにしよう! うん! なんだか下品な方の野生人ぽいけど、まあいっか♪」
「いや、よくないだろうが!」
「うわ!? いきなりど~したの、ダークちゃん?」
「いや、なにやら不愉快なあだ名を勝手につけられた様な気がしてな?」
「(な、なんで疑問形? 疲れてるのかな?)ふ、ふ~ん? まあ、それより良かったの? あの子を一人で行かせちゃって」
「別にかまわんさ。勝手に動いてもらいたくて、連れて来たのだからな。それにさっきの桜色の砲撃で結界も破壊されていることだし、おそらくはすでに戦闘終了となっているんだろうしな……だが今は、それよりも重大な案件がある。そう、可及的速やかに解決しなければならない問題が!」
真剣な表情で悩みダークネスの姿に、夜の闇に一際映える金の髪をたなびかせた少女……アリシアもゴクリと唾を飲む。
彼女の知る限り、向かう所敵無しなダークネスが頃ほど悩む姿を見るのは彼女も始めての事だった。はたして、どれほどの悩みを抱えているのだろうか――!?
「俺たちはこの世界の通貨を持っていない……! つまり、宿に泊まる事が出来ないということだ!」
ドーーーン!!
くわっ! と真剣な顔で叫ぶダークネス。アリシアとの生活は、彼に『ボケ体質』という新たなスキルを開眼させたようだ。……単純にふざけているだけともとれるが。
一方のアリシアも、告げられた言葉に劇画タッチ風な戦慄の表情を浮かべる。
「なっ、なんだってーーーー!? そ、それじゃあ、どうするの!? まさか野宿なのかな!? 嫌だよ私! お風呂に入りたいよ! この世界にあるオンセンって言うの楽しみにしてたんだからね!?」
「わかっている!! 俺だって久しぶりにゆっくりと湯船に身を沈めて、風呂上りにコーヒー牛乳を一杯やりたいんだ! ――こうなったら仕方が無いな……あれをやるか」
「あれって……アレぇ!? う~ん、でも仕方が無いのかなぁ……。あ、それと私はフルーツ牛乳がいいかも!」
「仕方の無い事だ。戸籍の無い俺たちにバイトなんて出来るわけも無いし、なにより深夜の今に出来ることは無いだろう。だからやるぞ――狩りを」
「うん、やるしかないんだよ――狩りを」
こくりと頷き合うと、二人は誰もが寝静まる夜の海鳴市にあって、いまだ眩い輝きを放つネオン街へ足を進めていった。
後日、ネオン街の一角で、未成年に違法な売春行為をさせていたということが発覚することになる一つの店が崩壊し、この店に蓄えられていたはずの金品が総て紛失するという事件が起こった。
当事者である店のオーナーは、恐怖に震えながら「ば、化け物が……! 黒い化け物と金髪の魔女が!」とうわ言の様に繰り返していたが、彼の言うような人物の目撃情報は一切無かったことから、金を使い込んだ故の妄言だと切り捨てられてしまう。
しかし結局紛失した金品の行方は知れず、真相は明らかになる事は無かった。
「悪さをして稼いでいた金なんだから、俺たちが正しいことに使ってやらないとな」
「うん、そうなんだよ! 自家製タイムマシンで過去に行ってた魔法少女だって、ヤクザな人たちから武器を取り上げてたし! 似たようなもんだんだよ!」
そんな中、全く悪びれもせずに郊外にある温泉宿で優雅な夕飯を口にしながらそんな事を呟いていた二人組みがいたとか何とか。
ちなみに、顔の左半分を包帯で覆った見た目日本人な青年と、明らかに日本人では無い金髪の少女(幼女?)がコーヒー牛乳とフルーツ牛乳をラッパ飲みしている光景に疑問を抱いた宿屋の女子高生な女将さんがそれとなく二人の関係を問いかけたところ、
「「駆け落ちした(んだよ~)」」
と真顔で返されてしまい、深夜の老舗旅館から女中さん方による黄色い悲鳴の大演奏が響きわたったという一幕があったりしたが、詳細は割愛する。
【中間報告】
“ゲーム”の舞台時間軸:魔法少女リリカルなのは:A’s開始
現在の転生者総数:八名
【現地状況】
“Ⅰ”:アリシア、及び『謎の少年』と共に地球に到着(到着直後、少年は分かれて単独で行動中)。現在、とある旅館でまったりタイム
“Ⅱ”:海鳴市のホテルでシャワータイム中。ひっそりとガジェット(Ⅰ型ステルスタイプ)を放って、情報蒐集も実施中
“Ⅵ”:ヴォルケンリッターに襲撃され、魔力を蒐集される。気絶した状態で管理局員に発見され、治療のため本局に移送中